293話 発進!魔導戦艦セブンスホープ!
修練場に揃っていた全員が集まり、私は先ほど感じた終極神の事象の強まりについて皆へ説明を始める。
「予想通り、終極神がこの世界に潜ませていた三つの事象が同時に覚醒を始めた。この段階で潰しておかないと手が付けられなくなる」
今回終極神が用意したのは、そのどれもが世界の事象を破壊するためだけに特化したものばかりだ。
だからこそ成長という過程が必要であり、私達にも成熟するまでに仕留められるメリットが存在する。
「よっしゃ! んじゃはえーとこ出向いてぶっ潰してやるとすっか!」
「ふん、相変わらずの脳筋バカだな貴様は。まずはムゲンが感知した敵の現れた場所やその戦力を分析し、対策を万全にするのが先だろう」
「んなこた俺だってわかってんだよ! ただ、早く行動しねーとやべぇんじゃねえかって言ってんだ!」
こんな時でもいがみ合うカロフとレイだが、二人の言っていることも間違ってはいない。
確かに相手が動き出したとなればこちらも早めに行動を起こすべきではある。しかし、相手の出方を探り万全な対策を組むのも当然必要だろう。
「……ディーオ、魔導戦艦の乗組員と各種武装、それと魔導機と物資の搬入の状況はどの程度進んでいる?」
「うむ、これから演習の予定だったからの。パスカルを中心とした乗組員は揃っておるはずだの。武装や魔導機に関しては整備班とセイヤに任せておる……で、よかったかの?」
「はいディーオ様、本日はレオン様を交えての実践に近い演習を予定しておりましたので皆揃っているはずです。ですが、物資は現在も最低限ものしか積まれていないかと」
「魔導機に関しては後はオレの武装を積み込みで最後だ。武装もすべて最終チェックまで終わっているはずだったな、ミーコ」
「みなと……がんばた……です」
となると、魔導戦艦の万全な発進にはすでに九割近くまで揃っているということだ。
搬入を終えていない物資は緊急時のための予備物資や支援物資がほとんどだったはず。別になくとも英雄メンバーを乗せ飛ぶだけなら問題はないが……。
「急いで物資を詰め込んで、いつでも発進できるよう準備を進めてくれ」
ここですぐに飛び出すのは簡単だ。しかしこちらが焦れば焦るほど何かよくないことが起きるような気がしてならない。
私には終極神の考えが読めるわけではない。たとえ事象を先読みできたとしても、この世界に悪意をもたらす方法は産み落とされた事象ごとに変わるだろう。
今この瞬間も、私は見えない何かと戦っているような不気味な感覚が拭えない。
これは以前にも……そう、私が転生してからこの世界に再び降り立ち、そこから冒険の中で感じていたものと似ている。
「物資の搬入にはオレ達とドワーフ族の面々で迅速に行おう」
「オッケー星夜! それじゃあ早速皆に伝えてくるねー!」
言うが早いか空へと飛んでいくフローラとそれを追うように自分の武装を抱えて魔導戦艦へと向かう星夜とミーコ。
あいつらに任せておけば問題ないだろう。あとは……。
「よし、では余らも魔導戦艦に向かいパスカルらと共に発進準備を整えるぞ! レオン、エリーゼ、シリカよ、お主らも早く準備するのだ!」
「まったく、そんなにうるさく言われずともこちらの準備は万端ですわ。ほら、行きますわよレオン」
「うん……っとと!? あ、あれ、まだちょっと腕の調子が」
「大丈夫ですかレオンさん? まだ新しい義手に付け替えたばかりなんですからあんまり無茶はしないでくださいね」
エリーゼとシリカは魔導戦艦のメインクルーでもある。飛空艇として運用する際の中核となるレオンと近しい間柄であると同時に、多くの魔導兵器を搭載するあの戦艦に優秀な魔術の専門家との連携は重要となるはずだからな。
それに、この人選には他にも意味がある。
「ほれほれもたもたするでない。余らの働きが世界の明暗を分け……」
「へ、陛下! 大変です!」
「ぬおおっ!? なんだお主! っと思えば伝令係の衛兵ではないか。そんなに慌ててどうしたのだ」
以前にドラゴスが現れた時のように、緊急事態に衛兵が詰めかけてくるのはそう珍しいことではない。
だが今回ばかりはいつもと違いただならない様子。何か、良からぬことが起きたとみていいだろう。
「報告します……つい先ほど現在この都市を謎の黒い影のような化け物が突如囲むように出現し、攻撃を開始しました。現在は戦討ギルドマスターのヒンドルトン氏を中心に衛兵と魔導機兵が対応に向かっておりますが……敵の数が多く防衛線が破られかけています」
「ちょちょちょ……ちょっと待つのだ!? お主は今「つい先ほど」と言ったのにもう防衛線が破られようとしておるのか!?」
