155話 激突、帝国に潜む影!
カッ!
薄暗い倉庫に突然照らし出されるいくつもの強い光によって暴かれていく。そう、この帝国に潜む悪事の数々が今ここで。
「ぐっ……な、なんだこの光は!?」
「な、なんでやんすかこいつらは!?」
安全だと確信していた密会の現場を抑えられ流石のルディオも動揺を隠せないでいる。
ここまでくればもう奴に逃げ場はない。年貢の納め時というやつだ。
「ダンナ! ここなら絶対安全だと言ったじゃないでやんすか! これはどういうことでやんす!」
「あ、あり得ん……皇子達が私の動向を把握しているなど! ここまで最新の注意を払い、尾行もされていなかったはずだ! なのになぜ!?」
この密会も言うほど完璧とは思えんがな。結局は自分の怪しさを助長するような行動ばかり起こしてるくせにこの自信はいったいどこからくるのやら。
ま、おかげでこちらもやりやすかったが。
「ルディオよ! お主が今までしてきた悪行、そしてこれから父上にしようとしてる悪事はすべて聞かせてもらったぞ!」
「へっ、ここまできて今更逃げようなんて思うんじゃねーぞ。ま、逃がさねーけどよ」
「お前らのやろうとしてることは全部まるっとお見通しだ!」
すでにこの騒ぎを聞きつけたのか、倉庫の外には多くの人が集まってきてる。その中にはこちらを覗いてる者もちらほら見受けられるので、いい証人になってくれることだろう。
「さぁ、ついに追い詰めたぞ……新魔族のスパイよ! だがなぜだ! なぜ帝国を裏切るような行為をするのだ!」
ディーオ……もはや相手は擁護することもできないほど確定した裏切り者だというのに、それでも相手のことを理解しようとするのか……。
「ふっ……まさかあなたのような軟弱皇子がここまでやるとは思いもよりませんでしたよ」
「る……ルディオ様……」
「おや、アリステル嬢までご一緒とは。彼らにそそのかされてこんなところに来てしまうとは……いけない子だ」
追い詰められているというのに未だ余裕の表情を崩さないルディオ。まだ何か策でもあるというのだろうか。
あるいは……。
「……まぁ、いいでしょう。なぜ私が新魔族と手を組んだか? その理由を教えて差し上げましょう」
そしてゆっくりと話し始める。今のところ躍起になって抵抗してくる様子はない。
「私はね、常々思っているんですよ……この私のように優秀で完璧な人間がなぜこんな一つの役職程度の地位に納まっているのか……とね」
「あ? こんな大帝国の貴族で最高の役職も持ってるってのに何が不満だってんだよ」
「ハハハ、これだから欲のない者は愚かだというんだ。いいかい、世の中は広いんだ。そして様々な国や地域がその秩序の下暮らしている。世界はバラバラなのさ」
世界ときたか、大きく出たな。だが奴の言い分、私にはなんとなくわからんでもないような気もする。かつてこの世をまとめ上げた者としてはな……。
「それがなんだってんだよ」
「まだわからないかい? つまりそんな世界の一括りであるこの帝国でさえ私はまだ頂点に立てていない。これは由々しき問題だよ。……それに、もっと問題なのは皇帝陛下……いや、"代々の皇帝"というべきかな」
「なっ!? お主、余や父上だけでなく余の祖先たる代々の皇帝さえも侮辱するというのか!」
「その通りだよ。いいかい、確かにヴォリンレクス帝国の歴史は長く、武力国家として広くその名を轟かせてきた……が、それだけだ! 他国を侵略し、領土を増やし、大帝国とまで呼ばれるほど巨大になったというのに……それだけの力があるというのに、この国はある時期を境に守りに入ったのさ」
これは……知ってるぞ。私は数日前ディーオ達がルディオの裏切りの証拠を探している最中に調べ物をさせてもらっていたのだが、その時に閲覧した記憶がある。
曰く、人族と新魔族の戦いが激化する前の時代に突如建国された小さな国……それが『ヴォリンレクス』。
低迷する周辺諸国の中、ヴォリンレクスだけは『弱き国に存在価値はなく、我らが肥やしとなるべし』と明言し、その言葉の通りに頭角を現していった。
だがその進撃も領土が増えるにつれ減少。次第に帝国の意思は『立ち向かってくるならば迎え撃つ』という方針に変わっていった。
戦討ギルドの設立や、今日的な魔物の襲来などで危機的状況にある国への救援など、世間に対して好意的な姿勢も見受けられる。
最近でも、ドワーフ族の技術を得るためにという名目でしか他国との戦闘はなく、その力のほとんどは迫りくる新魔族の脅威に使われるだけ……というのが現状らしい。
「それの何がいけないんですか! これは代々の皇帝が侵略と戦争だけではいけないと気付いた良い例じゃないですか!」
「残念だがレディ……それは愚行さ。世界は再び一つになるべきなのさ、たとえそれがどんな手段だとしてもね……」
再び……だと? まてよ、女神……つまりセフィラがこの世界に降り立ってから始まった歴史上ではたったの一度でさえすべての世界が何かの名の下に一つになったという記録はない。
そうなれば当然ルディオの話は女神の歴史以前の話となるわけで、それはつまり……。
「私の遠い遠い祖先はね……遥か昔、それこそ我らが知る"歴史"以前に世界を統一していた偉大なる人物なのだよ!」
「なっ!?」
馬鹿な! 女神の歴史時代以前で世界を統一した人物……それはつまり前世の私ということになってしまうぞ!
