288話 すべての準備は整った!


「えー、本日は皆よく集まってくれた。世界情勢が目まぐるしく変化する中忙しい者も多いだろうに」


 アポロ達とエンパイアを回収してから後日、私はヴォリンレクスのいつもの庭園で英雄メンバーと、それを支援してくれる協力者と共に話し合いの場を設けていた。

 話の内容はもちろん差し迫りつつまるこれからの終極神との戦いに関してだ。


「さて、もう皆知っての通りだが……アポロのエンパイアを最後にすべての神器がここに集まった」


 カロフのリ・ヴァルク、レイのアーリュスワイズ、レオンのテルスマグニア、星夜のムルムスルング、アポロのエンパイア、ディーオのステュルヴァノフ、そして……私のケルケイオンの計七つの神器がそれぞれの英雄メンバーの手に渡り、その力も遺憾なく発揮し始めている。


「そんで? 俺達全員をこうして集めたっつーことは、教えてくれんだろ……いつ、どこで終極神とやらと戦う時がくるのかってのをよ」


 そのカロフの言葉に場の空気が緊張に包まれる。当然だ、世界の命運を決める戦い、しかもそれが自分達の手で行われる日取りの公表ともなれば気負うなと言う方が無理な話だ。

 だが……。


「すまーん、別に詳しい日取りとかどこに現れるかなんかは実はわからないんだ」


 ズコー という祇園が聞こえてきそうな空気と共に数名がずっこける。ずっこけなかった数名は呆れた表情でこちらを見つめているが……まぁこれで少しは場の空気も軽くなっただろ。


「ちょっとムゲン! あんた天空神のとこでノゾムの“希望”が飛んで行った時に、終極神の潜んでいる事象は観測したとか言ってなかった!?」


「ああ、事象の形と数、それらが強まる時期なんかも大体把握はできた。ただ……相手もいつどこで、なんてピンポイントに悟られるようなマヌケじゃないってことだよ」


 できることなら、私だって終極神が仕掛けてくるところへ出待ちして一網打尽にしたかったさ。

 というよりも、もはやその時期は過ぎ去ってしまった可能性が高い。


「つまりだ、限……敵の襲撃は突然現れるのではなく、これまで現れた三つの体現者のように大きく動くまでわからない、ということか」


「さっすが星夜、その認識で近いと私も思ってる。敵はすでに潜んでいるかもってことさ」


 実際、アレイストゥリムスもベルゼブルやマステリオンが大きく動くまでその存在を把握できていなかった。だが、今回終極神は短い期間で急速に潜ませた事象力を成長させなくてはならないため、その事象の片鱗を私に悟らせる結果となったのが今の状況だ。

 もしかしたらすでにどこかしらで被害は起きているかもしれない……だがそれでも、今この瞬間にどうにかできる術がないのが歯がゆいところでもある。


「だから私達がやれることは、強まった事象力の反応を察知したら速攻でその場所に向かう。これが精一杯の対処法だ」


 これだけ聞くと、結局相手の出方を見てから対処する形になるので私が終極神の潜む事象を観測した意味がないのではと思われがちだがそれは違う。

 ここまでわかっているからこそ、たとえとの時がやってこようと慌てることなく戦いに望むことができる。


「でもムゲン君、敵が現れる場所がわからないとどれだけ正確なタイミングを把握してても向かうのに時間がかかっちゃうんじゃないの?」


「あ! じゃあ師匠の作った転移装置を使えばいいんじゃないですか、魔導師ギルドの研究室にある」


「ああ、あれかい。アタシ達を第六大陸まで飛ばしたやつだね」


「んー……一人二人ならそれでも構わないんだが……。あれにもいろいろと面倒な制限があるしなぁ」


 今話しに出てきた魔導ゲートだが、確かにあれを使えば対象者の魔力が強く残っている地に飛ぶことは可能だ。

 だが便利ゆえに問題点も多い。一度に飛べるのは大体三人程度だし、ゲートをキチンと通り抜けるには座標設定に使用した最初に潜り抜ける人物にあとの人間が魔力の波長を合わせなければならない(以前はサティに私とレイが合わせたので問題なかった)ので通れない者の方が多いだろう。

 なにより一番の問題は……あのゲートにはコアに小さな反魔力物質(アンチマジックマテリアル)を使用しているところだ。あれを完璧に調整できるのが私しかいないうえに、一度転移に使うとあの石は輝きを失い復活するまでにランダムな時間経過が必要になってしまう。

