147話 王の凱旋


「おお! 陛下が戻られたぞー!」

「今回も新魔族相手に防衛を成功されたそうだ」

「皇帝陛下バンザーイ! ヴォリンレクス帝国バンザーイ!」


 訓練場に様々な歓声が広がる中、多くの兵や騎士を引き連れて最前を歩む一人の男。その男こそがこの国の皇帝であり頂点に立つ絶対的な存在、ダンタリオン・ディルクライド・ノーブルその人だった。

 190以上はあるだろうという高身長に丸太のように太く、そして引き締まった腕と脚。もはやその巨体が歩く姿だけで地響きが起きるのではないかと思えるほどだ。


 そして、私がその姿を見てまずはじめにハッキリと感じたのは……圧倒的な威圧感。だがそれは“幻影神”や“炎神”などから感じられるどうしようもない畏怖ではなく、同じ"人間"という領域から発せられるプレッシャーだった。


(だがこれは……同時にどこか感じたことのあるような……)


 もちろん私はこのヴォリンレクスの皇帝に会ったことなど一度もない。だがしかし、なにか感じる。

 そうだ、この感覚は……。


「おかえりなさいませ陛下。この度の闘争におかれましては変わらずの常勝で国民も歓喜に打ち震えております。これにより我が国の名声はさらに各国へ知れ渡り、益々の発展を遂げることとなるでしょう」


 こちらへ向かって来る皇帝に誰よりもいち早くサロマが駆け寄り、膝をついてねぎらいの言葉をかける。

 しかし、当の本人はそれを一瞥しただけで特に興味も持たない様子で周囲をゆっくりと見渡していた。


「ふん、ルディオがここで面白いものが見られると言うから来てみたが……とんだ無駄足だったようだな」


 面白いもの……というのは私達のことだろうな、たぶん。

 しかしこの男、威圧感とは別に……なんだろうか、この他人に対してまったくの無関心さというか、まるでなにもかも見下すかのような冷たい眼差しは。

 しかもそれは、他人である私達にだけ向けられるものでもなく、今も歓声を送る者やルディオなども例外ではなく、さらには……。


「ち、父上……この度も無事の帰還でなによりなのだ。やはり父上の統べるこのヴォリンレクス帝国は最強。だ、だから余も早く父上の力になれるようこうして様々な方法を考えて……」


「我は城内に戻る。後のことはそれぞれの規定に従い行動しろ」


 ちょっとズレてはいるが父親のため、国のためにと必死なディーオに一言もなく……それどころか一瞥もせずにこの場を跡にしようとする。

 皇帝という立場とはいえ、血の繋がったたった一人の息子だというのに。


「父上……」


 弱々しいディーオの声。少し前まであれほど明るく自信満々だったというのに。

 そんなディーオを気にも留めずにこの場から去っていく皇帝ダンタリオン。そこには親子の溝というものが、ハッキリ感じられるようだった。


「お、おいおい、いくら皇帝だからってそりゃねぇだろ。なんなんだあの王サマはよ」


 今までその威圧感から押し黙っていたカロフだったが、ダンタリオンがディーオに何の関心もなく去っていくことに憤りを感じ、体の緊張が解けたようだ。

 確かにカロフの言う通り私もダンタリオンのあの態度は少々気に障るが……。


「よいのだカロフよ。これは余がまだ父上に認められるような領域にいないというだけ……。仕方ないことなのだ」


「皇子さん……でもよ」


 何に対しても感情的なカロフにとってはなかなかに無視できない事柄なんだろう。


「カロフが気になるのはわかるよ。でもこれはこの国の問題であり親子の問題……簡単に踏み入るのは良くないと思うの」


 そんなどうにも憤りを抑えられないカロフの肩にリィナの手が置かれ、少しずつその興奮が抑えられていく。


「わあったよ……。しかしとんでもねぇ威圧感だったぜ。まさかプレッシャーだけで一歩も動けなくなるなんて思わなかった……間違いなく今まで出会った中で一番の強豪だぜありゃ」


「当然だよ亜人の騎士くん。我らが皇帝陛下はその強靭な肉体だけでも一騎当千。王でありながらこの帝国最強の武人でもあるのだからね。いやはや、あのお方の後釜となると相当な重圧で比較されてしまう、参ったものだね」


