148話 スパイを捜せ!


 はいどーも、こちら夢の中から中継でお伝えしておりまーす。

 気づいたらふわふわした空間に意識だけが彷徨っていたんですよ。うん、もう大体パターンでわかるよね……これは私の前世の追体験する感じの方っすわ。

 うーむ、ここは誰でもいいから再会していろいろと聞き出したかったところだが自由の利かないこんな場所では贅沢も言ってられないわな。


 ま、それはそれでしょーがない。諦めて私の前世大冒険ショートムービーを鑑賞といきましょうや。

 ではどうぞ、今回はどの場面かな。


「皆……よくぞここまでついてきてくれた。お前達がいなければ私はすべてを諦め、ただ流れに身を任せるしかなかっただろう……」


 赤く染まった空に荒れる海……何者にも支配されない無垢な大地。そう、ここは『最果ての地』。

 そしてその場の中心に立っているのが前世の私、ジジイ一歩手前の超イケメンであり、-魔法神-と呼ばれし男……インフィニティ・ラグナクロックその人である! よっ、カッコイイー!

 そして、その周囲にはそんな私を今まで支えてくれたかけがえのない仲間達の姿があった。


「何を言うか我が親友よ。我らの方こそお前がいなければ明日を生きることを諦めていた者ばかり……だからこそ、最後まで共に歩むと決めたのだからな」


 前世の私の一番の相棒であり、何度も私を助けてくれた最高の親友。龍帝の末裔であり他種族と共に生きることを決めた龍族……ドラゴニクス・アウロラ・エンパイア。


「へっ、俺はただただお前との決着をつけたかっただけなんだが……こんな俺にも大切なモンが出来ちまったからな。そいつを守るために一緒に戦うんだぜ、インフィニティ」


 長年の間私に付きまとい、ただただ強さを追い求めた獣人の男……ガロウズ・シンバスター。しかしその人生を歩む内にこいつは肉体的な強さ以外の大切な何かを得ることができたんだ。


「二人ともなーにまじめになっちゃってるの? あたしはそんなかたっ苦しい理由抜きでイン君が好きだからついていきたいだけだよ。ま、今ではここにいる皆が大好きだから戦う、それだけだけどねー」


 母親の無念の思いから生まれた宿命の精霊であり、私にとって二人目の人生の相棒……ルファラ・ディーヴァ。彼女はどんな時であろうと私を見捨てようとはしなかった。


「某は魔法神殿に救われた我らが種の恩義を返すため、この身この血の一滴までもあなた様のため戦うのみです」


 この地に存在するすべてのエルフ族の長であり、かつてその王国が滅亡の危機に瀕していた国の王女……リル・エンシェンテレイア。同族内で起きた多くの誤解を乗り越え、新しい生き方を見つけた彼女のその瞳には、もう迷いはない。


「僕は……この先どんな結果になろうと後悔しません。もう絶望はしない、そう決めましたから」


 知らず知らずに代々闇の根源精霊の核をその身に宿し、負の感情のエネルギーの供給のために絶望の運命を決定づけられた男……アルフレド・ヴァリアント・アーリー。一時はすべてに裏切られ何もかも諦めたように絶望していたが、そんな彼をたった一つの愛が支えていた。


「おやおや皆さん、それぞれいろんな思いを持ち合わせているようですが……やはりその根底にあるものは"愛"ですね! アルフもリルもそんな上辺の言葉を並べちゃってぇ、実際はただただ愛する人のために頑張ってるんじゃありませんかー。その点ガロウズはなかなかにいい感じの"愛"の表現ですね。しかしもっと直接的な言葉で言わないと伝わらないことがあるのもまた"愛"というものです。だから私が何を言いたいのかと言いますと……」


 メリクリウス・アバター、変態である……以上!


 ……これが前世における私の最強メンバーだ。そして、その全員が私とドム爺が生み出した最高傑作である神器をその手に携えていた。

 そう、これから始まるのは最後の戦い……世界のリセットを賭けたこの世界における真の神との雌雄を決する戦いの幕開けである。


 静寂が訪れる……海は静まり、大地の緊張が解け、天はその存在を祝福するかのように照らし出す。

 -世界神-アレイストゥリムス……その姿は人のようであり龍のようであり、精霊のようであり魔物のようでもある。

 だがそのどれにも当てはまらない、言葉では形容できない奇形に見えるようで整った形。

 そして何よりも……神々しい。何を交わさずとも五感すべて……いやそれ以上の感覚すべてにおいてあの存在を"神"と認識できるほど圧倒的な存在。


「終わらせなどしない、私達の世界を。それを否定するのが……たとえその世界そのものだとしても!」






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「……めっちゃいいとこで夢終わったー!?」


 え、なにあの終わり方!? どう見ても「俺たちの戦いはこれからだ!」エンドじゃん! 打ち切られてんじゃん!