 あれなしで無理にゲートを使おうとすると座標設定に誤差が生じ、最悪地面や石の中に閉じ込められてしまうという可能性があり、最悪ゲートの方も壊れて使い物にならなくなる。


「なら別の方法を使わなければならないということですの?」


「ふん、なら方法は一つしかないな。俺のアーリュスワイズの転移能力で全員その場所へ飛ばせばいい」


 確かにアーリュスワイズの力ならば魔導ゲートと同じように自身と対象をイメージした場所へと飛ばすことは可能だが……。


「その方法は却下だ。アーリュスワイズの転移にはレイ自身の魔力と体力を大きく消耗する。それをメンバー全員分引き受けるなんてことしてみろ、戦う前に即一人脱落だぞ」


「くっ、確かに……そうだが。それでも全員を即座に戦場に送ることができれば有利を取れるんじゃないのか?」


「いいや、神器の所有者が一人でも万全の状態で戦いに参加できなければ終極神の事象を止めることはできない。今回はそういう戦いなんだ」


 私も終極神の事象を観測する前は神器のどれかをサポートとして置いておくのはありだと考えていた。

 ……だが、あれを見た後ではダメだ。戦いに神器が一つでも欠ければその隙から一気に崩され、世界の事象は瞬く間に破壊されていくだろう。


「うむ! なればここは我の出番であろう! 皆を背に乗せ、即座に戦地へと飛んでいこうではないか!」


「あんま勢いでアホな提案しないで。アポロが背中に乗せられる人数なんてせいぜい数人だけでしょ。ここにいる人数見てみなさいよ」


「そ、それなら何度か往復すれば……」


「残念だがそれも却下させてもらう。そんなことをすればアポロも飛行で体力を消耗するだろうし、それに……特定の戦場に適切な英雄メンバー以外が近づくのは危険だ」


「危険って……すぐやられるってこと?」


「流石にそこまでじゃないだろうが……戦いに巻き込まれて抜け出せなくなる可能性は高い」


 今回の戦いにおいて英雄メンバーがそれぞれどの戦場に着くかというのはとても重要な問題となってくる。

 この戦いに勝利するためには、英雄メンバーそれぞれが万全の状態で定められた戦場へ赴かなければいけない。


「そういうことなら~……パパの出番だね! パパは今は神器っていうのも持ってないし、いろんな人を乗せていろんなとこへバビューンって飛んでっちゃえばいいんだよ! ね、パパ!」


「う……む……我としてはあまり表舞台に関わり合いたくはないのだが……フローラの頼みとあればまぁ仕方ないと言えなくもない」


「こら、これからはあたし達もちゃんとインくんに協力するって言ったでしょ。というわけでインくん、バンバンこき使ってやってね」


「むぐ……ファラ、すでに神器は小僧どもに継承されたのだから我々がでしゃばる必要は……」


「いいじゃないそれくらい。むしろ先輩としてしっかり威厳を示す方があたし達の役割だと思うけど」


 とまぁ相変わらず夫婦でわちゃこらしてる我が旧友達だが。


「ドラゴスに乗るのも……あんまりいい手じゃないんだよなぁ」


「えーなんでゲンちゃん! パパのこと信用してないのー?」


「インフィニティよ、そういうことなら我も黙ってはいないぞ。かつての相棒の頼もしさを思い出させてやろうじゃないか」


「いやいや、誰もそんなこと言ってないっての。お前を移動手段として活用できないのは別の理由があるからだ」


 あとお前の乗り心地はあんまよくないってのもあるが……それを言うとまた口論になるから言わないでおこう。


「まずドラゴス一人に任せるとアポロと同じように乗せられる人数に限界があるせいで往復する羽目になる、そこまで悠長にしてる時間はない。それともう一つ、これはファラにも一緒に頼みたいことだ」


