247話 英雄達の親睦会 side女子会


 そんなこんなで……急遽始まった男女分かれての親睦会。その中であたしはなぜか……。


「え、えっと……ほ、本日はお集まりいただき大変ありがとう……ございます。し……進行役の、セフィラです」


 女子側の進行役を任されていた。いや、正確にはあたしともう一人、クリファも一緒にだけど。


(うう……皆じっと見つめてくる。ムゲンってば、いきなり進行役だなんていわれてもどうすりゃいいのよ)


 ムゲンは「進行役といっても特別なことはしなくていい。ただの仲良しお喋り女子会を楽しめばいいのさ」なんて言ってたけど……それが一番難しいんだってば。


 確かにあたしはこれまで女神として人の前に立つこともあったけど、話を進めるのはいっつも信者の人であたしはただのお飾り。

 こんなに注目されながら話す経験なんて……。


「皆様、本日はゲンさんが突発的に考案した会だというのに一人も欠けることなく集まっていただき本当にありがとうございます。わたしたちもあの人のサプライズに巻き込まれた側ではありますが、進行役として精一杯務めさせていただきますね」


「……え!?」


「ちょっと、なぁにその間抜け面は。あなたも進行役なんだからきちんとしなさい」


「いや……だって」


 こんなにスラスラとセリフが出てくるクリファに正直驚いた。だって立場は違えど同じ女神として引きこもっていたはずのクリファがどうしてこんな堂々と人前で語れるのかって。


「理由はどうあれ、わたしはゲンさんに任された進行役を全うするわ。これまでのわたしなんて関係ない、あの人と生きるこれからのために、わたしは変わっていくと決めたのですから」


「……」


 そんなクリファの覚悟にあたしは正直圧倒された。

 確かに、この先ムゲンや……この世界の皆と一緒にいたいなら、今までの女神政権にいたあたしじゃダメだってことは……あたしも薄々感じてはいたこと。

 ムゲンはあたしを終極神の呪縛から解放してくれた。でも、もしかしたらあたしの心はまだあの頃に囚われてるのかもしれない。


「セフィラ、あなたはどうするのかしら?」


 上等よ、だったらあたしだって変わってやる。ムゲンがこの世界の神様になるっていうなら、あたしも本当にこの世界の“女神”として相応しい女に!


「あたし達、まだまだお互いに知らないことが沢山あるけど! この会で沢山お喋りして、理解を深めて、仲良くなって……そんでもって皆で世界を救っちゃいましょう!」


 ……って流石にはっちゃけすぎだったかな。

 ほら、突然テンション上げて喋ったせいで皆も驚いて……。


「アハハ! いいねぇセフィラ、皆で仲良くなって世界を救うかい……アタシは好きだよそういうの」


「はい、よくある上流階級の方々のパーティーとは違いますが、今回は主催がムゲン様ですから。セフィラ様、クリファ様両名の良さが現れておりました」


「私も、とてもよかったと思いますよ。ほら、セフィラさんもクリファさんもこっちに来て楽しみましょう」


 そんな彼女達の称賛に拍手も加えられて、あたしとクリファはシリカに誘導されて皆の輪の中に入っていく。

 なんかこれ……あたし達がこの世界に受け入れられた気がして凄く嬉しいわね。


 でもこの程度で浮かれてちゃダメ。もっとみんなから受け入れられるよう頑張んないとね。


「それではわたしが料理を取り分けますね」


 どうやらクリファも考えは同じみたいね。皆に受け入れられようとまずは率先して行動して。


「はい、まずはこんなものかしら。どんどん奥の人に回してあげてくださいね」


 と、そんなことを考えてるうちに早速クリファが取り分けた皿が隣のリィナに回された……んだけど。


「あ……はい。これをですか……」


ぐっちゃぐちゃ


 盛り方が雑すぎ!? なにあれ、メイン料理の上に前菜やサラダが混ざったものが山盛りに乗せられてるじゃない!

 備え付けられたバケットにお肉の汁やサラダのドレッシングがどんどん浸み込んじゃってるし!


「ふふ、完璧な進行役ね」


 しかも盛り付けた当の本人はものすごいドヤ顔だし!


(……あ、思い出した。確かクリファの料理センスって)


 そう、最悪だった。そうよ、一度こいつを厨房に立たせてヒドイ目にあったじゃない。

 まさか盛り付けるだけでもそのダメセンスが遺憾なく発揮されちゃうだなんて……。


 しかも本人には自覚がなくて自信満々に次に行こうとしてるし。リィナも困惑して固まっちゃってるじゃない。

 これ以上クリファに任せるのは危険……!


