214話 “暴食”を攻略せよ


 これで私達の戦力はほぼ整った。しかし相手は強敵……できることならこのまま撤退を選びたい場面ではあるがそれも難しい。


「久しぶりだねベルゼブル。珍しいじゃないか、あんたが戦闘に参加するなんてさ。戦ってるところも初めて見たよ」


「ええ、お久しぶりですサティアン。私とて戦うこともありますよ、ただ機会がなかった……それだけのことです」


 七皇同士の久しぶりの再会。だが、和やかそうな会話とは裏腹にお互い戦闘態勢を崩すことはない。

 サティは大剣を構えつつ相手から視線を逸らさない。ベルゼブルが一瞬でも隙を見せたら即座に斬りかかるだろう。

 一方ベルゼブルも地上に降りてきたものの、自身の周囲にいくつもの黒い亀裂を出現させ身を守っている。さらに、こちらから魔力攻撃を仕掛ければそれを奪おうと虎視眈々と狙っているはずだ。


「どうやら手ひどくやられたようだな。まったくお前らしくもない」


「レイ……スマンな、ちと油断してた」


 サティがベルゼブルを警戒している隙にレイも素早く私の下へと合流してくる。二人に目立った支障もなさそうだ……よし、これならまだまだ手は残ってる。


「そういや、お前らはリヴィを相手にしてたみたいだが……そっちは大丈夫なのか?」


「問題ない、奴は今抗争の中心にいる。俺としても奴との決着をつけたいところではあるが、何を優先すべきかはわかっているつもりだ」


 レイ……因縁あるリヴィとの決着を放棄してまで私の意思を優先してくれたのか。嬉しいねまったく。

 自身の感情よりも今自分が本当にやるべきことを優先する……レイも大人になったもんだ。


 となれば、やはり目下の問題は変わらず……。


「サティアン、あなたと最後に会ったのは例の作戦前以来でしょうか。話には聞いていましたが、本当にそちら側についているとは」


「使える手駒が減ったうえに、こうして敵対するまでなってあんたにしちゃ迷惑な話かい。でもね、これはアタシが選んだ道だ、誰にも文句は言わせないよ」


「いえいえ、私はあなたの意思を尊重しますよ。それに……実のところ、あなたは手元に置いておくにはとても扱いづらい存在でした。むしろこの方が都合がよかったのかもしれません」


「はぁ? 何おかしなこと言ってんだい?」


 サティが扱いづらい? 確かにサティは大雑把で、暴れたら手が付けられないところ(前から威圧感を感じるのでここまでにとどめておこう)はあるが、ベルゼブルの手腕ならばサティをコントロールすることはそう難しくもなかったと思うんだが。


「ま、御託はここまでにしとこうじゃないか。ムゲン、全力でやっちまっていいのかい」


「全力でやるのは構わないが、撤退を第一に考えてくれ。逃げられる隙を作れたなら迷わず逃げる、いいな」


「ムゲンにしちゃ弱気だね。別に倒せるなら倒しちまっても構わないんだろ……って言いたいところだけど、流石に未知数の相手にゃそうも言ってられないね」


「ああ、奴の生み出す黒い亀裂は私達の放った魔術や魔力攻撃……加えて周囲の環境にまで干渉して場を支配する。とにかくあれには絶対触れないように戦うようにするんだ」


 あれに関してだけはまだ明確な対抗手段がまるでない。実際にこの身で触れていないため、肉体に接触した際に何が起きるかはわからないが、魔術からの間接侵食でも危険だったところを見ると直接触れるのは危険すぎる。いや、武器などで間接的に触れることさえも危険かもしれない。


「要は奴に悟られずに攻撃すればいいということだろう。ふん、それならすでに完了している」


「ゴフッ!?」


 なんだ!? 突然ベルゼブルの顔が青ざめたと思ったら血を吐き出して苦しみだしたぞ!