そしてその子孫がこのルディ……いやちょっと待て、おかしい。
「ワウン?(言っちゃあれっすけど、ご主人ってまず経験がないっすよね?)」
やめろぉ! 言うなぁ! ……ああそうだよ……DTだよ! 悪いか!
……が、つまりはそういうことだ。この先の時代において私の種というかDNAがバラまかれたということはまずない。
ならルディオの言う『世界を統一した偉大なる人物』というのは一体……。
「わたくしの記憶では、ルディオ様の生家であるグランセイド家はそのような人物がいたという記録は存じ上げませんが……」
「当然さ、ヴォリンレクスに属する前の記録は何者に見つからないよう魔術で隠匿されていたのだからね。それを偶然見つけ出した時、私は自分の運命を悟ったのだよ!」
魔術で隠匿か……そうなると歴史以前の時代というのも俄然信憑性が出てきてしまうな。
だが私はそんなものを残した覚えなどまったくない。もしかしたら誰かが私の活躍を何かに残していたという可能性もなくはないとは思うが。
それにしてもルディオが私の子孫だというのは……。
「そう! かつてこの世の種族と世界を手にした我が祖先……“サイモン・テスタメント”の血を引く私こそがこのヴォリンレクスを、果ては世界を統率するにふさわしい存在なのだ!」
ズコーーー!!!
サイモン! よ、よりにもよってあいつかよ!
……だが確かにそう言われればそうだ。前世で私は死の間際にあいつに世界を託した。まぁ実際にはサイモンだけじゃなくあの場にいた全員に託したようなものだったが。
「ワウ? ワウ(サイモンさんってあれっすよね? ドラゴス先輩が話してくれた)」
「ああその通り。アステリム始まって以来の前人未到の超多重浮気者だ……」
サイモンのことを知らないor覚えてないって人は1章を見返してくれ……。ドラゴスからあいつの最後を聞いた時は呆れ果てて言葉も出なかったからな。
……というかルディオが異常に女性と絡んでるのってもしかしてその血が色濃く受け継がれたからなんじゃ……。
「はっ! 滑稽だぜ、大昔に死んだ人間の栄光に縋ってデケェツラして、自分は世界の統率者だぁ? おかしすぎで笑っちまうぜ、なぁムゲン!」
「お、おう……そうだな……」
あ、やめてカロフ。その言葉ってそっくりそのまま私にも当てはまっちゃったりするとこあるから……。
しかしこんなところにまで前世の因縁……いや、これは不始末とでもいうべきか。どちらにせよ無視するわけにはいかないだろう。
……どうやらあちらさんもお話はここまでのようだしな。
「さて、私の偉大さを知ってもらったもらったところで残念だが、キミ達には消えてもらわないといけないな」
「そうは参りません。ルディオ様、あなたが新魔族と画策していた計画は破綻しました。これ以上の抵抗は無意味……大人しく降伏なさってください」
降伏勧告するサロマだが、ルディオはまったく引く気配がない。
何か策でも……いやまて。
(先ほどから後ろの新魔族は微動だにしていないのはなぜだ?)
ルディオと新魔族が交わした今までの会話からして、二人の間に上下関係というものは特に存在しないように思える。
だというのに、ただルディオに演説させるためだけに一歩引いておとなしくするだろうか?
「降伏? ふふふ……そんなことをする必要はないなぁ。なぜなら……」
「すでにここら一体はアッシの張った結界で埋め尽くされてるんでやんすからね!」
「なに!?」
「な、なんだこりゃ!?」
「地面が……!」
突如足元に陣が浮かび上がり、伸びていく。大きい、この規模は……倉庫の外まで張られているのか!
