185話 一転攻勢! 前編


 さて、先ほどのどんちゃん騒動から場所は打って変わってディーオの住む城内。

 そこでは、巨大なテーブルを囲むようにこの大国に集結した各大陸の主要人物達が集まっている。


 これから、ここに集まった者達で混沌を極める世界情勢を前にこの先どう立ち向かっていくかを話し合うことになる……のだが。


「ほーん、お前が第二大陸から来た助っ人ねぇ……。こんなほっそいチビが戦力になんのか? そっちのねーちゃんは中々強そうだけどよ」


「おいそこの亜人、そのチビとは俺のことか? ふん、見た目だけで判断するような奴は程度が知れているというところか」


「あんだとこのガキ?」


 なんでお前らいきなりそんなケンカ腰なの? いやまぁいくら助っ人とは言ってもその実力が伴っているかどうかわからない内はそうギクシャクするのもわからないでもないが……。

 今はこうして一緒の卓についてる仲なんだから仲良くいこうぜ。


「こらカロフ! まったく、どうしてあなたはいっつもそうケンカ腰なのよ」


「いや、俺はただあのガキが本当に助っ人としての度胸が備わってるかテストをだな……」


「なんだ騎士カロフよ……もしや、最近発散していないから溜まっているいるのではないか!? それならそうと言ってくれれば自分が相手をしてやったものを……」


「ちげーよ! 変な言い方するんじゃねぇ! 確かに最近前線に出ずにここに待機してるから体がなまってのはあるけどよ」


「前線はパスカル様が担当されることとなっておりますので、それは仕方のないことかと」


 つまりカロフ達主戦力が必要とされる規模の戦闘は今のところ起きてはいないというところか。


「ともかく、カロフはおとなしくしてること。あんまり他の大陸の人に迷惑かけちゃだめよ」


「わあったよ……」


 やっと大人しくなってくれたか。まったくカロフは短期でケンカっぱやいところがあるからな。

 とりあえずこれで落ち着いて話し合いを……。


「ふっ、女にいい負けてあっさり引き下がるとはやはり大したことはなさそうだな」


「あぁ?」


 いやなんで蒸し返すの? バカなの?

 レイもなんでこんな時に持ち前の負けず嫌いを発揮しちゃうかな……。もしかしてカロフとレイって相性悪いのか?


「威勢だけはいいみたいだが、やはりいざとなると弱腰な……」

「レイもいい加減にしなよ」


 ゴンッ……という気持ちのいい音と共にレイの頭が大剣の腹で叩かれる。このやり取りも懐かしいな。


「さ、サティ……だが先にケンカを売ってきたのはあっちだぞ」


「そうやってすぐムキになるのがガキっぽいって言われるんだよ。それにアタシらは臨時の助っ人って立場だし、多少下に見られても文句は言えないよ。みかえしたきゃ成果で示さないとね」


「うぐっ……」


 こりゃレイもぐうの音も出ないな。まぁレイとしても自分を含め『紅聖騎団クリムゾンレイダーズ』が下に見られるのを快く思っていないんだろう。

 レイも成長はしたけどまだまだ大人というには不十分ってことだ。


「へっ、テメェも女に言い負かされてんじゃねーか」


「カロフってば……」


 こっちはこっちで大人げないというか単細胞というか……。このメンバーで本当に大丈夫か不安になってきたな。


 とにかく!


「はいはいお前ら、茶番はそこまでにして真面目な話するぞー」


「おいこらムゲン、何が茶番だって……」

「俺は真面目にここの連中にだな……」


「カロフー……」

「レイー……」


「「すみませんでした」」


 ……案外似た者同士かもなこの二人。


 それは置いといて……今回話し合うのは私達の今後の動きについてだ。

 ここまで来た以上ヴォリンレクスから第二大陸間までの同盟連合、つまり地図で見れば東南方面全域が協力し合う形となった。


「以上のことを踏まえてもらって……同盟連合の中核であるヴォリンレクス皇帝のディーオを中心に話を進めていきたい」


「うむ! とりあえず余らは『無益な戦いを望まない』という姿勢を第一に徹底して防衛体制を貫いておるぞ!」


「これまでは国境砦を中心とした防衛線に戦力を集中し、北から攻めてくる魔導師ギルド軍を抑え込んでおりました。ですが、我が国の戦力が必要な他国との同盟により防衛線の変更が必要かと考えられます。海を越える必要のある第二大陸は大丈夫かと思われますが、隣接するメルト王国とは共同の防衛線が余儀なくされるかと」


