239話 あり得たかもしれない未来 前編


 ゆらゆらと……流されていく。流されながら、旅をしている。

 それは最初から最後まで定められた事象の流れ。だがたまに、流れの中に小さな分かれ道が現れる。

 なぜか心惹かれるその流れの先へ先へ、私は旅をしていく……。






※※※※※

『29話routeB 小さな国の魔導王』


 ここは第三大陸、アレス王国の王都。

 その街中で私はゆったりとした陽気の下で平和な街並みを散策していた。


「いやー、今日も今日とてこの国は平和だぁね。ま、これも全部私のおかげってとこかな」


「はっ、まったく調子のいい野郎だ。この国が平和なのは意識改革を進めてる国の上層部の頑張りあってこそだろ。特にリィナのな」


「別に私はそこまで大したことはしてないよ。それにこの国が良い方向に進んでいるのはムゲン君のおかげでもあるんだから間違ってないよ」


 私の横に並んで歩くのはカロフとリィナの二人だ。もはやおなじみの組み合わせだな。

 新魔族の脅威からこの国が救われてから早数か月、この国もすっかり安泰となった。そして私も今ではすっかりこの国の専属魔導師という役職が板についてきたところだ。


「しっかし、あんときはマジでビックリしたぜ」


「そうだよ、あんな書置きして出ていったから慌てて捜しに行こうとしたらまだ王城の中にいたんだもの」


「はっはっは、悪かったな。あの時は私も気が変わったんだ」


 そう、あの日私は元の世界……日本へ帰るためにはこの国に留まっていてはいけないと考え一度はこの大陸を後にしようとした。

 だが私はそれをやめた。考えが変わったのだ、楽しく暮らせるのなら別にアステリムでも構わないのではないかと。カロフとリィナというかけがえのない友人もいる。王様も私を必要としてくれている。

 ならば、私は自分の未来をこの場所に預けてもいい。そう思えるようになったのだ。


 それに……この国では私は英雄扱いだからな! 今では筆頭魔導師として知名度も上がり、カワイイ女の子達からもキャーキャー黄色い声援を浴びる毎日で困っちゃうくらいだぞ!

 ただ、今の私の本命はたった一人なんだけどな。


「勇者様、やっとみつけました! もう、お城の中にいないと思ったらこんなところをフラフラと!」


「お、ミレアじゃないか……って、もしかして今日ずっと私のことを捜してたのか?」


 前方から息を切らして私の下へ走ってきたのはこの国の姫であるミレア・アレスその人だ。私との関係は……一応恋人ってことになるのかな。

 しかし城の中から街中まで捜しに来るのは流石の行動力だな。後ろから追いかけてくる護衛の兵士達の方が息を切らしているぞ。

 以前の新魔族騒ぎの時もそうだったが、ミレアは一度決めたらそこに向かって止まらず突っ走る子だ。それが彼女のいいところであり、ちょっと困った特徴だと思う時もある。


「わたくし達は愛し、愛され合う恋仲なのですから、何処へ行くのも一緒です。ほら、勇者様」


「お、おう」


 そう言って腕を組み上機嫌になるミレア。いや、私も嬉しくないことはないんだけどな。

 ミレアは私の大事な恋人だ、それは変わらない事実。ただなぁ……ちょっとミレアの認識に私は少々不満がある。


「なぁミレア……その"勇者様"ってのそろそろやめないか」


「なぜですか? 勇者様はこの国を救った英雄で、わたくしの憧れそのものなのですから、勇者様とお呼びするのは当然です」


 これなんだよな……。ミレアは私のことを理想の英雄という意味合いで見ていることが強く、お互いの心を真に通わせた恋人というにはまだ何か足りないような気がする。

 それこそ、カロフとリィナのようにお互いがお互いのことを愛し、愛されていると迷いなく言えるような関係が私の理想なんだが……。


「さぁ、お城に戻ってお茶にしましょう」


 未だミレアは私自身というよりも、『私に重ねた自分の中の英雄像』に恋をしているように思えてならない。

 だから今の私はミレアと、本当の自分自身を好きになってもらったうえで恋人になることを目標にしている。


「ぜぇ……ぜぇ……。お、お待ちください姫様! お城にお戻りになられるのはよろしいのですが、王より魔導師殿に大事な話があるから連れてきてほしいと言伝を頼まれていたではありませんか」


「あら、そういえば忘れてました」


 ホント、ミレアは自分のことを最優先で突っ走るよなぁ。忘れちゃダメだろそんな大事なこと。

 しかし王様が私に話か……なんだろうな、新しく設立した魔導師育成機関の話か?


