248話 英雄達の親睦会 side男祭り
時は親睦会開始まで遡る……。
会場を分け、女性グループはセフィラとクリファに進行役を任せた。最初は戸惑うだろうが、あの二人ならきっと大丈夫だと私は信じている。
なのでこちらはこちら、私の呼びかけに応じて集まってくれた六人の英雄達を見事私の手腕で一致団結まとめてみせましょうじゃないか。
「さぁさぁお前ら! 今宵は飲んで食って楽しく盛り上がりながら互いへの理解を存分に深めようじゃあーりませんか!」
「ワウワウ(いつも以上に無駄にテンション高いキャラっすね。どこから出したんすかそのマイク)」
「細かいことは気にしない! ほらほら料理はそれぞれの出身地を考慮して色とりどりのものを用意してもらったし、お酒も古今東西あらゆるものを取り揃えているぞ!」
まぁ私は一度日本に戻ったことで犬から年齢リセット扱いされてしまったが……どうにか監視を掻い潜って飲んでやろうという寸法さ。
……と、こんな感じで先ほどからテンションアゲアゲで盛り上げようとはしているんだが。
「「「「「「 …… 」」」」」」
なんでお前ら円卓を囲んでそんな微妙な空気になってんの?
確かにまだお互い会ったばかりでそんなに会話が弾まない間柄もいるだろうけど。
アポロやディーオなんかはすぐノッてくれると思ったのにな。
「どうしたお前ら、雰囲気悪いぞ? バカになれとまでは言わないが、せっかくなんだし楽しんでくれよ」
「うむ、盟友よ我もそうしたいのはやまやまなのだが……どうもこの雰囲気を楽しめない者がいるようでな。それを無視して騒ぎ立てるの無粋かと思っているわけだ」
楽しめない奴っていうとこの面子ならそこそこいそうではあるが、その中でもアポロが言っているのは……。
「ハッ! 別にこの会に不満があるってわけじゃねぇよ。ただ、超えるべき相手を前にしてるとのんきに騒ぐ気も起きねぇってだけだ」
お前かカロフ。
カロフとアポロが第一大陸でいろいろあったのは聞いてはいるが、まさかカロフがそこまで気にしてるとは思ってなかった。
「まぁまぁカロフ。アポロもこれからは一緒に世界の危機に立ち向かう仲間なんだし、そう敵視しなくても」
「別にオッサンのことを敵だなんて思っちゃいねぇよ。ただ、俺がまだ未熟な立場だってのにこうして同じ席に着くのはプライドが許せねぇ」
なんかこじらせてんなー。まぁカロフはこういうとこ頑固だからヘタに刺激しない方がいいんだろうけど……。
「ふん、一度敗退した相手と同じ食卓は囲めないか。わからなくはないが……相変わらず短絡的な考えをしているな」
「んだとレイ。テメェケンカ売ってんのか」
あーもう、まーた話をややこしくする。出会ってから今日までどうしてこの二人はこうしていがみ合うかね。
というかレイのやつも冷静なようでちょっとピリピリしてない?
「あやつもなかなか近寄り難いというか……怒っておるような雰囲気だったので余も委縮してしまっておったのだ」
「なるほど、まぁ気持ちはわかる」
席順であの二人に挟まれてるレオンもビビりまくって硬直してるみたいだしな。
星夜は……特に変わった様子はない。相変わらずいつも冷静だなあ。
とにかく今はこの場を収めて険悪ムードを脱しなければ。
「まぁまぁお前ら落ち着けって。私達はこれから共に戦う仲間、喧嘩するほど仲がいいのも悪くないが手を出すのはなしだ。ほら、ちょうど酒も運ばれてきたし、今回はこれでパーッとやりながらお互いの腹の内を存分にぶつけ合えばいいさ」
「……ま、俺だって本気でいがみ合おうなんて思っちゃいねぇよ。まだ自分でも納得できてねぇことがいくつかあるってだけで……うめぇなこれ」
「そうだな、俺も少々気が立っていたよう……いつもより飲みやすい酒だな」
よし、どうやら『おいしいOSAKEで楽しんじゃおうZE!』作戦は順調のようだ。
この日のために私はここに揃った英雄達が好むであろう酒を研究し、こうして用意させた。
古くから酒の席というのは凝り固まった人の頭を柔らかくし、本音を引き出し、それによって互いの絆が深まることを私は実体験として知っている。
ならば今回もその力を存分に活用させてもらおう! という作戦さ。
ちなみにカロフが飲んでいるのは魔術で瞬間冷凍させた果実を粉砕して酒に浸透させたストロングなやつで、レイのは果実のうま味をそのままにスッキリとした味わいに仕立て上げた酒だ。
「カロフよ、我は逃げも隠れもせん。挑戦したいというのなら我はいつでも受けて立つぞ」
「へっ、その自信いつかぜってー打ち砕いてやるから覚悟しとけよオッサン」
「あと、我はオッサンではない。これでも龍族ではまだまだ若い方で……」
「はいはいアポロもそのくらいにして今は飲んで飲んで」
龍族はアルコールにめっぽう強いので今回用意したのはアポロのためだけに作らせた特別な火酒だ。
これならば龍族であっても多少は"効く"だろう。
「レイ……お前もオレとの勝負にまだ納得してないのは理解してるつもりだ。神器にも認められ、今度こそ決着をつけたいと考えていることだろう」
「なら、今からでもつけるか……決着を」
っと、ちょっと目を離した隙にレイと星夜がなんかバトルモード入ろうとしてない?