 これは……レイが何かしたのか。


「な、なるほど……先ほど無神限さんを助けるために放った風の魔術、攻撃後あれは霧散したものと思っていましたが……すでに別の魔術に変換していたということですか」


「《闇》属性の術式を追加した魔術、『猛毒風ヴェノムウィンド』をすでに貴様の周囲にのみ充満させておいた。周囲の動植物まで巻き込んでしまうためあまり使いたくはない技だったが仕方ない」


 そうか、毒か! それも私を助けた時のあの魔術を応用して……。ベルゼブルに悟られずに奴の体内に毒を仕込むことに成功するとは、やるなレイ。

 あとは、このまま奴が毒に苦しんでいる内に私達が逃げられるかどうかだが……。


「いくら新魔族が丈夫だろうとこの毒は強力だ。これで殺れるとまでは思っていないが、奴の周囲に毒が充満している今の隙に逃げればいいだ……」


ピシッ……


 やはり……駄目か。ベルゼブルから感じる気配は変わっていない。今ここから離れようとすればあの黒い亀裂に捉えられてしまうだろう。

 それを感じたのか、サティとレイの表情にも焦りが見え始めていた。


「バカな! 毒で苦しみながらどうやって俺達を捉え続け……ッ!?」


 レイが驚愕したのも無理はない。毒で苦しんでいたはずのベルゼブルを見ると、そこには黒い亀裂によってその身を貫かれた姿でこちらを見つめていたのだから。

 それが意味するものとは……。


「まさか……そんな滅茶苦茶なことまでできるとか言わないだろうな」


「あなたの考えてる通りですよ。私は自身に“侵食”を使用し、この体を正常な状態へと作り変えました。直接貫くのは自身にしかできないので少々不便ですが」


 いよいよチートじみてきたな。その理屈なら奴にどれだけのダメージを与えても一瞬で復活するってことだ。認識させずに即死させられれば倒すことはできるかもしれないが、ベルゼブル相手にそんなことができるとも思えない。


「くっ、だが猛毒の空気がまだ充満してるはずだというのになぜ……」


「それなら周囲の環境を侵食してすでに正常な空気に作り変えていますよ。自然は大切にしなければいけませんよエルフさん……なんて、私が言えたことじゃないですけどね」


 やはりまともに相手をするには奴の能力に未知数な部分が多すぎる。その謎を解くだけでこちらが疲弊しては元も子もない。


「こうなれば全力で突破口を切り開くしかない。犬、合体するぞ! セフィラはレイの後ろにいるんだ!」


「う、うん! わかった!」


 この戦力ならば私とサティが二人でベルゼブルをかく乱し、レイには遠距離からの援護に専念してもらうのがベストだ。隙さえ作れれば私がセフィラを、サティがレイを抱えて走り逃げられる。


「やっぱり生半可じゃいかないみたいだね。アタシもすべての力を解放させてもらうよ!」


「ガウーン!(ぼくも全力でいくっすよー!)」


「ああ、いくぞ! 『精霊合身スピリット・クロス』!」


 魔力的な攻撃はそのほとんどが侵食され決定打になり得ない。ならば残る手段は物理的な攻撃に限られる。

 たった一つでいい……大きく怯ませる大技さえ届きさえすれば、奴の回復速度がどれだけ早くとも体勢を立て直す時間が生まれるはずだ。


 だがそのためには……。


「皆さん威勢がいいですね。しかし、それだけではどうにもならないこともありますよ」


 ベルゼブルの周囲に黒い亀裂が広がり、まるでイバラのようにその身を守っている。これでは攻撃どころか近づくことさえできない。


(だが、ここまでの戦いの中でいくつかわかったことはある)


 あの黒い亀裂は直接的な攻撃には使えない、こちらの動きに依存する言わばカウンターのようなもの。さらに、長時間維持することはできず一分もしないうちに消えてしまう。

 そしておそらく、出現させられる規模に限りがある。今もベルゼブルの周囲を亀裂が覆ってはいるが、網目状の隙間はいくつも見て取れる。


「サティ、やれるか」


「ああ、あれだけ開いてれば十分だよ!」


 私の意図したことをサティも理解しており、その言葉と同時に私の隣から一瞬のうちに飛び出していた。


「いくよ! 『爆炎突バクエントツ』!」


「なんと、すでに上空でしたか」


 すでにベルゼブルの眼前上空に跳びあがったサティは相手に反応させる暇も与えないほどのスピードで燃え盛る剣で空を突くと、その鋭い剣圧が炎と共にベルゼブルめがけて飛び出していく。