「とにかく呼ばれたのなら行くしかないな。カロフ、リィナ、悪いが私はここで失礼させてもらう」


「おう、今じゃおめぇも立派な俺達の国の一員だ。しっかり仕事してこいよ」


「またあとでねムゲン君」


 こうして私はミレアと共にお城に戻ると、そのまま真っ直ぐに謁見の間へと向かう。

 そこには私達が帰還した知らせを受けたであろう王様が玉座に座り私達を待っていた。


「クラムシェル王、まさかこんなに早く私達の帰還を耳に入っていたとは。となると……ミレア姫は席を外した方がよろしいですかね?」


「勇者様、お父様の前だからって他人行儀な呼び方はよしてくださいな。それに、わたしくも共にお父様に呼ばれておりましたから」


 あれ、それじゃ魔導師育成の件じゃないのか。この前「私が魔導師を育成するからには魔導師ギルドよりも大規模な魔導機関をこの大陸に設立してみせましょう!」と豪語してまだ何のプランも提示してなかったからその話だと思ったのに。


「うむ、我らが魔導師ムゲン、そしてミレアよ、よくぞ来てくれた」


「王よ、此度はどのようなご用件でしょうか。魔導師育成計画ならば僅かずつではありますが着実に進んでおりますが」


「いや、今回はその件ではない。此度二人に集まってもらったのは他でもない……お主ら二人の婚姻についてだ」


 婚姻……なんと、婚姻だって!? つまり、私とミレアの結婚ってことだよな。いやちょっと気が早い気がするぞ。

 私とミレアは出会って一月……いや、権力者の婚姻ならそんな期間なんて関係ないだろうが。それにしてもミレアはともかく私はまだこの世界においても成人してないのだから、まずは婚約者という立ち位置で様子を見るのが普通だと思うんだが……。


「お、お父様……結婚……なのですか。ま、まだわたくし達には早いと思うのですが」


 これは意外。ミレアなら花嫁という立場に興奮して即決で承諾すると思ったが……いや、そうか。


「魔導師ムゲンはいずれ我が国の未来を背負うであろう人物。ならば、お前と婚姻を結び果てには我が跡を継ぐことにもなろう」


「た、確かにそうでしょうけど……わたくしも勇者様もまだお互いの気持ちを確かめ合う期間というか……」


「ふむ……つまりミレア、お前はこの先ムゲンへの想いが心変わりするかもしれないということか?」


「そ、そんなことありませんわ……わたくしは勇者様のことが……」


「ミレアよ、お前はそうやっていつまでもムゲンを"勇者"として扱うつもりか。確かに彼は我が国の英雄だ……しかし、次代が変われば人の記憶も薄れ、彼の立場も変わってゆく。その時お前の目に映る彼はお前の中にある"勇者"と同じものなのか」


 王様の言う通り、きっと私はこの先この国で様々な立場や役割を持ち、"英雄"という印象は段々と薄れていくだろう。

 上に立つ者として王様はそのことをわかっていた……。


(いや、そうじゃないか)


「ミレア、私はな……お前に本当に幸せになってほしいのだよ」


「お父……さま」


 これは王としてではなく、ミレアの父親として本当に娘が将来幸せな未来を築けるかを心から願ってのことなんだ。


「ムゲンよ、君にも聞いておきたい。ミレアと結婚し、一生添い遂げる気はあるかね」


 ミレアと婚姻を結んだ私はいずれこの国の王となるだろう。だがこの答えにそんなことは考えなくていい。

 必要なのはただ一人の男として、愛する女性のために未来を進む覚悟があるかということだけだ。


「はい、私は姫と……いや、ミレアと共に幸せな国を築いていくと誓う」


「うむうむ、それでこそ私が見込んだ男よのう。……さて、ムゲンの決意は聞かせてもらった。あとは……」


 ミレアは未だ不安そうな表情で私達の顔を交互に見てはうつむいていた。

 彼女にとっても、これは必要な儀式といえるだろう。年齢だけで見ればミレアはもう成人だ。だが彼女の心にはまだ夢見る少女の心が深く根付いている。

 真に大人としての階段を上るために彼女自身が決断しなければならないことだ。


 だけど……。


「ミレア、私を信じてくれ。君の中の"勇者"じゃない、本当の私を」


 手を差し出しながら、私はミレアに告げる。

 これくらいの手助けは、してあげたっていいはずだ。それに私だって、これからもミレアとイチャイチャラブラブしたいって想いは変わらないからな!


