186話 一転攻勢! 後編


「い、一転攻勢とな?」


「そうだ、守ってばかりでは問題は解決しない。ここは、私達自らがこの世界全体を舞台としたいさかいを終結させるために動くべきだ」


 確かにこうして集まった戦力で降りかかる火の粉だけを払っていれば、この国や同盟している国家への被害は最小限で済むだろう。

 だがそれで本当にいいのだろうか? 今回の同盟で実に世界の1/5近くが守られる保証はある。しかし、私達がそうやって自分達の身だけを守っている間に世界は徐々に壊れてしまうはずだ。


「ムゲンさんの言いたいことはわかりますわ。しかし、それならば女神政権と新魔族との戦いに決着がついたのち、今度はその勝者の側とわたくし達となってからでも遅くはないはずだと思いますけど」


「そうだね、僕達は戦いを望まないんだから、今のようにお互いを潰し合いたい状況にはならないだろうし。下手に現状のいざこざに割り込むよりは後の交渉のチャンスまで大人しくしてるべきだと僕も思います」


 エリーゼとレオンの意見に納得するかのように幾人かも賛同するような表情や頷く者もいる。


「確かにお前達の意見ももっともだ、というかそれが普通の意見だろう。……ただ、なんというかな……私はこの戦争が普通じゃないと思ってるんだ」


 自分で言っておいてどこか煮え切らない言葉ではあるが、今現在においてなんの"確証"も持たない私にはこんな曖昧な理由しかないのだ。


「つまり、ムゲンさんにはこの戦争に何か"裏"がある……そう言いたいのかしら?」


「有り体に言えばそんな感じになる。確信はないんだ、ただ……今この世界には不可解なことが起こりすぎている、それも短期間でいくつも。どうにも私にはそれが気にかかってしまってな」


 私がアステリムを離れてから一年も経たないというのにこの変貌っぷりだ。

 女神政権が戦争を仕掛けようという動きにはまだ納得ができる、どうにも私が一度日本に戻る前にもそんな雰囲気は感じていた。問題はそれに賛同する魔導師ギルドだ。

 今でもなぜ魔導師ギルドが女神政権の傘下に加わったのかは謎のまま、加えてその動きの早さだ。数ヶ月であっという間に軍国家となり、そこかしこと対立するようになってしまった。

