238話 事象の管理者 後編


 『事象の管理者』……おそらくその名称も私の言語レベルに合わせた結果、一番伝わりやすい形として選ばれたものなんだろう。だが、流石に名称だけではいまいちピンとくるものがない。

 神とは違う……ということだが、具体的どういう違いがあるのだろうか。


 ただ、アレイストゥリムスが私の質問に直接答えずにこの話を先に持ってきたということは……。


「転生という現象には、その『事象の管理者』の要素が深く関わっているということか?」


[根底に関わるものではないが、影響は少なくはない]

[君の転生には少々複雑な交渉があった、とだけ先に答えておこう]


 つまり、先に管理者とやらに関する話を聞いていた方が質問に対する回答への理解が深まるってことだろうな。


[それに、管理者に関する説明は君が求める力に関しても重要な意味を持つ]


 一度に全部話せてお得ってことね。しかし、やはりアレイストゥリムスは私がここを訪れた理由に気づいていたか。まぁ、自身にも関わることだし当然っちゃ当然か。

 とにかく、その話が重要だというのなら。


「教えてくれ、『事象の管理者』というのはどういう存在なんだ?」


 それはきっと前世ですらたどり着けなかった境地。神域さえも超えた領域に踏み込むこととなる。


[まず簡単に説明しよう]

[『事象の管理者』というのは世界そのもの]

[世界の終わりは管理者の終わりを意味し、逆に管理者の終わりも世界の終わりに繋がる]


 これは……覚えがある。前世でアレイストゥリムスにおける研究の末に導き出された一つの答え。世界の化身たるアレイストゥリムスが滅びれば、それは世界の消滅を意味する……というものだ。


「だが、それこそが“神”というものなんじゃないのか? 世界の創造主であり、密接に繋がっている存在だと」


[違う]

[そもそも“神”とは管理者が作り出す枝世界を管理するために作り出される存在であり、事象の外側に関与する権限を持たない]

[事象の内側においては絶対的な存在の一つと称されはするだろうが]


「管理とか権限とか、言いたいことはなんとなく理解できそうなんだが……どうにも、まずその事象の内側と外側? ってやつがよくわかってないんだよな」


 幻影神と終極神の戦いにも幾度か出現したワードではあるが、いまいちその本質にたどり着けていない。ここさえ詳しく理解できれば最低限話についていけそうな気はするんだが。


[そうだな、まずはそこから理解してもらう必要がある]

[事象の内側とは、端的に表すならばお前のように生命が存在するための空間だ]


「人間が生活するための世界ってことか?」


[人間だけではない]

[生きとし生けるものから死者がたどり着く領域に至るまですべてが内包された継続的事象連続体のことを指す]


「事象連続体?」


 また新しいワードが出てきたな。いや、これまでの話の流れにおいて、大体に“事象”というワードは存在していた。おそらく、その名称すら私の言語レベルに合わせて最適化された単語なのだろうが、きっとこれが一番重要なキーワードということなんだろう。


[君達は自身が住んでいる世界が一つの固定された領域が移り変わっていくものだと思い込んでいる、だがそれは間違いだ]

[世界は流れるように進んでいる]

[上から下へ落ちる水の流れのように、その流動一つひとつに世界は存在し、変化する]


「だがそのことを私達は認識できない……と」


[その通りだ]

[君達の言葉でパラレルワールドというものがあるだろう]

[あれは流動する事象連続体から枝分かれし、新たな事象が生まれることを指す]


 あたかも、木の根が地面の中を進んでいくように。枝分かれした世界が続いていくってことか。なんだかSFじみてきたか? いや、突き詰めればSFもファンタジーも行きつく先は似たようなもんなのかもな。

 とにかく、事象の管理者とやらはその流れとやらを観測することができる……。つまりそれが事象の外側に存在するという意味ってことか。


[どうやら理解し始めたようだな]


「まだまだ疑問は山積みだけどな。神様の持つ、内側の管理ってのはどの程度のもんなんだ?」


[流れそのものを観測することはできないが、流れの中を行き来することは自由に行える]

