267話 世界の存在意義


 決着はついた。神器の粒子をすべて吸収された使徒は膝をつき、消えてなくなるかのように少しずつ体がボロボロに崩れ消滅していく。

 だが未だ白い世界に変化が訪れる様子はない。まだ、フローラの下へ続く道は……開かれていない。


「フローラはどこにいる」


「――……」


 ダメ元で使徒に問いかけるが、やはり最後まで何も答えず消滅してしまう。

 もともと話が通じない相手なので期待はしていなかったが、これで一つハッキリしたことがある。


「やはり使徒とオレ達をここへ引きずり込んだ存在は別のようだ。ただの手先……もしくは遠隔操作だった可能性もあるな」


「どゆこと……です?」


「使徒を打ち破ったというのにオレ達は未だここに閉じ込められている状態なのは、この状態を維持している存在がどこかにいるということだ」


 おそらく、そこにフローラもいるはず。

 使徒のような存在が再び襲ってこないのはそれを実行する余裕がもうないからか、それではオレ達には勝てないと諦めたか。

 どちらにせよこの世界から抜け出す方法を見つけられなければ一生ここに閉じ込められたままだ。


 どうすればいい、何か方法は……。


「せや……さま!?」


「ん? どうしたミー……」


ボゥン!


 なにやらミーコが慌てた様子でオレを呼ぶので意識をそちらに向けると、小さな破裂音と共に少しづつ破裂していくシューティングブレイザーがそこにあった。


「メンテ……しよとしたら……ボンて」


 メンテナンス作業を行おうとしたところ破裂して尻もちをついてしまったといったところか。どうやら怪我はないようでよかった。

 しかしなぜこんな状態に……破損はしていたが機体が破裂するほどの損傷はなかったはずだ。


「多分……エネルギ……耐えらなです」


「そうか、魔導エンジンから漏れ出る神器のエネルギーのせいだな」


 粒子はすべて閉じ込めたが、循環が間に合わず膨大なエネルギーが車体に流れてしまい、耐えきれずに破損し続けているんだろう。

 ……膨大なエネルギーか。


「すぐ……取り外しま……」


「いや、待てミーコ。まだ外さなくていい。もしかしたら、これが突破口に繋がるかもしれない」


 この神器の強大なエネルギーは世界樹の内と外の境界を超えるほどの力を秘めている。それを利用できればオレとミーコの世界のように壁を破りフローラの下へたどり着けるかもしれない。

 だがそれだけで道が切り開けるかは未知数だ。何か、もう一押し助力が欲しいところだが……。


「スターブレイクパイル……こいつを使ってみるか」


 使徒から切り離しオレが再構築したこの武器はその本体が消えた今でも消えずに残っている。

 いや、使徒を本体というのは少々誤認があるかもしれない。消えた使徒もこの世界樹の根幹に潜む存在に操られていただけであり、この世界に閉じ込める"壁"を作り出しているのもそいつだ。


 だからこそ、もとをたどれば同じ力であるスターブレイクパイルなら壁を壊すことができる可能性がある。


「『鋳造(キャスト)』……ミーコ、こいつを車体の先端に取り付けてくれ」


「りょかい……です」


 再び美徳の力を使いその形を作り替え、今度は車体の先端を覆うよう末尾を広げ、先端は鋭さを残した角錐状に変換した。


「おわ……ました」


「よし、乗り込むぞ。そう長くはもたないだろうからな……」


 先ほどの戦いで破損したシューティングブレイザーが神器の力にあとどれだけ耐えられるかわからない。

 おそらく一発勝負……これが失敗すればまたフローラへの道は遠のくだろう。


「さぁいくぞ! エンジン起動!」

――――ギュィィィイイイン!