だがこの結界の形式は発動のための術式を使用者が時間をかけて練り上げなければならないタイプ。そんなことをしてれば流石に魔力を感じ取れる者ならば気づけるはずなのに……なぜ!?
「ハハハハハ! どうやら『魔力感知妨害装置』は完璧に機能しているようだな! ドワーフ族の技術を使い私が秘密裏に作らせたシロモノさ!」
魔力感知を妨害……そうか、それであの新魔族からはなんの魔力も感じられなかったということなのか。
迂闊だったもう少し注意深く観察するべきだったのかもしれない。しかしそんなことを考えたところでもう後の祭りだ。
「ぬわーっ!? なんなのだこれはーっ! なにが起きてるのだーっ!」
「まさかこれほど広大な結界を用意してるなんてな……だがこれの効力はいったい……」
「げっへっへ……まだ気づかないでやんすか……」
私達の不安とは裏腹に新魔族が不敵に笑う。
「けっ! こんなもんただのこけおどしだぜ! 要は……テメェをぶっ飛ばせば終わりってことだろうが!」
先手必勝とばかりにカロフが勢いよく新魔族に向かって斬りかかる。……だがそれでも相手から余裕の笑みは消えることはない。
やはり何かある……。
「らぁ!」
ザシュ!
「グエー! やられたでやんすー!」
だが意外なことに、襲い掛かられたにもかかわらず棒立ちのまま無抵抗でやられてしまう。
……そこがまた不気味ではあるが。
「な、なんだぁこいつ? あまりにもあっけなさすぎやしねぇか……」
「カロフ! 後ろ!」
「なに!?」
それはこの場にいた全員が目を疑う光景だった。つい先ほどカロフが倒したはずの新魔族が突然その背後に現れたのだから。
「あぶねっ!」
リィナの言葉で間一髪攻撃から逃れるカロフだったが、その表情は困惑と焦り……完全に敵の能力に翻弄されてしまっている。
それに、先ほどカロフが倒した新魔族の死体……それがいつの間にか跡形もなく消え去っている。
やはり先にこの結界の能力を把握し解決策を立てなければならないようだな。
「げっしっしー! どうでやんすか、アッシの自慢の結界戦術『
あ、自分から話してくれました、ありがとうございます。自分の力を過信するとか自慢したいタイプなんだなこの新魔族は。
そして、その能力を証明するかのように奴の周囲の地面からポコポコと分身体が這い出てくる。キモイ……。
……しかしこれは厄介な能力だ。おそらくこの結界は城の大部分を覆っている。となれば結界自体を破壊しようにも大掛かりな作業が必要になるがそんな暇は与えてもらえそうにない。
だが、今のところ城内のそこかしこで被害が起きている様子がないということは、増殖が可能な範囲は奴本体の周囲のみらしいな。
「だめっ……! 斬っても斬ってもキリがない!」
「お嬢様は自分の後ろに!」
すでに周囲では増殖した新魔族との戦闘が激しくなってきている。増え続ける分身に紛れて本体の位置がわからないうえに戦闘能力もあるからやりづらいことこの上ない。
「とにかく数を減らさないことにはどうにもならん! アルマデス、
「ワウ! 『ワウン』!(了解っす! 『
あくまで分身体は一撃で倒せるので、私と犬で手数を増やして対応……してみるものの、増殖のスピードも段々速くなりこちらの攻撃の手が追い付かない!
