146話 勝負の行方
カロフとカトレアの決着から時は少々遡り……。
場所は王宮内の兵士訓練所、そこで私はなるべく広いスペースが空くのを待っていた……あのお嬢様の専属イケメン魔導師どもと一緒に。
どうやら離れた場所でカロフ達の戦いは始まった気配は感じられたが、果たして大丈夫だろうか?
「おや、お仲間がご心配ですか?」
などと考えていたら、イケメン三人衆の中の一人であるインテリメガネに話しかけられた。
だがこれは試合前にちょっとしたお喋りしましょう、って雰囲気でもないな。
「相当自信がおありのようでしたが……お相手があのカトレア嬢ですからね。お気の毒というしかありません」
「なんだぁ、テメェ……。うちの
「ワフゥ……(ご主人、けんか腰すぎてまるで典型的な悪役っすよ……)」
絶対に負けられない戦いがそこにあるからな。
それにあちらさんだって挑発的な物言いしてきてんだからこっちが引くわけにもいかんだろう。気持ちで負けたらおしめぇよ。
「ギンさん、そういう不当異に相手を挑発する態度はあまりよくないと思いますよ。たとえこれから戦う相手だとしても」
と、火花散る私達の間に今度はショタ魔導師くんが割って入ってきた。
どうやらインテリメガネの不躾な態度を諌めようとしてるみたいだが。
「おやおや、私は本当のことを話したまでですよドウ。彼に対して挑発はどした覚えはありません」
「その態度が挑発になってるんです。まったく、いつもフォローする僕の身にもなってくださいよ……」
いやまぁ別にフォローとかしてもらう必要ないけどな。どう取り繕ってもお前らに対する私の態度は変わらんのだし。
ていうかこの会話いる? 多分これ以降出番ないぞこいつら。
しかしなんで私の相手はこう男ばっかなんだよ。美少女をだせよ美少女。
こんなイケメン三人組じゃなくて美少女魔導師三人組とかだったら私も
「まぁまぁ、ギンもドウもそのくらいにしないか」
「キンさん、でも……」
そんなこんなで三人目も会話に参戦。しかしキンにギンにドウね……豪華な名前だ。
そういや次のオリンピックの開催場所ってどこだったかなー。
「確かにギンの態度には少々問題があるが……それは彼が今も放つ独特の魔力を警戒しているからだろう?」
おや、気づいてましたかい。まぁ別に隠してるほどのものでもないしな。
「え、魔力って……ほ、本当だ! あの人、一体何を……」
「正確には彼の手元かな。ずっと魔力を何かに放出してるみたいだが……得体が知れない。それをドウにも気づかせるためにギンはあえて挑発するように話しかけたんだろう」
「別に、そんなつもりはありませんでしたけどね。未熟なドウに手助けする必要なんてないですから」
「ギンさん……」
……ツンデレインテリメガネに頬を染めるショタ、そしてその間を取り持つ頼れるお兄さん。アカン、これはお腐れ様方によって夏と冬に薄い本が厚くなってしまわれる。
どうか私だけは巻き込まないで頂きたい……。
「そういうことでギルドの魔導師くん。君にも秘策があるようだが、小細工で我々のチームワークはそう簡単には打ち砕けないよ」
「はぁ、そうっすか」
というか別に秘策でもなんでもなく、ただ単にアルマデスの術式カートリッジに魔力を注入してるだけなんだが。
それよりも私としてはカロフの戦いが気にな……むむ、この魔力の感じは……。
(もしやカロフが獣深化したのか?)
なんと、体内魔力の制御だけでなく獣深化まで完全にコントロールできるようになったのか。
だがそれはあの女騎士に対してそこまで追い詰められたということでもある……。気になる、ちょっと見に行くくらいなら……。
「お、どうやら空いたようだ。それじゃあ我々も試合を始めるとしようか」
ぬぬぬ、気になるところで間の悪い……。
「キミ、審判を頼む」
近くの一般兵に審議を頼み私達も戦いの準備に入る。お互いに位置について後は合図を待つばかり。
相手側の陣形は……やはり固まってきたか。一人が防壁を張り他の二人が攻撃……相手が盾役の死角になったら役割を交代する。
まさに魔導師同士の戦いならではの戦術といっていい、基本的には撃ち合いになるだろうからな。
ま、ここまで分析できたら後はこちらの策と照らし合わせて不備がないか確認して……よし、問題ないな。
「それでは……試合開始ィ!」
無駄に気合の入った審判の開戦宣言と同時に、私もあちらも練り上げた魔力を開放する。
「いきます! 魔力開放、『
「はいそんなの関係ありません! 術式展開『
ブボボ モワッ
私は開始早々周囲を覆いつくすほどの煙幕の魔術を発動し、視界を奪う。決して私の屁ではありません!