 サロマの丁寧な説明を聞いて全員今自分達がどのような状況に置かれているかを理解する。

 徹底した防衛体制、確かに他の国の同盟理由もヴォリンレクスの強力な戦力をあてにしているから他国との共同防衛線を敷くのは当然だが……。


「なんでぇ、結局また守りの一手かよ」


「仕方ないよカロフ兄ぃ。あくまでも僕達は横暴な侵略行為に屈しないという姿勢だし、実力はともかく数だけなら今の魔導師ギルドはヴォリンレクスに勝るとも劣らない程だから」


「それに、魔導師ギルドは所詮女神政権の傘下なだけ……いくら交渉を求めても彼らは聞く耳を持ち得ませんわ」


 対して魔導師ギルド側は依然として徹底抗戦の態勢か……。しかし話し合いもままならない状態とは、いよいよもってきな臭さが倍増してくるな。


「そういうことですので、今後も各同盟国家の防衛力を高めつつ魔導師ギルドが諦める……または、女神政権と新魔族との争いが収まりを見せるまで防衛しつつ国を維持していく形となるでしょう」


「あっと……そういや気になるんだけどさ」


「はい、なんでしょうムゲン様?」


 女神政権と新魔族との争いという点で私はまだ疑問が残っていたことを思い出す。

 そう、魔導師ギルドの激変にばかり気を取られていたが、元々の問題は女神政権が新魔族との戦争を本格化させたことに一因する。


「女神政権と新魔族との抗争、今はどんな状態なんだ? 決戦は第五大陸で行われるだろうという噂は聞いているが……。第六大陸の状況なんかも気になるところだ」


 ルイファンがどれだけここに滞在しているのかは知らないが、少なくともあっちに戻った部下を伝って情報は得ているとは思うが。

 それに、あいつら……おそらく両軍にいるであろう二人の“女神”についても何か情報が得られればいいんだが。


「女神政権に関しては我々も情報を得ております。なんでも傘下に加わった第五大陸一の都市国家に拠点を移し、そこから各地より集められた戦力を第六大陸方面へと送り込んでいるとのことです」


