253.5話 会議の裏に陰謀の予感?


 それはとある日の午後、丁度ムゲン達が昼食のために街へと向かいはじめたのと同時刻のこと。

 その街中の一角で和気あいあいと食事する四人の男女の姿があった。


「兄さん、魔導師ギルドヴォリンレクス支部の再建おめでとうございます」


「ありがとう……と言っても形だけだがね。効率上の点で、世界会議中はまだ城内の一室が支部の拠点であることには変わりないよ」


 そこにいたのはレオン達魔導師ギルド組と、ギルドマスターとなったリオウの四人。彼らが祝っているのは前体制の暴走の際に封鎖された各国のギルド支部の再建だ。


 ギルドが新体制となったはいいが、まだまだ前マスターであるマステリオンが世界に与えた影響は大きい。一部の大陸や国家ではギルド支部を封鎖し魔導師を一切受け入れない国も少なくなかった。

 リオウが新マスターとなることで一見復活したかに見える魔導師ギルドだがそれはブルーメの中だけであり、今だ魔導師は外で活躍できるほどの受け入れは進んでいなかったのだ。


「でもああして支部が元通りになって僕はとても嬉しいな。確かにお城の一室でも不自由はなかったけど、これからこの国にもどんどん魔導師は増えるだろうしこれからは絶対に必要だよ」


 だからこそリオウは世界会議の準備と同時に各地の魔導師ギルド支部再建も裏で進めていた。

 それは、これから世界の均衡に重要な存在となる四大ギルドの一角がまだ力不足では説得力が薄れるという深い考えもあってのことである。


「まぁ、それもわたくしのような外部への影響力がある有力貴族家出身魔導師の協力あっての話ですわ」


 エリーゼの言葉の通り、今回の支部再建がスムーズに進んだのはマステリオンに従わずギルドを抜けた元魔導師の貴族が再び魔導師としてそれぞれの自国に働きかけたおかげだ。

 彼らとしても新しいギルドの体制がヴォリンレクスの後ろ盾によるものと聞き、強力な繋がりを得るためでもあるのはもちろんだ。しかし必ずしも打算だけではなく、以前の魔導師ギルドに戻りたいと思う者も少なからずいたはず。


「彼らには……心から感謝しているよ」


「あら、あなた以前はあんなに貴族を憎んでいたのに……変わるものですわね」


「それを君に言われるのは釈然としないが、自分でもそう思っているので反論はできないな」


 その件に関してはどちらも似たようなものなので何とも言えないものである……。と、レオンもシリカも思ってはいたが流石に口には出せず渇いた笑みを浮かべていた。


「ま、まぁそれは二人ともお互い自分の考え方を見つめなおして成長できたってことでいいんじゃないかな」


「わたくしは別に考え方を改めたわけではありませんわ。まぁそれはそれとして……レオン、またスプーン落としてますわよ」


「え? あ、ホントだ」


 その指摘の通り、レオンの皿の上には先ほどまでそれで食事をしていただろうと伺えるスプーンが乱雑に転がっていた。左手から落とされたと誰が見てもわかるくらいに。


「レオンさん、無理にその腕で食事をとる必要はないんですよ。もともと利き腕は右なんですから、修行と言っても日常生活に支障が出ない程度に抑えるべきです」


「この前も書類を前にその腕で書こうとしてたけど酷いものでしたわね」


「う、あの時はごめん。でも、僕は一日でも早くこの腕を利き腕並み……ううん、利き腕以上に扱えるようにならなきゃいけないんだ」


 ここ数日間、レオンはこれまで利き腕で行っていた日常行動のほとんどを左腕の魔導アームで行っていた。

 しかしやはりというべきか、通常のリハビリ以上に困難な腕の精密動作にすぐ慣れるはずもなく毎日が悪戦苦闘の日々。しかもどれだけ失敗しようとも利き腕を使おうとしないという徹底ぶりにフォローする立場にあるエリーゼとシリカも不安が募る一方ときたものだ。