「わたくしも、ずっと一緒にいたい……。"勇者様"、いいえ……"ムゲン"と一緒に幸せになりたいです!」


「ミレア!」


 私の手を取ってくれたミレアの殻を引き寄せ強く抱きしめる。


「好きだミレア、愛してる」


「わたくしも、ムゲンのことが大好きです」


 これから先、きっと私達には幾多の困難が待ち受けているだろう……。だけどきっと大丈夫だ、私はこの世界で最も大切だと思える存在と共に……未来を進むことができるのだから!


「それじゃあ、早速婚姻の話を進めましょう! 式の日取りはいつにしますか! ムゲン、お父様!」


 まったく、心が決まったら本当に行動が早いんだからなウチのお姫様は。


 父さん、母さん、姉さん……そして、前世の仲間だった者達よ……。私は今、最高に幸せだ!



-転※回― ■しйイ-

※※※※※※※※※※※※※※※






 ゆらゆらと 揺れている






『84話routeX-Ⅱ ギルドマスターは大忙し』


 うつらうつらと漂っている。そう、ここは夢の中……私は今広大な幻想空間の中を自由に彷徨う幽体となって大空を翔……。


「……タ―。ギルドマスタームゲン! いい加減起きなさいな!」


「うぉう!? ビックリしたぁ……ってなんだエリーゼか。いったい何の用だ?」


「何の用だ? じゃありませんわ。あなたこそその溜まった書類を前にしながらよく堂々と惰眠を貪れたものですわね」


 そう言いながら私の机の上にさらに書類を積むエリーゼ。こいつ……私を仕事漬けで過労死させるつもりか……。


「最近は毎日毎日書類の山に囲まれて寝る暇だってまともに取れないんだ、少しくらいいいじゃないか」


「まったくよろしくないですわ。ギルドマスターであるあなたの仕事が遅いせいで副マスターであるわたくしの仕事も増えるのですから」


「はぁ……なってみればギルドのトップってのも面倒くさいものだな」


 リオウが引き起こした事件から10年……どういうわけか私は現在魔導師ギルドのギルドマスターという立場に就任していた。


 突然の先代ギルドマスターの失踪。それによって引き起こされた服マスターであるディガンの暴走によって魔導師ギルドは一度崩壊の危機を迎えていた。しかし、そこで立ち上がったのがこの私、超最強魔導師ムゲン……と、レオン、エリーゼ、シリカの三人である。

 ギリギリの戦いでディガンを討ち取った私達はそのまま中心となってギルドを再建。で、いつの間にやらギルドマスターという立ち位置に収まってしまったわけだ。


「面倒くさいのは当然のことですわ。なんせ前ギルドとはまったく異なる体制から魔導師の教育方針、他国との関わり方まで変えてしまったんですもの」


 エリーゼの言う通り、この忙しさの原因は私にあると言ってもいい。

 私は独自の教育システムで前世と同じように誰もが魔術を扱える世の中を目指すことを決めた。それにどんな種族をも受け入れ、差別のない国家として意思を宣言も行った。

 結果、中央大陸の中心に位置する魔導師ギルドは周囲の多くの国家から共感と非難を受けることとなり、こうして対応に追われている現状だ。


「なぁ~手伝ってくれよ~」


「いやですわ。わたくしだってやらなければならない仕事が山積みですのよ。ただでさえレオンに会える時間がないのにこれ以上減らされてはそれすらなくなってしまうもの」


 あの事件からエリーゼ達はシリカとレオンを取り合う三角関係が続いている。ちなみにレオンとシリカは今下の者達に魔術を教える立場に就いている。エリーゼは外交に強いのでこうして私の補佐として副ギルドマスターになってもらったのだが……。


「こうしてる間にもシリカがレオンといちゃついてると思うと気が気じゃありませんのよ」


 こうして一人だけ職場の違う彼女としては同じ職場で二人の距離が縮まってしまうことに大きな危機感を覚えてるってわけだ。


「いいよな~忙しくても色恋沙汰に浮かれる余裕があるんだからさ~。私だって可愛い彼女が家で待っててくれるっていうならもっとやる気が上がって仕事に取り組めるんだけどな~」


 あれから10年経ったっていうのにまだ独り身なんだぞこっちは。あ~このままずっと仕事が恋人だなんて絶対に嫌だ。


「あら、それならちょうどいいですわ。そんなムゲンさんに朗報がありますのよ」


「朗報? それにちょうどいいってことは……お前が私の彼女候補でも紹介してくれんのか?」


 と、そんなことないだろうなと冗談交じりに笑い飛ばしていたのだが。


「彼女とまではいきませんけど、ギルドマスターの仕事を補佐してくれる美人秘書を一人紹介したいのですわ」


「え? ひ、秘書?」


 しかも美人とな? いやいやまさかの展開ですよこれは。秘書といえば大企業のトップには付き物、一気に偉くなった感が出てきたぞ。

 それに女性秘書ということは……もしかしたら仕事上の関係以上に発展することだってあり得なくはないはず!