 と、横から割って入ってきたルディオがなぜか自慢げに語りかけてくる。しかもさりげなく自分がその皇帝の後釜になるような風に喋っているし。

 しかし王の強さ……か。私も気になるところではある。

 どうもダンタリオンには人間的な威圧感だけでは言い切れない"何か"が感じられる。その正体は一体……。


「何か……普通の人間とは違う魔力の流れを感じるのだが。それがあの皇帝自体から発せられるものなのか。はたまた別の何かなのか……」


「お、そいつは俺も感じてたぜ。なんだろうなありゃ……でもよ、俺はいつか『龍の山』で似たような魔力の波長? みたいなのを感じた気がするような……」


 おや、カロフも私と同じような違和感を感じているのか。しかも龍の山が関係している? 一体どういうことだ。


「ほう、キミ達はなかなかに肥えた洞察力を持っているようだね。なら教えてあげよう、皇帝陛下の強さの真の秘密……というほどのものでもないけれど。陛下の腰のあたりをよく見てごらん」


 なんだか癪に障る言い方だったが、とにかく今はその言葉通りに従ってみることにする。

 ダンタリオンはすでに訓練場を跡にしようとしていたので遠目にしか見えないが、ギリギリ何があるのかはわかりそうだ。


「腰っつっても特に変わったもんは……お、と思ったら何か腰に差してんのか?」


 本当だ、ハッキリとは見えないが背中の腰のあたりに何か武器のようなものを装備しているらしい。


「ありゃあ……鞭か? 珍しいな、鞭を使って戦うのか。しっかしあの体格で鞭っつーのは似合わねぇな」


 確かにあのナリで鞭というのはどうなんだろうか。

 ……だがなんだ、この感覚。何かが違う……あの鞭。あれをもっとハッキリ見ることができれば……。


「あれはね、ただの鞭じゃない。あれこそが我が帝国の至宝であり最強の武器。歴代の皇帝のみが使用することを許された皇帝の証とも言える代物さ。名を“ステュルヴァ……」


「“ステュルヴァノフ”だと!?」


 っと、しまった……つい大声を出してしまったせいで皆驚いて静まり返ってしまったな。

 しかし……なんということだ。まさかあれがこの国に存在しているとは。


「なんだ? ムゲンは知っておるのか? あれは王家の一族に伝わりし超強力な魔道具なのだ。余の祖先である初代皇帝が所持していたらしい……詳しい出所は謎だがの」


「まぁ……知っていると言えば知っているが」


「ふふ、実際にあれを使われた時の陛下のお力はすさまじい……。此度の戦において我々は不意を突かれる形となり不利な状況ではあったが……皇帝陛下が動かれた瞬間にあっさりと覆ったからね」


「ふ、不利な戦況をひっくり返したって……それも新魔族との戦闘でだなんて」


 リィナが驚くのも当然か。新魔族の力を知っている身で不利な状況での戦闘を強いられたらどれだけ辛いかを理解しているからな。

 だが、ステュルヴァノフさえあればそれも可能だろう……使い手にもよるが。


「しかしルディオ様、不利な状況と申されましたがそれは一体?」



「それは、こちらの戦力、陣形、配置がすべて相手に筒抜けだったのですよサロマ」



「パスカル様」


 おっと、ここでまたもや新しい人がご登場。やや大きめの上着を羽織っているがおみ足が露出しているちょっとセクシーなお姉さん。

 桃色の髪の毛をアップで纏め、鋭い眼差しに眼鏡をかけたいかにもできるキャリアウーマンって感じの風貌だ。


「おやパスカル、遅いご帰還だね」


「ルディオ、あなたの勝手な行動で陛下をこちらにお連れしている間にすべての軍備が回ってきたので余計な手間がかかっただけですよ」


 うお、キツイ言い方。だけどなんかゾクゾクする……別に私にそんな属性はないのだが。

 特定の趣向を持つ人達なら喜んであの冷たい眼差しに見下されながら踏まれたがるかもしれん。


「また新しいねーちゃんが出てきたな。誰だ?」


「なに、あなた? いきなり失礼な獣ね」


「けもっ……」


 はいはいどーどー、抑えて抑えて。そういう風に直情的だと獣と言われても仕方ないぞ。


「こちらは軍事の最高責任者の一人であるパスカル・パーフィディア様です。主に後方で配置や指揮を担当されておられる、いわゆる軍師。前衛で指揮を執るルディオ様とは双璧を成す存在ともいわれております」


「説明ご苦労さま。でも、このような色魔と同列と思われているのは心外ね」


「おやおや、何度か食事に誘っているだけだというのに……随分と嫌われたものだね」


 双璧とは言われていてもどうやら仲はそれほどよろしくないのかね。どちらを支持するかと言われたら私は当然お姉さんの方を応援いたします!