「最近ではその戦力も十分な程集まっていて、あと数ヶ月もしない内に戦争を仕掛けるつもりだって情報はここにも伝わってるくらいだから」


「あ? そうだったのか。俺ぁ全然知らなかったけどなぁ」


「カロフ……自分達に直接係わらない情報だからって聞き逃さないでよ……」


 アホなカロフは置いといて……女神政権に関しては概ね聞いてた通りか。

 ただ、第五大陸の都市国家に拠点を移したという点は気になるな。今回の戦いは女神政権にとってとても重要なものとなる。そのための旗印としてもしかしたら……。


「女神政権側の戦力には、現在わたくし達の情報で確認できた元ゴールドランク魔導師の方々を確認してますわ」


「その人達はギルドの意向に賛同した方々なので、他の元ゴールドランク魔導師の皆さんの詳細はまだ不明ですが……」


「ああ、その話は私もマレルとフィオさんから聞いた」


 そういった不可解な謎も残しつつも魔導師ギルドは正常に機能してるんだから不思議なもんだ。

 とにかく、これで女神政権側の情報は大体想像がついた。


「新魔族側の動きはどうだ?」


「その件なのですが……」


 おや、なんだか歯切れが悪いな? よく見れば話が切り替わった途端に数名ほど顔つきが微妙に重くなったような気もするが……。


「実はなー、アタイら追い出されたんだー」


 そう言って腕と足をパタパタと揺らしながらつまらなそうにルイファンが語りはじめる。


「ベルゼブルのやつがなー、アタイが留守の内に今までアタイらが拠点にしてた場所に進行してきやがったんだー。だからすっごいムカついてるぞー!」


「そりゃまたどうして……やはりルイファンがこちら側に付いたのが原因か?」


「多分そうだと思う。彼女の軍は突然の急襲に対応できなくて……今は逃げて海を渡ってきた彼らを海岸近くの拠点で受け入れてるわ」


 これは予想外の事態だな……。つまり現状第六大陸の詳しい内情は闇に包まれているということになる。

 ただでさえまだまだ謎が多い場所だというのに。


「取り戻すことはできないのか?」


 留守を狙われたというのなら、そのままルイファンが攻め戻れば取り返すことぐらい可能な気がするが。


「それは難しいと思うの。拠点を制圧した後、彼らは徹底して防衛に力を入れてるの。それに……今その拠点を指揮してるのは……」


「あのアリスティウスだ……。俺達の国を滅茶苦茶にしやがったあの……な」


 そうか、カロフ達の空気がどこか重く感じたのはそのせいか……。

 七皇凶魔の一角、“色欲”のアリスティウス。かつてカロフ達の故郷において暗躍し、二人の人生をも狂わせた張本人。

 同じ七皇としての実力差を私は知り得ないが、そのせいでこちらにルイファンがいても手を出しにくい状況ということか。


 無言ながらもカロフから強烈な怒りの感情を感じる。無理もないか、本心では今すぐ父親の仇を取りたいと疼いてるだろうしな。

 それを察してか、リィナやレオンも心配そうな表情でカロフを見つめている。


「あそこの亜人さん、ものすごい"怒り"の感情だな……。アリスとなんかあったのかい?」


「まぁな、ちょっとした因縁ってやつさ」


 そういえばサティは“憤怒”の力で人の怒りの感情を細かく感じ取れるんだったか。サティは他の七皇とは知らない中でもないし、その因縁を知らない彼女にとっては少々複雑かもしれんな。


「アっちゃんまで敵なってしまってアタイは悲しいぞー……。まぁアっちゃんは気まぐれだからなーしょうがないなー。でも、サっちんはこうしてアタイのとこに戻ってきてくれたからなー! 嬉しいぞー!」


「あはは……わ、わかったからルイ姉ぇ」


 あちこちと部屋の中を飛び回りつつサティに抱き着くルイファン。会議中だというのにこのチビッ子魔王……自由過ぎである。

 しかし七皇凶魔の女性四人組は全員が幼馴染な関係なんだよな、どんな縁かは知らないが。


「しかし第六大陸が完全に占拠されたとなると……戦いを望まない穏健派の始原族が心配だな」


 新魔族というのはなにも誰もかれもが元々この世界に住む者達に対して交戦的なわけではない。小さな村でひっそりと集まり誰とも争わずこの世界で生きることを望む穏やかな連中もいる。


 雪中の村で出会った爺さんや村の住人達はどうなったか……もしかしたら無理やり戦いに駆り出されたりしてる可能性もあるんじゃないか。


「あー……ノーリアスのじじい達のことかー? 多分大丈夫だー、あの辺をアっちゃんが占めてるってんなら無茶なことはしないだろー。知らん仲でもないだろーしなー」


「そうだな、アリスは非情に振る舞ってる印象はあるけど心根は結構優しい奴だからな」


 なんだか同郷二人だけで私達にはわからない納得があるようだが……。


「あの女の心根が優しいだと? ケッ、俺にはそんなこと微塵も信じられねぇけどな……」


 ……なんか再び場の空気が重くなってしまった。幼馴染として二人にはアリスティウスを信頼できるところがあるんだろうが、カロフにとってはどう擁護しようと火に油を注ぐだけだからなぁ……。