 魔導エンジンがかつてないほど強烈なうねりをあげている。車体からもそのエネルギーが漏れ出すかのように淡い薄桃色の微粒子が噴き出ている。

 そして肝心のスピードは……。


「はや……すぎ!」


「予想以上のスピードだ!」


 車体が耐えられるか以前にオレ達が飛ばされそうなほどの空気抵抗が押し寄せる。

 もはや何キロ出ているかもわからないが、無限に続くこの真っ白な世界の果てにまでたどり着けるかと錯覚させられるほどの疾走感はオレ達に希望を与えていた。


 先端に取り付けられたスターブレイクパイルがすでに空気以外の何かにぶつかるような抵抗を受け、それを突き破ろうとギシギシ音を立てながら削れていく。


(さながらオレ達は燃え尽きながら大地へと向かう流星か)


 だが、オレ達は完全に燃え尽きるわけにはいかない。

 もし無数に光る星々に意思があるのなら、流れ落ちるその先に何かを求めていたとしたら、それはきっとオレ達のように大切な何かを求めていたに違いない。あるいは、誰かの願いを乗せてたどり着く場所を求めたか。


 だからこそ……。


「オレ達が求めるものへ、たどり着くべき場所へ……突き進め!」



イイイィィィィィ     ――――


 その瞬間、音を超え光を超え、すべての速度を置き去りにするスピードの向こう側へとオレ達の体と意識を連れて突き抜けた。


――――    ィィィィイイイン!



 同時に何かを突き破るような感覚を覚え、気づけばスターブレイクパイル含めシューティングブレイザーのほとんどが走行不能なほど破損し、地面に設置するのと同時に前輪を支えるパーツが弾け飛ぶ。


 もう走行することはできない。だがそのおかげでついに、オレ達は求めていた場所へたどり着くことができた。

 そこは暖かな陽光が差し込む自然あふれる世界。その中心であろう円形の草木のじゅうたんの上に……。


「あ! 星夜やっときたー! も~遅いよ~、どこで油売ってたのー」


「――……」


 こちらの気も知らずいつもの調子でこちらに文句を告げるフローラと……小さな卵状の膜の中でガクガクと震えながら手のようなもので頭を隠し伏せる謎の生物の姿が、そこにあった。




「まったくもう、あたしはずっと待ってたのにいつまで経っても来てくれないんだもん。ちょっと心配しちゃったよ」


 むしろ心配していたのはこちらなのだが、体の節々に怪我を負いさらにはボロボロのシューティングブレイザーでやってきたオレでは説得力がないか。


「だがその心配も"ちょっと"だけなんだな」


「うん、だってあたし星夜もミーコちゃんも信じてたから」


 ならオレ達は無事その期待に応えられたということだ。必死に戦ったかいがあったようだ。

 ミーコもフローラの言葉に嬉しそうな表情を浮かべ満足気だ。ようやく、駆けていたピースが埋まりいつものオレ達に戻ることができたな。


「さて、再会を喜ぶのはいいがフローラ……お前の隣でうずくまっているそいつはなんだ?」


「ほえ? ……ああこの子のこと! そうそう聞いてよ星夜、なんとビックリ、この子ってあの世界樹の意志そのものなんだって。すごいでしょ」


 やはりそうか……フローラと同じ場所にいる時点で薄々そんな気はしていたが、まさかこんな姿をしているとは想像もつかなかった。

 その姿は昆虫のようにも見えるが、その全身は鋼のような甲殻に覆われ、陸上哺乳類のように二本の腕と二本の脚が伸びている。しかしそれらの先端は鋭く尖り他のパーツはどれも細身だ。