「ふん、もともと平民風情の者が軍事最高責任者という立場にいるだけでもおこがましいですのに……。それがルディオ様と同列の扱いだなんてわたくしの方こそ認めませんわ」


 むむ、ここでルディオ支持派がしゃしゃり出てきおったな。内輪揉め勃発か?


「たとえ平民出身であろうとわたしは実力で今の地位を勝ち取っただけのことですよアリステル様。文句があるなら配置を決めた上層部の方々に掛け合ってください、陛下を含めた……ね」


「……うぐ」


 あらー、何も言えなくなっちゃった。流石に軍師ともあって言いくるめるのも上手いというところ。

 実力さえあれば平民であってものし上がれる社会か。まぁ嫌いではない……度が過ぎてなければ。


「さて、話は戻りますが……今回の戦、もしかしたらどこからか情報が漏れていた可能性があります。もし陛下のお力がなければ……最悪全滅していたかもしれないですね」


「それって情報漏洩……でもこの国の軍事は」


 そうだ、先ほどサロマから聞いた話では軍事情報のすべては国の上部がしっかり管理しており、よほどのことがない限り漏れることはまずありえないということだったハズだが……。


「我々の帝国の防衛は万全。たとえ新魔族とて入り込む余地はありえない。誰かが手引きでもしない限りはね……」


 つまり……スパイ。それも国の防衛網の抜け穴を知るような地位にいる者でなければ難しいだろう。


「むむむ、余の帝国を裏切る不届き者がおるというのかーっ! それは絶対に許せぬ! それならばこの余がその裏切り者を白日の下に晒し、父上の前に突き出して正当な裁きを与えさせてやるのだーっ!」


「そんなものアホ皇子のディーオに見つけられるハズがありませんわ。せいぜいあがいてみることね。最終的にはルディオ様がすべて解決なさられるに決まってますもの」


「なにおーっ!?」


 お、どうやらディーオが復活したようだ。まぁ本当に内通者のような輩がいるのだとしたら、それを見つけ出すのは父親へのいいアピールになるだろうしな。


「ともかく、この件に関しては他言無用。皇子殿下と参謀の手前なので語っただけということをご理解いただけるように。ではわたしは仕事が残っていますのでこれにて。ルディオ参謀もすぐ仕事に戻るように」


「おやおや、そんなにカリカリしていたらせっかくの美しい顔が台無しだよ。と、聞いてないね……それじゃあ私も仕事に戻らせてもらうよ。それとキミ達……今回の一件はアリステルが起こしたこととはいえ私にも影響はある。この借りはいずれ返させてもらうことになると思うよ……フフフ」


「ああ、ルディオ様待ってくださいー!」


 パスカル、ルディオ、アリステルと続けてこの場から去っていく。ちなみに倒れていた敗者の方々はいつの間にかどこかに運ばれていた。

 さてはて、これからあの人物達とはどんな風に関わってしまうかね……。


 ……と、そんなこんなで今ここに残っているのは私達ディーオ兵団だけとなったわけだが。


「それではわたくし達も城内へと参りましょう。皆様には部屋を用意してありますので今夜はゆっくりとお休みくださいませ」


「くあー……やっとかよ。この国に来てから一気にいろんなことが起こりすぎてもうクッタクタだぜおい」


 確かに今日はいろいろありすぎたな。

 都市に着いてからというものの、カロフ達とレオンの再会から始まってディーオの登場。そこから連れまわされるような形で街を回って貴族街。果てには決闘やったと思ったら皇帝の凱旋だったりと本当に濃い一日だった……。