「レオン、あなたは努力家なのは知ってますわ。けれど努力し始めたら目標まで一切止まろうとしないのが悪い癖なのをもっと自覚しなさいな」


「それは……自分でも理解してるつもりだけど……。神器捜索の日取りがどんどん迫ってるって思うといてもたってもいられなくて」


 ムゲンの発案した神器捜索作戦は世界会議終了後すぐにでも行われる予定となっている。

 その中でもムゲンと共に天空神の下へと向かうための重要な役割を任された身として万全な状態で臨みたいというのはいかにもレオンらしいといえるだろう。


 ただ……。


「ま、重要なのはレオンの扱う重力魔術であって肉体的な戦闘面に関しては無理させようとは思ってないけどな」


「って師匠! いつから僕の背後に!?」


「お前がなんか暗ーい雰囲気醸し出そうとしてるから和ませてやろうと思ったんだよ。ほれほれ」


「あ、頭を叩かないでくださいよ」


 ちょっとネガティブな雰囲気になりつつあった魔導師組を前に現れたのは、食事のために丁度街まで降りてきていたムゲン達だった。


「やっほーシリカ、エリーゼ。皆もここで昼食?」


「セフィラさん、クリファさんも。ええ、私達は今後のギルドの相談も兼ねてここで昼食を」


「ああ、そういや支部も復活したんだってな。おめっとさん」


 実質魔導師ギルドの一員のようなもののムゲンだが、実際のところはどこにも所属していない。あくまで“魔導神”という立場を貫くつもりらしい。

 そのためギルドの方針には口出しをするつもりもないし深く関わる気もないようだ。


「そんじゃ私達もここで昼食にするか」


「相席させてもらうわよー」


「ええどうぞ。こうしてお昼時にゆっくり語らえるのも今日くらいでしょうし」


「語らうのはよろしいですけど、あまりお下品な行為は謹んでくださいませ。特にムゲンさん」


「こらこらピンポイントで私を指名するんじゃない」


 こうしてムゲン達も交えて魔導師組の昼下がりはゆっくりと過ぎていく……のだが。


「っと、申し訳ございません魔導神様。俺はまだ片づけなければならない仕事が残ってますのでここで……」


「そうか、ホント多忙だなお前も」


「兄さん、仕事なら私も手伝いに……」


「俺一人で十分だよシリカ、そこまで気を使わないでいい。せっかくの時間を無駄にしてはいけないよ」


 世界会議が休みであろうと進行とまとめ役を受け持つリオウにはまだまだやらなければならないことが山積みだ。

 それでもレオンやシリカ達と共に昼食をとることに時間を割いたのは、彼がその時間を何よりも大切にしたいと思っているがゆえだろう。


 それこそが自分がこの時代で手にしたかけがえのない"生"の証なのだと、リオウはそう感じながら仕事場へと向かうのだった。

 今度こそ自分の力を平和な時代のため役立てるのだと。信じてくれる仲間のためにも。






 同刻、ヴォリンレクス城のとある一角では二人の女性が何やら言い争いを行っていた。

 いや、"争い"というよりは片側の女性が一方的に敵意をむき出しているだけのようだが。


「しっかしあんたも結構強情だよねぇ。あんま意地張り続けてるとどこの国からも印象悪くなる一方じゃないか」


 そう語り掛けるのは赤い髪と長身が特徴の女性……サティだった。今日レイ達に付き添っていない理由はどうやらこのためのようだ。

 そして、そんな彼女が語り掛けている相手は……。


「わたくしは意地など張っていません。会議の中で決議された内容でどれだけ自国を危険に晒してしまうか……その可能性を説いてるだけですから」


 セレスティアルの第一王女ラフィナだ。彼女はこれまでの世界会議の中で幾度も決定されそうな議題に意見しては各国の不安を煽るかのような発言ばかりを行っていた。

 そのため、代表達の中には彼女をよく思わない者も少なくはない。


「わたくしはわたくしの考えが正しいと証明するためにここに来たのです。そもそも焚きつけた張本人のあなたにとやかく言われるいわれはありませんのよ、新魔族さん」


「うーん、そりゃそうだけどさぁ。このままだとラフィナんとこの国、敵だらけになっちまうよ」


「本心も明かさず上っ面の信頼関係だけで近寄ってくる輩など、わたくしにとっては敵でしかありません。ここ数日の間にも、良き関係を築くためにと婚姻を申し込んできた方々がいらっしゃいましたが、どうせ内部から我が国を乗っ取ろうと考えていたに違いありませんわ」


