250話 新しい希望


「と、そんなこんなで無事初日の世界会議はつつがなく終了しましたよっと」


「ワウ!?(あれ! ここから英雄の皆さんの紹介を一人づつやっていく流れじゃないんすか!?)」


 そういうのは流石にもういいだろう。大体前回の章でやりつくした感あるしいまさらおさらいしてもな。

 まぁ会議内での英雄紹介はササっと済ませてそのまま続行。その後も数々の議題を話し合い本日はお開きとなった。


「お疲れ様ームゲン。これで世界がもっと良くなるのかしら?」


「いやいやこれだけじゃまだまだ。議題だってまだ出し尽くされてないし多くの疑問に納得してない国家だってもちろんある。この調子じゃまだ数日はかかりそうだ」


「えっ!? 会議って一日だけじゃないの?」


「世界の今後を決めるのに一日だけで済むはずないでしょう……。セフィラはホント政治に疎いんだから」


「べ、別にいいじゃない知らなくても。そういう頭を使うのはあたしの仕事じゃないんだから」


 セフィラに続いてクリファもやって来てやっと私にとっての癒し空間に戻ってきた感じがするな。

 ただ、現在この場にいるのは私達だけではなく……。


「っかー! 意外と緊張するもんだな。騎士になってから式典とかで慣れたつもりだったけどよ」


「あれだけ各国の代表が集まってるんだから仕方ないよ。でも確かに初めて騎士として人前に立った時くらい緊張してたね」


「わたくしはあんなにガチガチになったカロフを見るのは初めてですから面白かったですわ。毛や尻尾も逆立って……」


「おいコラお嬢さん! そういう恥ずかしいことは口に出すなっての!」


「なんだ騎士カロフ? 貴公も辱められる喜びに目覚めたか?」


「んなわけあるか!」


 あっちではカロフ達が楽しそうに先ほどの会議での出来事で盛り上がっているし。


「リィナさん達楽しそうね。ねぇ、レイは英雄として紹介されて緊張しなかった?」


「人に注目されるのは慣れているから大丈夫だよ姉さん。これから大勢の人間の希望となる俺達がこんなことで固まっているようじゃ話にならないだろうしな」


「レイテメェ、聞こえてっぞコラ」


 こいつらはこいつらで相変わらず……。まぁ喧嘩するほど仲がいいって関係なのかね。


「ハハハ! そんな男らしいレイがアタシは好きだから頼もしくて嬉しいよ」


「さ、サティ……そういう恥ずかしいセリフを大声で言うのは控えてくれ……。そういえば姉さん、そういえば各国の代表が座る席になぜ姉さんも座っていたんだ」


「ん? ああ、あれ。リオンがあそこに座ってもいいって言ってくれたからそうしただけなんだけど。何かおかしかったかな?」


 今回の会議は世界初ということで細かい形式は特に決められてはいないのだが……基本的に円卓に座るのは代表者とその配偶者なんだよな。

 まぁつまりリオン王がリアをそこに座らせたという意味は……。


「くっ、あの王はどこだ! 今すぐ抗議しないと気が済まないぞ俺は!」


「ってちょっとレイ!? もーいっつもこうなるんだから」


「ハハハ……こーいうところはもうちょっと控えてほしいね」


 やれやれと思いつつもこういった日常が大切だと感じられるのは、やはり束の間でも平和な時間がここにあるからなんだと実感させられる。

 そんなレイ達のやり取りを見て微笑ましく笑っているのは私だけではなく。


「でも緊張せずにあの場に立ててたのは皆さんやっぱりすごいですよ。僕なんて頭真っ白になっちゃって、何を言ったかも覚えてないから」


「まったく、もっとしっかりしなさいな。ただでさえあなたはあのディガンを打ち負かした魔導師として密かに注目されてるのよ」


「ええっ、そうなの!? でもあれはリーゼとシリカちゃんがいてこそだったでしょ。それで僕の評価が上がるなんておかしいよ」


「おかしくなんてありませんわ。わたくしが"とどめを刺したのはレオン"だと主張してるのですから」


「ええー!?」


「エリーゼさん、レオンさんが動けない間にどんどん噂を広めてましたから」