「ちょっと待ちなさいクリファ! 盛り付けはあたしがやるからあんたはおとなしくしてなさい!」


「な、なにセフィラ……。わたしの活躍の場を横取りする気で……」


「これ以上あんたに任せるとどうなるかわかったもんじゃないの! ほら貸しなさい!」


「あ、ちょっと何するの!」


 なんとかクリファが行動を始める前に獲物を奪えたわ。あとは抵抗するクリファを掻い潜ってどう動くかだけど……。


「セフィラ様、わたくしもお手伝いさせていただきます。やはりただもてなされるだけというのはメイドとして申し訳ありませんから」


「わ、私も手伝います。セフィラさんとは寮で一緒にお料理もしてましたし」


「二人ともありがと~」


 うう、フォローがありがたすぎて涙が出そう。サロマもシリカもクリファの家事音痴を察してくれたみたい。

 二人は料理全般に信頼がおけるし、あたしはこのままクリファが暴走しないよう抑え込む方に集中させてもらうとして……他の皆の反応は。


「リィナ、それアタシがもらうよ。こういうごちゃ混ぜのものは食いなれてるからな」


「あ、ありがとうサティさん」


 クリファのごちゃ盛りはサティがどうにかしてくれるみたい。

 さてさて、知り合い組はいいとして問題は……まだ出会って数日の彼女達の反応はどうかしら。


「ムゲンが集めた人材だけあって騒がしいのが多いわね」


「でもでもあたしはこういう皆がワイワイするの大好きだよ! イエー! もっと楽しくいこー!」


「そういうあなたが一番騒がしいじゃない……。なんでわたしが出会う精霊族ってこういうのばかりなのかしら」


「あの……ごめな……さい」


「あ、別に怒ってるわけじゃなくて……。それよりあなた大丈夫? 皆と同じ高さの椅子でちゃんと食べられるの?」


「やれる……です」


 あっちはあっちでなんか会話が弾んでる……のかな?

 しかしなんていうか……個性的な娘ばかりよね。でもこれから一緒に戦ってく仲間なんだから、互いに気さくに話し合える関係になるのは重要のはず。


(こういう時は、何か共通の話題で盛り上げるのが進行役の務め……)


 適当に日本から取り寄せた雑誌の中にも女子会特集みたいな記事があったし、今こそその知識を披露する時。


「ねぇねぇ、皆は好きな人とかいるのかな~」


 これぞ女子会の鉄板ネタ、"恋バナ"! やっぱ女子の盛り上がる話といったらこれよね。

 のはずだったんだけど……。


「今更って感じだねぇ」


「セフィラさん、その話題に関してはもう皆さん周知のことかと……」


 あ、あれ~? 誰もが絶対気になる話題だと思ったのに皆反応が薄い。

 それに周知って……。


「ここに到着した時、皆さんそれぞれ恋人パートナーと一緒だったでしょう。それで大体は察したでしょうから今更その話題を持ち出すのも……ということでしょ」


「あ、そっか」


 そりゃ好きな人が誰か質問しても大体答えわかっちゃってるからイマイチ盛り上がりに欠けちゃうか。

 う~ん、いい話題だと思ったのにこれじゃ思いっきり逆効果じゃない。


「セフィラは相変わらず考えが足りてないようなので、ここは一つわたしが話題を提案します」


「む、あたしの手柄を横取りする気ね」


「まーまーいいじゃんかセフィラ。とにかくクリファの意見も聞いてみようよ」


「まぁいいけど……」


 サティに救われたわねクリファ。ここは"元"宿敵達の手腕を見せてもらうことにするわ。つまらない話題だったら即刻取り下げてやるんだから。


「わたしが提案する話題は……ズバリ、パートナーとの"馴れ初め"です」


「なるほど、そう来たかい」

「確かに、気になるといえばそうですわね」

「でもちょと……はずかし……です」


 むむむ、やるわねクリファ。確かに馴れ初めなんて人それぞれだし、そういう体験は聞くだけでも嬉し恥ずかしも楽しい話題だもの。

 同じ恋バナでも内容の取捨選択で盛り上がり方も変わる……盲点だったわ。


「それで、誰から話すの?」


「わたし達を含めてパートナーが決まっているのは全部で7組。だからここに1~7までの数字が書かれたカードを用意しました」


「用意いいわね」


 もしかしてあたしが率先してなければ自分から話題を振ってたんじゃないの?


 とりあえず、クリファの指示通りそれぞれシャッフルされたカードを順番に取っていって……。


「それでは……まずは1番の方から話を聞かせていただきましょうか」


「い、1番……私です」


 手を挙げたのはリィナ。うんうん、この個性的な面子の中では一番無難なところから始まったって感じじゃないかしら。

 え、順番に作為的なものを感じる? どうしてかしら?