 そして今はその両腕で隠されてはいるが、それでも隠し切れない大きめの頭部。ほぼ体と同程度であり、全体で見れば二頭身しかない極めて奇妙な形をしている。


 つまり、ここまでオレとミーコを理想の世界に閉じ込めていたのも、使徒を操り邪魔をしていたのも……。


「あれらはすべてお前の仕業ということだな、世界樹よ」


「――……」


 問い詰めるが答えを返す様子はない。相変わらずうずくまりガタガタ震え続けるだけだ。


「なんかね、この子星夜達が来るちょっと前から急に怯え始めちゃったの。その前は楽しくおしゃべりしてたのに」


 そのタイミングからすると……おそらく使徒を戦闘不能にした辺りか。

 世界樹としては、オレがここに現れること自体が想定外だったということだ。

 だからこそこうして怯えている。


「さて、いつまでもうずくまっていいないで話してもらおうか、なぜオレ達とフローラを引き離したのか」


「う、うるさい人間風情が! 僕はただこのお姉ちゃんとお話したかっただけなのに邪魔してきたのはお前達の方だろ!」


 意外と流暢に話せるものだな。使徒の意思疎通能力がほぼ皆無だったのでこちらも似たようなものかと考えていたが。

 それにしても"人間風情"か……。


「つまりお前はこの世界における上位存在的なものということか。だがそれならなぜフローラにだけは友好的な態度を示す? 彼女もこの世界では人間と同等の存在のはずだ」


「ふん、それはお前達の定義での話だろ。精霊は僕らに近しい存在だから好きだ、龍は粗暴で野蛮だから嫌い、そして人間はそのどちらにも劣る取るに足らない小さな事象の粒でしかない」


 アステリムに降り立ってから価値観の違いというのは多く経験していたが、ここまで極端なのも珍しいものだ。


「……お姉ちゃんは、僕の話を聞いていくれるって言ってくれたんだ。今までどんな精霊に、どれだけ話しかけてもちゃんと聞こえる人がいなかった。だから、嬉しかったんだ」


「それでつい強引に吸い寄せちゃったんだよねー。おっちょこちょいなんだから」


 それをおっちょこちょいで済ませてしまうのはどうかと思うが、これでようやくことの経緯は理解できた。


「なのにお前らは僕の邪魔をして……今までの観測から作り上げた最強の闘士も壊されたし……望む世界を与えてやってるのにそれも拒否する。なんで人間はどいつもこいつも僕の作る世界を否定するんだよぉ……」


「その言い方、まるでオレ達の他にも理想の世界を見せた人間がいるように聞こえるが、誰のことだ?」


「そんなの人間に話す義理はないよ」


 やはり拒絶されているな。此度の任務完遂にはこの世界樹の意志をどうにかすることが必要不可欠だ。

 どうにかフローラに説得を試みてもらうしかない気はするが……。


「コラ! ダメでしょセカくん、そんな失礼な態度! さっきから見てたけど星夜達にももっと愛想よくしようよ。いろいろお話聞いてもらいたかったんだしいい機会じゃん、皆でセカくんの悩みを解決しよ」


「う……でもお姉ちゃん、こいつら人間だし僕らの話なんて理解できるわけ……」


「そんなの関係ないよ。というか、ぶっちゃけあたしってそんな頭良くないからセカくんのお話聞いてもよくわかんないし。でも難しい話なら星夜がきっと理解してくれるから皆でお話しよ」


「……わ、わかったよ。お姉ちゃんがそこまで言うなら」


 オレが気にかけるまでもなかったか。フローラのこの素直な性格の前には流石の世界樹の意志も形無しだ。

 何やらかわいらしい愛称もつけられたようだしな。


「なら、まずはオレの質問にいくつか答えてもらいたいが……」


「わ! お、お前はそれ以上近づくな!」


「? なぜだ」


「『※ア※レイ※※ス※トゥ※※※リ※ム※※※※ス※』様の事象のカケラを持つ人間なら僕を消滅させられる……。そんな奴の近くに寄せるなんて恐ろしすぎてまともに話もできやしないじゃないか」


 事象のカケラ……もしや神器のことか? 確かにムルムスルングは今もオレの傍らに破損した機体の中にある魔導エンジンに収められているが。

 たとえ手に取っておらずとも奴にとってはオレが近づくこと自体が神器を持つものが近づくことと同義になる……か。


「セカくんってばわがままなんだから。あんまり星夜を困らせちゃだめだよ」


「いや、オレとの距離はそれで構わない。そちらの都合は大体理解した。それと、セカ……先ほどのオレの質問の答えに当たる人物は限、この世界でムゲンと呼ばれている人間だな」