 それはまさに針の縫い目を突くように、正確にベルゼブルの姿を捉えていた。


「流石新世代の七皇では随一のスピードとパワーといったところでしょうか。ですが、その炎も所詮魔力にすぎません」


 斬撃が亀裂に触れ、その炎は勢いを失うと同時にゆっくりと操られるように動くが……。


「これであなたの炎は……むっ」


 それと同時にベルゼブルの頬が切り裂かれ鮮血が流れ始める。


「悪いけど、その斬撃は魔力じゃなくてアタシのパワーではじき出したもんさ。どうやらそっちは防げなかったみたいだね」


 純粋な腕力で生み出された飛ぶ斬撃か……どうやら魔力以外の遠距離攻撃なら亀裂の影響を受けないようだな。

 奪われた魔力の炎もベルゼブルが怯んだことでどこかに霧散した。サティは魔力攻撃は奪われることを考慮し今の攻撃を仕掛けたってことか……やるな。


「そして……そうとわかれば! こちらもいくぞ、術式展開! 『重力拳グラヴィティナックル』! さらに獣王流“天ノ章”!」


 あの亀裂が純粋な攻撃による衝撃を操れないというのなら奴の防御はもはや無意味……むしろ自ら立てこもったあの状態なら籠の中の鳥同然!


「私も宙から攻める! "三ノ型"『落絶破岩ラクゼツハガン』! オラララララァ!」


 この技は本来空中から巨大な拳圧で相手を潰すものだが、今回はあえて衝撃波を小さくしその分数で攻めていく。


「これは……先ほどとは別の重力変化も混ざっていますね。なるほど、これは厄介だ」


 そう、先ほど事前に重力の力を拳に宿しておいたのはこのためだ。これも先ほど気づいたことだが、奴は環境を変化させることはできるがそれはあの瞬間だけ……確かに重力や毒の影響を消し去りはしたが、その後周囲の環境は通常の状態に戻っただけであり、常に変化させているわけではない。


 なのでこうして亀裂で対処できない拳圧と同時に重力に影響を与えていくことで奴に必要以上のリソースを消費させることができるということだ!


「こうなっては流石にこの場から動かねばなりませんね」


 ついにベルゼブルが亀裂の網を捨て宙に飛び出した! やはりこれだけでは仕留めきれない……が、網状の亀裂が残っている今新たに亀裂を生み出せる数は限られている。

 そこへ私の重力攻撃で奴がさらに侵食を使って環境を変え続けざる得ない状況さえ作れば!


「アタシが決めにいけるってことだ! 『剛魔爆炎斬ゴウマバクエンザン』!」


 その隙をついて一撃に魔力を集中させたサティが飛び掛かっていく。これさえ決まれば……。


「ぐぬっ……侵食の数が足りませんか……」


「ちっ! あの亀裂を使わないでアタシの技を普通に受け止められるのかい!」


「一応、格闘戦もそこそこ心得はあるんですよ。とても痛いですがね……」


 惜しい……完全に決まったと思ったサティの一撃だったが、魔力を纏った奴の腕に止められてしまった。あいつ、あんなこともできたのか。

 だが、それでも受け止めきれなかったのか奴の腕には切り裂かれた深い傷跡と、魔力の炎による炎上がその体を発火させている。


 しかしこれでは奴は倒せない。もっと致命的な一撃でなければ……。


「サティ、一度離れろ!」


 見れば、ベルゼブルはすでに侵食によって自身の体を回復させ、発火した魔力の炎もコントロールしている。


「お返ししますよ」


 サティへと標的を変えたベルゼブルはそのまま炎を撃ち返し、さらには退路を亀裂で塞ぐつもりだ。


「このままじゃヤバいね……!」


「サティアン、あなたとはなるべく戦いたくなかったのですが……こうなっては致し方ないでしょう」


 このままベルゼブルが亀裂を出現させればサティはやられてしまう……だが。


「そんなことはこの俺が許さん! いけ、『荒れ狂う突風エアロブラスト』!」


「この風は……先ほどの」


 突如向かってきた突風にベルゼブルは亀裂の出現場所の変更を余儀なくされる。先ほど私を助けたように奴の認識外から仕掛けることによって咄嗟の判断を遅らせることができる。

