297話 -VS- -VS- -VS- その3


 混乱する世界の中、大空を進む巨大な影が一つ……飛空艇『魔導戦艦セブンスホープ』の姿がそこにあった。

 その中に搭乗する、チーム《スカイエンペラー》と他の乗組員は真っ直ぐとある場所を目指していた。


「しかし余らの目的地は結局隣の国内とはの。もっとこの飛空艇を活かし遠くへ行くものだと思っておったのだがのう。なんか拍子抜けではないか?」


「でも世界各地への救援はこのセブンスホープじゃないとできなかったことですから。それに、僕達のチームは他と比べて機動力が劣っていたところがありますし、こうして長距離を短期間で移動できるようになったのは大きいことですよ」


 レオンの言うように、アポロや星夜という高機動を有する他の二チームと違い彼らのチームにはいまいち機動力が足りていなかった。

 しかしレオンの神器“テルスマグニア”とディーオの無尽蔵の魔力を利用することで大規模な移動手段を確保することが可能となった。


「アポロ様、セイヤ様方に比べ速さで劣るのは仕方のないことですが、それを補って有り余る人員や兵装の充実さはディーオ様あってこそです。もっと誇ってもよろしいとわたくしは思いますよ」


「うむ、そうだの……サロマの言う通りなのだ! 余の存在あってこその飛空艇なのだからの! ぬわッハッハッハ!」


 とまぁ、ちょっとおだてられただけで簡単に調子を取り戻すディーオである。そんな調子のまま立ち上がって胸を張って元気よく笑っているが。


「ちょっと! 魔力供給がズレるから勝手に立たないで頂戴このバカ皇帝! まったく、魔力が切れて全員真っ逆さまになったらどうするんですの」


「あ……スマヌのだ……」


 エリーゼに怒鳴られしゅんと縮こまって着席するディーオ。

 このセブンスホープが飛空艇として成り立っているのはその動力を艦長席から吸い上げた魔力をレオンの魔力の代替として使っているからであり、ディーオが席から離れると魔力供給が追いつかなくなりどんどん高度が下がってしまうのだ。

 ただ、足元からでも魔力の吸い上げはできないこともないのでズレが生じるといっても本当にわずかなものでしかないのだが。


(やっぱり……焦ってるよね、リーゼ)


 レオンがそう感じたように、今の彼女からは誰の目から見ても焦りが感じられる……というよりも、余裕がないといった風に見えるだろう。

 だがそれも仕方のないことだ。なぜなら今彼らが向かっている場所……終極神の事象が暗躍していたと思われる地点であるメルト王国はエリーゼの故郷でもあるのだから。


「……エリーゼさん、故郷の皆さんが心配な気持ちはわかります。でも今は冷静になってください」


「わかってますわよ。でも一つだけ訂正させていただきますわ。わたくしは心配だから焦っているわけではありませんの。わたくしの治める領地のある故郷で好き勝手されていることに怒りを覚えているだけということを」


 と、あくまで自分のこの動揺は焦りではなく怒りから来るものだと訂正するエリーゼ。

 ただエリーゼという人間をよく知る友人達としては、彼女の憤りは決してそれだけではないと分かっていて。


「うん、そうだね。許せないし、助けたい……この戦いに巻き込まれてしまった関係ない人達や、あの国にいるフィオさんやマレルさんを。だよね、リーゼ」


「別に、そう思いたいなら勝手にすればいいだけですわ」


 本心をレオンに見透かされて恥ずかしいのか顔を背け計器をチェックするエリーゼ。そんな二人のやり取りをシリカや他のクルー達も何も言わず微笑ましそうに聞いていた。


「まったくエリーゼは素直でないのう。もっと自分の気持ちをハッキリ言葉にすれば関係がこじれることもなかろう。そうカリカリしてると嬉しいことも逃げてゆくぞ」


 ただ一人空気の読めないディーオを除いて。


「アホ皇帝は黙って魔力を吸われていなさいな!」


「……のうっ!?」


 デリカシーのない発言に流石にエリーゼも怒ったのか指先から圧縮した小さな魔力を放ちディーオのおでこにクリーンヒットさせる。といっても威力はちょっと痛いデコピン程度のものだろうが。

