306話 怒りを超えた殺意


 戦地から逃走したと思われた"先生"が目指していたのは、なんと始まりの戦場である第五大陸最大の都市だった。

 今も上空からは陥落しかけていた都市内部で救援に駆け付けたサティと魔導機に搭乗した『紅聖騎団(クリムゾンレイダーズ)』のメンバー達が善戦している状況が見て取れる。


「本当にここに奴がいるのか? 姿がどこにも見えないぞ」


「レーダーの反応は都市の中を示している。奴がここにいることは間違いないはずだ」


 しかしレーダーでは細かい位置を探ることができない。このように入り組んだ場所で、さらに他の魔力の反応も膨大となると直接降りて探すしかないだろう。


「じゃあじゃあ、まずはサティちゃん達と合流する?」


「そうした方がよさそうだな。……サティ、無事だとは思うが」


「レイ、お前が不安に思う理由はわかる。あの"先生"がどこかに潜んでいるということは、お前の"家族"の身に危険が及ぶ可能性が高いということだからな」


 逃げる前に先生は自分の"作品"について熱弁していた。そして、その条件はレイとサティの関係にも当てはまるとも……。

 もし先生がそれを狙ってこの場所を戦場として選んだのなら、それだけは絶対に阻止しなければならない。


 現状、都市内部は混乱の渦の真っ只中だ。あちらこちらで奇怪な魔物が暴れ回り、破壊された城壁からは黒い魔物が次々と流れ込んでいる。

 各地から火の手が上がり、もはや誰がどこにいるのかさえ分からない状況だ。


「探すのは一番炎の魔力反応が強い場所だ。サティはおそらくそこにいる」


 これだけ戦場が激化しているのならサティもその力を出し惜しみなどしないはず。そう思いついたレイの考え通り、どうやら戦地の中でも一際強い炎の魔力反応があるようで。


「発見発見! 多分あっちの方だよ、サティちゃんがいるの!」


「よし、フローラの指示した地点に降下する」


 フローラの示した場所へ降下していくと、そこは街の一角の狭い袋小路だった。

 その場所では今まさに二つの影が争いを繰り広げており、一方は燃え盛る憤怒の力を解放した新魔族、サティの姿がそこにあった。


「この人達にゃ……指一本触れさせないよ!」


 その背にはうずくまって怯える母娘の姿があり、正面には大蛇のような巨大で長い体に様々なモンスターの腕がところどこから生えている奇妙な生物と対峙している。

 状況的に魔物に襲われそうになっていたあの母娘をサティが守っているようだが。


「くっそ、こいつの皮膚……炎や熱への耐性がやけに高いね。どうにかして内部にぶち込めりゃ一気に燃やせんだけど」


「サティ! 俺が内部までの道を作る! 術式展開、『風の道・感覚ウィンドロード・センス』!」


 炎の攻撃が通りづらい敵を前に苦戦を強いられていたサティの下へレイが上空から舞い降り、魔術によって援護する。

 その風は感覚器官のわずかな隙間から侵入し魔物の体内へと通り道を形成していく。


「レイ!? どうしてここに……ってそんなことは後でいいね! いくよ! 風の道を通れ、『魔王怒爆炎斬(マオウドバクエンザン)』!」


 放たれたのはサティ最大の一撃。しかしそれはいつものように広範囲に広がる炎ではなく、風の道を通って細い炎の糸のように枝分かれし、魔物の穴という穴へと突き刺さっていく。

 そして体内に侵入した炎はその中で爆発するように燃え上がり……。


「バルギギギャアアアアアアア!?」


 やがてそのすべてを焼き尽くした。もはや燃えカスも残らない、完全に消滅しこの場の危機は乗り切れたようだ。


「うっし、ありがとなレイ。いろいろ状況も聴きたいとこだけど今は先に……ほれ、大丈夫かいあんたら? 今アタシの仲間が民間人を安全な場所に避難させてる。あんたらも一緒に……」


