208話 共に歩むための選択
間違いない、見違えるはずもない。今私の目に前には再会したいと求めてやまなかった人物が確かに目の前にいる。
しかも、先ほど広場で見たような顔を隠し声も発しない偽りではない……私の知る本来の姿のままのセフィラがそこにいるのだ。
「よ……よう、久しぶりだな」
「……」
こういう突然の事態の時ってなかなか気の利いた言葉って出てこないよな。セフィラも呆然と立ち尽くしてしまっているし。
というか、崩れた瓦礫に半ば埋もれているような今の私の状態もシュールすぎるだろ。
「いやー、私としてももうちょっとカッコよく登場したかったところではあるんだがな。ちとヘマをしてしまった。まぁこうしてお前に会えたんだから結果オーライというか……」
「な……なな……」
お、セフィラもようやく意識が現実に引き戻されたように表情に感情が戻り、体をプルプルと振るわせながら何かを言いたそうにしているぞ。
ここは一つ私の華麗な話術で一旦落ち着かせてからゆっくりと話し合うとしよう。
「うむ、セフィラも私と再会できて嬉しいか。いきなりの訪問はやっぱり驚かせちまったようだが、そこは私の小粋なサプライズとして受け取ってくれ。とりあえず、ここからは落ち着いて話し合いといこうじゃ……」
「なんであんたがここにいるのよ!?」
はい、無理でした。まぁ突然ここにいるはずのない知り合いがこんな形で表れでもしたらそりゃ取り乱すよなぁ。
しかし……うん、これだよこれ、セフィラといえばちょっと偉そうでいておバカっぽい感じ。驚き方も大きな声で響く感じがなんとも……ん?
今の声結構響いたよな、多分部屋の外まで聞こえてるんじゃないだろうか。つまり……。
「女神様! どうかなさいましたか!?」
「先ほどのお叫びはいったい!?」
当然信者共が駆け付けてくるってもんだ。マズいな、今この状況を見られるのは非常によろしくない。
なんとかしたいところだが、連続で高魔力を行使したせいで体の中の魔力は回復中だ。
「……なんでもないわ。下がりなさい」
「で、ですが今のは……」
「あなたは我が信徒であるというのに我が意に従えないというのですか」
(セフィラ……)
まさか、ここで私のことを助けてくれるとは……。私のことを突き放したあの日から避けるような態度だったので正直ここで信者に突き出されるかもとも思ったが。
「ワウ(セフィラさん、変わってないみたいで安心するっすね)」
「おお、起きたか犬」
落下のショックでのびていた犬もようやく起き上がったようで、どうやら私達の様子から状況を判断したらしいな。
このまま上手くいけばなんとか信徒に見つかることは避けられそうだが……。
「わかったのなら、早くここから去りなさい」
「ふぅむ、ですが我々の役目は女神様の安全を守ること……。だからこそ彼らもこれほどまでに女神様のことを心配して引き下がらないのですよ」
「その声……グラーディオ最高司祭ね」
っと、どうやら遅れてお偉いさんであるあの男が現れたみたいだな。ホント余計なタイミングで出てくるねおっさん。
「我々は常に女神様の身を案じているのです。私としては万が一でも女神様にもしものことがあっては今まで女神様と共に女神政権を育て上げてきた歴代の最高司祭にも申し訳が立たないというもの」
「あたしの身を案じてる……か。今思えば歴代の最高司祭の考え方や思惑も似たようなものだったって実感できるのも嫌な気分……」
なんだか呆れたような表情でブツブツと言いながらため息をつくセフィラだが、あの男と何かあったのか?