 ただ、今のやり取りのおかげか少々重苦しかった船内の雰囲気も多少は軽くなったのはいいことだろう。


「痛いのう……まったく、艦長というのも思ったより大変だのう。ムゲンも途中で降りてしまうし」


 ここで以前までの船内と違うことに気づいただろうか。そう、いつのまにかムゲンが乗っていないのである。加えて彼と常に共にあったセフィラとクリファもその姿は今はない。


「師匠にもきっとやることがあるんですよ。それに降りたのが魔導師ギルドならリオウ君もいるからなんの心配もないだろうし」


 そう、レオン達がシント王国からメルト王国へとUターンする際、なぜかムゲンはその途中にあるブルーメ……つまり魔導師ギルドで降りると言い出したのだ。

 理由を聞いても「急を要するかもしれない」とだけ言い残し、そんなムゲンに付き添うようにセフィラとクリファも下船することとなったのだが、詳細は謎のままだ。


「きっと師匠は僕達を信頼しているからこそあそこで降りたんです。とにかく僕達は僕達のやるべきことをやりましょう」


「それはわかっておるがの、結局余らが戦うべき相手というのはどんな奴だのかのう……」


「それは向かってみなければわからないでしょう。まずは一刻も早くメルト王国に到着し、異常が起きていないか確かめるのが先決のはずです」


「うむ、確かにその通りなのだ。では速度を上げてゆくぞ! 全速前進なのだーっ!」


 兎にも角にもまずはこの目で確かめなければ始まらない。目的地へ急ぐため、セブンスホープは全速力で空をかけていくのだった。




「まもなくメルト王国北部上空へ到達します」


 セブンスホープが加速してまもなく、クルーの一人がそう告げると館内に緊張が走る。


「では当初の予定通り、着陸できる地点を見つけたのちに付近の町から調査していくという方針でよろしいですね、陛下」


「うむ、頼んだぞパスカルよ」


 パスカルの的確な指示でクルー達も迅速に構想に移っていく。周囲の地形から着陸地点を割り出し、周辺の調査のための人員もすでにその準備を終えている。


「魔導戦艦の着陸可能ポイントを発見しました! これより着陸態勢に移行します、乗員の皆さんは衝撃に備えてください!」


「黒い魔物の出現に注意してください。レーダーに反応はありませんが、いつ出現するかわからないので」


 シリカの伝えた通り、あの黒い魔物は人間の多い場所には湧かないとはいえ神出鬼没であることに変わりはない。それこそ、セブンスホープに乗る者達の気配を察知して今にも集まってくるかもしれない可能性はあるが。


ズゥン……


「着陸……完了しました! 周囲に敵影なし!」


 何の問題もなく、セブンスホープは地面へと降り立つことに成功したのだった。

 しかし降り立ったのはいいが……どこか空気が異質だ。黒い魔物が発生する気配はないが人の気配も感じられない。


「うむ! では早速余が出陣を……」


「お待ちください! いきなり陛下が先陣を切る必要はありません。それこそ待ち伏せでもされていたなら敵の思うつぼ。まずは先遣部隊を向かわせましょう」


「うむ……そうだの」


 意気揚々と飛び出そうとするディーオだったが、パスカルに止められ再びシュンとしてしまう。

 ただこの判断は悪くはない。敵の戦力が不明な現状でディーオやレオンが迂闊に飛び出しやられでもしたら目も当てられない。

 加えてもし敵が罠を張っていたとしても、セブンスホープ内に二人がいればすぐにこの場から飛び立つことも可能となる。


「では先遣隊の皆さん、周囲の状況に注意を払いつつ出陣をお願いします。この先に町があるのでまずはそこから調査をはじめてください。異常を発見した場合や緊急自体だと判断したらすぐに通信石でこちらに連絡を」


「「「了解しました」」」


 地上に降りた数名の兵士が小隊となって進んでいく。その全員が足や背中に魔力で低空飛行が可能な魔道具などヴォリンレクスで開発された最新の武装を装備し駆け抜けていく。あれなら町にたどり着くのもすぐだろう。

 セブンスホープは巨大だがやはり乗れる人数は限られている。だからこそ兵士も精鋭部隊を揃え、武装もそれに適したものを十分に積んでいる。


「しかしこうして報告を待つ時間は落ち着かんのう」


「ディーオ様、彼らは皆ヴォリンレクスの兵として国に命を捧げる覚悟を持ってこの戦いに赴いております。そんな彼らを信じて待つのも、王として重要な役目だとわたくしは考えます」


「うむ、此度の戦いは本当に命の危険があるというのに皆こうしてついてきてくれた。その覚悟を無下にするわけにはいかぬな」


「あら、少しは上に立つ者として自覚と判断もできるようになったんですのね。出会った頃は泣きわめいて突っ走るだけの考えなしでしたのに。まぁ突っ走ろうとするところは変わってないみたいですけど」