[事象内における生命への干渉などが主だろう]

[枝分かれの多い事象世界の管理者は、各管理区間ごとに神を設定することも稀ではない]


 あ、この言い方……そうじゃないかとは思っていたけど。


「やっぱ……『事象の管理者』って沢山いるもんなの?」


[世界の数だけ存在する]

[君達が"異世界"と呼ぶものはそれだ]

[基本的に管理者同士が干渉し合うことはないが]


 ってことは、そんな"管理者"の世界に干渉してしまうのが俗に言う『異世界モノ』っつーことね。

 ただ、実際のところどうなんだろうな?


「なら、結局私みたいな異世界転生ってのはどういう理屈なんだ? 神様は事象内の生命への干渉ができるって話だが、そいつが別の事象世界に送り込めるってことなのか?」


 いわゆる神様転生ってやつだな。可哀そうな死にざまとか、手違いとか、前世で得を積んでたから~……とかいうあれだ。

 でも事象内部にしか干渉できない神様が他の管理されてる世界にそんなホイホイ送り込めるものなのか?


[世界ごとの事象のやり取りは管理者同士でなければ行えない]

[たとえそれがどれだけ小さな事象でもだ]


 なるほど、管理者にとって人間は文字通り小さな事象ってことね。しかし、それならアニメや小説のような異世界でやり直しってのはほとんどあり得ないってことだ。


[そういうことでもない]


 ……やっぱ心読まれてるよな。まぁ対話するって行為は理解をより深めやすくするためには重要な要因だからこのスタンスは続けるけど。

 あちらさんに関しては知らん。


「んで、何が"そういうことでもない"んだ?」


[自身の管理内、および管理者同士の合意であれば事象のやり取りは可能だ]

[前者の場合、事象内の本来の流れを補完できる要素がなければ世界の寿命を削る行為に等しい]


 よほどの理由がなければ転生させることは大きなリスクに繋がるってことだ。だが、それでも今回アレイストゥリムスがリオウを自身の世界に転生させたのは、ひとえに『体現者』という終極神への対策の一環。確かに、すぐに世界が終らされるなら多少寿命を削ってでもそれを防ぐ方がマシだよな。


[そして後者の場合、管理者同士の合意があればやり取りは可能だが、そのどちらかは相応のリスクを背負うこととなる]


「リスク? 異世界転生にはリスクが伴うってことか」


[転移に関しても同じことだ]

[管理者Aの事象を管理者Bに譲渡、つまり転生か転移を行う場合、管理者Aは自身の事象力を管理者Bに与えることとなる]


 事象力ってのは管理者が世界を維持するための有限エネルギーってことでいいんだよな。そうか、人間一人にしても世界の事象力の小さなカケラであることにかわりはない。それを与えるってことは自身の身を削ることと同意ということ。


[管理者AがBよりも強大な事象力を有している場合、カケラであろうとBの世界にとっては大きな変化に成り得る]


 なるほど、何が言いたいのか大体わかったぞ。それだけでは強大な事象力を持つ管理者にとっては損にしかならない。つまりこの方法には……。


「管理者BがAに対して何かしらの"見返り"を与えなければならないってことか」


[その通りだ]

[そもそも管理者の事象を繋げること自体に多大なリスクを伴う]

[補填を考慮するのも受け取る側の管理者の責任となる]


「それだけのリスク冒してまで強い事象を取り込みたいってことか」


 未だ『事象力』、『事象世界』の尺度に触れたことがない私には管理者同士の力の差というものがどれほどのものか測りかねるが、事象内の人間にはわからない複雑なやり取りがあるんだな。


「しかし、結局"見返り"ってのは何を与えるものなんだ?」


[譲渡した事象力によってもたらされた世界の繁栄は新たな事象力を生む]

[先に事象を譲渡した管理者はその事象力の一部を分け受ける]

[いずれは譲渡した事象力よりも強大な事象力を得ることができるだろう]