レイはともかく星夜はあんまり好戦的な性格じゃないから大丈夫だとは思っていたんだが……。
「ただオレもここに来てからそれなりに忙しい身でな。限の頼みやそこの少年の腕を作らなけばならない」
そう言いながら私とレオンを交互に見てレイの挑発をするりとかわす。やっぱスパイともなると話術も達者でないと務まらないんだろうな。
「ふん、結局は俺とアーリュスワイズの力に怖気づいただけじゃないのか」
「本音を交えればそれも一つの理由だな」
「なんだと?」
「神器の力は未知数だ。だからこそ、その対抗策を練る時間や手段を得るのも必要なことだとオレは考えている」
流石『失敗したらすべて終わり』な世界で生きてきた星夜ならではの発言ってところか。
この世界の常識で生きてきたカロフやアポロみたいな武人気質なら、今の星夜の発言は"逃げ"や"恥"と考えるだろう。やっぱり異世界人だけあって星夜は戦いに対する考え方も違うな。
まぁ異世界人といっても星夜の場合、生まれも生きてきた世界もちょっとどころではないほど変わってるところはあるけどな。
「勝つためならばどんな手段でも使え……そう育てられたからな。……あと、オレは意外と負けず嫌いらしい」
「ふっ、いいだろう。ならば貴様がどんな手段を用いようとも俺が上だということを証明してやるぞ……セイヤ」
「うんうん、こっちもなかなかいい感じだぁね。ほれ、レイももっとじゃんじゃん飲め飲め。星夜にはこっち、いろいろ揃えてみたぞ」
「ビールか? しかし一つひとつ種類が違うな」
実は前々から私はヴォリンレクスの酒造に関わっており、様々なビール製造も考案させてもらっていたのだ。エールはもちろん、ラガーや自然発酵などそれこそ様々なものを試してもらった。
「これは……昔ドイツで成人に成りすました際に飲んだものに味が似ているか」
「ちゃんとソーセージも各種用意してまっせ」
星夜にはなんとなく地球を思い出せるような食事や酒を用意することで少しでも気を緩ませてもらうという考えだ。
「限……お前、オレ達をとことん酔わせて打ち解けさせようという腹積もりか」
「ま、そんなとこ」
バレてたか。しかし星夜もそれ以上は文句もなく特に異論もないようなので多少は私の考えに理解を示してくれているということか。
……となれば、作戦はこのまま続行だ。じゃんじゃん注いでいくぞ。
「ほらほら、せっかく盛り上がってきたんだしレオンもディーオも飲め飲め。今日は私のおごりだぞ」
「おごりと言ってもお主の扱う資金のほとんどは余の国の経費ではないか」
「えっと、僕成人になって間もないのでお酒はまだちょっと抵抗が……」
「大丈夫だって、そんなレオンにも飲みやすいものを考えておいた」
私が日本に戻ってる間にこの二人もちゃっかり成人(この世界の基準においてだが)してやがったからな。
肉体年齢的には私も同じようなものだというに犬の監視がこれまた厳しいんだ。チクショウ。
なので私が楽しめない分こいつらにお酒の素晴らしさと……のちに待っているだろう恐ろしさを存分に味わってもらうことにするぜ。
「なんか、不思議な味ですね。いつも飲んでるミルクティーがこんな風になるなんて」
「うむ、これまでは催しの中では形だけで実際に飲む機会はなかったが、なかなか良いものだのう」
レオンのやつ、最近はエリーゼの誘いでよく一緒にお茶を飲んでるとの話をフィオさんから聞いていたので……今回はそれにぶち込んでやったぜ。これならレオンも飲みやすいだろう。
ディーオは好みが絞れなかったので、とりあえず偉い人が飲んでるイメージのある上質なワインを飲ませてみたんだが好評みたいだな。
よしよし、これでどうにか全員に酒がいきわたったな。皆おいしそうに飲んでやがるぜ。
「うっし、それじゃあ私もアステリムで作られた米を使用して作ったどぶろくを注いで……」
「ワウン!(おっと、自然な流れでご主人も飲もうとするんじゃねぇっすよ!)」
「くそっ、騙されんかったか」
「ワフ……ワウ(これは没収しとくっす……あっちにジュースあるっすからご主人はそれで我慢するっすよ)」
自然に飲酒をする作戦は失敗に終わったが、親睦会の方は最初に比べて会話も弾……んでるのかどうかはわからないが、とにかく酒の力を借りて皆少しづつ打ち解けてる……ように見えなくもない。
ただ会はまだ始まったばかり……本音をぶつけ合った英雄達はここからさらに盛り上げていくだろう!