 やれやれ、あんないい場面で終わられちゃ読者様も気になって仕方ないだろうに……。


「ま、私が今こうして転生して未来のアステリムにいる時点で結果はお察しの通りですけどね」


 やっべー、ネタバレじゃんこれー。とまぁこの小説を最初から見てくださっている方には周知の事実なんですがね。


 うむうむ……しかしあの場面を客観的に見れることになるとは思ってなかったぜ。

 あの時点で私の性格はかなり今に近づいている方だったな。……が、今の私はそれに加えてさらに有り余る"若さ"がプラスされてるからな! 日本の知識も取り入れたナウなヤングということだ。


「ムゲン君起きてるー?」


 おっと、外からリィナの声が聞こえる。そういえば昨日はあのままディーオ(というかサロマ)に案内された部屋で休んだところだったな。

 時間的にどうやら朝食か。さてはて、夢の中ではとんでもない大活劇を繰り広げたわけですが、現代ではこれから一体どんな出来事が待っているやら。






「というわけで! 余達の手でそのスパイとやらを見つけ出すことにした!」


 朝食の最中、ディーオが突然立ち上がり宣言し出す。一体何事だろうか。


「なぁムゲン、つまりどういうことだ……」


「本当に申し訳ないが、私にもわからん」


 何が、「というわけで」なのかがわからないので私達は遠慮なく朝食を続けさせてもらうことにした。

 うーむ、味付けはやはり薄味という印象があるが流石は王宮、いい素材使ってる。


「お、ムゲン、食わねーならその唐揚げくれよ……ってレモンかかってねぇじゃねーか。ほれ、かけといてやる」


「やめろアホゥ」


 揚げ物は薄味の食事の中で唯一濃いめの味だから残してるだけじゃい。あと唐揚げに勝手にレモンかける奴を私は許さん。


「ぬわーっ! 聞くのだーーーっ!」


 無視され続けてついにディーオが喚きだされてしまった。


「もう、二人ともあまり殿下をいじめるのはやめなさいよ。可哀想でしょう」


 いやなんかこうなるのももうお約束な気がしてな。

 ……というかリィナも段々とこの空気感に馴れてきてないか。私達への注意もやんわりとしてきたし。


「へいへい聞きますよ……。んで、スパイを捜すとかなんとか言ってたがどういうこった?」


「むっふっふ……お主は記憶力がないのう。昨日パスカルが言っておったであろう、「新魔族に情報を流してるスパイがいるかもしれない」と! 今後も情報が洩れることなどあればいくら父上であろうと苦戦するやもしれぬ。そこで、余らがその不届き者を成敗してくれようということではないか」


 うん、そんなことあったな……だが。


「いやそんくらい俺だって覚えてるっつーの。……けどよ、あくまで「かもしれない」だろ? スパイなんてそんな眉唾な存在、そもそもいねーかもしれねーじゃねーか」


 確かにな、隠密に長けたNINJAのような奴が時々誰にも見つからずに忍び込んでいるという可能性も考えられなくはない。

 “特異点”を含め新魔族には未知の技術がまだ隠されている可能性だって考えられなくはないのだ。


「そうですね……なにか、スパイの容疑者を絞れる情報でもあれば調べてみる価値もあるかもしれないですけど」


「それは、ございます」


 と、リィナが小さくつぶやいたような提案だったが、どうやらサロマにはその件について思い当たる節があるらしい。


「対新魔族の軍事情報はトップシークレットです。敵側にそれが知られるとなれば、軍事にかなり深く関わっている人物となります。まず私兵を持つ方々は除外され、帝都外の者も同様でしょう」


「おお、そうなのか!」


「いや、皇子さんがそれをわかってなくてどうすんだよ……」


 まったくだ、というかサロマが優秀すぎないか。ディーオの専属メイドだというが、軍事や人物の関係性なんかにも精通しているようだし。

 そういやディーオの専属になったのは皇帝直々って藩士だったか……気になるところだが、今は置いとくとしよう。


「帝都にいる軍事関係者っつーと……昨日の奴らはどうなんだよ。あとはそいつらと近い立場の奴とか」


「ルディオとパスカルのことかの? あ奴らがそんな不届きなことを考えるかのう?」


 うーむ、私としてはあのいけ好かないルディオに一票入れたいところだが、どうだろうか。

 あの男はダメダメなディーオに変わって次期皇帝を強く支持されているという噂もある。もしかしたら自分の国になるかもしれないというのに、そんなことをするだろうか?