(せめて本体の魔力さえ感知できれば……)
しかしそれさえも『魔力感知妨害装置』とやらのせいで叶わない。
範囲攻撃魔術をぶっ放せば分身も含めて本体も倒せるかもしれないが……そんなものを城内で使うわけにもいかない。
くそっ、どうすれば……。
「ルディオ様! もうやめてください! こんなことをして何になるのですか!」
だが、そんな戦闘が激化していく中で一人、躍り出るようにルディオの前に一人の少女が姿を現す。
ルディオの婚約者であるアリステルだ。
「お嬢様!? 危険です! お下がりください!」
「お嬢さん! あんたが出る幕じゃねぇ! 変態騎士の言う通りだ!」
「いいえ……これは、わたくしがやらなければならないケジメですわ……」
その表情はどこか決意を秘めたように感じる。そうだ、彼女が私達についてきたのはまさにこの時のため……なら、止める権利は誰にもない。
「アリステル嬢、キミも哀れな少女だ……。あんな俗物共と関わらなければいずれは私という偉大なる主導者の伴侶の一人になれたかもしれないというのに」
「伴侶の一人……つまり、わたくしはルディオ様にとって一途に愛される存在ではなかったということ……なんですのね」
「大丈夫、キミにも等しく愛を与えるさ。そうだ、今からでも遅くはないよ。これからこの国の王は私になる……だからキミも私の下に戻っておいで。キミが私を愛してくれれば、私もその愛に答えてあげるよ」
それは甘い誘い。いつかは抱いていた淡い恋心を刺激するかのように、幸せだった愛に縋りつきたくなるような……。
……だが、それは今までのアリステルだったらの話。
「……ルディオ様。わたくし、もうただ優しく愛されるだけでは満足できませんの。わたくしの本当の姿を見て、向き合ってくれる……そしてわたくしもそれに応えるような、そんな恋をしてみたくなりましたわ。……だから、ここに宣言します。ルディオ・グランセイド様、あなたとの婚約をここで破棄します!」
こんな状況だというのに……やってくれるよこのお嬢様は。
だが一方で、突然の婚約破棄を申し付けられたルディオはやれやれという風に肩を落とす。その表情は余裕そのものだ。
「愚かな選択をしたものだね。もはや私が王になるのは時間の問題だというのに。残念だよ……」
「クケェェェ!」
その言葉と同時に、待機していた新魔族の分身がアリステルに襲い掛かった!
……が、それを予見していたかのように二つの影が飛び出し。
「させるかよ!」
「お嬢様は自分がお守りする!」
カロフとカトレアが襲い来る新魔族を打ち払う。そして、私達も同時にお互いを守り合うようその場に集合していく。
私達はそのままルディオに立ちはだかるよう対峙し、意思を示す。貴様の好きにはさせない……とな。
「……ふん、烏合の衆がいくら集まろうとこの状況は覆せないさ。このまま混乱に乗じて皇帝の首を取る。そして、私がこのヴォリンレクス帝国の皇帝として君臨する」
「ルディオ様、残念ですがそれは叶わないでしょう。……仮に陛下を討てたとしても、突発的なクーデターで得た皇帝の座など他の臣下や属国、そして民は納得しません。皇帝の座に就くべきはその"血"を受け継ぐ者でなければ誰も納得しえません。次期の皇帝に相応しいのはあなたではなくディーオ様なのです」
「サロマ……うむ! よくぞ言った! そうだ、王族の血を持たぬお主がこの由緒正しい歴史あるヴォリンレクスの皇帝になどなれるわけがないのだーっ!」
たとえ
そう、それこそがこの国の強さであり誇り。ポッと出でよくわからん先祖の末裔などでは誰もついてこないさ。
「ふ……ふふふ、ハハハハハ!」
……だが、そんなサロマの言い分にルディオは大声で笑い返す。
なんだ……いったい何が可笑しいというんだ?
「そう、確かにキミの言う通りだ! 王族の血が途絶えるなど誰もが納得しえないことだろうね。……だからこそ、私は手に入れるのさ……サロマ、キミをね」
「それは、どういう……?」
ルディオの言葉に誰もが疑問を浮かべる。当たり前だ、王族の血を途絶えさせないこととサロマを手に入れることなど普通に考えればどこも繋がってないのだから。
しかし、私には一つだけ心当たりがあった……それは。
「さ、サロマがなんだというのだ!」
「まさかサロマのねーちゃんが皇子さんの付き人だからって、それが自分の付き人になれば次の皇帝に相応しいとかか?」
「ハハハ! そんな陳腐な理由なわけないだろう。これだから頭の足らない田舎者は困る。……いいだろう、教えてあげるよ。サロマ、おそらくキミは……現皇帝の隠し子だ!」
「なっ!?」
「うそ……!」
「バカな……」
「あ、あり得ませんわ……」
その衝撃の一言に誰もがその言葉を疑う。だが、ルディオのどこか確信めいた自信に、誰もがその可能性を感じてしまう。
これに関しては私も少なからず考えていたことだ。幼少の記憶のないサロマはなぜか皇帝に養われていた。その理由は誰も知らない……。