 ラフィナが未婚であるという噂は会議が始まる前から代表達の間でひそかに広まっており、それを好機と捉えた何も知らない者達がこぞって婚姻を申し込むというやり取りがあったのだが……。

 結果はお察しの通り、ラフィナの徹底した他人への不信感を前に見事全員玉砕していた。


「わたくしと婚姻を結ぶということは、セレスティアルの王となることと繋がります。薄い愛の言葉などに、わたくしは騙されません。彼らは決してわたくしを愛してるわけではないのですから」


「まったく、ほんっと強情だね。中には本当にラフィナに惚れた奴だっていたかもしれないのにさ」


 事実、婚姻を申し込んだ者、あるいは跡取りなどを婚約者として推薦してきた者のほとんどが第四大陸との繋がりを求めての行動だろうことは明白だった。

 だがサティの言う通り婚姻を申し込んできた者の中にはその美しさやちょっと冷ややかな視線に惹かれ本気で恋した者もなくはなかったはずだ。

 しかし過去の恋愛にトラウマを持つラフィナにとって愛の言葉を囁くという行為はまるで逆効果になってしまうことは誰も理解していなかったのだ。


「でも、婚姻の話は別としても世界会議は滞りなく進んでる。ラフィナがこれ以上どう反発しようと、今後の決定で国家同士が手を取り合う世界になるのは明白だよ。ラフィナ……これからはこの世界に住まう人間同士互いに助け合うことが重要なんだ」


「くっ……! なんですか、それでわたくしとの賭けに勝ったとでも言うおつもりですか」


「違うよ! このままじゃあんたは完全に孤立しちまう。だから……助けたいんだよ。アタシは……ラフィナを孤独にしたくない」


「余計なお世話です! そもそも新魔族であるあなたに心配などされたくもありません。どれだけ不利な状況であろうとどうにかしてみせます」


 そう豪語するラフィナではあるが今の状況が自分にとって良くない方向へ進んでいることは理解しているはずだ。

 決議に反発し続け、縁談も断り続けている彼女の立場は不利になるばかり。

 このまま同じことを続けていけば間違いなくセレスティアルは『世界同盟』の中で孤立してしまう。


 しかし、どうにかしてみせるとは言うものの……。


「今の主張を続けるだけではあなたに賛同する国家はありませんよ、ラフィナ王女」


「だ、誰!?」


 と、そこへラフィナとサティの会話に割り込むように意見を述べる男性の声。

 二人の間へと近づくその男は……。


「魔導師ギルドマスター、リオウ。なぜなあなたがここに……」


「こいつは予想外のお客さんだ。でも盗み聞きなんてちょっといい趣味じゃないね」


「失礼、たまたま通りかかっただけなのだがお二人の会話が聞こえてきてね。ラフィナ王女の主張を見過ごすのは今後の会議に関わりそうだったのでつい」


 先ほど昼食を終え臨時のギルド支部まで仕事に戻っていたリオウだった。通りかかったのも本当にたまたまだろう。


「今現在における自分の役割は会議を円滑に進めることにある。ラフィナ王女、あなたの発言は毎回会議を混乱させる。だからこそ先ほどの宣言も見過ごせない」


「……そうでしょうね。わたくしは世界が本当に仲良く手を取り合えるなど考えておりませんから。皆さん内心では裏切りや出し抜くことを考えてるに違いありません」


 本来世界会議にはヴォリンレクスやメルト王国の平和的思想に賛同する国家だけが集まり今後の方針を決めていこうと話し合う場だ。

 それを知りながら反発するラフィナ、及びセレスティアルが反感を買うのは当たり前というもの。


「だからラフィナ、この同盟はそんなんじゃないんだ。どこの国もこれからの世界を良くしようと集まって……」


「いや、ラフィナ王女の言うこともおおむね間違ってはいない」


「んなっ……なに言ってんだいギルトマスターさん。この会議は平和のためにあるものだろ」


「確かに会議に集まった国家はどこも平和を願っている……自分の国の平和を。そこに打算や裏をかき利益を得ようとするのはごく自然のことだろう。あなたの国も、当初は自国のためにヴォリンレクスとの同盟を持ち掛けたはずだ」