「ち、近寄らないで! こ、この汚らわしい新魔族め!」


 サティが先ほどまで守っていた母娘に手を伸ばした途端、母親が敵意の目でそれを拒絶する。その腕に抱えた娘を守るように。

 だが場所を考えればこれは当然の反応だ。なにせここは……どこよりも人族主義が根付いた国の中心都市なのだから。


「おい、今更そんなことにこだわってる場合か。状況をよく考えろ、まずはここから逃げることを……」


「う、うるさい! エルフ族……やはり他種族は新魔族と結託している。女神に選ばれた種族である私達はあなた達には絶対に屈しない!」


 彼女は明らかに混乱していた。ただ、彼女も心のどこかで気づいているのかもしれない、すでに自分の信ずるものが崩壊しかけていることに。

 魔物の混乱の際、女神政権の上層部は真っ先に自分達の保身に走り、民を見捨てた。

 それ以前にも女神政権は民の願いを聞き入れず、不安は増すばかり。


 そんな時にこの地獄のような状況に貶められてしまった彼女達がすがれるものはもう……かつて自分達が正しいと信じていた人族主義だけだ。

 もはやそれが、まったく意味を成さないものだと理解していても。


「お頭、ここにいたんですかい」


「ん? ああリーブかい、どうしたんだ」


 重い空気の中、魔物が倒された路地の奥から一機の魔導機が現れる。どうやら『紅聖騎団(クリムゾンレイダーズ)』の一人のようでサティを探していたようだ。


「この区域の民間人の避難があらかた済んだんでお頭に報告を……っと、まだ避難してない人がいたみたいです……ね」


「ああ、だけどちょっと錯乱しちまってるみたいでね」


「わ、私は異教徒の助けなんて必要ありません! きっと、きっと女神様の加護が私達を守ってくださいます!」


「とまぁこんな感じなんだ。だからどうにかして彼女を……どうしたんだいリーブ?」


「……」


 サティの話を聞いていないのか、魔導機はそのまま真っ直ぐ進んでいき、母娘の前でその動きを止める。

 そして操縦席のハッチを開けると……。


「あ、亜人族……! な、何をする気!? 娘には絶対に手は出させ……」


「俺の妻と娘は……人族主義の他種族狩りで殺された」


「え……」


「衝撃だったよ……俺はその日がけ崩れで狩りから帰れなかった。翌日急いで帰ったら集落は壊滅していて……妻と娘は家の中で惨殺されていた。ちょうど、今のあんたみたいに娘を守りながらな」


 『紅聖騎団(クリムゾンレイダーズ)』の中でも『紅の盗賊団』時代からの一員はそのほとんどが元奴隷であり、悲惨な目にあってきた過去がある。特に、人族主義による他種族狩りの被害を受けた者は多い。


「まさか……その復讐で私達を殺す気ですか」


「んなわけないだろ。あんたらことは何が何でも守ってやるよ。もう、あの日みたいにゃ悲劇は繰り返させねぇ」


 それは紛れもないリーブの本心だった。たとえ相手が誰だろうと、人族主義の人間だとしても、これからの世界ではそんなわだかまりは必要ないという真っ直ぐな気持ち。

 母親もそんな彼の言葉で我に返ったのか、まるで今までの自分を恥じるようにうつむいて涙を流していた。


「ほら、大丈夫かお嬢ちゃん。お父さんはどうした?」


「パパは……ずっと前にいなくなっちゃった」


「そうか……ま、俺なんかじゃパパの代わりにはなれねぇが。ほれ、しっかり守ってやっから」


 そう言って差し伸べられた手を握り返そうと娘の方からも手を伸ば……されようとしたその時だった。



「レイ! サティ! 今すぐ周囲を警戒しろ! その位置だ、その周辺が一番レーダーの反応が強い! どこかに"先生"が潜んでいるはずだ!」



「なっ!?」


 空から"先生"を探していた星夜達が突如駆け付けこの場所の危険性を告げる。

 だがそれは同時に……敵に攻撃の合図を送ることにも繋がってしまうのだった。


シュン……


 それは細い路地の一角から突如飛び出し、サティ達に向かって伸びていく。

 先端の尖ったヌルヌルの液体を帯びた無数の触手が今まさに獲物に狙いを定め……。


(マズい! サティを守らなければ!)