「そうですね、ルディオ様とパスカル様は共に軍事最高責任者です。他にも責任者と呼ばれる方はこの帝国にはおりますが、従属国に駐在していることが多いです。現に今もお二人以外は従属国に出向かれております」


 つまり、もし情報が漏れるのならばその二人……またはその二人から軍事内容を伝えられるほどの人物の可能性ということか。


「むむむ……あまりグダグダ考えるのも面倒くさい。とりあえずまずはあの二人に絞ってみることにするかの……。よし、そうと決まればさっそく行動を開始するのだ!」


 この問題を解決することができたのなら、父である皇帝に自分を認めさせるいい機会だろう。と、このチャンスをを逃すまいと意気込んでガタンと勢いよく立ち上がるディーオだったが……。


「ディーオ様、その前にまずはお食事をキチンと済ませて、支度を整えてからにしましょう。あと、食事中に大声を発したり立ち上がったりはお行儀が悪いですよ」


「むぅ……サロマはいちいちうるさいのだ……」


 最後にほっこりとしたやり取りを、私達は微笑みながら見守りつつ食事を済ますのだった。






「でもよ、もしスパイだかを見つけたとしてもよ、それがスゲー新魔族かなんかの変装だった時とかの場合……俺達だけで対処できんのか?」


 朝食を済ませたのち、急遽決まったスパイ捜索大作戦のために集まった我らディーオ部隊だったが、カロフの何気ない一言に場の空気が変わる。

 確かに、新魔族はそれこそ人族と変わらないほどの変装ができる。実際私はこの目で何度も見てきているしな。

 その場合、敵がもし相当の実力者……それこそ“七皇凶魔”レベルの相手だったらマズイかもしれない。


「そうね……ヘタに刺激して暴れられでもしたらどれほどの被害になるかわからないものね」


 もしそんなことなれば、全員で対処したとしてもこの帝都全体が混乱に見舞われるのは間違いない。

 そんな時に新魔族に侵攻されでもしたら……。


「ウカツな行動はできないな……。となると、大人数で大々的に探し回るのは返って危険かもしれない」


 しかも私達はただでさえ昨日のアレで目立ってしまっているからな。帝都の貴族街では意外と噂が広まるのが早いようだ。


「でしたら手分けをして探る……というのはいかがでしょうか。二組に分かれ、ルディオ様とパスカル様を担当するということで」


「うむ、それは良いな! そうなるとどう分かれるのがよいかの……」


 今現在ここにいる人員は……私、カロフ、リィナ、ディーオ、サロマの五人か。奇数だからバランスよく分けるにしても偏りができるのは仕方ないな。

 で、肝心の配分についてだが……。


「もしもの時のために戦える人はどちらにも一人は必要だと思うんですけど……」


「俺とムゲンは言わずもがな、リィナもそこそこだ。……皇子さんとサロマのねーちゃんは……」


「わたくしに戦闘能力はございません。わたくしが会得しているのはすべて身の回りのサポートだけでございます」


 となるとサロマは非戦闘員枠と考えるとして。

 問題は……。


「「……」」


「な、なんなのだお主らその目はーっ!? 何か言いたいことがあるのだろう!? 言え! 言ってみるがよい! 言いやがるのだーっ!」


「いや、昨日の皇帝サマは誰からも絶賛されるほどの実力者だってのに、その息子である皇子さんからはそんな気配が微塵も感じられねぇっつーか……」


「ぬおおおおおん! 直球で言うでないーっ!」


 まぁ大方予想通りではあった。しかし皇子ともなればそれなりの教養……剣術などの護衛術なんかは受けていると思うが。

 まさかずっとサボっていた……なんてことはないとは思うんだよな。ディーオはいろいろとダメダメなところはあるが向上心は持っているようだし。


「申し訳ありません。ディーオ様は……その、戦闘技術や魔術に関する講師に何度も指導は受けているものの……すべて並以下という結果でして」


「やめろーっ! 言うなーっ!」


 哀れな……。しかし戦闘技術だけでなく魔術に関しても指導は受けたことがあるのか。

 ……となると、少々気にかかることがあるな。


「ディーオは魔術に関してはどれほど扱えるんだ?」


「それが……一通り享受されはしたのですが、こればかりはほとんどが身になることはなく……。たまに成功してもごくわずかな大きさの炎を出す程度、しかも次の日にはそれもできず……」