「あなたの恋人っていうと、あの亜人さんよね」


「は、はい。カロフとはその……幼馴染で、私が小さいころに村に住むことになってから出会ったの。それからはいつも一緒で……楽しかったな」


 幼馴染かぁ、恋愛モノとしてはやっぱり欠かせない存在よね。昔から一緒だった二人がくっつく展開ていうのはやっぱり王道なのかな。

 あたしもムゲンと幼馴染だったらよかったんだけど、こればっかりは無理な話だからちょっと羨ましい。


「カロフお義兄様とはそんな昔からの仲でしたのね。だから息もぴったりと」


「は、恥ずかしいな。でも……一時期は離れることになっちゃて、お互いに気まずい状況が続いたこともあったし」


「ほえー、それじゃあ二人はそこからまた出会って、また好きになちゃったって感じなの?」


「うん、久しぶりに再会して、二人で大きな困難を超えて、私達は気持ちが通じ合えたんだ」


 完璧な馴れ初めね、皆真剣に聞きほれちゃってる、あたしもだけど。


「でもそういえば……確か第一大陸までわたし達を捜しに来たときは他にも女性を連れてたわよね?」


「えーっと、カロフってば無自覚で女性の気を惹いちゃうところがあるからいろいろあって……けど、負けるつもりはないですから」


 まぁ確かにリィナもいろいろと苦労してるわよね。ライバルに負けないって姿勢は共感できるし、個人的に応援してるわ。


「それじゃあそろそろ次に行きましょう、2番の人はどなたですか」


「おっと、アタシだね。初っ端からハードルを上げられたから緊張するね」


「い、いえいえ、私の話なんかそこまで大したものじゃないですから」


 リィナは謙遜してるけどあたしも十分ハードル上がってると思う。人の恋愛話ってなんか本人が思ってるより五割り増しくらいいい話に聞こえるもの。


「アタシとレイは、最初は対立してたんだ。って言ってもあっちから一方的に敵意を向けられてたって話だけどね」


「敵さん……だたです?」


「敵っていうほどでもないさ。レイにはレイなりの理由があったし。でもあいつの姉がアタシの団にいたことで一緒に行動するようになってね。いっつも怒ってるのに心の中では仲間思い……そんなレイに少しづつ惹かれていったんだね」


 そういえばサティはずっと新魔族であることを隠して第二大陸で行動してたのよね。


「アタシが新魔族だってバレて、レイは出ていっちまった……けど、決死の戦いに向かったアタシを仲間が、そしてレイが助けに来てくれた時気づいたんだ。アタシもレイのことが好きになっていたんだってな」


「それで晴れて恋人になったってことですよね。素敵だと思います」


「あ、ありがとな。でもそうだな……付け加えるなら、アタシはレイは恋人でもあるけど、同時に"家族"だとも思ってるってとこかな」


「う~ん? 難しくてフローラよくわかんない。恋人で、家族? それって夫婦ってこと?」


 そうよね、確かにサティってよく家族って関係を持ち出すわよね。恋人であり家族なら夫婦……なの?


「夫婦……っていうのとはちょっと違う気がするね。そもそもアタシが家族っていう関係に憧れを持っていただけって話だし。恋人以上の関係かって言われるとよくわからないよ」


「どうかしら? 夫婦っていう関係になっても、家族っていう感情をまだ持ってない人間もいるんだけど」


 サティの意見にどこか疑問を感じたように語るのは第一大陸のミネルヴァ……だったっけ?

 そういえば確か彼女だけ唯一パートナー恋人以上の関係なのよね。


「ミネルヴァさんは龍帝であるアポロさんとご婚姻されてるんですよね」


「え、結婚してるってこと!? スゴイスゴーイ! あたしその話もっと聞きたーい!」


「わたしは別に構わないけど……」


 なんだか話の流れから皆ミネルヴァの方に興味津々になっちゃった。

 ……でも、これはこれでいいのかも。


「皆さん、話の順番はちゃんとカードの通りに……」


「いいじゃないクリファ。なんでもかんでも形式にとらわれてちゃつまらないわよ。聞きたいものは遠慮なく聞いて、そこからまた話を盛り上げて……こういう方が楽しいでしょ?」