「そしてすかさず第二術式展開、『
そのまま煙幕が充満している範囲に壁を設置することで煙の逃げ道を上にのみ限定。私は重力魔術で浮かんで私だけ煙幕の範囲から脱出する寸法よ。
「くっ、これではどこから攻撃が飛んでくるかわからない……。ギン、俺は闇雲だが攻撃してみる。お前はこの煙を吹き飛ばすんだ」
「はい、そのための魔力を今練り上げているところです」
どうやら私の居場所を探りながら広範囲の魔術で攻撃し出したな。もう一人は風属性の魔力が高まっている。
んじゃちゃちゃっとこちらも対処させてもらいますか。
「魔術が何かにぶつかる感覚はあるが……手応えがない」
「二人とも、準備が整いました。周囲を吹き飛ばします『
「術式01第三術式展開、『
ヒュウ……
「これは……」
計算外だろう。本来ならば風の魔術で吹き飛ばされるはずの煙幕がそれほど減っていないのは。
確かに風の魔術ならば通常煙幕は四方八方に霧散するだろう。しかしすでに四方の逃げ道は塞がれており、残るは上方向のみとなっている。
そこで私は煙を下に押し戻すための蓋をした。え、それなら上方向も普通に壁で覆えばよかったんじゃないかって?
いやいや、それだとこちらから攻撃できないじゃあないか。
「……てなわけでぇ! ケルケイオン、アルマデス……合体! 完成、ケルケイオン・アルマ! さぁ、天から降り注ぐ一撃を食らうが……」
「ギン、ドウ、上だ! 上に一斉に魔術を放つんだ!」
「「「『
「って、うおい!? [wall]!」
あ、あぶねぇ! あの野郎ども私が上にいることに感づいて攻撃してきやがった。とっさに[wall]できてよかったぜ。
しかしこちらの攻撃口上中に攻撃してくるとはなんて奴らだ。
「くっ……やったか!?」
あちらはまだ煙幕が完全に消えていないので私に攻撃が当たったかどうかもわかっていない。
しかし残念だったな! そのセリフを言ってしまった時点で貴様らの敗北は確定した!
「フゥーハハハ! これで終わりだイケメンどもめが! 術式カートリッジ三連結! 《雷》《雷》《雷》! ケルケイオン、サポート&ブースト! 全開術式ブラスターモードセットオン! 落ちろ、『
「な、なんだあの光……」
ズドオオオオオオオオン!!
私の全開術式弾により、今まで発動した魔術もすべて吹き飛ばしもはや大地には何も残っていない。
いや、三つだけ残っているな……威力調整の結果により無様に転がったイケメンどもがな!
「ハハハハハ! 勝ったッ! 第六章完!」
大☆勝☆利! いやー楽勝楽勝……え、その割には本気で叩き潰しにいってたじゃないかって? いやいや見せかけだけすよアッハッハッハ!