「しっかし腹減ったぜ。城ん中じゃ美味いもんとか出てくんのか?」


「食事もいいけど私はお風呂に入りたいかな……ここ数日は入る機会がなかったから」


「食事も湯浴みも最上のものをご提供させていただきますのでご安心ください」


「ふははははーっ! 余の専用の施設スペースがあるのだ! 今夜はそれを使わせてやろうというのだから感謝するがよい! なに、気にすることはないぞ、今日は余のためによくやってくれたお主らへの労いなのだ!」


「ったく、別に皇子さんのためじゃねぇって……」


 と、楽しくワイワイ皆で訓練場をあとにしようと歩き出す。

 とにかくこれ以上語ることもないだろうし、私もこのままついていって……。


「ワウン(で、そろそろ話してもいいんじゃないっすか)」


「……なんのことだ、犬」


「ワウワウ(とぼけないでほしいっす。あの王サマの持っていた武器のことっすよ。何か知ってるんすよね)」


 相変わらず犬のくせに抜け目ない……。確かに私の反応も過剰だったとはいえ、あれだけで私の前世に繋がりがあると察するんだからな。


「ワウ(もったいぶらずに言ったほうがいいっすよ。読者様もそういう情報をじらされるのは嫌なはずっす)」


 おおメタいメタい。

 よーしならば仕方ない。ここはいっちょ私達だけの秘密の『ムゲン君の前世の知識お披露目コーナー』を開くとしようか。


「“ステュルヴァノフ”……あれこそは前世で私とドム爺が作り上げた最高傑作である“七つの神器”の内の一つだ」


「ワ……ワウ(神器……もう名前からしてヤバそうな雰囲気がしてくるっすね)」


 "ヤバそう"ではなく、実際にヤバいのだ。ささっとステュルヴァノフの説明に入ってもいいのだが、ここはまず“七つの神器”についての説明を挟んだ方がわかりやすいだろう。


「“七つの神器”というのはそれぞれが国……いや大陸を滅ぼせるほど強大な力を持つまさしく究極の兵器だ」


「ワウウ(そ、そんなものが存在してて本当に大丈夫なんすかね)」


「安心しろ、正当な使い手でなければそこまでの力は出せない。それでもヤバいことに変わりはないが……」


 それに、全部が全部破壊兵器というわけでもない。神器にはそれぞれ特性があり、どう使用するかというのが最大のポイントになってくるからだ。


「ちなみに……ハイこれ! 実はこれも神器の一つでーす」


 そう言って取り出したるは……もうお分かりだろう。そう、いつものあれである。


「ワフゥ……ワウ?(おなじみケルケイオンっすね。……ということは、他の神器も同じ素材でできてるんすか?)」


「まぁ当然の考えだが……はずれだ。ケルケイオンだけは他の六つの神器とは役割が違くてな。神器を作るための神器と言ってもいい」


「ワフ(じゃあ他の神器の素材は一体なんなんすか?)」


「“世界神”の体の一部」


「ワブゥ!?(え、あ、い、お、おえ!?)」


 この世界の真の神……その存在の一部を加工して作られたのがケルケイオン以外の六つの神器である。

 実は、神器が作られた理由こそがここにある。当時私達は次元の違う存在である世界神に対してまったくの無力だった。

 しかし、“反魔力物質アンチマジックマテリアル”を手に入れてからはそれは変わった。わずかながら世界神に反発する力を得られたのだから。

 だがケルケイオンだけでは圧倒的に力不足。ならば世界神の力を削ると同時に対抗できる力を増やそうと“反魔力物質アンチマジックマテリアル”の性質を利用して神の力の奪取に成功したのだ。


「そしてそれを強力な魔力鉱物と融合して作り出された神器の一つが先ほどのステュルヴァノフというわけだ」


「ワウーン(ほえー、そんなものがあったんすねぇ)」


「ちなみにドラゴスとファラの二人もまだ神器を所持しているはずだぞ」


 私がこの世界に戻ってきてから出会った二人の前世からの仲間。あいつらは私が認める最強の一角、それは神器の所持者であるという理由も関係している。

 以前ファラに大陸中に増殖する魔物の噴出を止めるように頼んだことがあるのを思い出してもらいたい。いくら魔力の扱いに長けた者だとはいっても普通に考えて大陸中の魔物を抑えることなどできると思うだろうか?