 先生は飛び立つ前ににサティに目をつけていた。ならば自分の身を守るよりも先にサティをアーリュスワイズで防御すべきだと咄嗟に対応するが。


「え……?」


 なぜか触手はサティの方へ向かわず、代わりに襲われたのはあの母娘だった。

 しかし彼女達には傷一つない。レイはサティの防御に手一杯でそちらに気をまわす余裕がなかった。

 彼女達を守ったのは……。


「あなた……どうして」


「……ゴフッ!」


 リーブだった。彼は咄嗟に飛び出しその身を挺して彼女達を襲う触手をすべてその身で受けていた。

 魔導機のハッチが開いていたために今から起動しても間に合わないと判断したのだろう。いや、もしかしたら魔導機に乗っていようと貫かれていたかもしれない。


 なぜならこの触手で攻撃を行った張本人は。


『いやはや失礼。なんとも感動的な場面だったのでワタシもここで静観させてもらっていたのですが。近くにいることがバレてしまったのでつい手を出してしまいました』


「おかし……ら……。あとを……頼みま……」


「リー……!」


 最後の言葉を言い終える前にリーブは生気をすべて吸われたかのように干からび、ミイラのようになった体も凝縮され手のひらサイズの塊となって触手に回収されていく。

 その触手は魔物任せにしていたこれまでとは違い、先生の袖の中から直接伸びている。つまり、これが先生本来の力の一旦ということだ。


『彼の"家族"を慈しむ想いはきっと素晴らしい作品となるでしょう』


「きっ……!」

「……っさまあああああ!」


 最初に飛び出したのは、やはりレイとサティの二人だった。ここまで苦楽を共にした"家族"とも呼べる仲間を穢されて黙っていられる二人ではない。

 サティは新魔族の姿でその身と大剣に炎を纏わせ、レイはアーリュスワイズを大型の爪のような形に変化させ先生に向かって跳びかかっていく。


『おっと、危ない』


 その攻撃に対し先生が懐から取り出したのは、先ほどのリーブのように小さく固めた何かだった。

 それらを宙に放ると瞬時に巨大化し、形を成していく。


ガンッ!


「ッ! な、なんだいこれ!? 気色悪いね……」


「まさか……これも貴様の"作品"とやらか!」


 二人の攻撃を止めたのは先生を守るように覆う二枚の障壁。ただその障壁の表面には……目玉と髪の毛と歯がすべて取り除かれた人間の顔がびっしりと敷き詰められていた。


『ええ、ワタシの作品にはこのように携帯性に優れたものもあるのですよ。素晴らしいでしょう』


「チッ……!」


 いちいち作品自慢させられるのにももうウンザリしてきたのか、怒りを言葉にする気にもなれないようだ。

 それに、レイには先生に対し逆上する理由が他にもある。


「貴様、なぜリーブを……いや、あの母娘を狙った! 狙いはサティを作品にすることじゃなかったのか!」


『ああ、あれはアナタを挑発するために言葉を選んだだけですよ。いえ、ワタシとしても彼女を作品にしたいのは山々なのですが……彼女と、あちらの白いお方はこちらの事象のカケラを保有しているのでキッチリ死んでいただかないといけないのですよ。ええ、とても残念です、きっと素晴らしい作品になったはずだというのに』


 先生の言うようにサティと星夜は二人とも女神の力……つまり終極神の事象のカケラを有している。

 これまで見てきた先生の作品の本質は、基の素材を生きたまま改造していくというものなので、死ななければ解放されない事象のカケラを回収することができないということだろう。