 そのせいで各大陸も間接的ではあるが戦争に係わる羽目になり、不本意な交戦準備を余儀なくされたわけだしな。


「うむ、ムゲンの言い分は理解した! ……だが余らが攻めに転じたところでいったい何をすればよいのだ?」


「いや何も理解してねぇじゃねぇか皇子さん。……でもそうだよな、攻めるのはいいんだがこの状況で俺達はどこにどう攻めりゃいいんだ?」


 あまりおつむのよろしくないハリキリコンビは私の案に深く考えもせずに乗っかってくる……が、まぁ当然誰でわかるような疑問に二人は頭を捻ってしまう。


「カロフお兄様の言う通りですわムゲンさん。仮にわたくし達がどこかに攻め込むと言ってもいかなる理由で? その戦いによって得られるモノはなんですの?」


「それに、両軍が衝突する際に発生する被害の確立によっては、我々は安易にムゲン様の案を承諾することは出来かねません」


 お、さっすが頭脳明晰組、まさに「今の私に問うべき重要な疑問点」を的確についてきたな。

 エリーゼもサロマも大局を見て状況をまとめる立場に就いていただけあって僅かな隙も見逃さない。今回の会議の進行もいつの間にか二人が中心のようだし。


「うむうむ、そうなのだムゲン! なぜ余らが攻めるべきなのか理由を述べるのだ!」


 ……ディーオは立場上この場では一番しっかりとしてないといけない立ち位置にいるはずなんだがなぁ。

 もうちょっとお勉強しような……パスカルさんにもっとみっちりしごくよう言っておこう。


 とにかく、本題に戻ろう。私達がこれまでの受け身の姿勢を捨てて攻めに転じる理由。

 と言っても、そこまで深い理由があるわけでもないんだけどな。


「世界の状態を一度以前のものにまで戻す。言ってしまえばただそれだけだ」


「以前の状態? つまりどういうことなのだ?」


「えーっと……それってこの世界の情勢全部を戦争が起こる前の状態にするってことなのムゲン君?」


「正確には、客観的に見た世界全土の戦いの構図を戻すということだ。それが実現すれば少なくとも戦いの火種は大幅に削減することができる」


「っつーと……あーっと……駄目だ、俺にゃさっぱりわかんねぇ」


 エリーゼやサロマをはじめとした者達は薄々気づき始めているようだが、やっぱカロフ達にはもう少し詳しく説明しないとだめか。


「一年位前の世界情勢なら小さい小競り合いはあっても世界全体を巻き込んだ大抗争はなかっただろ。だから私達の力で最低限それと同じにしてしまおう……ってなわけ」


 そもそも以前の対立状況で見れば大きな争いは『女神政権 対 新魔族』と『ヴォリンレクス帝国 対 新魔族』しかなかなく、巻き込まれる大陸も少なかった。

 なのに今では『女神政権+魔導師ギルド 対 新魔族または各大陸の主要国家』……世界全土を巻き込んだ大紛争だ。


 流石に世界全土を一気に平和に……などはできないが、こうして少しづつ戦いを収めていけば今よりはいい世界になるはずだと私は考えている。


「まぁなんとなくわかったぜ」


「うむ、理解できたところで先に進もうではないか」


 お前ら本当にわかってるのか……。まぁいいか、とにかくこれで私の意見は皆に伝わったと思う。

 あとは皆がこの提案にどう反応するかだが。


「ムゲン、お前の考えはわかる……だが、口で言うほど単純なことでもないだろう。俺達は運よく同盟を結ぶことができた、しかし周囲は敵だらけだ。何の犠牲もなしに世界を以前の状態に戻すことなど本当に可能なのか、俺にはまだ信憑性が感じられない」


「それもそうだね。以前の世界を取り戻すために大きなものを失ってしまったら本末転倒だ。だけど、今の相手はどこも穏便に済まそうとして解決できる間柄じゃない」


 確かに二人の言う通りだ。どれだけ手を尽くしたところで、そのために大切なものを犠牲にしてしまった未来には悔いが残ってしまう。


「ああ、だからこそ大々的に活動するのではなく、必要最小限のポイントを突くだけで状況を大幅に変えるんだ」


「つまり、僕達は国家として女神政権や新魔族に宣戦布告はしないんでしょうか?」


「そうだ、あくまでヴォリンレクス帝国及び同盟国は表向きには防衛体制を貫く。その裏で、ここにいる少数の勢力で動き世界を変えていくという作戦だ」


 私のその言葉に皆表情に動揺を浮かべていく。そりゃあ余りにも突拍子のない作戦なんだから困惑するのも当然か。

 だが私にはこの作戦が一番確立が高いと考えている。ここにいる人物達は誰もが私の認める強者だからだ。それは戦闘力という意味だけではない、苦難を乗り越えてきた心の強さへの信頼もある。