「ま、まぁそうだけどさ……」


 リオウの主張に納得はできないものの反論することもできないサティ。

 そんなサティの姿に若干勝ち誇ったように笑みを浮かべるラフィナだが……。


「だが、そんなことはあの会議に出席してる者なら誰もが理解してることなのだ、ラフィナ王女。そう、あなたに足りないのはまさにそこだ」


「ど、どういうことですか……。会議に参加してる方々だって他人を信じられないのならわたくしの主張だって……」


「他の代表達はそんなことわかり切ったうえで会議を進めているのですよ。裏切りと打算が潜んでいるなら自分達はその上をいけばいい……彼らはそういう"覚悟"を持ってあの会議に臨んでいる」


 今度はラフィナが言葉を失ってしまう。

 当然だろう、自分の信じていたはずの"絶対"があの場にいた者達にとっては当たり前のものであり、なおかつ自分が進めないと信じていた先の領域に彼らが存在していたのだから。


 裏切りや打算は当たり前。そんな中で勝ち得た"信頼"こそ重要なものであると理解している者にとっては、ラフィナの言葉は実に空虚で、無駄な主張だと反感を買うのも当然だ。

 ……まぁ中にはディーオやルイファンのようにあまり理解してない代表もごく少数いるだろうが。


「なら……わたくしのこれまでしてきたことはすべてが無駄、だったということなの……」


「ラフィナ……」


 揺るがない真実を突き付けられまたしても自分にとってのアイデンティティを失ってしまった。そして今度は、縋るべき逃げ道さえ存在しない。


「いいや、何一つとして無駄ではない。すべてを失い、自分の愚かさを見つめなおし、あなたは新たな道を進むことができる」


「それは……慰めのつもり……ですか」


「そうではない。人は変われる……そしてそのきっかけは人から教えられることもある。他の代表達があなたより先の領域にいるのなら、あなたも追い付けばいい……自分なりのやり方で」


「……わたくしが」


 それはつまり、今まで裏切られ利用されることを恐れることしかできなかったラフィナに今度は自分が利用する立場になれと言ってるようなものだ。あまり褒められた説得ではないが、今の彼女にとっては……。


「あ、お姉さま! ここにいらしたのですね」


「もーラフィナさん、出歩くときは護衛をつけてって言ったじゃないっすかー。さ、戻りましょうや」


 といったところで、どうやらラフィナを探していたケント達が現れ話は中断。

 このまま自然な流れでこの場は解散。ということになりそうだった。


「ちょっと待ってクレア」


 が、どうやらラフィナの話はまだ終わらないようだ。

 その瞳にはなにやら、どこか今までの彼女にはない"決意"のようなものが秘められているようにも感じられ……。


「まだ、自分に言いたいことでも?」


「ええ、たった今、決めたことがありますの」


 そのまま真っ直ぐとリオウの前に立つと、とんでもない一言を口にするのだった。



「魔導師ギルドマスター、リオウ・ラクシャラス。セレスティアル第一王女ラフィナール・クラムシェルは、あなたに正式に婚約を申し込みます」



 ……そのあまりの衝撃の内容に、一瞬誰の理解も追い付かず時が止まったかのように固まってしまうが。


「「「え……ええええええ!?」」」


 これにはサティもケントもクレアも驚愕して当然だ。あれだけ恋愛や婚姻に対して嫌悪感を抱いていたラフィナが突然こんなことを言いだしたのだから。

 そして婚約を申し込まれた張本人であるリオウは……未だ理解が追い付かず放心してしまっている。


「お、お姉さま!? 突然何を言い出すのですか!」


「そうだよラフィナ。あんたこのギルトマスターさんのこと好きになったってことかい!?」


「いいえ、別にそういうわけではありませんよ」


 先ほどの婚約宣言が好意によるものではないとスッパリ言い切られリオウの頭は驚きでさらにこんがらがってしまう。

 つまるところ、ラフィナの真意はどこにあるのか。


「今現在、各ギルドはそれぞれヴォリンレクスとメルト王国に二分するように所属しています。しかし各国の代表にはこれを良く思わない者も少なからずおられるようで……中央の強大国以外がギルドを管理するべきだという意見も挙がっていたはずです」


