302話 狼の英雄と龍の英雄


 それはこの場で戦いを続ける三名を取り囲むように地面に、空中に突き刺さる幾千万もの雷の剣によって形成された"檻"だった。


『   』


「どうした、かかってこねぇのかよ」


 カロフと睨み合ったまま鎧はその場から動こうとはしない。それはやはり、この雷剣の檻がどういうものなのか理解できていないからだろう。

 そんな状況の中で鎧が取った選択は意外なもので……。


『   』


「むっ! ここで逃げを選択するかっ!」


 あろうことか鎧は大きく後方に飛び、この檻の中から抜け出すことを選択した。

 鎧はなによりも"勝利"を優先する。カロフがこちらを檻の中に"捕らえた"ということは、それこそがこの技が一番真価を発揮できる状態ということ。

 ここから強引に抜け出そうとしてもし雷の剣が何かしらの迎撃行動を行ったとして、自身の防御力ならば強引に突破可能という判断だろう。


パリッ――――√

「逃がすとっ……! 思ってんのかよ!」


『   』


 ガギン! と激しくぶつかり合う音が鳴り響き、衝撃が周囲に広がっていく。

 それは紛れもなく鎧の振るった拳とカロフの斬撃によって発生したものであり、同時に鎧の逃走失敗を意味していた。


「速い……我ですら今のカロフの動きを目で追うことができなかった」


 そう、アポロも感じたようにそのスピードは今までの比ではないほど圧倒的な速度。

 鎧が脱出を図ろうとしたその地点にいつの間にかカロフが現れそこにあった雷の剣を振るっていたのだ。


「へっ、悪ぃがオッサン、今のは俺が移動したわけじゃねえ。俺は最初っからここにいた・・・・・ってだけのことだ」


「最初から……まさかこの檻は」


 勘のいいアポロはカロフのその一言だけで気づいたようだ……この雷剣の檻、すなわち『万雷(バンライ)』の特性に。


「俺が飛ばしたのは"意識"だけだ。いちいち体を移動させるなんて無駄なことなんてしねえよ。なんせ俺の"肉体"は……そこら中にあんだからよ!」


 周囲一帯を覆うすべての雷の剣、それこそがカロフの肉体となり、同時に神器“リ・ヴァルク”と成り得る。あとは、そこにカロフの意思があるかどうかだ。

 肉体を含めた移動と意識だけの移動、どちらが早いかで見れば答えは明白だろう。

 もはや肉体という枷に縛られている鎧ではこの檻の中でカロフの速度を超えることは不可能。


「ってのも、もうテメェは全部わかってんだろ」


『   』


 カロフの考えている通り、すでに『万雷(バンライ)』の正体も鎧はすべてを理解していた。

 戦えば戦うほどその経験を己の強さにする。まさに、強さの限界を知らない脅威の怪物だ。


「さぁどうすんだ。つってもテメェに残された手段なんて……」


『   』


「ああ! そうやって翼をたたんで強引にぶち抜こうとしてくるよなぁ!」


 スピードでの突破が不可能なら、パワーを集約しカロフごとこの結界を壊せばいい。

 だがカロフは……カロフはそれを予想していた。鎧はそれができるのだから必ずそうするだろうと。


「頼んだぜオッサン!」

パリッ――――√


「噛み砕く! 『滅龍之顎ドラゴンズフィナーレ』!」


 鎧と競り合っていたカロフが再び意識を離脱させ、一瞬で離れた場所へ現れる。そしてそれを合図とばかりにアポロが繰り出す大技……龍の頭の形をした巨大な虹色のエネルギーの塊が今まさに鎧を食らおうと顎を閉じ。