「リーゼ、それはちょっと言い過ぎだよ……。僕達だって最初は目の前の問題にただただ突き進むしかできなかった。でもこうして多くの人の助けがあって、一つひとつ成長したからこそ今の僕達があるんだから」


 その言葉の通り、レオン達もディーオ達も出会った頃から比べれば大きく変わった。心は成熟していき、無邪気な子供のままではいられなくなっていく。

 ただその奥底にある想いだけはきっと変わることのない強い気持ちのまま、未来へ進むための原動力しとして残り続けている。


 その想いと共に成長していけばこの戦いも乗り越えられるはずだ……そう誰もが感じはじめていたその時だった。

 通信石の受信機から先遣隊の慌てたような、それでいて困惑したような声が聞こえてきたのは。


『こ、こちら先遣隊! 本艦応答願います!』


「どうしました! 状況を詳しく報告してください!」


『いえ……それが、この状況はその……どう言葉にすればいいか』


 通信石から聞こえてくる兵士の声は歯切れが悪く、要領を得ない。しかしそれでも何か不可解なものに直面し、恐怖している……それだけは伝わってくる。


「落ち着て冷静に、一つずつわかることだけを説明すればそれでいいんです」


『は、はい……でもこれは……いえ町に着いたまではよかったのですが。部隊の一人がそこにいた住人に話を聞こうとして……楽し……あ、いや、なにやら様子がおかしく……。いつの間にか仮面……あー、もっと楽しいことをしよう。お、あっちでは皆楽しそうだなぁ! おーい、混ぜてくれよー!』


「どうしました!? 応答してください! どうしたんですか!?」


 声を掛け続けるもそれ以降応答が返ってくることはなかった。

 通信の途中で突然人が変わったかのようにすべてを投げ出し、どうなったのかは誰にもわからない。

 ただ、豹変した際の彼の言動からはどこか幼い少年のような無邪気さが感じられたような気がしなくもない。


「なん……だったのだ今のは……」


「なんでしょう……通信内容としてみれば緊急事態のようには思えませんでしたけど」


「でもなにか異常なことが起きているのは間違いないようですわね」


 船内が静まり返る。エリーゼの言う通りあの兵士の最後の言動はどう考えても異常でしかなかった。

 そして部隊でそんな異常が起きているというのに他の誰も通信を送ってこないということが意味することは……。


「……ディーオ陛下、僕達で行きましょう」


「それしかないようだの。パスカル! 余らの出陣の用意を!」


「で、ですがお待ちください陛下! 状況もわからぬまま飛び込むのはあまりにも危険です!」


「いいやパスカルよ、だからこそ余らが向かわねばならぬのだ。今の状況でどれだけ人を送ったとしても同じことを繰り返すだけの可能性が高いであろう」


「おそらく師匠の言う事象の操作というのが影響しているのかもしれません。となれば、神器を所有する僕達でなければ対処できないということです。これ以上の被害が出る前に」


 そう言うレオンの瞳からはとても強い意志を感じられた。それは誰かに任せることなく自分で進むと決めた彼の決意の表れなのかもしれない。

 だが、そんなレオンも一人で前に進むと決めたわけではない。


「なら、わたくし達も一緒にいきますわよ。シリカ、オルトロスはすぐにでも出られますわよね」


「はい、いつでも。皆さんはセブンスホープの方をよろしくお願いしますね」


 並んで未来へ進むと誓った大切な仲間達と共に、その先へ。


「……わかりました陛下。ですがくれぐれも無茶はなさらぬように」


「うむ、では出撃準備なのだ!」


「ディーオ様、わたくしも格納庫にて兵装の準備をお手伝いさせていただきます」


 こうして一同が向かった先、魔導機や魔道具の格納庫。すでに各国への救援のためにすべての魔導機は出払ってしまい、残っているのは兵士用の魔道具と……。


「ガウガウ!」

「グルグル!」


 シリカの登場に待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに尻尾を振って近づいてくるオルトロス。


「オルちゃんいい子いい子。さぁ、皆のために頑張ろう」


 シリカの言葉に呼応するようにオルトロスはその身体の体積を変化させ、人間数人は余裕で乗せられるほどに巨大化していく。

 そのままのっしのっしと進んでいきたどり着く先は、魔導機などが出撃するためのカタパルト待機場だ。そこへオルトロスがたどり着くと同時にレオン達もその背に跨り準備が整の……。