そして教養も十分であり、すべてをそつなくこなす器量も持ち合わせている。
「代々の皇帝の第一子は誰もが幼いながらも優秀な能力に秀でていた。なのにそこの皇子様は何もできない……なぜだと思う?」
「そ、それは……余の努力が足りないだけであって……」
「違うね、皇帝の血筋の優秀な部分はすべて第一子に受け継がれたからさ! だが、不幸なことにその第一子は女児だった。歴史上では毎回第一子の男児のみが生まれ皇帝となるべきなのに……だからこそ、その事実を隠蔽したさ!」
確たる証拠はどこにもないものの、ルディオの言い分にはどこか納得できるような気にさせられる説得力がある。
しかし、サロマが本当に皇帝の隠し子だとすれば……。
「おいおい、ってことはサロマのねーちゃんと皇子さんは……」
「血の繋がった姉弟……ってことになっちゃう」
そうなれば、ディーオは実の姉に恋心を抱いていたことなってしまう……。
「う、嘘だ……サロマが余の……」
「でたらめです。そのような事実はどこにもありませんし、証拠もありません」
「どうかな? だが可能性が高ければもしかしたら……と信じる者もいるだろう。そう、今のキミ達のようにね」
噂は広がり、やがて真実となる……そう言いたいんだろう。たとえそれが真実だと知らなくとも、誰かが真実だと言えば何も知らない人間ならばそれを信じてしまう可能性はなくはない。
「皇帝を討ち! 皇帝の血を継ぐ者を妻として迎え入れることで私は新たな王となる! そして、私による私のための私が統べる世界の始まりとなるだ!」
くそっ……奴は本気だ。ここまでくれば奴を言葉で制するのはもはや無意味。だが物理的に抑えようとも未だ増殖を続ける新魔族の壁に阻まれルディオに近づくことすらままならない。
サロマとアリステルは戦力外、ディーオも放心してしまっている。
リィナとカトレアは防戦に手一杯……カロフと犬は高速で周囲の敵を蹴散らしてはいるがそれでもジリ貧……それもいつまで体力が持つかわからない。
……だったら、別方向から仕掛けてみるか。
「おい新魔族よ! 先ほどからルディオは自分が世界を統一するとか言ってるがお前らはそれでいいのか? このままだと新魔族でさえ奴の思うがままってことになるが!」
たとえ新魔族だろうと話が通じないわけじゃないはずだ。新魔族としては自分達で世界を支配したいはず……だとすれば奴らの関係さえ波状させられればと思ったのだが……。
「へっへっへ……そんな事情はダンナの勝手でさぁ。今はあの皇帝とやらがとにかく邪魔でしてね。それを終えた後に敵対しようがこのまま手を組み続けるかは後に考えることでやんすよ」
どうやらこちらも話が通じないタイプだったようだな。……しかし、先のことを考えてないとはちょっと意外な新魔族だな。
「それもベルゼブルの指示だということか!」
そう、これまで何度も私の前に立ちはだかった新魔族……そのすべての裏にいる存在である七皇凶魔“暴食”のベルゼブル。
この作戦もそいつの発案だとしたら少々雑な点な気がするが……。
「あぁ? ベルゼブルぅ? ふざけないでほしいでやんす! なんでアッシらがあんなヤローの言うこと聞かなきゃならないでやんすか! アッシらの大将はただ一人……七皇凶魔が一角“傲慢”のルイファン様だけでやんす!」
なんだって、ベルゼブルじゃないのか!? ……いや、そうか、ヴォリンレクスと対立している新魔族というのは長きにわたって直接衝突してきた軍勢だったはず。
つまりここを攻め込もうとしている奴らと今まで出会った新魔族は別口ということだ。
(思わぬところでまだ私が知りえない“傲慢”の情報が出てきたわけだが……この状況を切り抜けないことには全部無意味になってしまう!)
しかし状況は依然好転する気配もなく、じわりじわりと追い詰められていく。
いつの間にか周囲にいた兵士達でさえも虫の息で、もはや周囲に残っているのは私達だけ……。
「ふふふ……では私はそろそろ行かせてもらうとしようか」
私達の苦戦する姿を確認してもうこの場にいる必要がないと判断したのか、ルディオは背を向けて歩き出す。
このまま皇帝を討ちに行くつもりなのだろう。だが、それを止めようにも今の私達では……。
「ハハハハハ! いくら皇帝ダンタリオンであろうとこの物量に押し込まれればひとたまりもあるまい! これで皇帝の座は私の……」
「我が……どうだというのだ」
「「「「「!!?」」」」」
それは突然現れた……。私達の遥か上方、この場を余すことなく見渡せるバルコニーからその圧倒的な威圧感とともに姿を表したのはまぎれもなく……。
「父上……」
ヴォリンレクス帝国現皇帝……ダンタリオン・ディルクライド・ノーブルがまるで足元に群がる蟻を見るように憂鬱そうな顔でこちらを見下ろしていた。
その手に……神器“ステュルヴァノフ”を携えて。
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