 よし、この話題はもうおしまいにしよう。


「じゃあ結局、第六大陸に関する情報はもう他にないってことでオーケー?」


「いえ、もう一つだけハッキリしている情報がございます」


 おっと? もう情報はないと思ったから話題を終わらせようと切り出したつもりがまだ何かあったのか。


「先ほど女神政権が近い内に新魔族へ戦争を仕掛けるとお話しましたが、新魔族側もそれに対抗する戦力を整えてるとのことです」


「つまり真っ向から受けて立つつもりか……。その戦力に関しての詳細はわかっているのか?」


「いえ、密偵の海上部隊が遠くから確認した情報だけですので……。ただ第六大陸北部に膨大な戦力が集まっていると」


 第六大陸北部……となるとやはり第五大陸へと向かうための軍勢というのは間違いなさそうだな。

 しかしまずいな、このまま戦争が勃発すれば間違いなく多くの血が流れ、下手をすればその戦火は他の地に飛び火する可能性もある。


「確かなんつったけか、その軍を率いてるらしい新魔族の大将? えーっと……り、り……」


「リヴィアサンですよカロフお兄さん。ルイファンさんの話では七皇凶魔の“嫉妬”の力を持つとのことですが……」


「リヴィだと! あいつが……」


 って今度はレイの表情が先ほどのカロフのように怒りをあらわにしたようなものに……。

 しっかしこれまた懐かしい名前が出てきたもんだ。第二大陸で暗躍していた七皇凶魔であり、レイとサティとは因縁の相手と言ってもいい。

 そういえば、話によればリヴィもアリスティウスと同様に二人の幼馴染のはずだが……。


「ルイ姉ぇ、なんでそんな重要なこと黙ってたんだよ」


「んー? 別にいいだろあんなクソガキのことはー。見かけたら適当にぶっ殺しとけばいいだけだしなー」


 以前もそうだった気がするが、ルイファンは幼馴染組の中で唯一リヴィにだけ口が悪いような気がするがなぜだ?


「ルイ姉ぇってば……まだリヴィのことは嫌いなんだな」


「まーなー。だって勝手なことばかりやるしアタイにいたずら仕掛けようとするし、それにサっちんをいっつもイジメようとしてたじゃないかー」


「あはは……ルイ姉ぇがよくリヴィにとんでもないお仕置きしてたのを思い出すよ……」


 こうして聞くとルイファンは本当にいい姉貴分だったみたいだな。というか、子供の頃からリヴィはサティのことを目の敵にしてたのか……それを今の今にまでこじらせて、執念深い奴だ。


「ふん、奴は俺達家族をバラバラにする原因を生み出したようなもの……今度あったら俺は子供のお仕置き程度では済まさないがな。八つ裂きにし……地面に頭をつけさせて詫びさせてやる」


 こっちはこっちで静かな怒りをその胸に燃やしてるようで……。その言動からも今にも飛び出したい気持ちを抑えてるのがビンビン伝わってくる。


「いやぁ……でもルイ姉ぇのお仕置きを超えるとなるとそれじゃまだ生ぬるいよレイ……。ルイ姉ぇの場合、胸に手を突っ込んで心臓を引っ張り出した後、それを握り潰したうえで「ごめんなさいはどうしたー!」って顔をひっぱたき続けるからね……。リヴィは心臓が二個あったからギリギリ死なずに済んだけど……」


「「「……」」」


「お、どうしたお前らー?」


 いやそれでもよく生きてたな……。というかルイファン過激すぎだろ、皆青い顔しながら無邪気に飛び回るその姿を見ちゃうよそりゃ……。

 てか聞きたくなかったわそんな話、画面の向こうの皆さんもドン引きだわ。


「と、とにかく、これで大体の情報は出揃ったわけだな?」


「う、うむ……これらの情報をもとに余らは今後の防衛策を練っていくことに……」


「いや、残念ながら私がここに来たからにはこの先は防衛策だけにはとどまらせないぞ」


「なぬっ!? それはどういうことなのだムゲン!?」


 私の目標はあくまでアステリム全体を救うことにある。それは国家間の問題を諌めること、戦争を止めること……そう、ラブ&ピースをこの世界にもたらすことこそが今世で私が成すべきことなのだ。


 そのために、まずやらなければならないことがある……。


「ここからは一転攻勢……すべてを救うために、私達の方から動くということさ」


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