「それってつまり、あたしとドラゴスには英雄の皆とは別にやってほしいことがあるってこと?」


「そうだ、お前達二人にはここ……ヴォリンレクスの防衛を任せたい」


「ちょちょちょ! ちょっと待つのだムゲン!?」


 防衛という言葉を聞いていち早く反応したのはディーオだ。自分の国のことなのだから当然と言えば当然だな。


「ここを守るということは、その、そうだの……」


「この都市が戦場になる可能性がある、ということでしょうか? ですがそれなら、敵の対処は英雄の皆さんが対応するのではありませんか?」


 確かにサロマの言うように『終極神が遣わした敵は英雄メンバーが対処する』のは私も最初に説明した通りだ。

 だが……。


「確かに終極神が仕掛けた事象力には英雄メンバーを直接ぶつけるのは変わらない。しかし、そこから生じる副次的な被害は英雄以外で対処しなければならない」


「は? んだよそりゃ! 敵の代表と俺らとでぶつかり合って、それでこっちが勝ちゃいいんじゃねぇのかよ! 関係ない周りの奴らまで巻き込むってのか!」


「ふっ、相変わらず考えの足りない単細胞だな」


「んだとレイ、テメェ」


「相手がルールにのっとったフェアプレイで相手してくれるとでも思ったか? 一度終極神と直接相対したことのある俺ならわかる。あれはこちらのことなど気にせずただ目的を遂行することしか考えていない。これから俺達が戦わなければならないのはそういう相手だ、覚えておけ」


「……チッ、わあったよ、今回ばかりはおめぇが正しい。けっ、でも気に食わねぇぜ」


「悪いねカロフ、レイの言い方はキツイけどさ、アタシも……あれに対して今までの常識で立ち向かっちゃいけない相手だと思うよ」


 やはり終極神と直接前にした二人はその辺をわきまえている。

 終極神の真の目的はこちらの事象力を削ることにある。別に送った事象力の本体だけを抑えればいいという問題でもない。

 そう、今回終極神は先の流れに事象力を送りはしたが、それだけですべてを終わらせるつもりはないはずだ。

 それに奴には……こちらの世界の事象力を削るのと同じくらい重要なことがある。


「ヴォリンレクスの防衛にはさらに重要な意味がある。その日が近づき次第、アリスティウスやケント達をここへ集める予定だからな」


「あれ、その人達って確か……」


「わたしやセフィラの……大罪と美徳を宿した方々ですね」


 セフィラとクリファの“女神”の力、それは終極神がこの世界に落とした微かな事象力だ。

 だがこの微かな事象力がわずかでも終極神の力を削るのであれば、それは何としても守らなければならない。なにより彼らの命のためにも。


「ここが襲撃される可能性も考えて同時にあいつらも守る。これはドラゴスとファラにしか頼めない重要なことだ」


 この大役を任せられるのは私がその力に最も高い信頼を置くこの二人しかあり得ない。


「そういうことならば、引き受けよう」


「任せてインくん、ここはあたし達がしっかり守ってるから」


 とりあえず、これでヴォリンレクスの守りは安心できる布陣になったといっていいいだろう。


「あの、被害の拡大やこの都市の防衛に関しては納得しましたけど……結局最初の問題が解決してないんじゃないでしょうか?」


 シリカの言葉に一同『そういえば』という反応の表情。

 そうだな、確かに終極神の事象力から副次的な被害の危険と防衛の重要性は皆に納得してもらえたが、今回の議題においてもともとの問題点はそこではない。

 一番重要なのは英雄メンバーの移動方法だ。


「だよな、結局どうすっか考えんのも振出しじゃねえか」


「いや? 移動方法の問題ならすでに私は解決策を用意してるぞ? とびっきりの"秘策"があるんだ」


「は? ……っておい! んじゃなんで最初っからそれを言わねえんだよ!」


「お前らが勝手にあーだこーだ始めただけだろ」


 まぁ途中で話が別方向に逸れたのでついでに重要なこともいくつか説明させてもらったわけだが。


「ですがムゲンさん。先ほどのあなたの話、英雄メンバー以外の副次的被害……それはおそらくこの国だけの問題ではありませんわよね? もちろんわたくし達の移動も重要ですが、そちらの対処は疎かになりませんの?」


「エリーゼ様、そのために以前の世界会議において各国にヴォリンレクスの戦力の駐屯や魔導機の導入、そしてギルド同盟の存在を大々的に示したのです」


「そっか、今は多くの国がヴォリンレクスの魔導機を導入してるし、防衛力はかなり増強されてるんだよね。でも……それでもやっぱり私達の助けが必要な国も出てくるかもしれない」