 なるほどな、だから一部各国の代表も感心したような目でレオンに注目してたのか。本人はまったく気づいてなかったようだが。


「なに、レオン君にはもうその実力は十分に備わっているよ。魔導師ギルドマスターとしても太鼓判を押そう」


「そういえば兄さん、会議の際にふと感じたんですが……セレスティアル代表のラフィナ王女と何かあったんですか?」


 お、流石妹鋭いな。私も薄々感じてはいたんだよな、二人の間に何かとげとげしい感情のぶつかり合いを。


「いや、別に大したことじゃないよ。この間の夜にちょっと鉢合わせてね、少し話をしただけさ」


「……本当にそれだけですか」


「あ、ああそうだが。どうしたんだシリカ?」


「その人は要注意ですね……。ただでさえ女性の扱いに疎い兄さんですから出会う女の人は常々チェックしないと……。ミレイユさんとの約束もありますし」


 あっちはシスコンでこっちはブラコンか……。なんだかリオウも大変そうなこって。


 さて、今揃っているのはこの三組。残りの英雄達はどうしてるかというと……。


「皆遅いわね、ムゲンが会議の後ここに集合って言ってたのに」


「あいつらはあいつらでやることがあるんだから少しくらい大目に見てやれって」


 ディーオはそもそも会議の主催国家として多くの国家との関係を築き上げなければならない立場のため会議の後でもあっちこっちから引っ張りだこ状態。

 アポロはこの機に乗じて世界中に龍王帝国の存在を認知してもらおうと奮闘中。英雄の一人という立場も利用してチャンスを生かそうという魂胆だ。……というのもすべてミネルヴァの考案らしいが。


 残る一組はというと……。


「おいっすー! なんか皆盛り上がってるねー。あたしもまぜてまぜてー」


 と、考えていたらそのメンバーの一人である元気な精霊が壁を通り抜けウキウキとこちらへ飛んできたな。


「フローラ、壁を抜けるのは驚く人間がいるから極力控えろと注意しただろ。っと済まない限、遅くなった」


「いやいや、そっちの要件は元は私が頼んだことだし仕方ないさ。でも今日は結構長いこと作業してたんだな」


「はい……最終……ちょせい。おわた……です」


「おお! マジか!」


 そう言ってミーコから布に包まれた棒状の物体を渡される。なるほどそれで遅くなったのか。

 世界会議開催前から作成を依頼していたものだが、まさかこんなにも早く完成するとは私も予想外だった。


「こきょの……みな……てつだてくれた……から」


 そうか、このヴォリンレクスにはミーコと同じドワーフ族がいるからな。そりゃ腕の立つ職人がそれなりにいればそう難しくもない話だ。


「し、師匠……まさかそれって」


「ああ、そのまさかだ! レオン、左肩の布を取れ」


 レオンが失った左肩の先……そこに被せていた布を取ると以前までびっしりと覆われていた樹木の根はなく、代わりに鋼鉄でできた肩当のようなものが取り付けられていた。

 だが当然ただの肩当ではない。その中心にはぽっかりと大きめの穴が複雑な形状で開けられ、その周りにもいくつか小さな穴が見受けられる。


「これ、取り付ける時すっごく痛かったんですよね……」


「なにしろ神経を繋ぐ手術だったからな、よく耐えたよ。リクの術式補佐があっても痛みを抑えられなかったし」


 これを取り付ける作業はそれはそれは大変だった。リオウが呼び出したリクの術式によって繋がれた木の根、それを取り外しながら鋼鉄の部品を取り付けていくのには強烈な痛みを伴う。

 麻酔はないがくっついていたリクの木の根からは痛みを和らげる術式が組み込まれていたのでそれを利用し接合していったのだが……やはり魔力で神経を繋ぐとなると完全に抑えきれるものではなかった。

 魔術で手足をがっちり抑えておかないといけなくなるほど暴れようとしたから大変だったぞ。


「あまりの激痛に失禁するほどだったしな」


「ちょ! それは言わない約束でしょ師匠!?」


 まぁそんな恥ずかしい出来事もあってようやく完成したわけだ。え? 何がだって?

