251話 神器を捜索せよ
神器……それは私が前世において-世界神-アレイストゥリムスの一部を奪い作り上げた六つの武具。そこにケルケイオンを加えてこの世に全部で七つ存在する。
「神器って、レイ君やディーオ陛下が持ってる武器のことだよね」
「ああ、私のケルケイオンもその一つ。そしてこの世界にはまだ他に四つの神器が存在しているはずだ。……私は英雄メンバー全員に神器の使い手になってもらいたいと思っている」
「ぼ、僕達も……!?」
前世の時もそうだったが、最終決戦には私の集めた最強メンバーが神器を所持し完璧に扱うことで世界神を封印するまで至った。
「でもよ、そんなもんが絶対に必要だってのか? 確かにつえー武器なんだろうが、なくたって俺は強くなるつもりだぜ」
「その自信は頼もしいが、終極神との戦いというのはそう単純な問題じゃないんだ」
そう、終極神との戦いは単純な力と力のぶつかり合いではなく、いかに事象操作を掻い潜るかが重要となってくる。
どれだけカロフが物理的な攻撃を仕掛けようとも事象の外側からなかったことにされては何の意味もない。
だからこそ神器が必要になる。
「神器さえあれば終極神の理不尽な攻撃に左右されない……あの時のベルフェゴルのように。そういうことだろうムゲン」
「その通りだ。そしてあの時のベルフェゴルは事象操作への認識が浅かったために神器を持ちつつも対処しきれなかったが、世界神に触れ事象への理解が深まった私が指導することで神器所持者も対処方法を得ることができるだろう」
そもそも神器は世界神の一部、シンクロ率を高めることで事象理論の領域に入門できないはずがない。
それに、神器を集めることは欠けていた世界神の力のカケラを私を通して補うこともできる。まぁそのためには私が事象の力を使いこなすことが前提条件なんだが……。
「しかしムゲン様、残りの神器の所在は明らかになっているのでしょうか? 手がかりもなしに捜索を行うのは困難では」
「実は四つのうち三つはほぼ所在が割れている。さらにうち二つはどこの誰が所持してるかも……な」
ただ残りの一つの所在だけが影も形もつかめないのが困ったところだ。こんなことだったら夢の中で出会った前世の所有者に聞いておくべきだったな。
「残りの一つに関しては保留にしておいて……残り三つの所在を共有する。そして、そこへ誰が回収しにいくのかも」
とにかく最優先は所在の明らかになっている神器を回収すること。どれもこれも、一筋縄でいくかはわからんが。
「まず一つ目、神器“リ・ヴァルク”。場所は第三大陸『龍の山』だ」
「は!? おいおい待てムゲン!」
「そ、そこってまさか私達の……!?」
聞き覚えのある地名に過剰に反応するカロフとリィナ。地元でしかも訪れたことのある地だから余計に驚いたろうな。
「そして所有者は……“龍神”ドラゴニクス・アウロラ・エンパイア。私が前世において共に戦った龍族の戦士だ」
「なんと! あの伝説の! な、ならばぜひとも我に向かわせてはくれぬか盟友よ!」
「ねぇねぇゲンちゃん! それって確かパパのことだよね!? はいはいあたし! あたし行きたい!」
まぁそりゃ食いつくよなこの二人は。アポロにとってはドラゴスは夢物語の中でしか聞かされなかった憧れの存在。フローラは……もしかしたら自分の父親かもしれない存在だし、興奮するのも無理ないよな。
ただ……。
「あー……二人とも、残念だかそこへ向かう人材はすでに決定してるんだ」
確かにアポロもフローラもドラゴスにゆかりのある人物ではあるし、本人達の気持ちを考えればいかせてやりたくはある。
……ただ、こればっかりは約束(・・)があるからな。
「リ・ヴァルク回収の件はお前に任せたい……カロフ」
「は? お、俺ぇ!?」
これは神器捜索作戦を決行すると確定した時から私の中で決めていたことだ。
「まぁ確かに俺やリィナの地元だけどよ。なにも絶対に俺じゃなきゃいけねぇ理由なんてあんのか?」
「ねぇムゲン君、私はフローラさんのお父さんの話とか聞いてるから、できれば譲ってあげたい。それか、同行するって形もダメ?」
「私もそうしてやりたかったが、二人は別の神器回収にほぼ欠かせない役割がある」
私だっていろいろと思案はしたんだ。しかし、あと二つ所在が割れている神器はどちらもそれぞれがそれぞれの場所へ向かわせるのが一番効果的だという結論に至ってしまった。
それに……。
「カロフ……『龍の山』へはお前が向かわなければならない。いや、正確に言えば「神器の持ち主に会わなければならない」か」