 これでサティへの攻撃は返された炎だけとなり……。


「元々アタシの炎だ。これくらいなら楽勝さ!」


 炎を振り払い、ベルゼブルから距離を取ることに成功したようだ。


「ありがとなレイ、助かったよ!」


「サティは俺が守る……だからお前は何も気にせず突き進め!」


 大したコンビネーションだ。レイの魔術の一部は奪われたものの、すぐに切り離し侵食も免れている。

 そうなると、次のベルゼブルの行動は……。


「仕留めそこないましたか。なら次はこの風を使って……」


「させるかっての!(『高速戦闘移動スレイプニィル』っす!)"一ノ型"『飛脚ヒキャク』!」


「なんと、すでに下にっ……」


 そう来るのは読めていたからな! お前は奪った魔術をすぐに相手に返す。おそらく奪った魔術も亀裂同様に制限時間があるんだろう。

 すでに地面に降りていた私は犬の高速移動でお前の下に潜り込ませてもらっていたわけだ。


「この調子ならいけそうだね」


「ああ、少しづつだが確実に追い詰めはじめている」


 一度一つに集まり体勢を立て直し状況を確認し直す。一見無敵のように思えた奴の能力にもやはり穴はあった。

 カギを握るのはやはりベルゼブル自身の認識能力だ。奴自身が反応できなければあの亀裂も生み出すことができない。私達の純粋な身体能力が奴を上回っているのがこちらの一番の強みとなる。


「へっ、アタシと戦いたくなかったってのは、こうやって力押しされるのが怖かったってことかい。なるほどね、魔力中心の戦い方をするリヴィやアリスと違ってアタシは扱いづらかったってことかい」


「……」


 なんだ? ベルゼブルのやつ、何も言わずに黙ってしまったぞ? いや、というよりもこちらを見ずに何かを考えているように見えるが……。


「自分が不利になったと見るやダンマリかい。ムゲン、レイ、このまま押し切って早いとこここからズラかるよ!」


「……ああ!」


 奴が何を考えているかはわからないが、少なくともこちらが優位な状況でさっさと決着をつけられればそれでいい。

 先ほどと同じようにまた波状攻撃で……。


「うーむ……しょうがないですね。予定外ですが……『第三段階』を使うことにしましょう」


 ゾクリと……背筋にいやなモノが走る感覚が走った。そう、それは今の私達が絶対に相手にしてはいけないモノだと私の中の危険信号が一斉に警報を鳴らすかのように。


バキッ……!


 は私達の前に現れた。


「なんだい……あれ」


「今までの亀裂……とは違う。なんだあの大きさは」


 ベルゼブルの背後に現れたのは先ほどまで私達を襲っていたものと同じ黒い亀裂……だが、その大きさは今までの比ではないほど巨大で、まるで何かがそこから這い出してきそうな威圧感を漂わせていた。


「やだ……あそこはいや。いや! 戻りたくない! あたしはあそこに戻りたくないの!」


 あの巨大な亀裂を目の当たりにしてセフィラが今までにないほどの怯えを見せ始める。いや、この怯え方は……私が幻影からセフィラを解放する時に見せた感じに似ている。


「……(ご主人、あれって……)」


 そして私の中で犬も感じているように、私も感じていた。

 そうだ、私は"あれ"を見たことがある……。私がもう一度この世界に戻ってきたあの時……そう、『幻影の森』で見たあの亀裂と同じ!