「ってちょっと待つのだーっ! まだ余の準備が終わっておらぬのだーっ!」


 ったと思ったらディーオがまだのようだ。

 格納庫の端っこの方ではサロマに手伝ってもらいながら全身に魔道具を装備していくディーオの姿が見られ。


「ようし、これでバッチリなのだ! とうっ!」


 最後の武装を装備すると同時に勢い良く飛び上がると、その身体はふわりと浮き上がってゆっくりとオルトロスの上へと着地する。

 そんな高度な動きは今までのディーオからはまったく想像できないもので。


「わわっ、すごいですねディーオ陛下」


「というかなんですの? そんなガチガチに魔道具を着込んで」


「ふっふっふ、これこそが余の専用武装、『フルアーマーエンペラー』なのだ!」


 フルアーマーという名の通り、脚から腕、背中にもごてごてに魔道具を装着しているが、実はそのほとんどは機動力と防御力を補う守りを重視したものである。まさにディーオに足りないものを補うためだけを考え抜かれた装備と言えるだろう。


「ディーオ様、戦う術を持たないわたくしではこの先の戦地に着いてゆくことはできません。ですが、心はいつもお側に。こちらのことはお任せください」


「うむ、その通りなのだ。セブンスホープの方はお主に任せるぞ、サロマよ」


『カタパルト、開きます!』


 発進準備の号令と同時にカタパルトが開き、道が出来上がり。


『オルトロス、発進どうぞ』


 その道を一直線に走り、飛び出していく。未だ正体の掴めない敵が待つであろう戦地へと。




 地面に着地したオルトロスは足を止めることなく真っ直ぐと進んでいく。目的地はもちろん兵士達の通信が途絶えた先にある町だ。


「……」


 そんな道中、レオンはひとり浮かなそうな表情を浮かべており。


「どうしましたのレオン? まさか、今更怖気づいた……なんてことはないでしょうけど」


「そうじゃないよ。ただ……さっきの通信の内容が気になってて」


「確かに通信での最後の様子は明らかにおかしかったですからね。気になるのも当然です」


 通信が途切れる寸前、兵士は突然狂ったかのように笑い出し、狂っていた。確かにそれは異常なことであり、誰から見ても器になることではある。

 だが、どうやらレオンが気になったのはそこではないらしく。


「違うんだシリカちゃん、そっちよりも僕が気になったのは……通信の始まりが"焦り"じなくて"困惑"だったことなんだ」


「何を言っておるのだレオンよ? そ奴は困惑していたから困惑した反応をしていた。ただそれだけであろう?」


 A=Aという当然だがとってもアホっぽい返答をするディーオにエリーゼは呆れた表情を浮かべているが、実際その通りである。

 しかしそれこそがレオンの感じた違和感であり……。


「困惑していたということは"異常"が発生していたはずなんです。そしてこの状況で起こる"異常"ならそれはきっと終極神の事象に他なりません。でもその兵士は"交戦"した様子はまったくなかった」


 つまりレオンの言いたいことは、"敵"と遭遇したのなら焦り"交戦"を開始していてもおかしくない図式が作られるのが普通な状況でその兵士はただただ"困惑"したまま"異常"になってしまった。

 別の兵士から通信が送られてこないのも同じ状況に陥っているというのなら、おそらく事態は自分達が考えているよりも深刻だろうと。


「だから、まずはその"異常"の正体を掴むことが重要なんじゃないかって、僕は思ってるんだ」


 見えない敵、不可解な異常、この先に待ち受けるものはいったい何なのか。

 そんなことを思案している内にオルトロスは目的地を発見したようで。


「ガウーン!」


「どうやら町が見えてきたみたいです」


「ならばまず余が先陣を切ろう! とうっ!」


「ちょっと待ちなさいバカ皇て……行ってしまいましたわ。まったく目立ちたがり屋ですのね」


 いち早くオルトロスから飛び降りたディーオは足と背中の魔道具でその勢いのまま突っ走ってしまう。


「ディーオ陛下相変わらずだね。ここは僕に任せて、一足先に追いついておくから」


 そう言うとレオンもオルトロスから飛び降りる。そのまま巨大な義手の中から小さな球状のテルスマグニア生み出すと、それを足裏に設置すると同時に猛スピードで町の方まで飛んでいく。