……と、思っていたんだがなぁ。
「前々から思っていたがカロフ! どうして貴様はそう短絡的に物事を考えるんだ! その脳みそにはもっと大局的に考えるということを知らないのか!」
「あんだとレイ! そういうテメェだって喧嘩っ早いだろうが! まだまだ思考がガキなんじゃねぇか? あぁん!?」
「はっはっは! 若者達よ、世界の広さに比べればお主らの考えなど米粒のようなものだろう! どちらもさして変わらぬであろう!」
「誰がちっぽけだ! 確かにオッサンに比べりゃナリも小せぇが頭ん中まで言われるのは納得いかねぇぞ!」
「我は別に貶したわけではないのだが……自身を小さく見積もらないその姿勢は大いに良いと思うぞ!」
あっちはなんか出てくる言葉がどれも好戦的でいつ爆発するのかヒヤヒヤする。いつの間にかアポロも人化を解いて龍の姿になってるし。
んでこっちは……。
「へいが~……僕、僕ほんどに自分がなざけなくで……。でぼ、がんばっで皆さんの隣に立とうとどりょぐじだんでずぅ」
「うむ! わかる! わかるぞレオンよ! お前はよくやった! それはここにいる誰もが理解しておろう! のう、お主もそう思うであろう!?」
「ん? ああ、そうだな」
「ゼイヤざ~ん! ありがどうございばす! ズズ……こんなぼぐをはげまじで……。腕をづくってくれるって聞いてぼぐは……ぼぐはぼんどに嬉じくで……!」
「まぁ、成り行きだがな」
「ぬおおおおお! 今夜はホントにめでたいぞ! カロフ達も盛り上がっておるようだし今宵は楽しくてたまらんの!」
さっきからずっとこんなテンションだ。まさかレオンが泣き上戸だとはな。
ディーオは……酔ってるようにも見えるがあいつはいつもあんな感じなのでよくわからんな。
「冷静なのは星夜だけか。とりあえずあいつだけでもこっちに呼んで少しづつ事態の鎮静化を……ん?」
よく見ると表情は変わらないが星夜も若干顔が赤くなってる。
まさか、表情に出ないだけで星夜ももしかして酔っているのか? さっきから生返事ばかりだし……。
やべーぞ収拾がつかねぇ。どうすんだこれ。
「へっ、そもそも女の尻に敷かれてるような奴じゃこれからの戦いにも期待できるかどうか不安だぜ」
「なっ! 別に尻に敷かれてなどいない! 俺とサティは心が通じ合う最高の女性だ。共にお互いを高め合えるな。お前こそなんだ! 多くの女を侍らせて不純じゃないのか!」
「そ、それは関係ねぇだろ! それに心が通じ合ってるって話じゃ幼馴染である俺とリィナの方が上だぜ。お嬢さんもああ見えて努力家だしカトレアのやつも……」
「エルフのレイよ、確かに不特定多数の女性と関係を持つのは不純と捉えられもしよう……。しかし英雄は色を好むともいうではないか。我は彼女達一人ひとりともよき伴侶に成り得ると思うぞ。……だが美しさと絆の深さで言えば我が愛しきネルに勝るものはない、と断言しておくがな」
「なに? 聞き捨てならないな。サティは最高の女性であり俺との傷なは誰にも負けない」
……なんか方向が変わってきたな。なんだろうこれ? 彼女自慢?
「絆の深さや女性の美しさは個人の概念で測れるものじゃない……。だが、オレはミーコのことをとても素晴らしい女性だと思っている。フローラもまだ子供のような純粋さを持ち合わせているにしても、この先美しく成長するだろう……」
おぉう!? いきなり星夜が饒舌に語りだしてビックリした。お前そんなキャラだったか?