 だが、神器の力があれば話は別だ……無数の魔物を抑えることも世界樹全体を防衛することも世界中の空を雷で覆うことも可能になる。


「ワウ。ワウウ(流石神様の一部ってとこっすね。それじゃああの鞭の攻撃方法もご主人は知ってるんすね)」


「当然。あれの特性は……『認識できる範囲への無制限の攻撃』と『込める魔力依存による上限のない威力から放たれる防御無視の打撃』だ」


 え、つまりどういうことだってばよ? だって?

 仕方ないなぁのび〇くんは……じゃあもう少しわかりやすく説明しよう。


 ステュルヴァノフは外見だけなら少々意匠を凝らしたデザイン以外はいたって普通の鞭と何ら変わりはない。

 しかし一度振るえばあら不思議、使い手が感知した"すべて"の場所に鞭の先端が現れ攻撃する仕組みとなっている。

 この"すべて"がどういう意味か、察しのいい人ならもうお気づきだろう。そう、増えるんです、使い手の魔力のある限りほぼ無尽蔵に。しかもその増えた先端だけ空間をどこまでも飛び越えて目の前に現れる、ほぼ逃げることはできない。

 そしてその飛んでいく範囲は使い手の認識内ならどこへでも参りまーす。それは五感で認識できる範囲はもちろん、魔力を感知できるのならたとえ世界の裏側にいようと感知しているのら飛んでいく。


「ワウー……(こえーっすねそれ……。ガッチガチに鎧でも着こんでないと夜も眠れねーっすよ……)」


「はいダウトー。この世界最強の武器の一つがそんな簡単に対処できるわけありませーん」


 この神器の恐ろしさがまさにそこにある。使い手が目で認識してステュルヴァノフを振るっているのならばそれでそこそこ対処はできるのだが……。魔力で相手を認識している場合は無意味となる。

 ステュルヴァノフを振るえば相手の目の前に先端が現れそのまま相手をぶっ叩くのだが……その際に術者が込めた分の魔力が威力に上乗せされ、さらに衝撃波が発生する。

 しかも、相手の魔力の元……つまり本体にぶち当たるまでどれだけ壁にぶつかろうと衝撃波はその裏側からさらに発生し、確実に相手を射止める。


「対集団戦でこれ以上うってつけの武器は他にない。なにせどんなに混戦状態であれ確実に敵軍のみを打つことができるのだからな。戦況をひっくり返したというのも頷ける話だ」


 まぁ、それもあの皇帝サマがどれだけ使いこなせていたかという話に変わってくるのだが……それを知るすべは今の私にはない。


「ワウワウ?(じゃあ……あれをこのまま放っとくわけにもいかないっすか?)」


「いや……危険なシロモノとはいっても『永遠に終えぬ終焉トゥルーバッドエンド』のように理から外れたものじゃないからな。どういう経緯であれステュルヴァノフにおかげによって帝国が繁栄したのならそれもまた一つの定めだっただけのことだ」


 だから無理に手を出す必要はない。……だが、気にかかることは一つだけ存在する。


(ディーオの祖先は一体どこから手に入れたんだか……。確かにあれの所持者には問題があったが……)


 ドラゴスやファラのように、神器にはそれぞれ使い手が存在した。そしてステュルヴァノフの使い手は……あのメリクリウスだ。

 なんであんな奴に神器を使わせてたのかって言われると一番適任だったからというしかない……。だって魔力量でいえば前世の私と同等以上、魔力の感知やコントロールに関しても私に次ぐ実力者……変態なことさえ除けばこれ以上の逸材はいない。


(……なんだかメリクリウスの笑い声が聞こえてきそうだぜ)


 もう一度夢の中で再会して問いただしたいところではあるが、以前の奴の口ぶりからしてそれはもう不可能だろう。

 まったく、どこまでもはた迷惑な変態である。


「おーいムゲン、何やってんだーおいてくぞー」


 と、のんびりしていたらカロフ達から大分離れてしまっていた。


「すまんすまん、今行く」


 またまた前世のからみ事やらその他にもひと騒動起きそうな気配で、これまたすんなりと目的を果たすのは難しそうだが……まぁ面倒ごとは仕方ないか。


 だって私は主人公なんだからな!


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