『   』


 それを攻撃に集中していた鎧は避けることも迎撃することも叶わず噛み砕かれ……てはいなかった。

 牙と牙の間に挟まれてはいるものの何とか脚と腕で顎が閉じるのを抑えているようだ。


 だがこれでようやくアポロが鎧を捕らえることとなった。カロフが鎧の動きを抑え、アポロが砕く、当初の予定通りだが……。


『   』


「ぐ……ここまで力を集約してもなお……足りぬか!」


 鎧の方もかなり苦しそうには見えるが、それでもアポロの牙を押し返し始めている。


「オッサンでも決めきれねえか! なら俺も……」


『   』


「……ッ!? なんだ!」


 アポロが鎧を止めている間に自分も攻撃に加わろうとカロフが動き出そうとしたその瞬間、二人は感じ取る。鎧から溢れ出すような、得体のしれない力の波を。


「なんかヤベェ! さっさとぶち込……」


『     』


「……ぐ!?」

「……がっ!?」


 カロフは鎧の動きを止めようと飛び出そうとしたが、突然体にのしかかるような空気の重さをその身に受け動けないでいた。

 そして鎧と距離の近いアポロはその謎の力の影響をさらに強く感じていた。


「ぐ……なんだ……この、体の内側を突き刺すような奇妙な感覚は! それに、こ奴の顔……」


『    』


 アポロは体の内側へとのしかかる重みの影響か少しづつ鎧を噛み砕こうとする力が弱まりつつある。

 だがアポロが気になったのはそのことよりも目の前の存在の異質さの方だった。


(この者の顔に空いている十字の穴……先ほどまでその奥には深い虚空だけだった。だが今この奥からは……そう、まるでどこか別の世界からこちらを覗かれているような)


 アポロが感じたように今鎧の十字の穴の奥からは、その外に向かって発せられるエネルギーのようなものがそこから溢れ出しそうなほど異彩を放っていた。

 だが……。


『   』


(少しづつだが……負荷が弱まってきている)


 十字の奥から感じられるエネルギーが小さくなってゆくのに比例してアポロ達にのしかかる異様な力の重みが減っていく。


 鎧が放つこの力の正体は周囲一帯への事象操作によるものだ。事象の外側から内側へ向けてすべて生命力を否定するというまさに反則まがいの技。

 本来ならば範囲内にいる生命体であるカロフもアポロもその体から"命"という存在すべてが破壊されているはずだが、彼らの持つ神器がそれを拒絶していた。

 それでも完全に防いだわけではなくこうして肉体に負荷がかかっているのだが、鎧も事象力の限界があるのかそれを維持し続けることが難しいようだ。


 このまま耐えられれば鎧を逃がすことなくその事象力を大幅に削ることができるだろうが……。


『  』


「まだ……だ! 放すわけには……!」


 粘ってはいるもののすでにアポロの気力は限界に近い。

 鎧の体から軋む音は聞こえ、小さな破片が砕け零れ落ちはしているものの、噛み砕くことは叶わず逆に牙が押し戻され始めている。

 この様子では、鎧の事象力の消耗よりも先にアポロの技が破られるのは明白だった。


(我に……もっと、強い力があれば! もっと……!)




『……ナラバ、ワレニソノ身体ヲ明ケ渡セバヨイ』


(……!? この……声は!)


 それは、アポロの内から聞こえてきた声。エンパイアの奥でその魂を抑えられていたはずの邪悪な龍の誘惑。


(エルディニクス……か。なぜ、貴様の魂がこんな表層に)


『ソンナコトハドウデモイイダロウ? 今オ前ニ必要ナノハ目ノ前ノ敵ヲ滅ボスタメノ強大ナチカラデハナイノカ?』


 おそらくアポロが他のすべての始祖龍の力をこの戦いのために注いでいるためエルディニクスへの抑制が弱まり、その魂が表層に現れるまで緩んでしまったのだろう。

 そしてこんな状況にも関わらず、エルディニクスの狙いは相も変わらず……アポロの存在だ。


『オ前ノ神器ガソノチカラヲ十分ニ発揮デキナイノハワレノ部分ヲ自身ノチカラデ補ッテイルカラダ。ナレバコソ、ワレガオ前ト一ツトナレバ真ノチカラガ完成スル。サァ、今コソワレヲ受ケ入レヨ』


 おそらくエルディニクスの言葉に偽りはない。いかにアポロが自身の存在でエルディニクスの変わりとなろうとも、神器を扱う本体でもある以上出せる力に限界がある。

 だからこそ、足りない力を補うことさえできればこの状況を打破することもできるかもしれないが……。


(そうだ……我には今こそ、貴様の力が必要だ……エルディニクス)


『ソノ通リダアポロヨ。ヨウヤクワレヲ受ケ入レル気ニ……ガッ!?』


 それは、エルディニクスもまったく予期していなかったことだろう。ようやく望んだ計画通りことが進んだと思った瞬間、実態を持たないはずの自分の首を掴まれたのだから。

 ここはエンパイアの中のイメージの世界。そんな場所で己の意識の形をハッキリ保ち、なおかつ相手の形をも的確に捉えるなど並みの精神力ではあり得ない。


(ああ、だからこそ……! 今こそ! 貴様の力を我が使わせてもらうと言っているのだ! エルディニクス!)