 そりゃもちろん、レオンの失った肩から先に着けるための接続部分が、だ。

 そして今回ミーコが持ってきてくれたこれこそが……。


「おー、見事なまでに完璧な腕に仕上がってるな」


 完成された腕は私の要望通り人間のそれと遜色ないものでありサイズもキチンとレオンのサイズに合わせて調整されている。

 叩いてみて硬さも十分。細かい内部構造まで見るには分解しないとわからなそうだが、肩から腕の先まで魔力が流れる構造になっているのは理解できる。


「ほー、そいつがレオ坊の新しい腕か。なかなかイカしてんじゃねぇか」


「よかったねレオン君」


「う、うん、ありがとう。なんだかまたドキドキしてきた」


 そのドキドキは嬉しさ半分怖さ半分ってとこかね。悪い言い方をすれば未知の技術の実験台になってるようなものだし。


「よーしそんじゃ早速取り付けるぞー」


「え、ちょっと待ってください師匠もうちょっと心の準備と……ぎゃ!?」

カチッ


 腕の接続をロックするジョイント部分が綺麗にハマる音が聞こえしっかり装着されたことを確認する。接続する一瞬、魔力で神経を繋ぐためレオンの体がビクッとはねるがそれから過度な反応はなく特に人体に影響はなさそうなのでヨシ!


「だ、大丈夫ですかレオンさん?」


「なんか肩の先に違和感が生まれたけど大丈夫。上手く言えないんだけど体から何か物体が生えたらこんな感覚なのかな……」


 レオンの言う感覚はあながち間違ってないかもな。これはあくまでも"失った腕の代わり"ではあるが、今まで自分に存在しなかったものが足されたようなものだ。

 前世でもいろんな種族の腕を体にくっつけて生やしたヤバいやつとかいたけど、それと似たようなものかもしれん。


「だ、だからなのかな。変なものが動いてる感覚が体に伝わってきてちょっと怖い」


「本当に大丈夫なんですのこれ? ビクビク変に動いてますわよ。ちゃんとレオンが操れてるのか怪しく見えますわ」


「う、うん……僕も動かしてる感覚はあるんだけど思った通りに動いてなくて」


「それなら問題ない。まだ腕全体にレオンの魔力が馴染んでないってだけだ。ただ、本当の手足のように扱えるかはレオンの頑張り次第だぞ」


 そう言って私は接続された腕の肩の部分に手を乗せ、魔力をちょいと流し込むと……。


「うわっ! な、なにか外れましたよ師匠!?」


「ちょっとムゲンさん、なにいきなり壊してますの」


「壊してないっての。ここだけは腕の立つ技術者じゃなくてもメンテナンスできるよう外しやすい構造にしてくれって頼んだんだ。その証拠に、ほれこれ見ろ」


 部品の外れた先に見えるのはぼんやりと光る手のひらサイズの球体だ。


「これが腕の動力になってるコアだ。魔導エンジンの技術を応用して魔力を送り続ければ半永久的に動き続ける構造となっている」


「つまり、これに僕の魔力が流れてるんですね」


「今は魔力同調のために調整機能が働いてるだけで、その中に含まれてたお前の体の信号をキャッチして腕がビクビクしてたわけだ。それが終ったらお前は自分の意思で腕を動かす命令を魔力に流さないといけないんだぞ」


