158話 決別の時
「集まったのは、この程度か……」
父上から帝国の真相を聞き出すため、そしてサロマに詫びを伝えるため……急遽その後を追う部隊が設立されたのだが。
数にして50人にも満たない脆弱な部隊。対して父上の部隊は選び抜かれた精鋭が300人はくだらないであろう。
考えたくはないがもし……もし父上と相対することになってしまったら……。それくらいは流石の余でも理解できる。
「済まないのであるディーオスヘルム殿下よ。戦討ギルドとは言っても所属する人間はほとんどが自由意思で動いておる。これだけ集まっただけでも十分すぎるくらいなのであるが……」
戦討ギルドマスターであるヒンドルトンが直々に協力を持ち掛けてくれたおかげで戦討ギルドからの参加者も少なくはない数が集まってくれておる。……勿論後々報酬は払わねばならんだろうがのう。
「ですが殿下よ! 此度は皇帝ダンタリオンの真意を確かめるために吾輩も同伴いたしますぞ!」
「うむ、それに関してはありがたく思うぞ」
確かにヒンドルトンはマスターと呼ばれるだけあって戦力としてみればかなりのものであろう。……しかし、こやつの立場はあくまでも中立、状況によっては父上につくことも考えられんわけではないのだが……。
「……お主を信頼しようヒンドルトン。お主もヴォリンレクス帝国に住まう者なのだからな」
次期皇帝たる余は信頼しよう、こやつのその中立さを。きっと正しい眼で物事を見据えてくれるだろう。
「おいおい皇子さん? 俺達は国民じゃねぇから信頼してくれねぇのかい」
「そうやって揚げ足を取らないの。殿下の気持ちは私達だって理解できるし、私達の気持ちだって殿下の伝わってる。そうですよね」
カロフ、リィナ……余としてはこのままずっと仕えてほしいという気持ちはあるが、あくまでもこやつらは国を通しての協力体制を得るために送られてきた橋渡し役にすぎぬ……。
だがそれでも余は二人を信頼しておる。カロフもリィナもすでに余のかけがえのない友なのだからな!
「お主らの働き……期待しておるぞ、我が筆頭騎士達よ!」
「へっ、だからちげぇっての」
「そう言いながら顔がにやけてるわよカロフ」
遠い異国からやってきた彼らはもはや余の親友であることは言葉する必要もない。……それともう一人、この場にはおらぬが余のために動いてくれているあ奴もな。
「お待たせいたしました殿下。お嬢様の私兵団、総勢30名の精鋭になります」
遅れてカトレアがこの場に姿を現す。どうやらアリステルのところの私兵団員を連れてきてくれたようだの。
「おお、これは……ありがたいのう」
正直あ奴とはそれほど仲が良いわけでもなかったからのう。ここまで協力してもらえるとは思ってもいなかったのだ。
……これも、カロフ達のおかけだと言えるの。
思えば、これまで余は立派な皇帝を目指したはいいものの、何事にも一人の力で向かっておった。歴代の皇帝がそうであったように、自分も一人でなんでもできなければならぬと……。
だがそれは違った。できないのなら誰かの力を借りればよいのだ。
一人ではできずとも、それが信頼という絆で結ばれた者達と共に成し遂げられるならば……余は歴代のどんな皇帝よりも素晴らしい存在になれるはずなのだ。
だから……。
「よし、みな準備は整ったな! これより余らは……」
「ちょっと! お待ちなさいな!」
ぬ? 誰だ、せっかく余が出発の号令を叫ぼうとしておるところだというのに。
そう思いながら声のする方向を見ると、そこにはアリステルが息を切らして立っておった。
「お嬢様、なぜここに!」
「おいおい、あんたは戦闘要員じゃねぇんだから大人しくここで待ってろっての。ってか……」
カロフも疑問に思ったのだろうな、アリステルの後ろにいる者達は誰なのか……と。
だが、余にはあの者達に見覚えがあった。
「皇子様や、いつまでも待たされたと思えばなんだか出番だっていうじゃねぇか」
「結果的にはこれが初仕事ってことになるんですか」
「初仕事がクーデターまがいってのもどうかと思うが……俺ぁ金がもらえりゃ何でもやるぜ!」
それは、余が各地方から集めた共に戦うための精鋭達。アリステルが連れてきたというのだろうか。
それと……。
「隊長、我々を置いていくなんてあんまりですよ」
「カロフー、お前にばっかりいいかっこさせないぞー」
カロフ達と似た様相の数十名の騎士達がそこには勢揃いしておった。
「み、皆……どうしてここに?」
「そこのご令嬢から隊長達が二人だけで殿下と危険な任務に赴くと聞いて……。水臭いじゃないですか、どうして我々に知らせてくれなかったんですか」
「そ、それは……正規な任務とはいいがたいし。何かあった時には責任を負うのは私達だけでいいから……」
「それが水臭いんじゃないですか。まったく、そういうところは隊長全然変わりませんね」
「まったくその通りだぜ。ま、俺はお前らも呼んだ方がいいんじゃねぇかと思ってたんだがリィナが何も言わねぇことには……」
「カロフさんはただ忘れてただけでしょう?」
「んな!? おめぇら……」
と、和気あいあいと談笑するカロフ達。あれがあ奴らの騎士団か……うむ、とても固い信頼で結ばれてるようだのう。
ならば、余も負けてはおれぬだろう!