「いいじゃんいいじゃん! さっすがエリーゼ、できる女だよ」


「わたくしを褒め称えるならレオンの前にしてくださいまし」


 おだてても慢心しないところがちゃっかりしてんなまったく。


「まあいい。それで? その秘書ってのはいつ紹介してくれるんだ?」


「もう扉の外に待機させてますわ」


 用意周到すぎでしょ。まぁ今じゃエリーゼも商業国家メルト王国の中枢を担う貴族でありながら魔導師としてもこうしてあらゆる仕事をこなすスーパーエリートウーマンだ。どんなことでも抜かりないのは流石だな。


「まぁそれなら話が早い。んじゃ早速呼んでくれ」


「わかりましたわ。アイラ、入ってきなさい!」


「は、はい! エリーゼ様!」


 エリーゼに呼ばれて入ってきたのは一人の女性魔導師だった。栗色の髪を肩まで伸ばし小顔が特徴的だ、それなりに上質なローブに身を包んでおり、年齢は私達と近そうだ。

 ほほう、エリーゼの紹介だけあってなかなかに可愛い子だ。ただ……。


「どこかの貴族家の出か?」


「あ、アイラ・バルシードと申しますギルドマスター様。エリーゼ様と同じメルト王国の貴族家で……その……」


「ムゲンさん、あなたもしかして覚えてないのかしら」


 いや覚えてるも何も私はこの子とは初対め……ん? ちょっと待て、初対面かと思ったがどこか見覚えがあるような……。


「もしかして……昔のエリーゼの取り巻きの一人だったり……」


「え!? お、覚えていてくれたんですか、私のこと!?」


「最初はわからなかったが、顔にどこか面影が残ってたからな」


 もう10年前の話になるが私は過去にこの子に会ったことがある。だが驚いたな、エリーゼの取り巻きをやっていた時は服装も髪型ももっと派手だったから。

 なんというか、しっかりとした大人に成長したって感じだ。


「その覚え方はあまりよろしくありませんけど……覚えていただけよしとしましょうか。それじゃ、わたくしは行きますから、あとはよろしく頼みましたわよムゲンさん」


「いやおい頼むって言われてもな……」


バタンッ


 あんにゃろ、こっちの言い分も何も聞かずに出ていきやがった。

 しかし、あの時の女の子の一人が私の秘書か……なんというか、奇妙な巡り合わせだな。


「えーっと、エリーゼの紹介ってことだけど……本当にいいのか、私の秘書なんかで」


「も、もちろんです! 今回のお話だって私から持ち掛けたんですから!」


 おおう、大人しそうな子かと思ったら急に声が大きくなったぞ。というか緊張してるのか。

 ただ、ちょっと奇妙な返答だな。


「持ち掛けたって……エリーゼに『ギルドマスターの秘書になりたい』と相談でもしたのか?」


「あ、いえ、エリーゼ様にはどうすればギルドマスターとお近づきになれ……あわわわわわ!? な、なんでもありません!」


 なんか面白いな。とにかく、理由はわかった……。

 私としてもそれは嬉しいことだ。こうして慕ってくれる子がいるとわかっただけで飛び上がりたいほどに。

 ただ、だからといってすぐ恋人になるわけでもない。まずはお互いにゆっくりと歩みより、それから気持ちを確かめ合えばいいんだ。


 差し当たっては、一緒に仕事をしていきながら親睦を深めていくとしようじゃないか。


「よしアイラ! 私の秘書になったからにはビシビシいくからな!」


「え、あ、はい!」


 ま、女性と一緒に仕事ができるってだけでもやる気がわいてくるってなもんだけどな。


「それじゃ仕事を与えたいところだが……」


「それなら大丈夫ですギルドマスター。エリーゼ様からいくつかの指導は受けましたから」


 ホントエリーゼさまさまだな。よし、今度レオンにそれとなくお前を推しといてやろう。

 それはそれとして、今は仕事に戻るとしようか。


「書類作業は一旦切り上げ、本日は第二大陸の王族との会談となっております」


「そういえばそんな予定もあったな。よし、早速応接室に向かおう」


 これ私だけだったらすっぽかしてた可能性あるな。秘書ってのも悪くない。


 とにかく会談に向かうため、机から立ち上がり。


「あ、ギルドマスター様。それが先ほど所在を伝えたら私と一緒についていくと申されまして。すでに扉の外で待機してもらっております」