とにかく、ここはセフィラに任せてみよう。
「ですので女神様、どうか扉を開けてはいただけませんか」
「いやよ、さっきから何も問題ないって言ってるでしょう? それともなに、あなた達は信望する女神の言葉を信じられないとでもいうの?」
「それは……」
「我々はそのようなつもりでは……」
セフィラの強気な物言いにグラーディオ以外の信徒がうろたえる様子が扉越しでも伝わってくる。流石に自信が信じる対象を裏切るような発言などできるはずもないだろうしな。
「仕方ありませんな。女神様がそこまで言うのであれば我々は引き下がりましょう。しかし、これは我々は女神様を信じているからこそであります。ですので、女神様もなにとぞ我らを信頼し頼ってくださいませ」
いちいち言葉が長い奴だ。だがその言葉を最後に扉の前から気配は去っていく。
とりあえず、どうやらセフィラのおかげで危機は脱せたみたいだな。
「あんがとな、セフィラ」
「別に……お礼なんていいわよ。あんたが信徒と鉢合わせたらもっと面倒くさいことになってただろうから楽な方を選んだだけ」
「つまり、私との楽しいお喋りを優先したってことだろ。照れんな照れんな」
「そんなわけないでしょこのアホ。相変わらず無駄に前向きな奴ね。あ、それと声は抑えといたほうがいいわよ、もしかしたら信徒やグラーディオがまだ疑ってるかもしれないから」
「それなら大丈夫だ、今『
なんだろうな、何気ない会話だというのになんだか嬉しくなってつい顔がにやけてしまう。いや、理由なんてわかりきっているか……。
「てか、あんたこんなところまで何しに来たのよ」
「ふっ……それはもちろん、キミに会うためサ!」
白い歯をキラリと輝かせながらバチっとウィンクしてカッコよくキマったぜ。せっかくの再会なんだからここはビシッとキメないとな!
「キモ」
「ワウ(そういうところっすよご主人)」
「この美学が伝わらんとは……」
気になるあの子にカッコいいとこ見せたいと考えるのは当然だと思うんだがなぁ。だからこそ私が今まで見てきた恋愛経験者達の言動やアニメゲームの知識をフル回転させて最高の答えを導き出してるはずなんだが……。
「ワウン(ご主人は自分自身に恋愛経験がないから誰かの真似をしようとして逆にご主人らしさがなくなっちゃってるんすよ)」
私らしさ……か。確かに犬の言う通りかもな。
この記憶の中には多くの者達が想いを通じ合って幸せな人生を過ごす人生を見てきた経験がある。だがいつしか私はそれを羨みながらも押し込んで……だから、いざとなると彼らと同じようになりたいという気持ちが強くなっていたのかもしれない。
「そうねー、どうせだったらちょっとでもあたしをドキッとさせるようなセリフでも言ってみなさいよ。恋愛オンチなムゲンにそれができたらのハナシだけど」
言ってくれる……こちとらここにたどり着くまでにどれだけ苦労したと思ってるんだっての。
一度日本に戻って、悩んで悩んで悩んだ末にここまでやってきた理由だって、ただセフィラの……。
「あ」
「なによ、とぼけた顔して? 何か思いついたんなら行ってみなさいよ、ほらほら」
まったく、たどり着くまで求めていたものはずっと遠くにあると思っていたのに、いざたどり着いてみればこんなにも簡単に見つかるものだったなんてな。
そうだな、私も頭で考えないで気持ちをそのまま伝えてみるとするか。
「ああ、その笑顔だ」
「え? それってどういう……」
「お前の笑顔がもう一度見たかったから私はここまで来た。それが一番の理由だ」
我ながら結構恥ずかしいことを言っている気もするが……なんだろうな、実際にはそれほど恥ずかしいという感情は湧いてこない。
……そうか、それはきっとこれが私の本心から生まれたものだからだろう。
「な、ななななな何言ってんのよ突然! またそんなカッコつけたセリフであたしがドキッとすると思ったら大間違いなんだから!」
「ワフワフ(でも、ちょっぴり頬を染めて顔を逸らしても説得力ないっすよー)」
「そうだそうだー、素直になっちゃえYO」
「いやあんた、今まで真面目だったのにすぐ元の調子に戻らないでよ。こっちの調子が狂うじゃない……」
「気にするな、いつも通りだ」
そう、いつも通りの私達の関係だ。けれど、今はそれが何よりも楽しい。
この楽しい時間がいつまでも続いてほしい……だが、そういうわけにはいかない。むしろ私は、そんな止まった時間を再び動かすためにここまでやってきたのだから……。