「第三段階……“支配”!」



「……!」


 突如、体の中から途端に力が抜けていく感覚に襲われる。これは……体の中の魔力がかき回されているような……。


「く……『精霊合身スピリット・クロス』が維持できない(ぼ、ぼくもなんかダメっす~)」


「なん……だい、これ。全然魔力が沸き上がってこないよ……」

「まるで体が俺のものじゃないような感覚だ……」


 私と同じようにサティやレイも体の不調を感じている。サティや、私との合体が解除された犬もすでに元の姿に戻ってしまっている。

 皆同じだ、体内の魔力が安定していない。セフィラだけは無事なようだが、彼女も何かに怯え動くことができないでいた。


 それに、辺りを見渡すと今まで抗争を繰り広げていた女神政権の兵や、新魔族の軍団までもその場にうずくまり体の不調を訴えている。


(この感覚は……まるで命を吸われているような……)


 そうだ、この感覚を私は知っている。私はでこれと同じような体験をしたことがあるのだ。


「ぐ……おおお、ケルケイオン……モード『虚無ゼロ』!」

カチッ


「ワググ……ワウ?(うぐぐ……あれ、苦しいのが消えたっす?)」


「さっきより……体が軽くなったね」

「ムゲン、お前が何かしたのか」


「ああ……応急処置に過ぎないがな」


 危なかった、もし私がケルケイオンを所持していなかったら私達はここで全滅していたかもしれない。


「おや、その杖は……なるほど、小さな規模ではありますが私の“支配”した空間をさらに組み替えてすべてから解放された虚数の空間を作り出しましたか」


「そんなことより……なぜお前がアステリムの“世界神”と同じことができる!」


 そう、ベルゼブルのこの力……これは、この世界の真の神である『-世界神-アレイストゥリムス』が世界の浄化のために行った"世界そのものが人を攻撃する"力だ。

 私はそれを阻止するために反魔力物質アンチマジックマテリアルを研究し、ついに『虚無ゼロ』を発現させることに成功したのだから。


「それならば話は簡単です。なぜなら……すでにこの世界の約半分は私のものとなっているのですから。そしてそれを扱うのが“支配”の真の力」


「なっ!?」


 それはつまり、戦いの前にベルゼブルが語ったこの世界を喰らう存在……それがこの世界の半分を支配しているということになるのか。

 だがなぜそれをベルゼブルが使える……まだ、わからないことが多すぎる。


 とにかく今私達にわかっていることといえば……状況がより絶望的になったということだけだ。


「このまま終わらせてもよいのですが……その前にサティアン。あなたに一つ教えておきましょう」


「ッ……なんだい、改まって」


「私は別にあなたのことなどまるで脅威だとは思っていませんでしたよ。殺そうと思えばいつでも殺せました……いや、実際私は一度あなたを殺そうと実行しようとしたこともあったんですよ」


「な、なんだそりゃ!? アタシにはそんな覚えはないぞ!」


「それもそうでしょう、なにせあなたが生まれて間もない頃の話ですから。……ただ、私はそれ以降あなたになんの手出しもできなくなってしまいましたがね」


 なぜだ、どうしてベルゼブルはこれほどまでにサティに干渉しようとしなかった。サティに手出しができず、配下となっても扱い切ることができなかった理由とは……。


「じゃあ、なんでアタシが苦手なような発言をしてたんだい!」


「私の身が危なかったからですよ。あなたに直接手を下したり、危険に晒そうものなら黙っていない人がいますからね」


 ……なんだ! なにか強大な力が突如遥か上空に現れた。どんどん近づいてくる……まさに私達の真上に!


「そう、まさにこんな風に……です」


ズドォオオオオオン!


「うわっ!?」

「な、なんだ、何が降ってきた!」


 それは丁度私達とベルゼブルの間に落ち、大量の土ぼこりが晴れるとともにその姿を現していく。


「そんな……まさか、あんたは」


 そう……"彼"は数時間前に私達と別れたはずの……。



「ベルゼブル……どうやら、貴様と我の停戦は断たれたようだな」



 燃えるような髪と肌、そして漆黒の衣を纏う“魔神”が怒りの表情でベルゼブルを睨みつけていた。


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