というかちょっと待て。今まで好戦的三人組だけで言い争ってたのにそっち側の人間も参加しちゃったら……。
「むむー! それを言うならサロマほど完璧な女性はおらぬのだーっ! 戦う術は持たぬとも、常に余のため気を配り支えてくれるサロマと余の関係こそが誰よりも素晴らしいはずなのだ!」
「それを言うなら僕だって~。リーゼは厳しい面もあるけど優しい面もある素敵な女性だし……シリカちゃんだって誰よりも頑張って人のためになることをしようとする凄くいい子だよ。そんな二人が僕に好意を寄せてくれてるのがとっても誇らしいんだ」
なんと全員参加で口論は誰のパートナーが最高でどのグループが一番絆が深いかなどといつもと違う方向に言い争いが発展してしまったぞ。
……いや、こいつらもただ自分のパートナーが最高だって言ってるだけで別に悪いことじゃないんだけどな。
ただ……。
「俺の方が……!」「いや俺とサティが……」「僕達だって……」「総合的に考えてやはりオレ達に……」「我とネルこそが至高である……!」「余らが一番に決まっておろうっ……!」
どいつもこいつも主張が強すぎる!
マズいな、ただの悪口争いなら手も出ない範囲で済んでいたというのに、なぜかこいつらこれだけは絶対に譲りたくないようで仁義なきバトルに突入してしまいそうだ。
「ワウウ……(ど、どうするんすかご主人……)」
「なに、私に任せておけ」
こいつらをまとめるのは私の役目。これくらいのこと諫められずにこれからリーダーなどやっていけないからな。
「おいお前ら! いつまでもそんな言い争いをしても結論はでない! 少しは自重しろ! 皆には皆の一番がある、それでいいじゃないか!」
私の一言に全員が話を耳を向け、その熱を収めていく。
そうだ、こいつらにはこいつらだけの一番がある。それを忘れて言い争うのはよくないことだ。
……なにより、こいつらは前提を間違えている。
「私のヒロインであるセフィラとクリファこそ最高で、その物語の主人公である私こそが頂点に決まっているだろう!」
完璧な回答だ。これで皆も納得してくれたことだ……。
「(おめー)(貴様)(師匠)(限)(盟友)(ムゲン) が一番自重 (しろや!)(しろ!)(してください!)(しとけ!)(せんか!)(せぬか!)」
チュドオオオオオオオオオオオオオン!
「なんでええええええ!?」
「……と、いうわけで、そっから全員歯止めが利かなくなったみたいでな」
結局ドンパチ始めてしまったわけだ……。しかも止めたくとも力が抑えられている今の私ではそれも叶わずこうして逃げてきたという所存である。
「だから今もあっちでドンパチ聞こえてるってわけね」
「ワフゥ(お酒を飲ませるまではよかったんすけどね)」
ちょっとあいつら個性強すぎない? いや前世でもなかなかに個性的なメンバーばかりだった気はするが、今回は全員が全員物語の主人公が如く勝手な面々ばかりで扱いが難しい。
「しょうがないね。んじゃちょっくらアタシらが行って止めてくるとするかい」
「ええ、アポロも含めて皆あたし達には全力で攻撃しようとしないでしょうし」
「まったく、世話が焼けますわね」
ああ、なんか凄く頼もしいぞ。なんだかんだ言って今のメンバーって大体パートナーの女性の尻に敷かれてるよな。
こうしてセフィラとクリファを覗く女性陣は暴走した酔っ払いどもを抑えるべく隣の会場へと向かっていくのだった。
「はぁ……なんか、自分が情けなくなるな。力が抑えられてるとはいえあいつらをまとめることすら満足にできないなんて」
「ええそうね、今のゲンさんはとっても情けないです」
「せっかく最高のパートナーだと自慢しようと思ったのにこれじゃできないじゃない」
うぐ……返す言葉も出ないので二人の言葉がグサグサ胸に突き刺さる。
「でも、これから世界を救って、誰よりも頼もしくなってくれるんですよね」
「ん?」
「そうね、この先本当にあたし達が胸を張って自慢できる最高のパートナーになってくれるんでしょ」
「セフィラ……クリファ……」
まったく、私のヒロイン様方はこんな惨めな姿の主人公でも見捨てないでくれる……本当に最高のパートナーだ。
「ああ、今がどんなにかっこ悪くても……最終的には誰もが認める最高の-魔導神-の名をとどろかせてやるからな。だから、そんな未来のために、絶対に世界を救ってやるさ」
こうして決意を再び固めた夜は、隣の部屋から聞こえる男衆の断末魔と共に過ぎていくのだった。
かくして英雄は揃い、終極神へと対抗するための新たなる物語の幕開けへと歩みを進める。
第10章 英雄の終結 編 -完-
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