187話 侵攻準備はお早めに
「んでもってその後アタシは新魔族の戦士として活動したのち、他大陸を内側から侵略する作戦に乗ってリヴィにハメられて……それからは二人も知っての通りさ」
「ほうほう、そりゃなんとも奇抜な人生なこって」
会議が滞りなく終了したのち、私はサティとレイにあてがわれた客室に集まってサティが今までひた隠しにしてきた彼女本来の"家族"の事情を聞かさせてもらっていた。
今後の作戦に関わってくる話とはいえやはりプライベートな事情故ほかの皆には知られたくないらしい。
「昔あった父親とのいざこざか……。サティが家族の信頼にこだわるのもそれが原因だったりするのか?」
「かもね……アタシ自身もよくわからないよ」
おそらく無意識によるものなんだろう。心の奥底に眠っている感情がふとしたきっかけで呼び起こされる……抑えようもないくらいに。
「俺は……少しショックだな。たとえ思い出したくない辛い過去だとしても、今の"家族"である俺達には隠し事はしてほしくない」
「ごめんよ……皆と本当の家族のようになった今なら吹っ切れた問題だと思ってたんだけどね。アイツのことを話そうとするとどこか心にブレーキがかかっちまう」
そういえば、かなり前の話になるがサティに最古の新魔族について話を聞いた時にどこか焦っていたように感じたが……なるほど、今その理由がハッキリとわかった。
覚えてない読者は2章のラストの方を読み返してきな!
「だがいいのか? サティが本当に会いたくないというのなら私は無理強いはしないが?」
あれからサティはベルフェゴルへの訪問に協力することを了承してくれた。
今後の作戦で魔導師ギルドへたどり着いたのち、私とサティとレイが魔導ゲート(仮)を使い第六大陸へと飛ぶ手はずとなっている。
「アタシなら大丈夫だよ。もう以前みたいにひねくれた考え方は捨てた……というか、きっとこれはいつか解決しないといけない問題だったんだよ。それが今になったっていう話なだけさ」
「そうか……それと、ベルフェゴルとの交渉が成功するにしろしないにしろその後は私の指示に従って行動してもらうことになるが、その点に関しても問題はないか?」
「ああ、もとよりそのつもりさ」
「以前お前に借りた大きな貸しを返す絶好の機会でもあるからな」
借りとか貸しとかは私にはどうでもいいんだが、理由はどうあれ力を貸してくれるというのなら大いにありがたい。
空間転移後の予定だが、順調にベルフェゴルの協力を得られたのならそのまま第五大陸へ。逆に協力を拒否されたならルイファンやカロフ達が攻めているであろうアリスティウスの拠点に向かい挟み撃ちにする。
これならばどちらに転んでも無駄はない。
「……でも、あんまり期待はしないでくれよ? ルイ姉はああ言ったけどさ、事実アイツとは何年も会ってなかった期間が長いし、最後にあった時なんかアタシ自分から「親子の縁は切る」とか言っちゃった気がするし……」
「まぁ……そこは実際に会ってみなけりゃわかんないしな」
昔はどうだったか知らないが、ルイファンやサティの話を聞く限りには過激な人物ではないと思いたい。
あとは実際にベルフェゴルがサティのことをどう思ってるかによるか……。
(実はサティにめっちゃ腹を立てていて、顔を見た瞬間怒って襲い掛かってくる……なんてことにならなきゃいいが)
もしそんなことになったら無事に生き延びれるだろうか……相手は仮にも“七神皇”、ドラゴスやファラクラスの実力者かもしれないし、事実として第五大陸を一人で制圧したほどである。
「しかし……そうか、父親か……」
「ん、どうしたレイ? そんな難しい顔して?」
見れば、何やらレイも同じように難しい顔をしながら何か考え込んでいる。私と同じようなことを考えているのかとも思ったが、それにしては『恐ろしい人物を相手にするかもしれない』という恐れの顔ではなく、何か焦りを感じさせるような雰囲気だ。
「別にレイが緊張する必要ないじゃないか。会って交渉するのはアタシなんだしさ」
「いや、そうじゃない。ベルフェゴルは……サティの実の父親なんだろう? だから……その、やはり挨拶はするべきかと……だな」
「だからなんでレイが……あ!? まさか……挨拶ってそういう。ば、バカッ! こんな時に何考えてんだい!」
そうか、レイにとってはお付き合いしてる彼女の親に顔を見せるという一生に一度の一大イベントにもなってしまうわけか。