「お主ら……よくぞ集まってくれた。今までは……余の力を誇示したいがためにお主らをただ集めていただけであった。だが、今回は違う! 今回こそは噓偽りなく、余が本当に守りたいもののために強大な力に立ち向かうことになるやもしれぬのだ! そのために……どうか主らの力を貸してほしいのだ!」
「ま、俺らもこれ以上何もしねぇんじゃ体がなまっちまうし、丁度いい頃合いってだけだぜ」
「それに上手くいきゃ皇子様が皇帝の座をかすめ取っちまうかもしれないんだろ? そうなりゃ俺らも功労者ってことで報酬もたんまりもらえるっしょ」
「ま、ヤバそうだったらトンズラこかせてもらいますけどねー」
……ま、まぁ動機は不純な者もいるがそれでもついてきてくれるというのだから良しとしようではないか。
ともかく、これで余の軍勢は総勢120名近くになった。
ろくに連携もとったことのない烏合の衆ではあるものの、やはりこれだけ集まってくれたことが余にとっては何よりも嬉しいのだ。
「そんじゃ、そろそろ出発といくか皇子さんよ」
「うむ! それではゆくぞ、目標は父上の行軍に追いつくことだ!」
オオー! という雄叫びと共に貴族街から都市外に続く城門をくぐり、余の初の行軍が始まったのであった。
(まさか、夢にまで見た初陣が父上と相対することとなるとはの……)
そして、出発から数時間後。最初は覇気たっぷりで進軍していた部隊も、段々と緊張に包まれていく。
わかるのだろう、近づいている……ゆっくりと、少しづつではあるがこの先にあるであろう圧倒的な存在感を持つ父上の下へと。
「……でもよ、正直あの皇帝サマとやり合うと思うとゾッとするもんがこみ上げてきやがるな」
口では強気に言い放つものの、カロフの顔からは頬を伝い一筋の汗が流れ落ちる。
だが、それも当然と言えるであろう。なにせ相手はあの父上……その圧倒的な力は今もなお余らの目に焼き付いておるのだから。
「大丈夫、まだ戦いになるとは限らないでしょ。話し合いで場を治めることを第一に考えましょう」
そうだ、いくら父上が皇帝といえど同じ人ならば話し合う余地があるはずだ。
余らが親身になって父上の事情を聴き、その上でお互いに納得できる道を探せばよい。
「しかし陛下はなぜ侍女サロマを戦地へと連れだすような真似をなさったのだろうか?」
そう言われてみればそうだのう。仮に……サロマが余の血縁に関わり、最初からそれが決められていたとしても、今この場で連れていく意味などあるのだろうか?