 それは理解できる、だが。


「だとしてもあの母娘を狙う必要はないはずだ! 答えろ! 彼女らを狙った理由はなんだ!」


 彼女達を狙った理由は、リーブが殺された理由でもある。もしそれが……。


『作品の素材補充ですよ。安心してください、庇った彼も素材としては十分有用です。ワタシの手できっと素晴らしい作品に仕上げて……』


「もういい……黙れ!」


 そのセリフを聞いてレイは怒りの限界を迎えていた。アーリュスワイズへ魔力を送ると、すべてを飲み込まんと路地に壁に、地面に張り付くように広がっていく。

 それはもうこの場から標的を逃がさないという決意に満ちていて。


ズズズ……


『これは……逃げ場がありませんね』


 先生の体がアーリュスワイズの内側の異空間へと沈んでいく。さらに壁や上空を覆っていた面も先生を中心に収縮していく。


『おやおやおや、困りましたね。もっとお見せしたい作品があるというのにこれでは……』


「これ以上何も見せる必要はない、消えろ!」


 レイが手のひらを握り締めると同時に先生を包み込んでいたアーリュスワイズの面積がゼロになる。

 これで、魔物を消し去ったように先生も異空間へと消し去ったことになるが。


「これで……終わったのかい?」


「ああ、奴は完全にこの世界から消し去った。これで奴の作品である魔物の騒動も終わ……」



『終わりませんよ』



「ッ!?」


 それは、確かにアーリュスワイズによって異空間に消したはずの先生の声。

 レイとサティの背後、その少し上空から聞こえてきた声の方向へ振り向くとそこには……。


パキ……パキ……


 突如現れた空間のひび割れ、そこから這い出てくるように先生が顔をのぞかせており。


「なぜだ! 確かに異空間に消したはず……!」


『ワタシ達は事象力でこの世界と繋がっています。なのでどこへ飛ばされようと事象の流れを辿れば帰ってくるのは簡単なことなんですよ。まぁ多少の事象力は消耗しますが』


 終極神の事象は世界を超えても届く。それは確殺にも思えたアーリュスワイズによる異空間への消滅が効かないということだ。

 ……ならば方法はもう一つしか残されていない。それに気づいたレイ、そして星夜はすでに行動に移っていた。


「貫け! アーリュスワイズ『竜巻突槍(トルネードランス)』!」

「撃て! サテライト全弾発射(フルバースト)!」


 "先生"の存在をこの世界から完全に終わらせる。そのためにレイは防御をも突き崩せる貫通力を、星夜は防御の隙間を潜り抜ける波状攻撃をそれぞれ仕掛けるが……。


『残念、そんなものではどうにもなりませんよ』


「がっ……!?」

「くっ……!?」


 二人の攻撃は先生には届かない。予想外にも先生が仕掛けてきたのは"反撃"だった。

 何かによって引き起こされた風のような衝撃が魔力の弾丸をかき消し、レイには同時に斬撃のような衝撃までもがその身を襲い、地面に叩きつけられる。


『言い忘れていましたが、ワタシは普通に戦ってもアナタ方に負けることはありませんよ』


「なんだい……あの腕」


 空間の割れ目からその姿を現した先生の姿は以前と異なっていた。

 中でも特徴的なのはサティが驚愕したようにその腕だろう。白衣の袖が半分ほど破け、黒い体毛に覆われた太い腕の前腕部には翼が生え、手首から先は猛禽類のような爪が伸びている。

 しかもよく見れば、体毛の隙間にはうじゅうじゅと蠢く触手がひしめいている。


「それは……貴様の本当の姿か? それとも……」


『おや、お気づきになられましたか? そう、芸術を生み出すにはまずワタシ自身が芸術に触れなければならないのです。これはその成果ですよ』

バサッ!


 そう言いながら手を広げると、服を突き破り背中からも翼が生え広がる。

 さらに片目をギョロリと見開くと、いくつもの瞳孔が現れ周囲のすべてに目を向ける。


「ば……化け物。ひっ……!?」


 先ほどの母親からボソリと呟きがこぼれると、その方向へと瞳孔が一斉にそちらを凝視する。

 先生はそのまま彼女達の方へゆっくりと腕を伸ばし……。


――ィィイイイイン

「待て……彼女達をどうするつもりた」


 何かを仕掛ける……その前に星夜が間に立ちふさがりそれを阻止する。


「まだ、作品の素材とやらが足りないか」


『素材はいくらあっても足りないくらいですが……そうですね、彼女達は今手元にある素材と合わせて最高の作品に仕上がると、ワタシの創作意欲がうずいているんですよ』


 そう言って先生が取り出したのは……まさについ先ほど"素材"にされたリーブを圧縮した塊だった。


「なぜ……あの母親なんだ」


『先ほども言いましたが、ワタシも先ほどのお話を聞かせていただきました。他種族を拒む母と父親を失った娘、そして人族主義に妻と娘を奪われた父親……なんと悲しい、ですがそんな彼らの"家族"を想う心は本物です。ですので、ワタシはそれらすべてが円満に変わる素晴らしい作品のアイディアが浮かんだのですよ』


 楽しそうに語りだす先生だが、それとは正反対に星夜の表情は厳しいものへと変わっていく。

 それはきっと、先生が作ろうとしている"作品"のおぞましさの本質に気づいたから。


『この彼と、彼女らが家族になればよいのです。男は失った妻と娘という存在と再び繋がることができ、母娘はすべてのしがらみから解放され優しい父を得る。どうです、素晴らしいでしょう。ああ、多少意思の齟齬があったとしてもそこはこちらで何とかします。ほら、楽しみでしょう……ねぇ?』