「あーっ! あーっ! もうやめるのだーっ! お主ら余をいじめてそんなに楽しいのかーっ! そうなのだ、サロマの言う通りなのだ! 余はものすごく弱いのだぞ! 何をやっても中途半端以下なのだーっ!」


 もはやヤケになってオロローンとわめきだすディーオ。……しかし、そうなるとますます謎が深まる。

 まともに魔術を行使したことがないというのに……このディーオの内に眠る、私でさえは一体どういうことだ……。


「ここは魔導師という立場から言わせてもらうが……ディーオの魔力ははたから見ても桁違いだぞ。どういうことだ」


「オロロー……ほへ?」


「んあ、やっぱそうなのか? 皇子さんがバカだから魔力もバカになってんのかと思ったけどちげーのか」


 何を言われたのか分からず惚けるディーオと相変わらず失礼なカロフ。

 まぁカロフの言いたいこともわからんでもない。確かに生まれながらにして強大な魔力を持つ者がいないわけでもない。……だが、ハッキリ言ってこれは異常だ。

 私のようにケルケイオンのサポートを使ったわけでも、長年の魔力鍛錬をしたわけでもないというのに、そこら辺の魔導師はいざ知らず、この私さえも軽く上回る魔力量を保持しているのだから。


(いや、もしかしたら前世の私よりも……)


 考え過ぎかもしれないが、スパイ問題や神器の存在よりも気になってしまっていることは確かだった。

 しかも、ディーオの父親である皇帝は並みの魔導師以上の魔力しか感じられなかったのに……だ。


「も、もしや余には隠された潜在能力があるのでは……」


「どうだろうな? 一応訓練はしたというのにわからずじまいだというならこれ以上はなんとも……」


「おっ、そうだ! アレだよアレ!」


 と、妙なところで鋭いカロフがまたもや何か思いついたようだ。けどアレじゃわからんぞ。


「ほれ、ムゲンが前に俺にやったヤツ。あれを皇子さんにもやりゃあいいんじゃねぇか。あの頭にブスーッとやるやつだよ!」


「ああ、コレか!」


 バハーンと取り出したるはもはやおなじみケルケイオン。

 そうだった、これを使えばディーオの魔力量の謎や魔術を扱うために必要な情報の詳細がわかるかもしれない。

 実際にやられたことのあるカロフだからこそピーンときたアイディアだ。うむ、経験が生きたな。


「よーし、じゃあディーオ、後ろ向いてー」


「む、むむ? 何をする気なのだ……?」


「ほいほい、いいからいいから。皇子さんはちょいとかがんでそのまま頭を下げてー。大丈夫大丈夫、ちょいとちくっとするだけだからよ」


「どうしてカロフもムゲン君もそんなに楽しそうなの……」


 いやね、なんかそういうノリだったから。それにカロフも以前自分にやられたことを他人がされるのをワクワクしながら手伝っている。性格悪いぞ。


「ちょ、ちょっと待つのだ……。なんだか急に怖くなって……」


「はいブスっとなー!」


「ぬわーっ!?」


 突然の感覚に飛び上がるディーオだったが、ケルケイオンは刺さったままだ。


(うし、これでディーオの魔力の詳細が……ってちょっと待て)


 何かおかしい、ケルケイオンは未だ変わらず計測中なのだが、その計測値が異常な数値を示している。

 いや、それだけじゃない……測定値が限界を超えて!


カラン……


 そして、力なくケルケイオンがディーオの頭から強制的に外される。そんなあり得ない現象が、今目の前で起こったのだった。


「お、終わった……のかの?」


「お、おいムゲン……どうだってんだ」


 こんな時、一体どういう顔をすればいいんだろうな。ケルケイオンで計測できない事象など今までなかったはず……。


(いや……違う、一度だけ……そう、一度だけあった)


 だがしかし、それは前世の話。それもこの世界においてそれ以上の存在などあり得るはずもないことだというのに。


 そう、今までこのケルケイオンの力をもってしても計測できなかったのは、この世界そのものである-世界神-アレイストゥリムスだけだというのに……。


「?」


(ディーオ……お前は一体何者なんだ……)


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