それから、私達は少しだけ世間話を交わしていた。もちろん暗い話題は避けてだ。
魔導師ギルドの寮のメンバーの話やヴォリンレクスでの出来事、シリカ達ももう一度会って話がしたいことなどなど……。
「そっ……か。シリカやみんな、もっと怒ってると思ったんだけどな」
「あいつらはそんな薄情な奴らじゃないさ。キチンと話し合えば、きっと分かり合える」
だが、私もセフィラも本当に話したいことはこんなことではないとわかっている。わかったうえで、それを切り出せないでいた。
もうすぐ日が沈む……時間は残されていない。
「……セフィラ、どうしてお前はここにいるんだ」
「……」
私のその一言で、会話が途切れる。セフィラとしても、やはり答えづらい質問なのはわかっている、だが私は知りたいんだ……セフィラの本心を、あの日聞けなかった真実を。
「新魔族を……倒すため、前にも言ったでしょ。奴らと決着をつけるためにあたしは女神政権の旗印になって……」
「んなもん、別にお前がここにいる理由になんてならないな。言っちゃ悪いが、戦いに赴く連中にとって女神が本物かどうかなんて大した問題でもないみたいだしな」
「それは……」
事実、先の広場での『女神お披露目会』においてもセフィラは顔も隠して背丈もごまかしていた。だというのに信徒は一切も疑うことなく女神のためにと戦いの士気を上げ、魔導師ギルドの連中はそんなこと興味もなさそうにただ自分達の仕事をこなすことだけを考えていた。
「連中にとって、“女神”なんてのはただの概念に過ぎない……。だったら、戦争なんてのはやりたい奴らに勝手にやらせて、セフィラだけがどっかに逃げたとしても何も問題ないはずだろ。女神の役はお偉い連中が勝手に代役でも立てればいい話だしな」
もう言いたいことを我慢なんてしない。やっとここまでこれたんだ、思いついたことは全部言わせてもらう。
「で、でも、いざ本当の女神じゃないって信徒にバレることがあったら大問題だし。上層部……特に最高司祭のグラーディオは“女神”が本物であることに固執してるし……」
「グラーディオ? ああ、あのおっさんか」
確かに、あのおっさんは魔導師ギルドまで自らやってきてセフィラを連れ帰るという徹底ぶりまで披露するほどだ。それに、さっきもしつこくセフィラの身の確認をしようと粘っていた。
「ワウー(それだけ熱心な信徒ってことっすかねぇ。最高司祭っていうぐらいっすし)」
「どうかしら……。上層部、特にグラーディオが信じているものは信仰心よりもお金や権力だもの。歴代の最高司祭もみんなおんなじだったし……毎回そういう人間が選ばれてるのよね」
どういうことだ? 確かにこれだけ世界規模の大きな組織のトップならその権力はすさまじいだろう。純粋に神を崇める信者を集めてトップは金にがめつい新興宗教なんてのも珍しい話でもない。
ならなぜグラーディオはセフィラに執着する? 信仰心でないのなら別の理由があるのか……それとも情報が外に漏れるのを阻止しているだけか……。
「いつの時代だったかな……その時代の最高司祭が誰かにボヤいてたのは聞いたことあるのよ「初代最高司祭の教えの通り、女神を清らかなままお守りし続ければ最高司祭には永劫の富と地位が約束される」って。その時は別に興味なかったから放っておいたんだけど」
なるほど、女神を守ることこそが自身の揺るがない権力に繋がる……だからこそ最高司祭は女神に執着するってわけか。しかも、そんな歴史が1000年以上も続いた実績があるとくりゃ疑う余地もないだろうしな。
ただ気になるのは、なぜ初代最高司祭とやらがそんなことを知っていたのかだが……。
「何者なんだ、その初代最高司祭ってやつは……」
「あたしもよく覚えてないけど。いきなり現れていろいろと尽くしてくれたわね。女神政権を作ったのもそいつだったし」
「突然現れて尽くしてくれることには疑問を抱かなかったんだな……」
「う……ま、まぁ、あたしってば“女神”だし」
そういやこいつ、出会った頃は自分が女神だからって何をしてもよく、誰からも敬られる存在だとか言ってたなぁ……。
だが待てよ、ならその最高司祭はそんなセフィラの態度になんの疑問も持たずに従っていたってことだよな。うーむ、知れば知る程怪しい人物だが、大昔の人間を今疑ったところで何もならないか。
ただ、これまでの会話で私は一つの結論にたどり着いた。
「セフィラ、お前がここにいる必要はどこにもない」
「え、ちょ、ちょっと!?」