「……あってるよ」


 やはりな、ノイズのような言語ですべてを聞き取れはしなかったが、先ほどセカが発した固有名称には聞き覚えがあった。

 -世界神-アレイステュリムス、限から聞いた神器の元ともなった"世界の意志そのもの"の存在。おそらくセカはその存在に追従するような役割を持っているに違いない。


「※ア……お前達には世界神と呼ばれているお方に僕は生み出された、いざという時のためにこの世界の事象を保存しておく存在として」


 つまり世界のバックアップといったところか。オレとミーコに見せたあの理想の世界もそれの使い道の一つだったと考えてよさそうだな。


「そうか、ということは限もオレ達と同じように理想の世界に逃げることはなかったわけだな」


「おかしいよあいつ……あの時は世界神様の助力もあったからそれこそ無尽蔵にある幸せの形を選ばせてやったのに、どれも選ばすにこの世界に留まるなんてさ」


 オレでも揺らぎかけたあの世界を無尽蔵か、流石は限だ。

 大切なものを見つけた世界を守り抜くというあいつの決意は、オレもあいつも変わらない。だからこそオレは英雄となることを選んだのだから。


「僕は誰かに必要とされるために生まれたのに、誰も僕を必要としない……。世界神様は、"いつかきっと僕の存在が必要になる"って僕を作り出してくれたのに。だから、むしゃくしゃして……」


 なるほど、そういうことか。

 セカは人間を見下すような発言や態度をとってはいるが、感情的な部分は人間より人間らしい。


「外で起きていた地鳴りはお前の癇癪だったということか」


「えっ! そうだったの!?」


「そ、そんな幼稚な人間を表すような言葉を使うな。確かに、ちょっと外に影響はでちゃったみたいだけどさ、些細なことだよ」


 自分の非は認めず反省の色もなしか。やはり、こいつの精神に関しては少なからず思っていた通りのようだ。


「まるで精神が育っていない子供だな。生きていた年齢としてはオレ達から比べれば途方もないだろうが、お前と同等の存在から見ればまだまだ成熟には程遠い」


 フローラの母の母の時代から世界樹の中に存在していたとすれば、人の年齢で見れば何千というところだが、"世界"という尺度で考えればまだまだ育ちざかりな時期ということころだな。


「くっ……うるさい! お前なんかに僕の気持ちなんてわかるもんか! ああ、確かに僕はまだ管理者と呼べないくらい未熟で幼いさ。だから寂しかったんだ! 外から見てるだけで誰も僕に気付いてくれない、だから外にいるお姉さんにも何度も気づいてもらおうといろんな可能性も見せた。そして今日やっと僕とお話までできるお姉ちゃんが来てくれて、その繋がりのおかげでこうして出会うことだってできた! どれだけ嬉しかったかわかるか、いつまでも独りぼっちだと思っていたところに存在意義を否定されて、そんな中待ち望んでいた存在が現れてくれた喜びが!」


「……」


「セカくん……」


 おそらく、セカは本来の世界の成長過程からは大きく外れているんだろう。完全にゼロから生まれその世界と共に成長していく意志とは違い、セカは最初から意志を持つ人間が存在する世界を観測しながら育った。

 だからこそ、世界があるべき成長する過程を飛ばし幼いまま人間の精神と技術を学習した結果、人間らしい精神を持ってしまった。


 ある意味では、こいつもかわいそうな存在だ。人間の精神として育ちつつ上位存在としての在り方を強いられてきたのだから。


「だがそれでも、許容できないものもある」


「ひっ! な、なんだよ、なんで近づいてくるんだよ」


 先ほどセカが吐き出した本音の中には一つだけ、どうしても聞き逃せない部分があった。

 それは……。


「フローラの母親に不安な未来を見せていたのはお前……ということで間違いないな」


「え……星夜、それって……」


 そう、それはフローラの父と母が別れ深い悲しみを生み出した原因。


「ぼ、僕は僕の存在に気付いてもらうのと同時に彼女へ先の事象の可能性を警告してあげてただけだ。何も悪いことなんてしてない! だからそれ以上近づかないでくれよ!」


「たとえその行為に悪意がなかったとしても、それによって生じてしまった不幸をなかったことにすることはできない」


 それが幼子の無自覚な悪意の結果だろうと、フローラとその母がこれまで感じた父親に対する苦悩は事実であり、それはセカの罪だ。

 そこから目を背けるのだけは許すことはできない。人間と同じ知性を持つならなおさら理解させなければならない。


「や、やめろよ……近づくなって。うう……」


「待って聖夜」


 怯え再びうずくまるセカとオレの間に割り込んできたのは、意外なことに被害を受けたフローラ当人だった。


「フローラ、お前の優しさは美徳だ。だが、相手の罪から目を背けてまで優しさを与えるのは誰も幸せにできない」


「うん、わかってるよ。でもね、あたしはセカくんの気持ちもわかるから。パパがいないって知ってから、あたしはずっと寂しかった……けどあたしにはママがいたから耐えられた。あたしにとってのママみたいな存在もいなかったセカくんは、きっともっと辛かったはずだから」