『バ、バカナ!? コレハ……コンナコトガ二度モアッテイイハズガ……』


 エルディニクスには、この状況に覚えがあった。それは、アポロの前にこの神器を所有しようとした者に制裁を加えようとした時のこと。

 その者に精神を屈服させられ、力を無理やり扱われたことを。

 あの時は龍族以外への干渉だったため上手く精神を保てなかったという点も含め、屈辱を感じながらも仕方がないと自身を納得させた。


『バカナ、アリ得ン! ワレハ……ワレハ始祖タル龍ナノダゾ! ソレガ、コンナ小僧ノ龍ニ……精神力デモ劣ルトイウノカ!? ソンナコトガ……ソンナコトガアアアアア!』


 しかし今回は精神的にも干渉力の高い龍族だというのに……屈服させられようとしている。

 それはアポロが精神的にも成長したからなのか、神器を扱うようになり事象力を扱う相手との戦いで今も成長を続けているからなのかはわからない。


 だがアポロは、今紛れもなく……。


『待テ! 待ツノダアポロヨ……!』


(今こそその力を……我らの未来のために!)


 エルディニクスを完全に屈服させ、エンパイアの真の力のすべてをようやく解放したのだった。




「おおおおおおオオオオオオオォォォ!!!」


『 』


 鎧の力が弱まり、アポロに気力が戻り始める。雄たけびを上げるアポロの背にはこれまで現れることのなかった最後の龍の首がその姿を表し……。


「ありゃ……オッサンの背に、炎の龍の……八本目の首か?」


 本来神器“エンパイア”というのは七体の始祖龍の魂を一つにしたエネルギー体であり、使用する際に現れる首の数も当然七本までが限界だ。

 だが龍族であるアポロは自ら持つ龍の首により、その制限を超える!


『』


「ここにっ! すべての力を叩きこむ! 受けよっ、神龍撃『八神龍之伝承(ヤマタノオロチ)』!!」


 鎧の事象力に限界が近づいたその瞬間、アポロは龍の顎からすべての始祖龍を分離し、炎の首を加えたすべての力が容赦なく襲い掛かる。

 ……そしてついに。


バキィ……!


    』


 その首の一つが鎧の肩を噛み砕くことに成功した。

 さらに破壊された肩から亀裂が広がり片腕が崩壊、背中の翼の数枚も崩れ落ちていく。

 そんな予想外のダメージに鎧も挙動がおかしくなり、まるで痙攣するかのように体をガクガクと震わせている。


「ついにやったぜオッサン! たたみかけるにはもうここしかね……」


『〘  ﹃

……ボゴォン!