私はセフィラの腕を引いて立ち上がる。
私は確信した、これ以上この場所にセフィラが留まっていたところで何も良いことはない。むしろ政権の都合のいい道具のように扱われるようなものだ。
さっきも言ったが、戦争なんてのはやりたい奴らが勝手にやればいい。ただ、その勝手な騒動に巻き込まれなくてもいいものが巻き込まれようとしているなら私はそれを守るために立ち上がる。
そして、それはセフィラも変わらない。たとえセフィラ自身がここに残ることを選んでも私はそれを認めない……義務感や使命感なんてくそくらえだ。
「は、離しなさいよ! あたしは別にここから離れる気は……」
「いいや離さん。お前がここにいる必要はない、というか私がお前をこんなところにいさせたくない」
「か、勝手なこと言わないでよ!?」
ああ勝手だ、今の私は前世の威厳もこれまで積み上げてきた理性的な自分も捨て去り、ただただ自分の感情のままに従っているだけ。
私がセフィラと共にいたい、ただそれだけのことに過ぎない。それに、今までの口ぶりや態度からセフィラだって本当はこんなところにいたとは思っていないはずだ。
「文句なら後でたっぷりと時間をかけて話し合う機会を受け付けてやる。だから今は……」
「やめて!」
「ッ!?」
その強い感情の籠った拒絶の言葉とともに……セフィラの腕を掴んでいた私の手は払われていた。
だがそれだけではない……何か、今、とてつもない魔力の"乱れ"のようなものがセフィラから広がったような……。
「駄目なの、あたしは……一緒に行けないの」
「どうして、そこまでここに残ることに固執するんだ」
「そんなのあたしにだってわからないわよ!」
なんだ、セフィラが拒絶するたび……何か得体の知れないものが溢れ出てくるようなこの感覚は。
「本当はもう一度皆にも会いたいし、お話だけじゃないいろんな世界も見てみたい、そう思い始められるようになったの! 女神としてじゃなく、一人の人間のように振る舞ってもいいんだって……! でも、あたしの中の何かがそれを許さないの! あたしじゃないあたしが何人も囁いてくるの、『自分のやるべきことから逃げるな』って!」
「使命? なんだその使命というのは、それがお前をここに縛り付けている理由なのか!」
「わからない! でも……消えないの、その声が言うの、『あたしじゃないあたしが幸せになるなんて許さない』って! だから私は戦はくちゃいけないの、奴らを滅ぼすために……たとえ世界が壊れても!」
「ッ! これは!?」
セフィラの中から溢れ出るエネルギーがだんだん強くなってきた。今ではハッキリ感じられる。いったいセフィラに何が起こってるというんだ!
「いや! これはあたしの感情じゃない! あたしの中に入ってこないで! わからない……わからない! 誰か……助けて……」
「ワウン!?(ご主人、セフィラさんどうなっちゃったんすか!?)」
「私にもわからん……だが、どうにかするしかないだろう!」
とはいっても、セフィラから溢れ出るエネルギーは今まで感じたこともない波長だ、明確な対処のしようがない。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。なぜなら、私はセフィラのことを……。
ピロン
「っとおおう!?」
なんで私はこうカッコよくキメてるところを丁度良く邪魔されるかな!
などと言ってる場合でもないか。今の音はスマホから……また何か新しいアプリが追加されたのかと画面を確認するが、起動されていたのは魔術アプリではなくメッセージアプリだった。
つまり、会話の相手は……。
[今の彼女の状態はマズい、このまま放っておけば今ある彼女の意識は消えてしまうだろう]
やはり、今まで私を導いてきたこいつか。セフィラの緊急事態にこうして出てくるってことは、こいつにとってもよくないことが起きてるってことだろう。
「わかってるならなんか対処法とかないのかよ!」
[ないこともない。即席ではあるが新たなアプリを追加した、今すぐそれを使用するといい]
そうこうしている間にもセフィラの魔力の波動はさらに強くなっていく。これはもう、部屋を超えて外まで伝わってると考えていいだろうな。
とにかく、新しいアプリってやつを見せてもらおうじゃないか!
[UnLock]解呪
これだけか! 説明も何も乗っていない、本当に急ごしらえってことか。しかし『解呪』ってことは……セフィラに起きている事態は何かの呪いということなのか?