 ……なんだろう、この既視感。こういうやり取りの話ってどっかで聞いたことあるような。


「あ……高利貸しじゃねぇかそれ」


[君が分かりやすいならそう認識するのもいいだろう]


 なんか急に俗っぽくなったぞ……これでいいのか事象の管理者って。

 まぁつまり、転生や転移には管理者同士で決めた契約があって初めて起こる現象だってことだ。


[管理者同士のやり取りが合意となれば、あとは事象内で魂のやり取りを行うこととなる]

[事象内の担当に任せることもあれば、管理者自身が行う場合もある]


 それで神様登場ってことね。そういった"担当"の中には管理者の事情を知る者もいれば知らない者もいる……か。

 『事象の管理者』における転生の事情についてはこれで大分理解が深まったな。


「それなら、私はお前が地球の管理者と契約したから転生し……ん? いいのかそれで?」


 だって私はアステリムから地球に転生したんだぞ? ということはアレイストゥリムスにとってはメリットであり地球にはデメリットってことだよな。あれ、でも私はこうしてアステリムに転移もしてて……。


「混乱してるようだな」


「そりゃもう。なんだか私だけごちゃごちゃなことになってないか?」


[詳しく説明するならば、まずは君が『地球』と呼ぶ世界の管理者、『※※※ジィ※※ァアー※※※※※※ス※※※※※※』についての理解を深める方が早いだろう]


「ちょっと待ってなんかすっごい文字化けしてる」


 おそらく一人称のように事象内の言語レベルでは表せないからなんだろうが、ほとんど読めないぞこれ。

 だが、読める部分だけを繋げて読むと……。


「『ジィァアース』……ジアースってことでいいのか?」


[世界の名は事象内存在の誰もが潜在的に理解している管理者の名が簡略化され自然に広まってゆくものだ]

[※※が世界、『アステリム』も※※が名、『※ア※レイ※※ス※トゥ※※※リ※ム※※※※ス※』からつけられたものだろう]


「お前の名前も……見事に文字化けしてるな」


 だがこの文字列……前世にてアレイストゥリムスと対峙した時にこいつ自身から発せられた名と同じものだろうな。そこから聞き取れる部分だけを繋ぎ合わせ、私はこいつを『アレイストゥリムス』と呼称するようになったのだから。


[君が理解しやすいよう、これからはジアースと呼称することとしよう]


 いちいちあんなクソ長い名称送られても困るだけだしな。というかあんなん連投してたら文字数ヤバいわ、読者方に稼がれてると思われてしまうぞ。


 さて、ちょっと話が逸れてしまっていたが、本筋は確かジアースとアレイストゥリムスとの転生転移に関する詳細だったな。


[無数に存在する事象の管理者にもその力に大小の差がある]

[存在の大きさは内包する事象力の大きさに比例するが、どう成長させるかは管理者によってそれぞれ異なる]


「管理者同士で競争社会とかが築かれてるってことなのか?」


[他と競い合う意味はない]

[小さき事象はいずれは消え去るからこそ管理者は自身の世界を良き存在へと昇華させようとするだけだ]


 小さき事象はいずれ消え去る……か。それは、事象内世界でも同じことだ。この世界でも強い種族、強い人間は長く生きる道を見つけ自らの"終わり"を回避しようと努力する。

 事象の管理者もやってることは似たようなものだろう。スケールの大きさは違いすぎるが。


 ただ、ちょっと気になるのは……。


「その……世界をより良い存在へと昇華させるってのは、具体的にどんな方法があるんだ」


[例をいくつか挙げるなら]

[事象内にて人間達に競争意識を持たせ、進化と発展を促す]

[管理者の影響力を事象内に与え、その能力を高めさせること]

[他よりも色濃く管理者の影響力を受けた個体を優遇し、世界を変革させてゆく方法もある]


「……」


[そして、発展よりも滅びに傾く要素をすべて排除し、保たれた事象力のまま新たな発展への道を紡ぐ手法だ]