「だからよ、そいつが俺にいったい何の関係が……」
「そいつはお前が一番知りたがっていた"答え"を知っている人物だ」
「「 !? 」」
核心を突く私の一言にカロフとリィナの表情が激変し声も出ないほど驚いていた。
まぁ、まさかこんな形で私が約束を果たそうなど思わないだろうしな。
「おい、"答え"ってのは……あの時アリスティウスのやつが語った……」
「そうだ、その真実をあいつは知っている」
「本当なのムゲン君……。でもその場には彼女達以外の人物は確実にいなかったって」
「あいつ……ドラゴスは千里眼の魔力で第三大陸全土ならどこでも見渡せる力を持っている。あいつはあの事件の際、それを使って覗いていたんだ」
そう私は奴自身から聞いている。あいつと再会した時は私もまだ自分のことで手一杯だったため詳細を聞き損ねてしまった。
だが逆にそれでよかったのかもしれない。そのおかげでカロフは自らその真実を確かめることができるのだから。
「改めて伝えさせてもらう。カロフ、お前の任務は『龍の山』に住まう龍族、ドラゴスと接触し協力を得る。もしくは神器を譲ってもらう。そして……あいつから"あの時"の真実を聞き出すこと、だ!」
「……ったよ。まったく、せっかく真実を聞けると思ぇや最後の最後に大仕事ぶつけやがって」
世捨て人ならぬ世捨て龍となったあいつが快く協力してくれるかは定かではないが、私の言葉を添えればあいつも多少は耳を傾けるはず。
あとは……カロフ達の手腕に任せるしかない。
「むぅ、カロフにもそれなりの事情があるようだな。ならば此度の件、我は気持ちを抑えて我慢しよう」
「えー! あたしはやだやだ! パパに会ってみたいー! ねーゲンちゃん、リィナ達に同行でいいからあたしの方別の人に代わってもらってよー」
「おいフローラ。オレもお前を父親と合わせたいとは思っているが限を困らせるな。今回を逃してもまた機会は巡ってくるだろう」
星夜がなだめようとしてくれてるがフローラはそれでもまだ諦めがつかない様子で駄々をこねている。
だが残念ながら決定に変更はない。それに星夜達が向かう場所は……。
「じゃあお前がカロフ達より先に神器を回収して、さらにファラのやつが会うことを許したら向かってもいいぞ」
「え、本当! じゃあ張り切って……って、ほえ? なんでママの名前が出てくるの?」
「当然だろう。二つ目の神器、“ムルムスルング”の所在は第四大陸にある『世界樹ユグドラシル』。そして所有者はそこに住む“精霊神”ルファラ・ディーヴァ……他ならぬお前の母親なんだからな」
それを聞いた星夜達第四大陸組以外に衝撃でどよめく。フローラが精霊神であるファラの娘であることは何人かはすでに知っている事実なのでそう驚きはしないが、その人物が神器を所有しているという点に驚きを隠せないようだ。
「なるほど、その任務は確かにオレ達が……というよりもフローラ以上に適任はいないな」
逆に神器の所有者の詳細を知っている星夜は今回の私の采配に納得した様子。
ただまぁ、フローラにファラのやつを説得させるのは厳しいかとも思ってはいる。本当は私が説得に行きたかったが私は私で別に重要な役割があるからな。
「せっかくヴォリンレクスまで来てもらったのにとんぼ返りさせるみたいで悪いな星夜。一応ファラには私が協力をしてもらえるよう一筆したためておくから、なんとか頼む」
「いや、この面子の中ならあの龍族……アポロかオレが最も移動速度が速い。加えて向かう先が第四大陸なら土地勘もあるオレ達を向かわせるのは十分理にかなっている判断だ」
スターダストを全速力で飛ばせばそこらの馬なんかより圧倒的に速いスピードでここから第四大陸まで往復できる。
願うことなら、今回の件であいつら家族の問題も改善してほしいとは思っているんだが……。
「う~、ママを説得かぁ……。でもパパに会うためだし」
「ふろら……さん。がばる……です!」
「ありがとね~ミーコちゃん~。あたし頑張ってみるよ~」
任務の詳細に関しては……まぁこいつらなら必要ないか。フローラはドラゴスのことで頭が一杯だし、星夜の判断力なら任せても安心できる。
さて、これで二組向かう場所が確定したが。
「しかしベルフェゴルも含めれば“七神皇”のうち三つが神器の所有者ということか」
「ほほー、それは凄い偶然だのう」