「ダメ……あたし……もう」
「って、んなこと考えてる暇はねぇ! [UnLock]起動!」
そのアプリを起動した瞬間、スマホを伝わり何かが私の腕に流れ込んでくるのを感じる。そして、そのエネルギーは私の腕に幾何学模様のように刻み込まれ、青白い光を浮かび上がらせた。
「な、なんか出たけどこれでいったいどうすれ……ッ!?」
「ワウ!?(ど、どうしたっすご主人、そんな驚いた顔して!?)」
そりゃ驚きもするさ……今まで見えていないものが見えるようになったらな。
今私の目には、頭を抱えるセフィラに群がる無数の幻影が映っている。そしてその幻影はどれも……セフィラに似ているようにようにも見えるようで……。
(セフィラ、これがお前が抱えていた苦しみなのか)
この無数の幻影がなんなのか今の私にはわからない。だが、この手でセフィラを救い出せるというのならアレが何であろうと構わない。
「待ってろセフィラ! 今私が……!」
ピロリ[待て、それでは意味がない]
「って、どういうことだ!? この腕でセフィラを救えるんじゃないのかよ!」
[その魔術は未完成だ。こちらから強引に使用することはできない。使用するには、相手の合意が必要となる]
つまり、このアプリの真の力を発揮させるには、セフィラ自らの意思で私の手を取ってもらう必要があるってことか。
「こ、この状況はいったい何事だ!」
「女神様!? どうなされました!」
「奥にいる貴様は何者だ!?」
クソッ、グラーディオと見張りの信徒が異変に気づいてついに押しかけてきやがったか! まったくこんな時に厄介なことになったもんだ。
「うぐぐ、しかしなんだ……立っていられん! 貴様の仕業か!」
「久しぶりおっさん。悪いけどあんたと話してる時間はなくてね、そこで見ていてくれや」
「なっ! 貴様あの時の魔導師か!」
言葉の通りグラーディオなどに構っている暇はない。セフィラは……まだかろうじて意識を保っているってとこか。
まったくこりゃ、シチュエーション的にはこれ以上ない主人公の見せ場ってとこだな!
「セフィラ、聞け! お前は消えない! 私が決してお前という存在を消させはしない!」
「ああ……ム、ゲン?」
「そいつらを振り払って私の下へ来い! お前が縛られる理由なんてどこにもないんだ!」
「違うの……そうじゃないのムゲン……」
これだけ苦しんで、辛くて涙を流しながらもまだセフィラは留まることを選んでいる。
「彼女達はあたしなの……幸せになれなかったあたし自身。彼女達がどれだけ望んでも手に入れられなかったものをあたしだけが手に入れるなんて許されない。あたしも彼女達と同じ運命をたどるべきなの……それが決められたあたし達の運命なの!」
幸せになれなかった自分? 同じ運命をたどることが決められたこと……?
そうか、セフィラにとってはそれが何よりも重く、果たすべきことだと感じているのか……。
そうか、それなら……そんなもの……。
「それがどうしたこの……アホ女神!」
「えっ?」
「さっきから運命だとか決められたことだとかつまらないこと言ってんじゃねぇ! 運命がどうした、そんなもん私がぶち壊してやる!」
「そんなことできるわけない! あたしは……生まれた時から決められた終わりしか許されてないの!」
「違う! 運命なんてもんは自分の力で変えられるんだ! そして私はそんな運命に悩むお前の力になれる!」
「どうして! どうしてそんなことがあんたなんかにわかるのよ!」
どうしてだろうな……けれども私にはわかるんだ、私がこの世界に自分の意思で戻ってきたあの時から。
それは、その理由は……。
「理由なんて一つしかないさ……それは、私がこの物語の主人公で! セフィラ、お前がそのヒロインだからだ!」
これは私の物語だ。誰かに示されたわけでもない、ただ私自身がそれを望んだ時からきっとそれは始まっていた。
だから私はこの物語を誰もが納得するハッピーエンドへ導いてやらないといけないんだ。
そのためには……。
「セフィラ! 私の下へ来い! 他の誰でもない、たとえその幻影達がお前自身だとしても……私はお前を、セフィラフィリスをヒロインにしたい! だから私の手を取れ!」
「ムゲン、あたしは……幸せになってもいいの?」
「あったり前だっての!」
その手が重ねられる……セフィラは私を選んでくれた。
ああそうだ、今この瞬間……私達は物語の主人公とヒロインとなったんだ。
さぁ、私達の物語を続けよう。
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