「……正直、オレはまだ許すことはできない。償いは必要だ」


「あたしだって、パパとママがセカくんのせいで別れちゃったって知った時は正直怒ったよ。でも思い出したんだ、ミーコちゃんがヴォリンレクスの皇帝くんを許してたこと」


「ふろらちゃ……」


 故郷を滅ぼされたミーコはそれでもディーオ皇帝を許した。苦しい思いをしてきたミーコにとってもそれは苦渋の決断だったはずだ。

 しかしミーコがその経緯に至ったのはディーオの献身的な償いあってこその話だ。

 だからこそ……。


「お、お姉ちゃんは僕のこと、許してくれるよね?」


「ん? まだ許す気はないよ?」


「え……」


「星夜を止めたのは、あたしの代わりにやってもらう必要なんてないから。セカくんにどう償ってもらうかは、被害者であるあたしが決めることでしょ」


 本当に、フローラはしっかりとした女性だ。むしろ、オレは出しゃばりすぎてしまったのかもしれないな。

 当事者の問題は当事者同士で解決すべき……確かにその通りだ。


「セカくんには、これからあたしの言うことを聞いてあたしのためにその力を使ってもらいます。あたしの言うことは絶対! いいね!」


「は……はい、わかりました……。僕はあなたのために力を使う、契約します」


 迫力はないが、フローラの言葉にはノーとは言えない圧力があるなこれは。

 それにフローラのこの契約はただ罪を償わせるだけじゃない。セカに新たな役割を与えることで"必要とされたい"というその存在意義を満たそうとしている。


「わかったフローラ、それがお前の決めたことならな」


「賛同……です」


「よーし! それじゃいろいろ解決したことだし、早速あたし達を外に戻してねセカくん。あたしはこれからママと一緒にパパに会いに行かなきゃならないんだから」


「う、うん、それじゃあね。僕とお姉ちゃんには契約の繋がりがあるから、いつでも僕を頼ってね」


 やれやれ、これでようやく世界樹の中の冒険も終わりか。すべてが丸く収まった……かどうかはわからないが、これで少なくとも世界樹の暴走はもう起こらないだろう。


 そうしてオレ達の再び薄れていき、この不思議な世界と別れを告げるのだった。






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 目を開くと、そこは世界樹の森の中で、目の前にはオレ達の帰還に驚いている精霊神の姿がそこにあった。


「フローラ!? それに星夜くんとミーコちゃんも。無事に戻れたのね」


「うん、もうバッチリ全部解決してきたもんね」


「そうだな、まずは話さなければならないことが多いが……」


「そうね、特に星夜くんが神器に認められてる経緯について詳しく知りたいもの。あたしとしてはフローラに継承させるつもりだったのに」


 やはりそうだったか。今はこうして共にこの場へと戻ってきたシューティングブレイザーの魔導エンジンに収まっているが、セカの言い方からしてオレが選ばれてしまったということは察していた。


 こうしてオレ達は世界樹の中で起こった経緯を精霊神へと伝え、すべての問題が解決したことをお互いに確認し合う。


「うん、これなら世界樹の防衛システムもあたしなしでも問題なく稼働するわね。本当に全部解決しちゃった」


「よーし! それじゃそれじゃ、ママも一緒にパパに会いに行こ! 星夜、全速力で飛ばしていこー!」


「残念ながら、それは無理だな」


「ええー!? なんで……って、あ……」


「修復……ふのです」


 シューティングブレイザーが使いえない以上帰りは通常の交通手段で時間をかけるしかないだろうな。


「それに、まずはヴォリンレクスへ報告に戻るのが先だ」


「そんなー! も~、あたしはいつになったらパパに会えるのー!」


 困りながらもどこか嬉しそうなフローラの叫びが世界樹の森に響き、これにてオレ達の任務は本当に完了することとなるのだった。


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