……そう、サロマが……余の。
「おい、大丈夫か皇子さん。少し顔色が悪いぜ」
「無理もないですよ。サロマさんの一件に、帝国のこと……それを御父上に確かめに行くんですから」
リィナの言う通りだ。ここに来て余はまた怖気づいておる……。
本当にサロマが余の母親と同じ存在なのか、帝国は昔から新魔族の手にあったのか……父上の真意はいったい。
だが、余はもう止まるわけにはいかぬのだ。
「……ゆこう、真実を確かめるのだ」
余が、その先の未来へと進むために。
「……む、見えたのである!」
ヒンドルトンが声を挙げる。こやつは背が高いゆえにいち早くその軍勢を発見したようだ。
そう……ついに父上の部隊に追いついたのだった。
そして、どうやら向こう……父上も同時にこちらに気づいたらしい。
父親の隊列はピタリとその動きを止め、やがてゆっくりとこちら側へと方向転換してくる。
その隊列の中心、一際目立つ大きなチャリオットの上にとうとう余らはその人物を捉えたのだった。
(父上……)
沈黙が訪れる……声を発さねばならぬはずだというのに体は震え、口はパクパクと死んだ魚のようにしか動かない。
「なんの用だ」
「!?」
驚いたことに、先に声を発したのは父上であった。しかもその視線の先は、ハッキリと余を捉えており……。
「ダンタリオン皇帝陛下! 此度、吾輩達は貴殿にどうしても伺いたいことがあり、こうしてはせ参じた所存である!」
誰もが立ちすくんで動けない中、余らの先陣を切ってくれたのはヒンドルトンであった。
流石戦討ギルドマスターというところか、父上の前でも動じず堂々とした姿勢で対応を……いや。
「いいだろう、話せ」
「……聞きたいのは、帝国の真実なのである。陛下は……いえ、代々の皇帝とこの帝国は……」
表情を崩さないにしても、言葉がどうにも歯切れが悪い。……恐れているのだ、真実を聞くことを。
それは、誰もが嘘であってほしいと願うことなのだから、当然だろう……。
だが、そんな余らに対して父上は……。
「そうか、つまり貴様らはそれを知ったということか」
まるでちょっとした隠し事がバレた程度のようにあっさりとした様子でそう言葉を続ける。
「で、ではやはりヴォリンレクス帝国は以前から新魔族との繋がりがあったということですかな!?」
「何百年も続く戦いになぜ終止符が打たれぬと思う? すべてはこの帝国を続けるために作られただけの舞台だというのに……ふん、誰もそれを疑問に思わない。滑稽だと思わないか?」
父上のその言葉に誰もが驚き、絶句してしまう。
つまり、この帝国自体が……新魔族との終わらない戦いのためだけに作られた偽りの栄光だったとでもいうのか……。
「バカ……な。それはつまり、歴史に名を連ねる代々の皇帝すべてが同じ意思の下にその虚偽の戦いを続けていたということになるのである! そんなことが……」
「貴様程度の弱き存在に我が帝国の存在意義を説くか?」
それを最後にヒンドルトンは押し黙ってしまう。恐ろしい……父上の思考は常軌を逸しておる。
「でもよ、皇帝っつってもその前任がいるんだろ。そういう人物とかと意見の違いとかまったく起きないのかが俺には疑問だぜ」
「いや、騎士カロフ達よ、お前らは知らぬだろうが代々の皇帝は次代にその座を譲った後は誰もその行方を知らせずに余生を過ごしている。例外なく……な」
「なんだよそりゃ……」
カトレアの言う通りだ。余は自身の祖父に会ったこともなく、誰からもその話を聞いたこともない。
国に関するすべてのことは父上が決める……。
「聞きたいことはそれだけか?」
そう言いながら父上は興味なさげにため息をつく。これですべてを終わらせるように……。
だが、まだだ……ここで気圧されるわけにはいかぬ。余には何よりも聞かねばならぬことが残っておる。
父上の瞳は、未だ余を見据えている。
「父上……サロマは、どこにおるのだ」
「……」
ピクッ……と、一瞬だけ父上の顔が歪む。そして、瞳から放たれる威圧感が増したように思えた。
それはまるで、仇敵を睨みつけるような……。
「父上、教えてほしい。サロマは……サロマは余の母上なのか?」
先ほどとはまた違う緊張感が場を支配する。もう、逃げられない……その答えを聞くまでは。
「……そうだ。サロマは我が妻サリアの遺伝子情報と魔力回路の式を媒介とし再びこの世に生み出した……クローンと呼ばれる存在だ」
わかっていた……そう、その可能性は何度も示唆されてきた。だというのに、この気持ちは何なのだろうか。
「では、なぜサロマを余の世話係に……」
「奴の中に眠るサリアの記憶と意識を呼び覚ますため、その母性の欲望を刺激させるために過ぎない」
母性……そうか、サロマが親身になって余の世話をしてくれたのも、母上の無念が突き動かしたからということなのか……。
だが、なぜなのだ……。
「なぜ……なぜ父上は母上を蘇らせようなどとしたのだ。死んだ母上に……もう一度会いたかったからなのか?」
それはここにたどり着くまでにずっと考えておったことだ。なぜ父上は母上を蘇らせたのか?