「申し訳ございません! ですが本当に、前触れもなく尋常ではない数の化け物が現れたため対応できず……」
「ちっ、こいつは思ったよりやべぇ状態みてーだな。これも敵の襲撃ってことは、俺らの出番ってこった」
「よし、ならば我もいこう! 盟友達よ、我らが対応している内に発進の準備を進めるのだ」
「駄目だ。カロフ、アポロ……いや、英雄メンバーの誰もその"影"と戦うのはやめた方がいい」
確かに突然の襲撃、それも私が終極神の事象を感じ取ってすぐというこの状況を考えれば誰もが終極神の襲撃だと考えるだろう。
終極神の事象には神器を持つ者が対応しなければならない。私達はそれを前提に動くことを想定して作戦を考えていた。
……だが、そんなことは終極神側も理解してないはずがない。
「これは罠だ。神器の所有者を少しでも消耗させるためのな。それに、私が感知した終極神の生み出した三つの事象は未だ場所を変えずその場に留まっている」
その位置はここではない。どこも私達がすぐに向かえないような場所でそれぞれの活動を感じられる。
「それじゃあ……この襲撃は終極神とは無関係ってこと!? それにしてはタイミング良すぎでしょ!」
「いや、これも終極神側の攻撃であることに変わりはない。おそらく三つの事象の内どれかが仕込んだいやらしい作戦だろうけどな」
私が集中して探っていたのは終極神の生み出した事象がいつ、どこで覚醒し、どのような性質をもつかという部分がほとんどだ。
それらが細かくどんな動きをしていたかなどを把握できるわけじゃないってのが欠点なんだよな。
「だからここは……」
「我と」
「あたしの出番ね」
私の考えを察してくれたのか名乗りを上げるドラゴスとファラ。こういう時、本当に頼りになるよ、我が旧友達は。
「よしドラゴス、まずは周囲の状況確認と敵の詳細を私達にもわかるように視界を共有してくれ」
「ここにいる者全員に、でいいな。『視覚連結(リンクアイズ)』! さぁ、飛ぶぞ!」
ドラゴスの合図と同時にその視覚がここにいる全員に共有される。そうして上空から都市の外壁をぐるりと見渡すと、そこでは広範囲にわたってヴォリンレクスの兵と謎の怪物の攻防が目に入ってくる。
「なんだいあの黒いのは? 本当によくわからない生き物じゃないか?」
「そもそも生き物……なんでしょうか。魔物ともどこか違う雰囲気を感じます」
その姿は一言では形容できないもので、真っ黒い塊が地面を這っているように動いているが、動きを見れば自立しているようにも見える。ズルズルと動くその身体は外皮のようなものがボロボロと細かい粒子のように崩れては消えていく。胴体……かどうかはわからないが、体の中心当たりから伸びる二本の腕のような触手、その先にそれぞれ剣や槍のような造形のこれまた黒い塊を持ち、兵士を追い詰めている。
「インフィニティ、あれは……」
「ああ、いうなれば魔物の出来損ないだな。実態を得られず魔力だけでそこに留まってる」
「待ってください、そんなことが可能なんですか? 私もオルちゃんの制作に協力した時に人工魔物については学びましたけど、実体となる"外殻"がなければ魔物となるはずだった魔力は霧散して消えてしまうはずです」
シリカの言う通りだ。私も前世で魔物の研究をした際に、魔物の核となる魔力を形を定められた魔力の皮膚や肉体という"外殻"が必要となる。
だが、あの黒い影には一切そのようなものが見受けられない。普通ならあの魔力は形を保てないはずだが……。
「……インくん、気づいた?」
「ああ、敵はとんでもないことをしてくれたみたいだな」
仲間達が困惑する中、私とファラだけはその答えにたどり着く。
この黒い魔物の出来損ないが生まれる理由……それは。
「終極神が支配してる事象力を膜として、世界全体を包んだ"外殻"にしやがったな」
まさか事象力をそう使ってくるとは思ってもみなかった。これは言わば、世界神が生命を産みだすのと同じことだ。
しかしあの姿を見る限り、与える事象力の少なさと自然発生にこの世界のマナを媒介にしているせいであのような出来損ないになってしまったんだろう。
「でもムゲン君、そんなことができるなら最初から都市の中や、それこそ私達のいるここに直接発生させるべきだと思うんだけど。敵はどうしてしてこないの」
「したくてもできないんだ。人の集まる場所というのは事象力が溜まっている力場となり、他の事象力の介入が難しくなる」
それこそ世界すべての事象の権限を持つアレイストゥリムスか、すべてを支配し終えた終極神にしかできない芸当だ。