「って、それが婚約と何が関係あるってんだい」


「魔導師ギルドのトップと他国家の王族が婚姻を結ぶとなればそれは大きな"繋がり"を生むこととなります。その繋がりを利用すれば、セレスティアルが魔導師ギルドを取り込むことも可能でしょう」


 もしそうなれば、セレスティアルには魔導師ギルドという巨大な組織をその国に置くこととなり、その影響力は多くの国家より抜きんでたものとなるのは間違いないだろう。……実現すればの話だが。


「だ、だからと言ってなぜいきなり婚約など……」


「あなたがおっしゃられたのですよ、人は変われると。だから決めたのです、わたくしも利用"される"側から"する"側に変わればよいのだと」


 だとしても思い切りが良すぎるが、元来ラフィナというのはこういう人間なのかもしれない。


「で、ですがお姉さま。お姉さまはセレスティアルの第一王女、そのお相手は我が国の王位を継がなければならないのですよ!」


「そうでしたね……ならこうしましょう。クレア、わたくしはこの世界会議が終わったら王位継承権をあなたに譲ります。これで問題ないでしょう、要はわたくしが嫁げばよいのです」


「ええっ!? そんな無茶な……」


 そんな軽いノリで王位継承権を破棄するラフィナの無茶苦茶っぷりにもはや誰もついていけない。

 セレスティアルの王位継承者はラフィナとクレアの二人のみ。クレアが王位継承権を得るならばその婚姻相手が次代の王となるのだが……。


「待って待って! そうなると……クレアと結婚したら俺が王様になっちゃうじゃん!?」


 そう、クレアの想い人はケントただ一人であるので当然そうなってしまうだろう。

 なんだか、いろいろと不安が絶えなそうで困ったものである。


「ま、待て! 自分はまだ婚約を受け入れるつもりは……」


「あなたが嫌だと申しましても、わたくしは諦めるつもりはありませんので……覚悟してくださいね、リオウ様」


「ハハハ! なんだかよくわからないけどいいじゃないか! アタシはラフィナを応援させてもらうよ!」


「サティ殿……こちらは笑える状況では……」

ヴー!ヴー!ヴー!


 と、リオウが口ごもっていると何やら体のどこかで振動する音が聞こえてくる。


「な、なんだ? ポケットの中が突然震えて……魔石?」

ピッ


 取り出されたのはひとかけらの小さな魔石。それから発されていた振動が収まり何やら電子的な音が鳴ると……。


『兄さん! これはどういうことですか!』


「その声……シリカか!? な、なぜ……」


『ハッハー! 実はお前が立ち去る際、体に[wiretap]、そして[telephone]を埋め込んだ魔石をコッソリ入れといたのさ!』


「ま、魔導神様……」


 この男とても楽しそうである。

 実は以前よりリオウ以外の魔導師ギルド組とムゲン達には、自分の見ていないところで兄であるリオウの女性関係に気になる部分があると相談を受けていたため、ムゲンが独断でコッソリ盗聴作戦を実行したのだった。

 そしてそれを肴に食事をしていたところに驚きの展開なので、いてもたってもいられずに電話した……というのが今回の真相である。


『最近怪しいと思っていましたが……まさかこんな事態になってるなんて思ってもいませんでした! 私のあずかり知らぬところで!』


「待てシリカ、お前は何か誤解をだな」


『兄さんの将来は私がミレイユさんから一任されてるんです。いいですか兄さん! 今度家族会議です、この件についてとことん話し合いますからね!』


 それを最後に通話はぷっつりと途切れ、呆然と立ちつくしてしまうリオウ。


「あらあら、リオウ様もなんだか大変ですのね。その家族会議、わたくしも参加してよろしいかしら?」


「頼むから……これ以上話をややこしくしないでくれ!」


 こうして各々の穏やかな休日は慌ただしくも平和に過ぎていく。新しく紡がれる絆が彼女の心をゆっくりと癒すように……。

 なにやら着々と進む世界会議の裏側で何やら新たな陰謀や問題が渦巻いているようだが、それはまた別のお話。


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