もしかしたらそれは、死んだ妻に会いたいと思う強い想いだったのではないだろうか……。
だとすれば、父上にも誰かを愛する純粋な想いがあるのでは……。
「くだらん……」
「え?」
だが、父上の口から出たのは……そんな余の淡い希望をも打ち砕く残酷なものだった。
「我がただの情で奴を蘇らせただと? くだらないにも程がある」
余の考えが愚かだったのだろうか……。父上には人を想う気持ちが本当にないというのか。
だとしたら、なぜこんなことを……。
「そもそもの始まりは、ディーオ……貴様にある」
「な……に? それはどういう……」
「貴様は本来ならば我ら代々の皇帝の"意思"と"思想"を持って生まれてくるはずだった。サリアに仕込んだ“呪縛”の力によってな」
何の話をしておるのだ? 辺りを見回しても誰もその言葉の意味を理解できていないようで首を傾げている。
「どれだけ経とうとその兆候が現れず、果てには通常の人格を宿し始めた。そう、貴様は帝国始まって以来の……異物だ」
なんと……冷たい眼差しだろうか。余を睨みつける父上の瞳にはこれまで誰も見たことのないほどの憤怒に満ちている。
(だがいったいなんなのだ。余が代々の皇帝の意思を持つとは……)
あなたは、あなたでいたいですか?
その時、一瞬だけ幼き日の夢の記憶が呼び覚まされる。なぜかはわからぬ、だがその光景こそが余を余たらしめたのだと今ハッキリと理解できた。
「“呪縛”の力は同じ肉体からは二度と発現しない上に我が使用できるのは一回のみ……。だからこそ生み出すことを決断した……“呪縛”を持つ新たな肉体を。帝国の新たな皇帝を生み落とす器をな」
「なんて……ヤロウだ」
「信じられない……」
「そんなことを平気で行えるとは……」
「これが帝国の……真相なのであるか」
人道に反し、まるで人を道具としか思っておらぬような発言にこの場にいる誰もが恐怖する。
父上は……いや、この男は本当に人間なのかと疑うほどに。
しかし、ここで怖気づいて終わってはならぬ!
「ならば、なぜサロマをこのような戦場へと連れだしたのだ!」
「そうだな、その答えならば……これだ」
ゴゴゴゴゴ!
そう言いながら父上が腕を挙げると地響きが起き、それと同時に何か別の機械的な音がゆっくりとこちらに近づいてくる。
「な、なんだ、地震か!?」
「違う……あれは!?」
それは、要塞と呼べるほどに巨大なシロモノだった。黒光りする装甲に何本もの巨大な砲塔が備え付けられており、巨大なキャタピラを動かしながら動いていた。
そして、その中心……そこだけ薄緑色に輝くその楕円状のガラスは人一人が収まるようで……。
その中には……。
「サロ……マ?」
液体に満たされた中で何本もの奇怪な線に繋がれたサロマが生まれたままの姿でそこに眠っていた。
「これは魔導要塞と呼ばれる機動兵器だ。元々は新魔族の技術で作り上げられたにすぎないシロモノではあるがな」
「そ、そんなことはどうでもよいのだ! なぜ……なぜサロマがあそこに!?」
中で眠るサロマはピクリとも動く気配はない。いったいサロマはどうなってしまったというのだ!?