「……ッ!? なっ、んだありゃ!?」


 それは、鎧が腕を振るった衝撃によるものだった。……しかし、その規模は今までの比ではないほど巨大であり、しかもそれはないはずの側の腕から振るわれていた。


 徐々に衝撃による土埃が晴れていくと、それを振るった正体が現れ……。


「おいおい、なんだよあれ」


 そこにあったのは巨大でいびつな岩の腕。おおよそ鎧の体とは不釣り合いな巨人のような腕だった。


「まだあんなもん出せるほどの力があんのかよ。いい加減にしろっつーの」


「いいやカロフよ、よく見ろあの腕を」


「ああ?」


 アポロはすでに気づいていた、その腕が不完全なものであると。

 振るった巨椀はみるみるうちにその表面が剥がれ落ち、やがて先ほどアポロが噛み砕いたのと同じように亀裂が走ると、脆くも崩れ落ちてしまう。


「苦し紛れの一撃……といったところだろう。あれはヤツ自身でも制御しきれない過ぎた力ということだ。恐れずこのままトドメを刺せばよい。だが……」


「ああ、わあってんだよ。今の一撃で『万雷(バンライ)』の一部が崩されちまった」


 無造作に振るわれた巨撃は周囲一帯をまとめて崩壊させる一撃で、せっかくカロフが作り出した雷の檻にも穴ができてしまっていた。

 そして鎧もそれを理解したのか……。


『︵   ⦆


「マジかよあのヤロウ……逃げる気か!」


「奴にとっては我らに倒されることが何よりの敗北ということか」


 英雄メンバー達のこの戦いにおける目的とは、終極神の事象をこの世界から完全に消し去ることで事象による干渉を止めることにある。

 ここで逃がしてしまえばその目的を達成できなくなる。鎧はこれを理解しており、だからこそ自分が逃げることは敗北ではないという結論に至ったのだ。


「カロフ! 奴を絶対に逃がしてはならんぞ!」


「言われなくても……わかってんだよそんぐらい! “龍神ノ章”……第四節『襲雷(シュウライ)』!!」


 カロフが駆けだすと同時に周囲に浮いていた雷の剣が一斉に同じ方向へと一筋の光となり飛んでいく。

 その光の一つが鎧の上を通過すると……。


「そこだオラァ!」


﹄   】﹀』


 光の中からカロフが現れ、上からの強烈な一撃が鎧を地面に叩き落とす。

 だが地面に落ちると同時にまたしても破損した腕から巨大な岩の鎧が形成されていき、それをカロフに向かって振り抜こうと……。


「『始祖龍疾走(エンシェントドライブ)』!」


『︻‹  〗


 した瞬間、地表ギリギリを始祖龍の力を纏って飛翔してきたアポロの体当たりを受け吹き飛ばされてしまう。

 その衝撃で形成されかけていた巨椀は完成前に崩れ、本体もその体を地面に何度も叩きつけられることで体に入った亀裂がさらに広がっていく。


『   〗』


「ぬぐっ!?」


「オッサン!? あんにゃろ、まだあんな力が残ってんのかよ!」


 だが鎧も即座に復帰し、崩壊した部分が破裂する衝撃を逆に利用しアポロへと突撃、破損していない方の拳でその脇腹をえぐり取る。


「ぬううううう! ガァ!」


『   »︸


 しかしアポロも突っ込んできた鎧を七本の首で捕まえると、そのまま上空に向かって自信を含めたすべての首からブレスを吐き撃ちあげる。


「カロフ!」


「ああ! トドメは俺が……ッ!?」


 空へ撃ちあがった鎧を今度こそ仕留めようとカロフが空を見上げると、そこにはすでに異質なものが作り出されいた。


『           』


 宙に浮かぶ巨大な岩の塊。それは間違いなく鎧が産みだしたものであり、すでにそれと融合しているのが中心の十字の穴からも理解ができた。

 そして、それの周りにさらに作り出されているのが……。


「それで全部ぶっ壊そうって腹かよ」


 浮かぶのは無数の巨大な腕。それも先ほどカロフ達に向かって振るったものの何倍も大きい、まさにすべてを破壊する拳の嵐。

 あんなものが降り注げばカロフ達はおろか、物理的に世界が崩壊してしまうほどに、あまりにも強大すぎる力。


 ……だがそれでも。どれだけ絶望が襲い掛かろうとも。


「臆するな! いけぇカロフ!」


「ハナっから……そのつもりだぜ!」


 彼らはそれを恐れず立ち向かっていく。


 カロフが中心の巨岩に向かって飛び出すのと同時に巨大な拳が降り注いでいく。その巨大な流星群とも言える無数の拳のいくつかはカロフの進む道にも当然立ちはだかる。

 しかしカロフは止まることも、減速することもない。



「その拳はすべて……一つたりとも! 我が地上にもカロフの下へも落とさせん! 見よ! 終焉の息吹を…… 『龍皇之息吹(ブレスオブドラゴン)-神龍終焉撃(グランドフィナーレ)-』!! 」