「いや、多分偶然じゃないぞ。おそらくこれまで“七神皇”と呼ばれてきた存在はなにかしらこの世界の根源……つまり世界神の力を持つ存在だ。ここにいるポンコツ女神を除いてな」
「ちょっとムゲン! さりげなくあたしディスんないでよ!」
そう、偶然にしてはできすぎている。“女神”であるセフィラだけは唯一別としても、“炎神”である火の根源精霊と“幻影神”であるアレイストゥリムスの写し身は共に世界神に近い存在。
そして“龍神”“精霊神”“魔神”とこれまでに出会った彼らは全員が神器に認められた真の使い手。
「ワウン……ワウ?(いやーこれまでいろいろ出会ってきたっすねぇ……あれ、でもあと一つ足りないような?)」
「待て限、お前はすべてが世界神の力を持つと断言したな。まさか……」
どうやら
「所在が割れている最後の一つの神器は……おそらく“天空神”が所持している可能性が高い」
「ワウッ!?(な、なんすとぉ!?)」
この驚愕の事実に他のメンバー達も犬同様驚きを隠せずざわめきだっている。
“天空神”は先ほどまでの話題に挙がらなかった誰も出会ったことのない存在。それが神器を有しているという事実に驚愕するなというのが無理な話だ。
「限、お前が天空神に一番近づいたのはオレ達と共にメフィストフェレスを追い詰めたあの時だけだけじゃないのか?」
「そうだが、私はあの時放たれた重力エネルギーに覚えがあった。……三つ目の神器、“テルスマグニア”は重力の魔力の根源を宿した究極のエネルギー体だったからな」
この世には生命、重力、時空、それぞれの根源精霊は存在していない。
生命はこの世界に生きるすべての人間誰もが持つ力であるがゆえ。時空はアレイストゥリムスと切っても切り離せない重要な"流れ"の一部。重力の根源も同様にアレイストゥリムスに同化していたものではあるが……前世の私達はなんと"それ"を取り出すことに成功した。
「メフィストフェレスとの戦いの後ファラとも話し合ったんだが、やはりあいつもあれはテルスマグニアのものだと感じてはいたらしい」
天空神は特定の周期で第四大陸に近づくという話もあったし、ファラもそのたびに存在を感じてはいたが実際にあの浮島の上に何があるか見たことはないと言う。
「でも師匠、あの浮いてる島って少なく見積もっても一国家の大都市程度の大きさはあるらしいですけど、どうやって浮いてるんでしょうか?」
「だから、それもテルスマグニアによるものだろ」
「……え、それってつまり重力魔力のエネルギーでずっと浮いてるってことですか!? ご、500年ですよ!?」
同じ重力魔力を扱うレオンにはその途方もなさをが理解できる。だからこそその異常性に誰よりも驚いているようだ。
「まぁやろうと思えばできなくはないだろうな。ただ、問題はどこの誰が使い手かって話なんだ」
「確かに、そこだけ詳細が明確でない……。ゲンさんにも心当たりはないとなると回収に不安要素が出てくる……そういうことですね」
「そうなんだ。だからこそ……“天空神”の浮島へ向かうメンバーには私も同行しなければならない」
これが私がドラゴス及びファラ両名への説得に同行できない最大の理由だ。
ほぼ確証しているが、本当にテルスマグニアが存在しているかも確かめるには唯一存在を知る私が行くしかない。
だが……。
「世界会議前にも説明したが私は世界神の制限のせいでまともに力が扱えない。そのため、あの空高く鎮座する天空神へ到達するために絶対に必要な英雄メンバーが二名ほどいる」
「つまりムゲンに加えて二組参加ってことよね。ここだけ結構な大所帯にならないそれ?」
「流石に未知数の相手には万全の準備をしないといけないからな」
他二つはドラゴスとファラという私が前世から信頼を置いている人物のため最小限でもなんとかなる可能性はある。
しかし天空神だけは神器を所有しているだろうということ以外はすべてにおいて謎に包まれている。
「私と共に向かうメンバーは、高い飛翔能力を持つアポロ。そして……重力魔術を扱えるレオン、お前達二人だ」
「なるほど、だから我の力が必要ということか」
「ええっ! ぼ、僕ですか師匠!?」
今使える人員の中で最も天空神にたどり着ける可能性が高いのがこの二人の組み合わせだ。どちらが欠けても天空神到達は困難となるだろう。
「ちょっとムゲンさん、レオンは新しい腕を手に入れたといってもまだ病み上がりですのよ。あまり無茶なことはさせられませんわ」
「そうですね……こうして動けてはいますけどまだまだリハビリは必要だと思いますし……。他の方ではダメなんでしょうか?」