 魔導師ギルドのあるブルーメなんかはリオウが守っているから問題はないだろうが、やはり戦力不足の国などは存在する。もし敵が広範囲に被害を及ぼすやり方を選んだ場合、少人数での対処は厳しい。


「だからこそ、それをカバーできるのが私の秘策にも繋がってるのさ。というわけで早速お披露目だ! 皆、倉庫へ向かうぞ!」


「倉庫? ……そういうことか。わかったぞ限、お前がオレ達にあんなものを作らせていたわけが」


「なぬっ!? セイヤはムゲンの言う秘策とやらを知っておるのか!」


「いやディーオ……ドワーフ族達に作ってもらいたいものがあるから巨大倉庫をまるまる使わしてくれって了解取ったろ」


「ぬ? そうだったかの?」


 まったくこのアホ皇帝サマは……。まぁいい、ともかく倉庫へ向かえば全部わかることだ。

 そんなわけで早速レッツラゴー!




 その倉庫はこのヴォリンレクス城の中でも最大のもので、日本で言えばとても大きな体育館ってな具合の広さだ。


「ああ、この倉庫は前に皇子さん達といろいろやった場所じゃねーか」


「そうですわね。もう随分と昔のことに感じてしまいますわね」


 そういやあの時ディーオやカロフ達と一緒にルディオの悪事を暴いたのもここだったか。……覚えてない読者は6章を復習だ!

 ちなみにあの男は私の前世の弟子でもあるサイモンの子孫だったので、ドラゴス達にもことの顛末を語ったのだが、聞いた後二人とも呆れていたな。


 さて、そんなことよりついにお披露目の時がやって来た!


ゴゴゴゴゴゴゴ……


 倉庫の扉が重苦しい音と共に開くと、そこには何人ものドワーフ族が作業を進めており、その中にあるものの製造の最終調整を行っていた。

 そのあるものとは……。


「おいおいおい、なんだよこりゃ」

「凄い……大きい」

「こりゃたまげたね」

「なにーっ!? この倉庫でこんなものを作っておったのかーっ!」


 驚き方は三者三葉だが、誰もが首を上げその物体を見上げている。龍族であるアポロやドラゴスも例外ではない。それだけで、目の前の物体がどれだけ巨大かがわかる。


「これが私の秘策! その名も……『魔導戦艦セブンスホープ』だ!」


 と、私がババーンとキメたのはいいが、まだ皆その壮大さに驚いて声も出せない様子。

 "魔導戦艦"の名の通り、これは魔力で動く巨大な移動戦艦だ。これの製造には基本的にはドワーフ族の技術を活用したものだがそれだけではない。


「ムゲン様、まさかこれは……」


「ああ、以前ダンタリオンが使用していた『魔導要塞』の技術も追うようしている」


 やはりサロマにはわかるようだな。あれのコアとしての役割を担っていただけあって流石に気づくか。

 だがこれにはそんな非人道的な技術は用いていない。あくまでドワーフ族の技術力で応用できる範囲で涵養させてもらっただけだ。


「オレとミーコはこちらに合流した当初からこのチームに参加させてもらっていた。限が極秘だと言っていたから誰にも話してはいなかったがな」


「皆で……がんばた! ……です」


 レイが星夜を連れてきてくれる前も密かに製造は進めていたが、星夜が合流したことで製造が難しかった細かいパーツの増産スピードが格段にアップし、本日こうして穂披露目できるまで仕上がったというわけだ。


 さて、そろそろ皆も驚きから興味に変わっていろいろ質問したくなってきた頃合いだろう。


「これ……動力はどうなってるの?」


「複数の大型魔導エンジンを並列で繋ぎ、発生させた移動力で進む構造になっている」


「前にでっけー棘みたいのが二つくっついてるけどよ、あれなんだ? ぶっ指して攻撃でもすんのか?」


「あれはカタパルトだ。中心が開いてそこから魔導機が発進するって仕組み。ま、実はちょっとした秘密兵器も搭載してるけどな」


「あそこ! あのてっぺんのガラス張りの部分はなんなのだーっ!」


「あそこはブリッジ。基本的な操縦とかはあそこでやる」


 こんな感じで皆からわらわら説明を求められているので、ここで要点だけ説明しておこう。

 まずは収容人数だが、まぁ100人は余裕で入る。下の方は格納庫になっていて、ヴォリンレクス製の魔導機が約20体格納可能だ。

 先ほど説明したブリッジに加え作戦室や食堂、そのまま暮らせるスペースなんかもある、快適……とまではいかないけどな。

 そして武装として魔導砲や爆雷、薄いバリアだが[wall]を簡略化した防御システムも組み込んである。そして、とっておきの秘密兵器も一つだけあるんだが……これはその時までのお楽しみだ。