「面白いですわね、ムゲンさんはここにいるメンバーで作戦を行えば本当に戦争を終わらせられるというんですの?」


「早期終結させ、なおかつ被害を抑えたうえで勝算はある」


 今のところは……と付け足すべきところなんだが、そこまで言ってしまうとせっかくやる気を促してきたのに一気に冷めてしまいそうなのであえて言わないが。

 見えない不安要素はまだ残ってはいる。それを対策できず勝負を挑むのは賭けになってしまうが、怯えて隠れているだけでは何も成し遂げられない。


 場は静寂に包まれている。皆真剣に私の話した内容について考えているんだろう。

 最終的に、誰もが無言のまま最後にディーオの方へと顔を向けると、それに応えるように頷き……。


「よしムゲンよ、まずはその作戦について詳しく話してみるのだ」


 集結した仲間と迎える、“魔導神”として初の立案作戦の開始へと進んでいくのだった。




「まず、本作戦における最重要目的から話しておこう」


「あれ? それってさっき師匠が話した『世界の状態を戻す』ってやつじゃないんですか?」


「それはあくまで私達が作戦を完遂した後に付いてくる結果に過ぎない。作戦自体の目標は別にある」


 そもそも『世界の状態を戻す』というのも曖昧な定義でしかない。これから話す"目標"はそこにたどり着くまでの具体的な過程だ。

 ……ま、とはいってもその内容は実に単純明快なんだけどな。


「では作戦その1……私達は少数精鋭で都市国家ブルーメへと潜り込み、その手で魔導師ギルドの実権を奪還する」


「え……ええ!? ま、魔導師ギルドをですか!」


「戦争を終わらせる……と言った割には女神政権や新魔族ではなく、外堀の魔導師ギルドを攻めるのは意外ですわね」


「いや、そう意外でもないさ」


 確かに戦争の大本を辿れば真っ向から対立している女神政権と新魔族のどちらか、または両方ににアプローチを仕掛けるべきにも思える。

 だが、その戦いを助長しているのは明らかに魔導師ギルドだ。それも、明らかに異常な速度とやり方で全世界を巻き込んでいる。女神政権の意向で動いているとはいっても、動向が早すぎるのは明らかにギルド自体が戦争の火を広げようと画策してるように思えてならない。