あれか? 「お義父さん、娘さんを僕にください」的なヤツ。それでもし「お前のような若僧に娘はやらん!」なんてことになったら私達の身がヤバい……。いや、ベルフェゴルの性格を知らないからなんとも言えないんだが。
まぁそんな昼ドラ展開について考えるのは後にして。
「とにかく、この作戦のスタートは同盟に関するやり取りが完全に終わってからになる。それまでに心の整理はしっかりしておいてくれ」
今現在、各地の同盟国へヴォリンレクスの軍勢を配備、技術の提供。そして、国内ででかいツラしてる魔導師ギルドの連中を国から追い出す。
あとは各国で防衛線を引いて、自国がヴォリンレクスの同盟国だと明言すれば完成だ。
すべてが整うまでどれだけ早くても一ヶ月以上はかかるだろう。それまでに、私達も作戦の準備を整えておく必要がある。
「わかってるよムゲン。しかし、一応アタシらの当初の目的は果たせたけど、まだまだ先は長そうだね」
「また姉さんに心配をかけさせてしまうな。最近では長く離れることも珍しいことではないが、それでも申し訳ない」
そうだな……二人は結局あれから一度も戻ることなくヴォリンレクスに滞在するハメになってしまったから自国が気になるのも無理ないか。
一番の心配事は解消されたとはいえ、やはり故郷に残してきた仲間達のことは気になるよな。
「だったら手紙でも書けばいいんじゃないか」
「手紙か……そうだね、悪くない案だ」
二人はすでにヴォリンレクスの協力者としてここを離れることはできないが、それくらいなら許されるだろう。同盟を進めるためにこちらからも使者を出すからそのついでに運んでもらえばいいだけだしな。
「そうだな、使者が送られるとはいえここまでのいきさつをキチンと俺達の言葉で姉さんに伝えた方がいいだろう。……サティが俺達に隠し事をしていた件も含めてな」
「むぐ……れ、レイ~……それは勘弁してくれよ~。そうなると帰ったらリアになんて言われるか……」
「駄目だ、俺達家族の間に隠し事はナシだからな」
「そ、そこをなんとか頼むよ~」
レイが主導権を握ってサティがあたふたするなんて珍しい光景だな。ま、これもサティの意外な弱みが露呈されたからこそか。
そうして私は二人の部屋を後にする。これでも私は作戦の立案者として忙しい身なんでね、一ヶ月とはいえやらなければならないことは山ほどあるわけだ。
さて、そんなわけで次にやるべきことは……。
「おお、遅かったではないか。おぬしがおらぬと話が進められぬ、早く席に着くのだーっ!」
「ほいほい、それじゃこっちの件についても詳しく話し合うとしますかね」
場所は戻って先ほどの会議室。そこにいるのはディーオとサロマ、この二人はヴォリンレクスの中心人物達なのでいてもらっている。
それと……。
「師匠、お疲れ様です」
「遅いですわよ、こちらにも予定があるんですから時間は厳守してもらいたいものですわ」
「まぁまぁエリーゼさん、ムゲンさんは他の方々との兼ね合いもあるんですから」
レオン、エリーゼ、シリカ、ヴォリンレクスへと避難してきた元魔導師ギルドの面々が私を待っていた。
「それで師匠、どうして僕らだけを集めたんでしょうか?」
「おう、それはだな……」
「今後の作戦におけるわたくし達の役割についてでしょう? そのくらいわかってますわ」
……こういうの先に言われると出鼻を挫かれた感じがしてやる気下がっちゃうからヤメて。
まぁ別にこんなことで私は挫けたりしないさ……。ここから華麗に会議の進行役を務めてだな……。
「えっと……今後の作戦では私達が第二大陸の方々と協力して魔導師ギルドへと潜入するんでしたよね?」
「そうですわね……でも口で言うほど簡単なことではないでしょう? 少数精鋭とはいえ向かうのは敵陣の真っただ中、本当にわたくし達だけで潜り込めたとしてもマステリオンかディガンのどちらかに接触した時点で街全体に知れ渡る確率は極めて高いはず……」
「そうか、一言にギルドマスターを討つとは言っても、時間がかかる程僕達の存在はブルーメの街中に知れ渡っちゃうってことになるんだね」
「先ほどの会議では水を差して円滑な進行を阻害するのも無粋だと思いましたのであえて口を挟みませんでしたが、こうして詳しい話し合いの場を設けられるとは思っておりましたので疑問はすべて言わせてもらいますわ」
エリーゼのやつ容赦がないな……。しかし会議中でもやけに素直だと思っていたが……なるほど他の皆に気を使って今の今までため込んでいたか。
てかそろそろ喋らせて?