「え、それって凄く難しいんじゃないですか」


 その通り、実際に魔導アームを本物の腕と遜色なく日常で使うとなると、常に適切な魔力を送り込み細かい命令も同時に処理しなければならない。ということになる。


 その通り、実際に魔導アームを本物の腕と遜色なく日常で使うとなると、常に適切な魔力を送り込み細かい命令も同時に処理しなければならない。ということになる。


「な、なんか急に自信なくなってきました……」


「いやいやそう難しく考えることじゃないっての。以前お前の魔力を安定させるために特殊な素材でできた槍を魔力でコントロールさせる修行やっただろ。要はあれと同じ要領だ」


「この腕も、黒棒と同じ……なるほど、そう考えるとやれそうな気がします」


 レオンのやつは自分で気づいてないだけでそれなりに才能があるからな。無理に押し付けるんじゃなくこうして誘導してやればおのずと結果はついてくるはずだ。


「よかったね~レオっち。これで「使えない不良品だ!」とか文句言い出したら頑張って作った星夜とミーコちゃんに代わってあたしがプンプンに怒ってたところだよ。二人ともこまか~い設計とか考えて一生懸命だったんだから」


「そんな文句なんてまったくありませんよ。というより……本当に感謝してます。逆に申し訳なさ過ぎて、このご恩をどうやって返せばいいのか……」


「気にするな、俺はただ頼まれただけだからな。フローラもあまり煽るような言い方はするな」


「えへへ、ごめんなさ~い」


「まったく、あまりレオンを不安にさせないでちょうだい。もし危害を加えるならわたくしが相手になりますわよ」


「お、やるならあたしだって負けないよ~エリちゃん。こう見えても強いんだから……いてっ!」


「こんなところで問題を起こそうとするな」


 なんだか楽しそうにやる気満々だったフローラに星夜がチョップを入れて大人しくさせる。ホント精霊族はその場のノリで生きてるよな。


「現在オレ達はムゲンを通してこの国で雇われ技師のような扱いでもあるからな。それなりの仕事をさせてもらったというわけだ。……ただ、ムゲンの要求が少々多いのが忙しさを助長する原因でもあるが」


「悪い悪い。星夜の力って便利だからついな」


「その力を与えたのも元はと言えば女神であるあたしの功績よね。うんうん、流石あたし」


「いやその理屈はおかしい」


「なんでよ! いいじゃないあたしの手柄で!?」


 もともとセフィラだって誰にどういう力が送られたのかわかってすらいないだろうに。この力を上手く使ってここまで便利なものに仕上げたのは一途に星夜のおかげだ。


「なぁ、盛り上がってるとこ悪いけどさ。そろそろ皆揃いそうだよ」


「お?」


 遠くから聞こえてくる足音を聞き察したのか、そうサティが言うのと同時に部屋の扉が開かれそこには二組の男女が立っていた。

 どうやら、これで全員揃ったみたいだな。


「うぬ~……疲れたのだ~。あっちからもこっちからも同じような質問責めでノイローゼになりそうなのだ」


「ディーオ様、どうぞあちらのソファでおくつろぎを。わたくしは疲労に効くお飲み物をご用意いたしますので」


「我はそれなりに有意義な時間を過ごさせてもらったぞ! やはり一国を治める者達との会話は得るものが大きい!」


「だからってアポロは遠慮しなさすぎなのよ……。フォローするこっちの身にもなってよね」


 こっちはこっちで何やらひと悶着あったってとこか。見た感じお疲れな様子な者も若干いるようだが……。


「うっし、全員揃ったんなら早速話を始めさせてもらうぞ」


「明日じゃダメかの~」


 ダメ、こっちだって重要な要件なんだからこうして呼んだわけだし。伝えるのが遅くなるほど対応だって遅れてしまう。


「というか、結局アタシらをここに呼んだ理由はなんなんだい?」


「ああ、だらだら説明するよりまずは要件を簡潔に言わせてもらう」


 ここに英雄メンバーを呼んだのには理由がある。それは、この先こいつらにも必要となる力を得るための重要な案件だからだ。


「お前達に、『神器捜索』をしてもらう」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る