「一番穏便に済ませる方法は、ギルドマスターと接触し彼自身に女神政権への助力をやめさせることなんだが……それは無理そうか?」


 それは私の気になっている問題の一つでもある。なぜギルドマスターであるマステリオンは自ら女神政権の傘下に加わることを決めたのか。


「それは……難しいですわね。理由はわかりませんが、あの男はわたくし達反対派の意見を聞こうともしなかったのだから」


「人が変わった……という様子ではないのですが、以前とは意見がまったく変わってしまったんです。ギルド員一人ひとりのことを思いやるいいマスターさんでしたのに」


 性格は変わらないが言動行動がまるで別人のように変わってしまった……か。

 考えられるとしたら、洗脳。もしくは、本当のマステリオンはどこかに閉じ込められ、誰かが成り代わっている可能性もあるが。


「それに……マスターの近くにはディガンさんもいます。少しでも過激な行動を起こせばあの人にやられる羽目になりますから……」


 あのオッサンか……奴もどういうつもりかは知らないが完全にマステリオン側の人間だ。いや、奴としては強者と戦えればそれでいい……だったか。


 とにかくマステリオンを説得しギルドを治めることが難しいとなれば、もう一つの方法に頼らざるを得ない。


「だったら、魔導師ギルドの実権を持つギルドマスター、及び副ギルドマスターの両名を打ち倒し、ブルーメの街を制圧するしかない」


「そんな、ギルドマスターを……」


「でも、今やらなければいつかこちらがやられるかもしれない……そういうことですわね」


 そうだ、いくらこちらの防衛線が完璧であろうと、それにかまけて安心している間に奴らはこちらの戦力を超えてくるかもしれない。

 だからこそ、魔導師ギルドを取り戻すには今しかない……こちらの戦力が整い、あちらがまだ組織として不十分な現状だけが。


「んじゃあ、今ここにいる全員でコッソリ魔導師ギルドに乗り込むってことになんのか?」


「いや、流石にディーオはここに残っていないとマズいだろ。あとは……ルイファン達の問題も残っている。できれば第六大陸への海路は取り戻しておきたいところだ」


 第六大陸の状況が何も見えてこない今の状態ではあそこで何が起きても対応しきれない。


「では魔導師ギルド方面と第六大陸方面で戦力を分けるということかのう? うむむ、どうするべきか」


 そう、まずは誰がどこへ向かうかだ。正直全員一丸で行動したいところではあるがそうもいかない。

 この広い世界でいくつもの問題に同時に対応しなければならない現状では戦力の分散は致し方ないだろう。


「アタイは皆のところに戻るぞー! ミカ達も寂しがってるだろうし、なによりアっちゃんに一発灸をすえてやるんだー!」


 我先にと手を挙げて意識表明をするルイファン。まぁあそこは元々ルイファンの拠点だったわけだし他の始原族の仲間も揃っているから特に反対することもないな。


「……だったら、俺もそっちに行かせてもらうぜ。あの女とは、キッチリ決着つけねぇといけないと思ってたからな」


「カロフ……だったら、私も行く。カロフが道を踏み外さないよう……ずっとそばにいるから」


「俺は別に道を踏み外したりなんか……いや、今回ばかりはそうも言えねぇか。頼むぜ、リィナ」


 正直言って私も二人をアリスティウスと対峙させるのには抵抗があるが、流石に止められる雰囲気じゃないなこりゃ。


「わかった、ならカロフ達も行ってくれ。ただ、そうなるともう一人か二人……」


「わたくしがカトレアと共についていきますわ! カロフ、リィナ、あなた方とその新魔族との間に何があったのかはわたくしは知りませんが、この機会に二人っきりになんてさせませんわよ!」


「いやお嬢さんや、俺達はそういうつもりじゃ……まぁいいか。てかお嬢さん自身もついてくる気かよ……」


「当たり前ですわ」


 こっちはこっちで何やらラブコメの波動がまたチラホラと……。まぁでも、なんだかんだで今の二人にはアリステルのような存在が必要なのかもしれない。


 となれば、これで第六大陸側へ向かうメンバーは決まった。


「それじゃあ……陛下達を除いた僕らで魔導師ギルドを奪還するということになるんでしょうか?」


「そうだ……と言いたいところだが」


 残っているのは私と元魔導師ギルドメンバーの三人と第二大陸メンバーの二人。

 しかし、私にはどうしても早急に向かいたい場所があった……。


「私は一刻も早く第五大陸の女神政権が本拠点としている都市へと向かいたい……。これは、私のとても個人的な理由なんだがな」


「セフィラさん……ですね?」


 私の話を聞いてシリカがいち早くその理由について察すると、レオンやエリーゼも納得したように私の方へと向き直る。


「ああ、私はどうしても……あいつに会いたいんだ」


 私がこの世界へ戻った理由の一つ。それが、手の届きそうなところまで近づいてきているとなれば気持ちがはやってしまうものだ。


「けれど、どうやって第五大陸に向かうつもりですの? この国や同盟国の海域からは第五大陸に向かえる船は出せませんのよ。それこそ魔導師ギルドを奪還してからでなければ難しいのではなくて?」


「そこなんだよなぁ問題は……。まぁ他に手段はなくはないんだが、いかんせん足りないものがあってその方法は使えないのが惜しいところだ」


「え、手段あるんですか師匠?」


 現在、第五大陸に続く海域は第六大陸の北側か第四大陸から向かうか。もしくは中央大陸の女神政権及び魔導師ギルドの占領地から船を出すしかない……普通はな。


 だが、私には魔導師ギルドにさえたどり着ければ普通ではない手段がそこにあるのだ。


「ギルドで私が作り上げた『魔導ゲート(仮)』があそこにはある」


「ワウン(あー……元々はご主人が元の世界に戻るために開発してたあれっすね)」


「一方通行ではあるがそれを使えば距離の概念をすっ飛ばしていきたい場所に行ける……んだがなぁ」


「えっと……何か問題があるんでしょうか?」


「使用者の訪れた場所にしか飛べないんだ……」


 そう、あの装置には大きな欠点が一つあるのだ。

 魔導ゲート(仮)は対象者に染み付いた魔力残照をもとにその通り道を作り出す。だから魔力が存在しない地球やそもそも訪れたことのない場所に繋げることが不可能なのである。