「……やっぱりな」


 前世におけるアレイストゥリムスの"世界リセット"はすべて管理者としての当たり前な行動原理だったってことだ。

 しかし、発展よりも滅びに傾くか……もしかしたら、こうしてアレイストゥリムスを封印したことでこの世界は滅びに向かうこととなってしまったのなら……。それはすぐに訪れるものではないにしろ、私のせいで最終的にアステリムが滅びてしまうこととなってしまったのかもしれない。


 だが……。


「私はそれでも、前世の選択は間違っていなかったと信じている」


 きっとあの時この話を知っていたとしても、私はこの世界の未来を信じていたはずだから。


[その話は今は置いておこう]

[先ほどのは一例であり、ジアースの用いる手段は少々異質なものとなっている]


「管理者の言う"異質"ってのが私にはちょっと計り知れないんだが……」


[通常、パラレルワールドと呼ばれる枝世界が生まれるには管理者の事象力を削る必要がある]

[愚かな管理者のほとんどが消える原因がこれだ]

[己が力量を見誤り管理しきれない枝世界を生み出した結果、事象力が底を尽く]

[※※ならばそのような愚行は決して行わない]


 こいつ、なんか他の管理者のことちょっと見下してない? その表情……いや本体からは表情なんて全然読めないんだが、文脈からそんな雰囲気が……。


[優性な世界もあれば劣性な世界もある、ただそれだけのことだ]


「わかったからあんま心の中にツッコまないでくれ」


[話を戻そう]

[ジアースはその枝世界、つまりパラレルワールドをほぼ無尽蔵に生み出し続けている]


 パラレルワールドを作り続けてる? でもそれって……。


「そんなことしたらすぐに事象力を使い果たして消えるんじゃないか?」


[通常ならばな]

[だが奴はあり得ない方法でそれを回避した]

[奴は無数に生み出した枝世界をすべて滅びに傾いた劣性世界と繋げたのだ]


 繋げたってことは、他の管理者と契約を結んだってことだよな。その行為は、場合によってはさらに自身の事象力を消失させることになるが。


[ジアースは事象内の小さな事象力を劣性世界に渡すこととなった]

[だがジアースにとっては小さな事象力だろうと劣性世界にとっては強大な事象力にかわりはない]

[転生、転移者による急激な変化は一時的にだが滅びに傾いていた事象を回避させるに至ったのだ]


 つまり、危機に瀕してた世界を地球の転生、転移者が救ったってことだ。そこだけ見ればほんとどっかで聞いたような異世界ものの王道って感じだよな。


[それを知った他の劣性管理者もその恩恵にあやかるために次々と押し寄せた]

[ジアースはさらに枝世界を増やし、各枝世界に事象内の管理者を生み出すと同時に他の世界との橋渡しとしての役割を与えるようになった]


「あー……それってつまり……あれか」


 うっかり手違いを起こしたり、生前の功績から新しい世界に生まれ変わらせてくれるっていう……。


[ジアースにとっては内側の管理者のために割く事象力に余裕などないだろう]

[問題のある管理者もあっただろうが、重要なのは事象力を送ることでしかない]


 OJTしっかりして! でも、そんなガバガバな管理体制でやっていけてるんだな。しかし、なんだろうこの既視感……。


[世界によってはジアース側の人間が動きやすいよう管理の基盤から作り替えた事象の管理者もいたほどだ]


「基盤?」


[事象内における能力をジアースの枝世界側の数値、又は言語に合わせたものだ]

[管理体制をジアースが作り上げたものに完全に移行させる代わりに、もともとの管理者の負担を減らすものだ]

[通常事象内で起こる要因はほとんどが管理者が設定し、細かい変化をも調整、管理しなければならない]

[それらをすべてジアースの作り上げたシステムに任せ、管理者は事象力を与えるだけとなる]