 決められた通りに進むだけじゃ新しい可能性なんて見えてこない。だって、あたし達はもう何物にも縛られないで自由にこの世界を楽しめるんだから。


「……そうですね。どうやらわたしもまだ女神として生きていた名残が捨てきれていなかったのかもしれません。これからは、同じ目線で歩んでいかなければならないのに」


「あんたももうちょっと考え方を柔らかくした方がいいんじゃない? ほら、あっちのテーブルからデザート持ってきて話に加わりましょ」


 すでに食事が終わったテーブルの上から給仕さん達が食器を片付けられて、デザートが運ばれてきてる。

 なんだか話も盛り上がってるみたいだし、これからが女子会の本番ね。


「そんな事情があったんですね……」


「ミネルヴァ様のアポロ様への想いはとても深い愛で繋がっているのですね」


「自分で話しておいてなんだけど、かなり恥ずかしいわねこれ。でも、わたしがアポロこと愛する気持ちは……誰にも負けないって思ってるから」


「あら、愛する気持ちならわたくしのレオンに対する愛情も負けてませんわよ」


「それを言うならわたしの方が想いが強いです」


 なんか自分のパートナーをどれだけ愛してるか自慢みたいなのが始まっちゃった。

 でもそれで皆対抗心を燃やすわけでもないみたいで……。


「はいはーい! あたしは星夜のこと大好きだけど、ミーコちゃんも同じように星夜のこと大好きだから、皆で仲良く愛し合うのが一番だと思うよ!」


「フロラちゃ……! あわあわ……」


「そうね、対抗心を持つことは悪いことじゃないけど、同時に相手を尊重して理解するのも大事だよね」


 相手を尊重して理解……ねぇ。あたしもクリファのことをもっと知るべきなのかな。同じ“女神”としてそこそこ理解してるつもりだったけど、まだまだ知らないこと沢山あるのかもしれないし。


「しかし、皆さまの馴れ初めを聞いていると、そのほとんどにムゲン様の存在が少なからず関わっておりますね」


 と、話の中で突然自分のパートナーの話題が挙がってあたしの体が ピクッ と反応してしまう。

 周囲の反応も気になって見回すと、皆考えるような表情で……。


「確かに、私もカロフとの関係が進んだのはムゲン君が来てからだった」


「アタシの場合はウチの連中となんか企んでたらしいよ。あとで知ったことなんだけどね」


「わたくしは別にそうは思いませんわ。……ほんの少しだけなら、関わってるとも思いますけど」


「さしずめ恋のキューピットっていうやつ? あははーゲンちゃんには似合わない言葉ー!」


 そのまま流れるように話題の中心はムゲン一色になって、そうなると当然興味の矛先はそのパートナーたるあたし達にも向かうことになるわけで。


「そんなムゲン君もセフィラさん達と出会えて……ほんとよかったわよね」


「そうですね、魔導師ギルドでもセフィラさんが来るまではいろんな人に声をかけては玉砕してたみたいですし」


 ムゲンってばあたしという最高のヒロインがいながらそんなこと……あれ、でもその時期はまだムゲンと会ってなかったし、出会った後でも最初の頃は別にそんなこと気にすることもなかったからいいのかな?

 ……いやいやダメダメ。たとえ過去のことでも今のヒロインはあたしなんだから、そういうところは厳しくいかないと。


「でもさ、ムゲンはセフィラとクリファのためにこの世界に戻ってきたんだろ。自分の世界で暮らすこともできたっていうのにさ」


「ええ、せっかく戻してあげたのに……それでもわたし達のためにまたこの世界に戻ることを選んだと聞いたときは驚きました。でも、同時に嬉しくもあって」


「ホント、無茶するわよね。ま、だからこそあたしもその気持ちに応えたんだけどね」


 あたし達のためにどれだけ強大な敵を相手にすることになるかって知っても、ムゲンはそんなことお構いなしに世界を救う主人公になるなんて言っちゃって。

 だから、あたしもその隣で一緒にハッピーエンドを迎えたいって思えるようになったんだもの。


 だから、今ではムゲンはあたしにとって最高にカッコいい……。


「あたしのパートナーなんだか……」



チュドオオオオオオオオオオオオオン!



「ってなによ今の爆音!?」


 人がせっかくイイ感じに締めようとしてたのにいったい何事!?


「今の音……多分男性会場の方だよね」


「何かあったんでしょうか……あ! あそこ、誰かいます」


 シリカが音の方向から誰かが向かってきているのを見つけ、あたしもその方向を向くと。そこにはボロボロで地面を這ってくる……。


「ゲンさん!?」

「ムゲン!? あ、あんたなにしてんの!?」


「セフィラ~、クリファ~……もう嫌だ~。あいつらまとめんの無理だ~」


「「……」」


 最高にカッコいいはずのあたしのパートナーが、なんとも情けない姿で泣きついてきていた。


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