だから黒い影は都市の外でしか発生していない。
「敵の正体は掴めた。いくぞファラ!」
「それじゃ、久しぶりに大暴れしちゃいましょうか」
そうしてかつての仲間二人が昔のように肩を並べ、少々なつかしさを感じているとドラゴスが振り返り。
「インフィニティよ、この地は我らに任せ飛び立つといい。必ず守ってみせよう」
「ああ、任せたぜ親友」
「カロフよ、我との修練の日々によりお前は己にしかない唯一の剣を身に着けた。今のお前に切れぬものはない。それを忘れるな」
「へっ、そいつはこれからの戦いで証明してやるよ。師匠も油断しておっ死ぬんじゃねえぞ」
「ふん、言ってくれる。それと……」
「あーもう話が長い! 年取ってそういうところもおじさん臭くならなくてもいいでしょ! ほらいくわよ! インくん、フローラによろしく言っといてねー」
「あ、待てファラ!」
まったくこんな非常事態だというのに本当に昔からこういうところは変わらない。
さぁ、あいつらにも任されてしまったということで、私達もやるべきことをやろう。
「よし! 皆、『魔導戦艦セブンスホープ』に乗り込むぞ!」
そうして私達が魔導戦艦に乗り込むと、どうやら内部でもてんやわんやしているようで。
「パスカル! 発進準備はどうなっておる!」
「陛下、発進準備はほぼ完了しております。ですが……各国との連携のために設置されていた通信石より多くの救援要請が飛び交っております!」
「なぬっ!? どういうことなのだ!?」
見れば乗組員の多くが通信石によって連絡を取り合っている姿が見受けられる。
その理由というのが……。
「世界全土にて黒い影のような化け物に襲われる被害が相次ぎ、自国の戦力で対処できている国もあれば防戦一方で救援を待つ国も少なくありません!」
やはりこうなったか。この騒動を引き起こした主犯はこうして世界全土に私達の手が必要な状況を作り出し、混乱と消耗に追い込むことだ。
その間に自分達は着実に成長を遂げ、世界を終わらせる……実に理にかなっている。
……だが、私達だって決して何の準備もしてこなかったわけではない。
「パスカルさん、今すぐ救援が必要な国は何か所かわかりますか!」
「三国ですね。我が帝国の魔導機を投入していない国はすでにギリギリのようです」
「よし! ならその三国への救援に向かいつつ一国ごとに魔導機を十機ずつ投下! その途中、英雄メンバーには終極神の産み落とした事象へ向けて飛んでもらう!」
皆の顔つきが変わる。これから本当の戦いが始まるのだと、誰もがそう実感している。
「限、魔導機は三十機すべて正常に動作を確認、支援物資も十分だ。救援の準備は完璧だ」
「ねぇねぇゲンちゃん! さっきパパとママが飛んでいくのが見えたんだけど、どこ行っちゃったの!?」
「ああ、二人はここを守るために飛んで行った。お前にもよろしくって言ってたよ」
「もー! それなら直接言ってくれればよかったのにー!」
まったく、皆が緊張ムードだというのになんだか一気に和らいでしまったな。
まぁそれもいいか……なんというか、私達といえばこんな空気もありって気がしてくる。ああ、絶望なんて、軽くぶっ飛ばしてやるくらいの気持ちでいかないとな!
「うむ! 全員配置に着くのだ! レオン、テルスマグニアを定位置に頼むぞ!」
「了解です! テルスマグニア……セット!」
ディーオの座る艦長席の背後にレオンの腕から飛び出したテルスマグニアが巨大な球体となって収まり、その力が魔導戦艦全体に広がっていく。
それと同時に搭乗員としてエリーゼとシリカがオペレーター席へと着く。席のない者はそれぞれ立ち位置を決め、その時を待つ。
「魔導システム、すべて正常。いつでもいけますわ」
「それでは外の整備班の皆さん、倉庫の上部ハッチを開けてください」
シリカの合図と共にゆっくりと倉庫の天井が開いていき、光が差し込む。
そして天井が開ききると同時にそこからゆっくり、ゆっくりと魔導戦艦が真っ直ぐ上空へ浮かび上がり……。
「いくぞ! ここから私達と終極神との最後の戦いが始まる! 『魔導戦艦セブンスホープ』発進!」
フィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!
巨大魔導エンジンの駆動音と、テルスマグニアの重力エネルギーが重なり、その瞬間機体全体が輝きに包まれる。
そして……
……ゴゥン!
それは空の彼方へと飛び立っていく。私達、七人の英雄を乗せて、世界の救済という希望に向かって。
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