 転生する人が動きやすいシステムで、なおかつわかりやすい数値や言語って……。いや、やめとこう……なんか考えるのが怖くなってきた。


「でも便利なシステムじゃないか。加えて世界の滅びも回避できるなら本当にwinwinな関係で……」


[最終的に大半の事象力がジアースに吸収されることとなるがな]


 ……そうだった。そういえばこの管理者同士の転生、転移システムには大きなリスクが伴うんだったな。

 転生者を受け入れ、事象力を大きく回復した世界は後に搾取される運命が待っているという話だったが。


[影響力が大きいほどジアースが劣性世界の事象力を自由に扱えるようになる]

[ゆっくりとだが、ジアースは契約した事象の管理者から与えた事象力以上のものを得ていく]

[たとえ契約した世界の事象力の発展が留まり、最終的にすべて吸収されることとなってもだ]


 少し前に、この管理者同士の契約を高利貸しに例えたが……ジアースに関しては少々意味合いが異なるようだ。


(完全に悪徳金融だこれ~……)


 善良な金融機関、金利もサポートも安心安全! ……に見せかけておいて最終的には絞り取れるまで搾り取るやつだよどう聞いても。


[もともと強大な事象力を持ち合わせていたジアースだからこそ成せた芸当だ]

[採算が取れない枝世界があればすぐに切り捨てる手法も実に合理的だ]


 不利益な世界はすぐに切り捨てるのか。それで今までどれだけの世界が消えていったんだか……。


[だが契約したすべての世界がジアースの策略に貶められたわけではない]

[契約内容を互いの納得のいくように定め、影響を及ぼす事象力のやり取りも最低限の発展に必要なものだけ受け取っただけの世界ならば、ジアースに吸収されるよりも膨大な事象力を得ることが可能だ]

[無論※※もそのうちの一つだ]


「つまり、私が地球に転生したのもその"安全な契約"の一環だったってわけだな」


[こちらの影響力を持つ君という事象を渡すことでまず※※の事象力を与え、のちにジアース側から開いた道を通ることで相互の世界に互いの影響力が加わる]

[ジアースにはこちらが先に与えた事象力に加え、※※が世界が得た事象力をわずかづつだが受け渡していく]


 なるほど、私という存在と共にやってきたジアースの影響力を利用してアレイストゥリムスは事象力を得ていき、その余剰分が流れていくという……。


[というのが表向きの契約だ]


「おいコラ」


 とてもまっとうな契約方法で関心してたというのに一瞬でぶち壊しやがったなこの野郎。

 はい、そんじゃなにやらかしたのか聞くとしましょうか。


[この契約は君がジアースの協力を得てアステリムに降り立つことで成立する]


「……ん? ならもう契約は完了してるんじゃないか? 現に私はこうしてアステリムに降り立ったんだぞ」


[そうではない]

[君がアステリムに降り立つこととなったのは終極神の影響によるものだ]

[※※も、ジアースも関わってはいない]


 ……え、それってアリなの? 確かに私を地球から転移させたのはセフィラ……つまり終極神の力によるものであるのは確かだ。


[※※を喰らおうとする終極神はジアースとの繋がりを辿ることで君や他の異世界人をこの地に連れてきた]

[終極神による事象力の移動は完全に契約外であり、君がジアースの事象内から失われたことで強制的に契約は終了したこととなった]

[もちろんジアースとの繋がりはそのままでだ]


 そりゃ契約の中心である私が消えたのなら最初に定めた内容通りに契約を進めることなんてできないからな。ん? だが私が転移したのは結局アステリムだったわけで、アレイストゥリムスとしては何も不都合はない……。


[ジアースと契約する以前から終極神が※※へ影響を及ぼそうとしてたことは気づいていた]

[他の世界と繋がればそちらにも影響を与えると考え、契約を結んだ]

[こちら側の影響が色濃い君がいずれ終極神の力に引き寄せられるだろうという点を考慮してな]


「ずっる!? なにそれ詐欺じゃん!」


 まさかぶつかり合うだけの存在だと思っていた終極神さえ実は利用していたとか、ウチの管理者様は転んでもただじゃ起きない奴だよまったく。


 ただ、管理者同士でしか行えない契約に介入できるということはやはり……。


「終極神も、『事象の管理者』なのか」


[その通りだ]