「ワウ……(ぼく達って第五大陸にだけは行ったことないっすからねぇ……)」


「この中に第五大陸行ったことある人挙手」


「「「……」」」


 はい0人! そうなんだよな、ここにいるのって実は大体世間知らずや田舎者ばっかりだから……。

 ワンチャンエリーゼ辺りが外交関係で訪れたことあるかなー……くらいは期待してたんだが。


「第六大陸になら行ったことあるから飛べるんだが、流石にリヴィ達の目を盗んで大陸間を渡るなんてできないだろうし……」


 第四大陸に飛ぶという手も考えたが、あそこも現在魔導師ギルドと交戦中の身……船が出せる状況ではないと考えた方がいい。


「おー? なんだお前ー、ぴょんぴょん飛んで大陸移動したいのかー?」


 表現は曖昧だが、ルイファンはどうやら私が空間転移で大陸を移動したいことを理解したらしく反応してくる。


「まぁそうなんだけどな。どうにも方法が見つからなくて……」


「だったらベルフェのおっちゃんに頼みに行ってみたらどうだー? おっちゃんそういうの得意なんだぞー。なーサっちん」


「……まぁ、そうだね」


 ……ん? なんだ、今一瞬ルイファンが何を言ったのか理解できなかったが、冷静に何を言ったか繰り返してみよう。

 ベルフェのおっちゃんに頼むというのはどういうことだ? えーっと、確かルイファンの言うベルフェという人物はたしか……ん!??


「って……! それは最後の七皇凶魔“怠惰”であり、第六大陸の七神皇でもある“魔神”ベルフェゴルに協力を頼めってことか!?」


 その私の驚きに他の者達も連鎖するように誰もが驚愕をその顔に浮かべていく。

 当然だ、いきなりそんな名前を出されてもこちらとしては困惑するだけだ。


 しかし、ルイファンはなぜ突然そんな提案をしてきたんだ? 以前はベルフェゴルの話などほとんどしなかったというのになぜ今になって?


「というか、そもそも知り合いでもない他種族の余所者の協力なんてしてくれないだろ。それにどこにいるかもわからんし」


「おっちゃんは多分ずーっと同じところに住んでるから案内あれば行けるだろー。それにー……気難しい人だけど"娘"が頼めば流石のおっちゃんも協力してくれるだろーしなー」


「……んん?」


 なんだか頭が混んらががってきたぞ……。ちょっと待ってくれ、なんだか私の記憶といろいろと齟齬があるような……いや、ディーオやカロフ達も頭を捻っている姿が見えるということはあいつらも疑問に感じているんだろう。


「ルイファンよ、おぬしの父親は確か“強欲”の魔王たるマーモンではなかったか?」


「あー? 何当たり前のこと言ってんだディー。頭バカになっちゃったのかー?」


「余はバカではないのだーっ! よいか、おぬしは先ほど"娘"が頼めば“怠惰”は協力してくれると言った! しかし、おぬしは“強欲”の娘であろうと言っておるのだーっ!」


 ディーオが私の言いたいことをしっかりと語って……というか叫んでくれた。


 だがそれを言われた当のルイファンは変わらぬ表情のまま何か考え事をするように頭を捻って……。


「……あー、そうかー! もしかして皆知らないのかー」


 何かに気づいたように手を叩いてふわっと飛び上がる。


「いやー、そこのエルフと変な魔導師は仲いいから知ってると思ったぞー」


「誰が変な魔導師……ってちょっと待て」


 私のツッコミも追いつかぬまま、ルイファンが降り立ったのは左側の第二大陸組のテーブルの上。

 その目の前には……。


「てかなんでさっきから黙ってるんだーサっちんー」


「……それは……その」


 問い詰めるように腕を組みながら仁王立ちの姿勢でサティを見下ろすルイファン。つまり、この状況から考えられる答えは……。


「お、おいサティ……まさか」


 隣にいるレイもその事実に気づき、衝撃を隠せず立ち上がり目を見開いてサティを見つめている。


「えーっと……ルイファン、もしかしてその……ベルフェゴルの"娘"っていうのは……」


「そうだぞー。サっちんはベルフェのおっちゃんのたった一人の娘だー」


「「なっ……!」」


 予想していたものの、私とレイはその事実のあまりの衝撃に黙っていることなどできなかった。



「「なにいいいいい!?」」



 そして、この新事実が私達の明暗を分けるなど……この時は誰にも予想することなどできないのだった……。


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