 一方先に町までたどり着いたディーオはというと。


「まずは先遣隊の者達を見つけたいところだが、どこにおるのやら」


 ディーオが先に飛び出したのは別に目立ちたいからという理由ではなく、ただ先にこの町へ向かった兵士の安否を確かめたかったからなのだろう。

 しかし町の入り口付近を見渡してもその姿は見られない。その代わりに発見したのは……。


「あはは、楽しいね」

「うんうん、面白いよ」


 地面にしゃがみこんで遊んでいる二人の子供だった。後ろ姿で何をしているのか詳細は掴めないが、なにやら木の枝で何かをつついて遊んでいるらしい。


「ぬおっ!? お主らこんなところで何をしておるのだ。今子供が外に出ては危険……」


「えっ?」

「なぁに?」


 世界全体が混乱状態の中で無防備にも外で無邪気に遊ぶ子供達を心配し注意しようと近寄るディーオだったが、途中で言葉を失ってしまう。

 なぜなら振り返った子供達はどちらも奇妙な仮面を被っており、木の枝でつついていたものは……。


グチュ……


 墜落して死んでいた鳥の中身だったのだから。つい先ほど死んだばかりだろうか、まだ足がピクピクと動いてはいるものの、腹を割かれ内臓が飛び出し、それでもなお子供達は鳥の中身をほじくるのをやめようとはしない。


「お、お主らそれは何をやっておるのだ。それにその仮面……この町では今、そんな奇抜なお祭りでもやっておるのか……」


「お祭り? 違うよ? 楽しいからやってるだけ」

「でもお祭りならもっと楽しいよね! お祭りにしちゃおうよ!」


 そんな残虐な行為を、笑ったような仮面を着けながら面白がっている子供達の様子はまさに"異常"だった。


 と、そこへ追いついてきたレオンがやってきて。


「ディーオ陛下、一人で行くのは危険です。ここからは僕達と一緒に……ってあれ? この子達はいったい……」


「それが、余にもよくわからぬのだが……」


 わけもわからないまま困惑するディーオもどう説明したものかと頭をひねらせている。

 すると、そこへ町の方から一人の人影がやって来て……。


「あれ~陛下じゃないですか? 来てくれたんですね~」


「お、お主は先遣隊の!? 何をしているのだ、それにその仮面はいったい」


 なんと現れたのは先ほど通信が途絶えた先遣隊の一人だった。

 しかしやはり様子がおかしい。任務を忘れて楽しそうに踊り、その顔には子供達と同じように白黒半々でできた笑顔の仮面を身に着けている。


「なにって……楽しいことをしているんですよ。何をしても楽しくて仕方がない! だから陛下も……」

「ねぇねぇお兄ちゃん達も……」

「ぼくたちと一緒に……」


 ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。あまりにも無邪気に、まるで友達を遊びに誘うかのように。

 そこへ、背後から駆けてくるオルトロスの足音が聞こえ始め。


「レオンさん、陛下、お待たせしました」


「レオン、ちゃんとバカ皇帝を引き留めてますわよね」


 ようやく追いついたエリーゼとシリカがレオン達を見つけオルトロスから降りて近づこうとするのと同時だった。……その声が聞こえたのは。


「あ、エリーゼちょっと今……」


「「「 『遊ぼうよ』 」」」


「……ッ!?」

「これ……はっ!?」


 その"異様"を感じすぐさま反応したのはレオンだった。彼はその声が自分の中へと"入り込んで来ようとする"のを瞬時に察知し、それはやがて自分の後ろにいる彼女達にも届くだろうと理解したからこそ……。


「テルスマグニア、術式展開! 『大地陥落(アースフォールグラビトン)』! 重力百倍!」

ゴオオオオオォォォン!


 突如発動させたレオンの魔術はすさまじい重力で大地そのものを陥没させ、その上にいた子供二人と先遣隊の兵士をその穴の中へと落としていった。

 加えてその衝撃音で先ほどの彼らの言葉もかき消すように。


「い、いきなり何をしているんですのレオン!?」


「二人ともきちゃだめだ! これは……この"敵"の攻撃の正体は……!」



『うわー、すごいねー!』

『面白い面白ーい! もう一回やってー!』



 それは突然どこからか聞こえてきた無邪気な子供の声。

 町の塀の上にはいつからそこにいたのか、道化師のような恰好をした男女の子供の姿があった。

 先ほどの狂った者達が着けていた仮面を半々にしたようなものをお互い顔の半分に着けている。


 それは無邪気で純粋な……レオンとディーオが戦うべき悪意そのものだった。


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