「駄目だ。浮島が近づいた際に感じたが、あれは常にテルスマグニアで周囲に重力の壁を張っている。いくらアポロが龍族といっても神器を前にしては到達できない。できる限り同じ重力魔力で中和する必要があるんだ」
本当は私が自分でやりたいところだが、こんな状態では神器から発せられる重力を中和することはできないだろう。だからこそメンバーの中で唯一重力の魔力に理解のあるレオンが必要となる。
「……わかりました、僕がやります」
「レオンさん!?」
「レオン、そんなこと言ってあなたまた無茶なことしようとしてるのではなくて。これ以上無茶してこの前より酷いことにでもなったら……」
「リーゼらしくない意見だね。『力を持つ者がその責任を果たす』……それがリーゼの言う"強さ"でしょ」
「それは……そうですけども……」
先の戦いでエリーゼとシリカは限界以上の力を引き出したレオンが死にかけた場に居合わせた。その経験が、彼女達がレオンを止めようとする理由だろう。
「大丈夫、無茶はしないよ。僕は僕のできることを全力でやるだけ……それが僕の選んだ自分の在り方なんだ」
そんな優しくも厳しさを交えたレオンの覚悟に流石の二人も反対することもできないようだ。
ホント……レオンは強くなったよ。
「わかりましたわ。だったらわたくしも共に参りましょう、その天空神とやらの牙城に」
「私も、レオンさんを支えたいです。一緒にリハビリ頑張りましょうね」
「うん、二人ともありがとう!」
おーなんだか互いの信頼を再確認してさらに絆が深まったって感じがするねぇ。
だがちょーっと二人のその申し出は待ってほしいんだよな。
「うん、お前ら盛り上がってるとこ悪いんだが……アポロ、お前が全力で飛ぶとして乗せていられる人数の限界は何人だ」
「む、全力か……。三、いや四名までならと言ったところだな」
まぁ面積も考えるとそんなとこだよな。となると、私とレオンは決定で残る定員数はあと二名だけとなってしまうのだが……。
「でしたら、残りはわたくしとシリカで……」
「勝手に決定しようとしてるとこ悪いけど、あたしはアポロと離れる気ないわよ」
強引に話を進めようとするエリーゼにミネルヴァが意見する。まぁ自分のパートナーがメインで話が進んでいるのに勝手に外されて納得しないよなそりゃ。
「む、わたくしはレオンの身を案じここで待っているだけなんてできませんわ。絶対についていきますわよ」
「それはこっちのセリフ。あたしとアポロはどんなに離れてても通じ合ってるけど、あんまり目を離しすぎるのも逆に心配になるのよね。だから、どこへ行くのもあたしはアポロと一緒」
ミネルヴァのやつ、心を繋げてからアポロに対する愛情表現に迷いがなくなったな。うんうんいいことだ。
いいことなんだが……この場ではなんだかややこしいことになってきちゃったぞ。
「というかちょっと待った! ムゲンも行くなら当然ヒロインであるあたしだってついていくに決まってるでしょ。あたし抜きで話を進めないでよ」
「セフィラがヒロインかどうかは置いておいて、わたしもゲンさんが向かうなら同行を願わせてもらいます」
と、いうわけでここに五人の女性達が残りの二枠を巡って激しいいがみ合いに勃発しそうな状況なんだが……。
「ど、どうしましょう師匠」
まぁ理由はどうあれ全員動機はあるし退く気もない。私が無理に選定するのもこじれそうだし。
「わかった、そんじゃミネルヴァはまず決定」
「あら、気を利かせてくれたのかしら」
「お前が一緒だとアポロのやる気が上がるからな」
術式で繋がっているからというのもあるが、アポロとミネルヴァはお互いを想い合う心が強いほどその力を発揮する。だからこその人選というわけだ。
そして残る一人は……。
「あとはじゃんけんで決めてくれ」
「ちょっと! なんか雑じゃない!」
「変に理由つけて決めても絶対誰も納得しないだろ。だったら、いっそのことここは運に身をゆだねてみろ」
正直これが一番後腐れない方法だと思う。負けても誰を責めることもないだろうし。
「まぁいいですわ。要は勝てばいいだけですから」
「はい、誰が勝っても恨みっこなしです」
「勝ち取ります」
「それじゃいくわよー! せーのっ! じゃーんけーん……」
「「「「 ほい! 」」」」
こうして、私達英雄メンバーにおける三組の『神器捜索隊』がここに結成されたのだった。
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