 ギョロリといくつもの瞳孔が星夜の先、怯える母娘を見つめる。まるで獲物を捉えた獣のように。


「ママ、あの人怖い……怖いよ。助けて……パパ」


『父親を失ってもそれを受け入れられずに縋る……おお、なんと哀れな。だけど大丈夫ですよ、パパなら……ここにいますよ。彼があなたのパパになるのです。どれだけ待ち望んでも得られない存在との再開により、至上の幸福に包まれるのです』


「違う……」


『おや? やはり理解していただけませんか。まぁワタシはそれでも構いませんと言ったはずです。誰に理解されずともワタシの芸術はそこに存在するということだけ知ってもらえてれば』


「あの子の父親への想いと思い出は今ここにあるあの子だけのものだ。それすら穢そうとする貴様を……オレは生かしておかない」


 それは、普段温厚な星夜が見せた紛れもない"怒り"の感情だった。遠い誰かを想うことすら奪おうとする先生の所業が、星夜には許せなかった。


「なん……って、怒りの感情だい。いや、これはもう怒りなんて言えるレベルじゃないよ」


 “憤怒”の力を持つサティでさえ、星夜の感情を計り知ることができず驚愕するほどだ。

 それはもはや、怒りなどとうに飛び越えた明確な"殺意"。


「ミーコ、フローラ……あれを使う。二人はリーブの乗っていた魔導機で彼女達を安全なところまで避難させてくれ」


「あれって……まさか。でも……うん、わかった、星夜がそう決めたんなら」


「りょ……かい……ました」


 フローラ達は不安そうな表情で星夜の乗るコズミッククリエイサーから離れると、リーブの乗っていた魔導機へと搭乗していく。

 残った星夜は怒りの表情の中にどこか決意を秘めた顔つきで手元のパネルを操作していく。


「セイヤ……なにをする気だ」


「できればオレも……こいつを使わないで済めばよかったと思っていた。だがそれでも、奴を殺すためにはどんな手でも使うと覚悟を決めた!」


 そして星夜のパネル操作が完了すると、その画面に表示されたのは……。


[destroy_mode]


 その文字が表示されたのと同時に魔導機が変形を開始する。ムルムスルングの搭載された魔導エンジンが星夜の背中に装着され、それを中心とするように体全体へとパーツが装着されていく。

 ホイールと空中移動のためのスラスターは背中に翼のように展開し、各種武装が肩や脚など様々な部位に装着され、両手には……あのブラスターを装備していた。


 そしてすべての武装が整うと、背中のムルムスルングから粒子が力を与えるように全身へと伝わっていき。


「貴様を……殺す」


 もはやそれ以上の言葉は必要なかった。両腕に装備された片方のブラスターを先生へと向け……。


『おっと、この姿を見せたからといって正面からやり合う気はワタシにはありませんよ。アナタ方の相手は彼らに任せます』


 そう言って先生が示した先から現れたのは、先ほど星夜達が空中で戦ったあの大型魔物の姿だった。


「ゴギャアアアアアアア!」

「ブルゴオオオオオオン!」

「バギャガアアアアルルァ!」


「くそっ……俺達があれだけかかって倒したのが……三体だと!」


 そう、今回は一体だけではない。三つの巨影すべてがこちらへと狙いを定めていた。


「……」


 だが、それを前にしても星夜は冷静にそちらへ振り向くと、両手のブラスターを魔物の方へ向ける。


「ムルムスルング・ブラスター並列連結、相乗エネルギー解放……200%」


 星夜の言葉に反応するように二つのブラスターは胸の前で一つとなり背中のムルムスルングから腕を伝ってエネルギーが充填されていく。そしてそのまま……。


「消え去れ!」


 放たれた閃光が……すべてを消し去っていく。もはや光は空を越え宇宙(そら)へと届くほど伸び、魔物は断末魔を挙げることもなく消滅してしまう。それも三体すべて同時にだ。

 あまりにも一瞬の出来事に、誰も言葉を発することができないでいた。戦闘に乗じて逃走を測ろうとしていた先生も、これでは逃げる隙すらない。


「貴様だけは……絶対に逃がさん。貴様をこの手で殺す、それが……オレがオレに課す最重要の任務だ!」


 もはや先生に逃げることを許さない。直接対決へと持ち込むのだった。


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