「どうだ! これが私の"秘策"だ! お前ら驚いただろう!」


「凄いじゃないムゲン! それでそれで、これって今積んである動力でどのぐらい早く飛んでいけるの?」


「そうだな~……地上から1メートル弱くらい浮いて、馬車よりちょっと早い程度じゃね?」


 ……という私の答えに、再び場が静まってしまう。


「ちょっとムゲンさん、あなたこれが"秘策"といいましたわよね。なのにその程度の速さしか出せないのはどういうことですの!」


「そうだそうだー! パパに乗るよりいいものって言ったのにー! そのくらい浮くだけならあたしだってできるよ! ほら!」


 いやフローラ自身が飛ぶのとこの質量を飛ばすのとじゃわけが違うんだって。

 それに皆勘違いしている。私はあくまで『今積まれている動力』でどれだけのことができるかを答えただけだ。


 そう、この魔導戦艦は今のままではただ安全に地上を進む大きな船でしかない。


「それは動力が通常のものである場合だ。これを『飛空艇』として扱うには特別な動力を使うしかないが……今回の神器捜索でそれもクリアした」


「……あれ? 待ってください師匠、それってもしかして……」


 レオンの今思ってることが正解だ。私達は今回の一件でこの巨大な戦艦どころか島一つを浮かしている力を目の当たりにしている。


「これをテルスマグニアで飛ばそうってことですか!?」


「その通り! テルスマグニアの力をフルに活用すれば空を高速で移動する、まさに『飛空艇』が完成する!」


「いやいやいやちょっと待ってくださいよ師匠! そんなことしたら戦場に着く前に僕の魔力が尽きちゃいますよ!」


 それはつまり、先ほど私の語った『英雄メンバー全員が万全の状態で戦いに望む』という条件から外れてしまうということだ。

 だが安心してほしい、私はそんなへまをするような男じゃない。


「その問題もすでに解決済みだ! 皆ブリッジに上がってくれ!」


 というわけで皆でセブンスホープの中へと初搭乗|(ドラゴスは人化したがらないので外で待ってる)。

 ブリッジの中には180度周囲を見渡せるようガラス張りで、その前に並ぶようにオペレーター席が用意されている。

 中心にも司令塔用の席がいくつか用意されており、中でも中心にある一番高い席はその存在感を主張するかのように置かれている。


「さぁディーオ、この席に座るのはお前だ」


「おおーっ! こんな特等席を用意してくれるとはなかなか粋なことをしてくれるのう。やはり余は皇帝だからの、こうして中心に座るのは当ぜ……ん? なんかおかしいのう?」


 はい、ディーオが違和感を感じたところで座席の後ろで操作して……出てきたのは少々大きめの丸い台座。


「ここにテルスマグニアを設置すると魔導戦艦からそのエネルギーを供給するようになる。んでもってディーオがそこに座ってると魔力を吸い上げてテルスマグニア用の魔力として扱ってくれる仕組みとなっておりまーす」


「のわーっ!? これ余の魔力が吸われておるのかーっ!」


 ディーオからエネルギーを供給してレオンがそれを動かす! これなら消費もないし皆や魔導機の戦力を乗せたまま様々な場所へ移動可能だ!

 なのでその席は永遠にディーオ専用です。スマンな、私は使えるものはできるだけ活用する主義なんだ。


「なるほど、これならエネルギー源に問題はないな」


「我もここから戦地へ飛び立てば余力を残したまま戦いに望むことができるというわけだな」


「ぬおーっ! お主ら余の扱いをさも当然のように話を進めるでないーっ!」


「陛下……ごめんなさい。僕もその時は一緒に頑張りますから」


 これでそれぞれの神器、終極神が仕込んだ事象のタイミング、その時の対処、すべてが整った。

 だが油断はできない……もしかしたら終極神はまだ私達の想像もつかない手を隠している可能性もある。だが、私達ならきっと乗り越えられるさ。


 だから、それまでは穏やかな時間を過ごそう。その時が訪れるまで……。


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