「そうだな、確かにエリーゼの言う通り実際問題ここにいる者達だけで魔導師ギルドを奪還するというのはなかなか現実的じゃない」
「それに、ムゲンさんと第二大陸の方々は途中でブルーメから離脱するんでしょう? つまり、結局残されるのはわたくし達三人ということになってしまいますわ」
「それってつまり……僕達だけでギルドマスターや副マスターを討ち倒さないといけないってこと? さ、流石にそれは厳しいよリーゼ」
「でしょう? 加えてブルーメに残っている総戦力を挙げてわたくし達を排除しに来るのは目に見えてますわ。だからこそ、それらすべてに対する回答をお聞かせ願いたいのだけれど?」
言おうとしたこと全部言われてしまった。まったく優秀すぎて涙が出てきそうだぜ。ま、説明不要で話を進められるということで、ここはプラスに考えておこう。
そう、問題は今エリーゼが話してくれた内容全部にどう対処するかだ。
「確かに魔導師ギルド奪還に関するすべてをお前達に任せるのは流石に私も無茶だというのは理解している。だから、ギルド奪還側には主戦力とは別に陽動のための人材も用意することにした」
「なるほど、陽動で他のギルド員が手薄になったところへ私達がギルドマスター達の下へ向かうということですね」
「その通りだ、それも陽動はブルーメの街だけで行うのではなく近隣数箇所で起こすことによってさらに確実性を上げる」
この作戦は全グループの中でももっとも成功させたいものの一つだ。しかし、どうにも不安要素が多いのが問題なところがあるがゆえに成功率を上げられる要素はいくらでも活用させてもらうつもりだ。
「……ムゲン様、その作戦においては少々疑問がございます」
「おお? どうしたのだサロマ、今のムゲンの話のどこに疑問があるというのだ? 陽動を使い敵の大将を撃ちに行く、シンプルかつ分かりやすい作戦だと思うがのう」
ディーオはわかっていないようだが、やはりサロマは食いついてきたか。今の説明を聞けば、当然ある疑問が浮かび上がる……それは。
「その陽動を行う人員はどこから出されるのでしょうか?」
「何を言っているのだサロマ、そんなもの余らが国の兵をちょちょいと忍ばせておけばよかろう」
「いえディーオ様、それはなりません。我らがムゲン様の言う陽動行為を起こしたとなれば、それは同時に我々が魔導師ギルド、ひいては女神政権に明確な侵略行為を行ったということに繋がります」
「ぬ……そ、そうなのか?」
サロマの言う通りだ。今ヴォリンレクスは魔導師ギルドへの侵略を行わないという名目を保っているからこそあちらも本気で攻めてこないだけであり、各拠点における小競り合い程度で済んでいる。
しかし、こちらがその意に反した行為をしたとなれば魔導師ギルド側も黙ってはいまい。陽動を行ったのがヴォリンレクスの手の者だと知られた瞬間に全面戦争の始まりという結果に繋がってしまう。
たとえ魔導師ギルドを奪還できたとしても、ヴォリンレクスが戦争行為を助長する国だという認識が広まってしまうのはマズい。
卑怯で卑劣な侵略国家……他国からそう思われては今の状況と何も変わらない。ヴォリンレクスが魔導師ギルドの代わりとなってしまうだけだ。
「うーむ、それは流石に了承できんのう」
「ヴォリンレクス帝国はあくまでも侵略せず他国と手を取り合う平和的な国家を目指しております。ですので陽動に我々、もしくは我々に属する人員を割くことはできかねます」
そう、この話はヴォリンレクスだけでなく他の同盟国にも当てはまる。作戦開始時にはすでに同盟の話は世界中に知れ渡る、だから同盟国の人員を使うことももちろん不可能。
レオンやエリーゼ達は元々この国の人間ではなく、なおかつブルーメの反勢力として息を潜めていただけのものとしてヴォリンレクスからの侵略とは言えないはずだ……かなりグレーゾーンではあるが。
「じゃあ……やっぱり僕達が頑張るしかないのかな……」
「レオン、何を馬鹿なことを言ってるのかしら? それに加えて他にも問題は残ってますわ」
陽動の人員についての議題が一区切りついたところでエリーゼが再び話し始める。
「リーゼ、他にも問題って……どういうこと?」
「いいこと? ここまでの話を聞く限り、ムゲンさんと第二大陸の方々が途中離脱することに変わりはありませんのよ。つまり、わたくしと、レオンと、シリカの三人でマステリオンらと対峙しなければならないのよ」