「ただのエネルギー源として利用しているだけだ」
「え、エネルギー……?」
「それって……ねぇカロフ……」
「ああ、俺もそれを考えてたところだぜ」
余にはまったくわからなかったが、カロフとリィナの二人には何か心当たりがあるような素振りを見せる。
「二人はあれについて何か知っておるのか」
「いや、俺らはちょいと以前に新魔族と戦ったっつー話はしたよな。そん時に使われた兵器があったんだよ」
「それは人の魔力や生気を吸い取って動く凶悪なもので……それによって何人もの人が犠牲に……」
その説明を聞いて余は戦慄した。つまりは今こうしてサロマがエネルギーにされているということは、その生気をも吸い取られているのではないかと考えたからだ。
だが、父上はそんな慌てふためく余らを見てはため息をつき、再び語り始める。
「ふん、ベルゼブルが実験用に作った凡作か、あれの実験結果も少しは調整に役立ったが……。これはそんな欠陥品とは違う。エネルギー源とする人間に特殊な術式を組み込むことで半永久的に動き続ける」
「そんな、あれが実験用って……つまり、私達の国で起きた事件も本来はあの魔導要塞のための……」
「なんだって!? 嘘だろ……そんな、そんなことのために!」
どうやら二人には何か余の知らぬ事情を抱えておるらしい。カロフが今までに見たこともないほどの怒りをあらわにしておる……。
「しかし父上! なぜサロマを……サロマは父上にとっても重要な存在ではないのか!?」
先ほどの父上の話ではサロマに新たな次期皇帝の母親になってもらうという話だったはず。
それをこうして少しでも命の危険があるかもしれない兵器に使うなど……。
「確かに、サロマには子を成してもらわねばならないだろう」
「なら……!」
「だが、その後の絞りカスに用などない。今回はその演習を兼ねている。子を産み落とした後のエネルギー装置となってもらうための最終調整というところだ」
どうして父上はこんなにも非情なことをさも当然のように答えるのだろうか……。
余は……強く、何物にも左右されない強き意思を持つ皇帝である父上を尊敬している……ハズだった。だが……今目の前にいる男からは恐怖と悪意しか感じられぬ。
余が信じていたものは……すべて余の理想が勝手に作り出した虚構だったというのか。
「だ、だが皇帝よ! そんなものを持ち出していったいどうするつもりであるか! 貴殿は先ほど新魔族との戦いを故意に続けていると言ったが、その魔導要塞とやらは戦況を大きく揺るがすのではないか!?」
「そうだな、だがこれを機に新魔族の側も戦力の拡大を考えるとは思わないか」
それは……つまり自分達が強くなればその分敵も大きな力を持つだろうということ。
そして相手側にはヴォリンレクス帝国と繋がる新魔族がおる。
……思えば、我が国は新魔族との戦闘が激化するにつれて新たな技術の会得などに力を入れ、他国を侵略することもあったはず……。
だが、父上……歴代の皇帝には新魔族との戦いを終わらせる気はない。
「そんなの、戦況がどんどん大きくなって……最終的には世界を巻き込むことになるだけじゃない」
「そんな中でいつまでも国が維持できるとも思えないのは明白だというのは自分でもわかるぞ」
「はぁ? じゃあ皇帝サマは最終的には自分の国さえも滅んじまう道を進んでるってのか?」
馬鹿な……ヴォリンレクス帝国は滅ぶために生まれた国とでもいうのか?
「そんな馬鹿なことを! 父上、これは帝国が最後にすべてを統べる国として君臨するがための作戦なのだろう!」
それでも、信じたかったのだ。こんな残虐なことをいくつも行ってきたとしても、それはすべて自分の国を想ってがため……ヴォリンレクス帝国のために仕方なく行っていることなのだと。
だが……。
「憂鬱だな……」
「え?」
「やはり貴様は失敗作だ。覚えておくといい……この世には善意など持たない悪意のみの人間がいることを」
「なにを言って……」
それは、余の最後の希望を押しつぶされたような感覚。
「最初に"戦うための国"が立ち上げられたのも、代々の皇帝の意思が受け継がれたのも、今こうしてサロマを利用した新たな兵器を稼働させたのも……」
余が信じるものを打ち払うかのように。
「すべては……この憂鬱な世界を救いのない破滅へと向かわせるためにすぎない」
余と父上……いや、皇帝ダンタリオンとの決別の時が訪れた瞬間であった。
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