 七つの首から放たれるのはそれぞれの始祖龍の属性を象徴する龍の息吹。その一つひとつが巨椀を撃ち、地上に到達する前に消滅させていく。

 そして本体であるアポロの口内から放たれるのは、始祖龍すべての力を凝縮した黄金の息吹。


「砕けよ!」


 その息吹は中心の一際巨大な岩石の拳……カロフへの向かっていた巨椀へと突き刺さり、弾けた。


『﹄   〗】


 たった数秒間ですべての腕が破壊され、もはや鎧に残されたのは自らを覆い隠す巨大な外殻のみ。


 そこへ伸びる一筋の雷光と、それに追従するように集まっていく幾千万もの稲光。


「ついに……捉えたぜ」


 迫りくる巨椀が破壊される前からすでに、カロフはそこへ狙いを定めていた。巨大な十字の穴の、さらに奥の中心部。


 やがて集う稲光が一つの形を成していく。それは、カロフの肉体から離れながらも自然のマナを吸い上げ、雷の力を蓄えていた。

 それが今カロフの手で一つとなり……一本の巨大な雷の剣と化す。



「こいつが……テメェを打ち砕く"強さ"の一撃だ! 獣人剣技“龍神ノ章”第五節 『万雷一閃(バンライイッセン)』!! 」



 その瞬間、一筋の雷が……天を覆った。だが世界中の人間がそれを認識する前にその雷は再び一つに集まり……。


『︻‹〘﹃︵﹄»︸ 〗】』


 巨岩の外殻が崩れ落ちるように消滅していく。

 そしてその中から現れたのは……頭から胴体までを真っ二つにされた鎧の姿がそこにあった。


『»︸〘‹


 その体も……少しづつ崩壊していく。事象力の中核となる頭部の十字の穴が破壊された今、その肉体を保つこともできずもがき……。



 鎧をアステリムの事象内に留めていたすべての要素が消滅し、残ったのはあの穴の奥から覗いていた本体とも呼べるエネルギーの光だけがそこにあり。


ヒュン……


「あ、クソッ! 飛んでっちまうぞ!」


 どこかへ飛んでいこうとするその光をカロフは止めようと手を伸ばすが、それを掴むことはできず遥か彼方へと消え去ってしまう。

 だが、あの方向はおそらく……。


「第五大陸の亀裂へ向かったのやもしれぬな。あれは我らにはどうすることもできん。……それよりも、今は」


「ああ、この勝負……俺達の勝ちだぜ、オッサン」


 もはや高らかに宣言できないほど気力も尽き果ててしまったが、それだけは変わらない、この世界に刻まれた結果として残されたのだ。






「カロフー! アポロさーん!」


「お、あの声はリィナじゃねぇか」


「うむ、ネルも一緒だ。それに、共に避難した集落の住人達もな」


 カロフの一閃の後、戦闘の音が止んだことでリィナ達も戦いが終結したのだと理解し急いで戻ってきたようだ。

 これにてこの地の戦いは英雄メンバーの勝利で終わったが。


「ちょ、ちょっとアポロ! なによこのヒドい怪我!?」


「ハッハッハ! 少々不覚を取った。なので、誰か治癒魔術を扱える者がいれば助かるのだが」


「俺も内臓まであちこちボロボロだぜ……。早ぇとこ治してもらわねえと次にいけねえ」


 二人に治療が必要なことは誰の目か見ても明らかではあるが、カロフのこの言い方は……。


「ちょっとカロフ!? あなたそんな体でまだ戦おうとしてますの!?」


「ったりめえだ。俺達の戦いはあの鎧の大本だっつー終極神ってのをぶっ倒すまで終わらねえ。そうだろオッサン」


「その通りだ。それにあの光が終極神の下へと向かったというのなら、きっと他の戦場でも同じことが起き、皆もそこへ向かおうとするだろう。我らだけが遅れるわけにはいかん」


 他の地点に向かった英雄メンバー達がどうなったのかはまだわからないが、少なくともカロフとアポロは仲間達の勝利を信じている。

 だからこそ、自分達が向かわないわけにはいかないと強く感じているのだ。


「なら、あんたらの治療は俺達に任せてくれ。俺達の村には治癒術を専門として技術を受け継いできた者も多いからな」


「ガルダ……おめぇ」


「あの鎧を倒すなんてお前は凄いやつだよ。だけど、これからもっとヤバいやつと戦うんだろ。だから、せめて戦えない俺達にもできることをやらせてくれ」


 こうして集落にいた治癒術使い達が一斉にカロフとアポロへの治療を開始する。

 回復までにはまだ時間がかかるだろうが、あの亀裂の下へ向かうのにそう時間はかからないだろう。


「それじゃあ、治療が終わったらすぐ出発ですわね。まったく、カロフの無茶に付き合うのは骨が折れますわ」


「うん、でも私達も別にそれが嫌いなわけじゃないですよね。一緒に行くって、決めたんですから」


「ならば集落の者達は自分に任せてもらおう。騎士カロフ、お嬢様のことを頼むぞ」


「言われなくてもわかってらぁ。そんじゃ、リィナもお嬢さんも最後までよろしく頼むぜ」


 その胸に、大きくなっていく強さを持ち。


「アポロ、あなたがここまで傷つく姿を初めて見た……でも」


「うむ、我は死なぬ。ネルと……あの子を置いてゆくわけにはいかぬからな」


 大切な存在の下へと必ず戻ると誓い。

 勝利を掴んだ者達は傷を癒し、次なる戦地を目指すのだった。


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