「あ……そ、そうだったね」
「いいですこと? 確かにわたくし達も以前より力をつけ、実力的にはかなり高位の魔導師ではあると自負しておりますわ。……けど、ディガンの強さはわたくし達個人以上の強さを持っているのは確実……それに、マスターであるマステリオンの実力を知る者はほとんどおらず未知数な存在でもありますのよ」
「そこに私達だけじゃ……流石に無理だと思いますね……」
エリーゼのわかりやすい解説でレオンもシリカも表情が暗くなる。やはり、自分達の実力はまだギルドマスター達に対抗できるほどではないとわかっているんだろう。
しかしマステリオンの実力は未知数……誰も知らないというのは意外だったな。
まぁその点は今は置いておこう。今私がするべきはこいつらにやる気と自信を与えてやることだ。
「だがその言い分だと、全員の力を合わせればディガンくらいなら退けられるように聞こえるが?」
「え、ええ……僕達はブルーメから逃げる際にディガンさんと対峙しました。その時は逃げることを中心としていたので真っ向から戦ったわけではないんですけど、決して一方的ではなかったはずです」
そう語るレオンの瞳には若干だが闘志が感じられる。自分達でも副マスター相手に引けを取ることはなかったという事実が自身に繋がっているんだろう。
そんなレオンの様子に同調するようにエリーゼもシリカも顔を合わせどこか納得したような表情へと変わっていく。
「確かに、レオンさんやエリーゼさんに私とオルちゃんの補助があれば大抵のことで負ける気はしません」
「ガウッ!」
「シリカちゃん……うん、そうだよ、僕達は強くなった。一人ひとりはまだディガンさんに届かないけど、みんなの力を合わせれば怖くない」
よし、どうやらいい感じに士気が高まってきたようだな。となれば後の問題は……。
「そうですわね、その点に関してはレオンの言う通り……。ですが、それでも戦力の差というどうしようもない問題が立ちはだかりますわ。その力の差をどう埋めるつもりかしら?」
「うぐ……そ、それは……」
「なぁに、その点に関しては私に任せてもらおうじゃないか。いや、それだけでなくすべての問題点を解決する方法がここにある」
今までに出た問題点のすべて、その一つひとつの解決策をここで発表させてもらおうじゃないか。
「師匠、その手に持っている羊皮紙が解決策なんですか?」
「随分と多いようですけれど……その紙がいったいをしてくれるというの?」
「それは……まぁ見てくれりゃわかると思う。特にサロマと……シリカにはよく見てもらえばわかるはずだ」
「え、私ですか?」
なぜ自分の名が呼ばれたのかわからずキョトンとするシリカ。その真意は他のメンバーもわからないだろう。
だが、この書類の内容を見れば彼女ならきっと理解できるはずだ。
「とりあえず見ればわかるのだろう? ならサロマよ、早速確認してみてくれ」
「承知いたしました。では失礼して……」
ディーオの思い切りのいい指示でサロマが次々と書類を広げていく。
そして、その内容を確認していく内にサロマの表情が驚きのものへと変化していく。どうやらこれが何か理解できたようだな。
「うそ……ここに書かれているものはまさか」
それと同時にもう一人、ここにいる誰よりもその真意を理解した者がいた……やはりシリカにはこれが何かわかったみたいだな。
「よくこんなものをお持ちなっておりましたね、ムゲン様」
「ここ最近徹夜して私自らがリストアップしたんだ。もっと褒めてくれ」
「でもムゲンさん、これって……」
未だに驚きで半分放心してしまっているシリカがその真偽を確かめるようにこちらを窺うが、私はそれに無言でうなずく。
これこそが、今回の魔導師ギルド奪還作戦の要。私達を勝利へと導く希望の道しるべ。
そして、これを使った作戦と同時に私はもう一つ"ある作戦"をレオン達に提示していく。
「そ、それって本当……というか本気ですか師匠……」
「でも確かに……それなら戦力は申し分ないかもしれませんわね」
どうやらエリーゼやレオンも十分に納得してくれたようだ。
さて、そうなるとここから忙しくなる。作戦開始は同盟を明言化してからすぐだ。それまでに……すべての準備を整える!
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