[そして君も気づいてる通り、あれには育むべき己の世界がない]

[他の事象に干渉し、事象内世界を破壊することでその事象力を吸収することで管理者としての存在を保っている]


 アレイストゥリムスともジアースとも違う方法で事象力を維持してる管理者……それが終極神の正体。


「終極神も管理者だというなら、あれにもやはり名があるのか?」


[あれの真名は『※※※※※※※※※※※※※※※』]

[人間の言語で表すことは不可能だ]

[そして我々管理者は奴のような存在を『事象を喰らう者』と呼称している]


 事象を喰らう者……終極神。この世界に生きる者はまたしても人の手では届き得ない領域の存在によってその運命を決められようとしている。


「だがなぜ、終極神はこのアステリムを……お前に狙いを定めたんだ」


 最初の接触がセフィラの逃避による偶然の産物だったとしても、何か原因があったのではないか。私にはそう思えてならない。

 そして、どうにもアレイストゥリムスはその話題を避けている。その理由は……。


「教えてくれ」


[己の事象内に干渉できなくなった管理者は牙を抜かれた獣のようなもの]

[事象を喰らう者はそんな弱った世界を狙い、喰らいに来る]


「そう……か」


 やはり、終極神に狙われた理由は私がアレイストゥリムスを封印……事象内に干渉できなくしてしまったせいだったということだ。


[君が気に病む必要はない]

[事象の内であろうと外であろうと、選ばれた事象がどこへ向かうかなど誰にも予測できないものだ]

[※※はただ観測するだけなのだから]


 そうだったな。すべては私達が選んだ結果でしかない。

 だが、私にも責任の一端があると知った以上、この世界を守りたいという想いはより一層強くなった。


「アレイストゥリムスよ、終極神の正体がお前と同じ『事象の管理者』という存在だとわかった以上、やはりこちらにも管理者の力が必要だ。今こそこの封印を解き、共に危機に立ち向かってくれ」


[無論、そのつもりは大いにある]

[だが封印は解くな]

[この封印が逆に終極神の進行を防ぐ壁の役割となっている]

[これがなくなれば奴はすぐにでもこの場に現れ※※を喰らうだろう]


 つまり封印がそのまま世界を守る防壁になっていたのか。そうだ、ベルゼブルは言っていた……世界の壁を壊すためにこれまで行動してきたと。

 そういうことだったのか。


「だが、それならどうやってお前の力を借りればいい? 事象内に現界してしまったら私達には対抗手段がない」


[問題ない]

[君が※※の力をその身に宿せば、※※は君を通してその力を事象内で扱うことができる]


「私とお前が……一つに?」


[文字通り、お前は真の“神”となるのだ]


 なんというか、スケールが大きくなりすぎて怖気づきそうになるが、私はもう覚悟を決めている……この世界を再び守ると決めた時からな!


「いいぜ、神にでもなんでもなってやるさ。……だがそれでも私は一人の人間、無神限であることに変わりはない!」


 どんなことが起きようと、私は決して自分を捨てない。たとえ神になったとしても、私は一人の人間として自分の帰るべき場所へと戻ってみせるさ。


[ならば、まずは試練を受けてもらう]


「いやすぐ力をくれるんじゃないのかよ」


[君が真に※※の事象を受け継ぐに相応しいか、最後に見極める必要がある]


「最後の最後でまた面倒な……。ま、そういうことならさっさと始めてくれ。ここに来た時点で私の覚悟は決まってるからな」


 どんな試練だろうと簡単に乗り越えてやるさ。なぜなら私には……あいつらと歩む未来が待ってるんだからな!


[いいだろう]

[では今から第一の試練を始める]


「え? ちょっと待って、今"第一"って言わ……」


 そう問い返す間もなく、私の意識は光の中へと溶けていき……第一の試練が始まるのだった。


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