「おいおいそれじゃ相当待たせてしまってるだろう」


 あまり相手に悪い印象を与えてしまうのはよろしくないぞ。

 しかし第二大陸か……。あそこも10年前に思い出深い場所だったな。もしかしたら少しでもあいつらの情報を聞くことが……。


ドドドドドドドドド……


「ん、なんだこの音?」


「なんでしょう? 扉の先から聞こえてくるようですが……」


 アイラの言う通り扉の先から小さな地鳴りのようなものが連続して響いており、それは段々とこちらに近づいてくる。

 そして、考える暇もなくそれが扉のすぐそこまで近づいたと思った瞬間……。


バァン!

「お兄ちゃああああああああああん!」


「なぁああああああおぶぅ!?」

ドゴォ!


 それは扉が開くと同時に私の腹部に突っ込んできた。私はその衝撃に耐えられず、そのまま突っ込んできた何かと一緒に倒れてしまう。


「だ、大丈夫ですかギルドマスター!?」


「ああ、大丈夫……だがいったい何が……」


「えへへ、久しぶりだね……お兄ちゃん」


 と、顔を挙げようとした瞬間、私はその人物と目が合う。それは薄い緑色の髪をツインテールにした笑顔がまぶしい……エルフの女性だった。

 この女性はいったい……。


「こらミミちゃん! いくら待ちきれないからって扉に突撃するのはダメよ」


 そしてもう一人、この部屋に見知らぬ人物が入ってくる。

 いや、その人物は『見知らぬ人』ではなかった。私の上に乗る女性と同じようにエルフではあるが、その声と姿を私は知っている。


「まさか……リアなのか」


「ムゲン君……私のこと、覚えててくれたのね」


 忘れるはずもない。10年も前のこととはいえ、彼女達と過ごした日々は私には決して忘れられない出来事の一つとして今も胸に刻まれているのだから。


「むー! なんでミミより先にリアお姉ちゃんの方に気づくかなぁ」


 なぜかリアに反応したことで不貞腐れる私にのしかかる女性。


「いやいや、あいにく私は君のように可愛らしい女性と会ったことは……ってちょっと待て、"ミミ"だって?」


「うん! そうだよお兄ちゃん!」


 まさか……いや、だが面影がある。あの時の無邪気な少女がこんな美人に成長したってことなのか!?


「いや、だが……ミミは確か記憶が……」


「最近ね、当然思い出したの! そしたら居ても立ってもいられなくなって……きちゃった!」


 いやノリ軽いな!? だがまさか、そんなことがあり得るなんて……こんな嬉しいことはない。

 もう"私を知る"ミミとはもう二度と会うことはできない、そう思っていたから。


「えっと……ギルドマスター、この方々はいったい……」


「ああ大丈夫、二人とも私の古い知人だ。しかし今日は第二大陸からは王族が会談に来ると聞いていたのだが……」


「あ、私今第二大陸にある国家『レインディア』の王様と結婚してお妃様なの。実質王族でしょ?」


 うっそーん……。リアが王女様で、記憶を取り戻したミミと一緒にやってきたって……情報が多すぎてまとめきれないぞ!


「ムゲン君が新しいギルドマスターになったっていう情報を耳にして、私達の中で早速同盟を結ぼうって話になったの」


「なるほど、そういう理由だったのか」


「それでね、友好の証の一つとしてミミがギルドマスターであるお兄ちゃんをお手伝いすることになったんだ!」


「待って、その理由はわからん」


 いやリア達の国とだったら同盟を結ぶのはやぶさかじゃないが、その証にミミを私の補佐に就けるってことなのか?


「え? え? ギルドマスター、つまりどういうことで……」


「なんか、これからはこのミミも一緒に仕事することになったっぽい?」


「えへへ、よろしくねお兄ちゃん! もう絶対離れたりしないからね!」


「そんなぁ……せっかくギルドマスターとお近づきになれたのにぃ……」


 なんなんだろうなこの状況。

 だが、ただ一つ言えることがある。こんなハチャメチャな日常だけど、私は今言葉に表せないほど幸せだってことだ。



-*生П※ おシまヰ-

※※※※※※※※※※※※※※※






 まだまだ旅は 終わらない





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