ほら見てくださいよ、全力魔術とは言ってもキチンと威力はセーブしてあるから三人とも気絶しただけ。まぁ雷の影響で髪の毛がとんでもないことになっているが。
「またこりゃ……派手にやったなおい」
お、カロフだ。この様子だとどうやらあちらも滞りなく勝利したようだな。
その背中には気絶しているあの女騎士が……お前が運んできたんかい。
「うむうむ、よくぞやってくれたぞ二人とも! これで余の部隊こそがこの帝国の新たる主力となることの証明がなされたわけだのう!」
「だから俺は仕事で来てるだけだっつーの……」
まぁどちらにせよこれで私達の力は示せたし、ディーオからの信頼も十分得られたというところかね。私としてはそれが第六大陸への足掛かりになってくれれば言うことなしなんだが。
「そんな……カトレアに続いて彼らまでもやられただなんて……。ありえませんわ」
おや、ちょっと遅れて嫌みなお嬢様もフラフラとした足取りでこちらにやってきた。
よっぽど自身があったんだろうからその反動だろうが……まぁ結果はこの通り私達の完全勝利に終わったわけだ。
「いやーしかしカロフは凄かったぞ。『じゅうおうりゅう』! だったかの? それがこう……ズドーンときて、ビュバババーっとなり、ドババババーっとカトレアを打ち倒したのだ!」
「皇子さんの説明の仕方だとなんか恥ずかしくなるからやめてくれ」
確かにまったく語彙力のない説明だっ……ん? なんか今聞き逃せない一言があった気がする。
そう『じゅうおうりゅう』……獣王……獣王りゅう……『獣王流』だって!?
「おいカロフ! お前が『獣王流』を使ったのか!?」
「お、おう……そうだが? それがどうした?」
なんちゅうこっちゃ……なぜ転生してまでその名を聞かねばならんのだ。いや、もしかしたら受け継いでいる子孫がいてもおかしくはないのが今の世の中だが……。
「なんでまたカロフが……」
「ワウン?(ご主人のその反応からして……また前世がらみっすか?)」
正解だ……しかしあれは私にとっていい思い出はない。前世で私を何度もボコボコにしたガロウズの流派だからな。
すべてにおいてガロウズの天才的な我流から編み出されたその流派は、様々な獣人の肉体的ポテンシャルを最高潮に引き出すことができる。
あいつはそれを後世に残そうと書物にそのすべてを書き残したのだが……とてつもなく"ジガキタナイ!"ため読み解くためにはまずその暗号のような字を解読しなければならない。
まぁミレイユがガロウズの動きをスケッチして挿絵として乗せていたからそこからなら多少読み解くことはできるんだが……。
「確かあれには“地の章”、“天の章”、“俺様の章”の三つが存在したはずだが……どれだ?」
「まぁ“地の章”だが……ってかなんだよ“俺様の章”って。『獣王流』には“地の章”と“天の章”しかないはずだぜ、親父のメモによると」
なんと、一番頭悪そうなネーミングでありながらも三つの中では一番頭のおかしい奥義が満載の“俺様の章”はどこかで失われてしまったのか?
まぁ結局ガロウズにしか使えないような奥義しかなかったから廃れるのも当然なのかもしれない。
しっかしカロフ達と出会った当時は私の前世とはなんの関わりもなかったというのに……。
「とにかく、どんな戦いだったか話し合うのは後でにしましょう。カロフもカトレアさんを背負ったままなのは辛いでしょ」
「ん? いやべつにそこまで重くもねぇし……」
「辛いでしょ……?」
「ああそうだな! んじゃあそこに横たわってる魔導師どもの隣に寝かせとくか!」
こえーよリィナ……。カロフも相変わらず尻に敷かれてんなー。
しかし最初はどうなるかと思ったがこれにて無事に問題終了といったところか。
「よっこいしょ……こいつはここに置いとくぜ。それと、勝負は俺達の勝ちだからこれでもう文句はないよな、お嬢様?」
カロフさんや、もう終わったことなんだからそれとなーく挑発するのは……。
「こ、今回はたまたま全員調子が悪かっただけですわ! こんなものはインチキ! 八百長! 出来レース! そうですわ、きっと勝負の前にあなた達が何か細工をしたに決まってますわ!」
「んな!? 言うに事を欠いてなんだその言いがかりは! 何もする暇がなかったのは一緒にいたてめーらが一番わかってることじゃねーかよ!」
勝負の結果に納得のいかないお嬢様にカロフも頭に来たようで、アリステルに掴みかかろうと足を踏み出す。
「ひっ……、ふ、ふん! なんて野蛮な亜人なのかしら。これなら卑怯な手を使うのも頷けるというものですわね」
「言わせておけば……!」
「待ってカロフ!」
怒りのあまり逆上しそうなカロフだったが、間一髪リィナがそれを抑えたことで事なきを得た。
今のは危なかったな。リィナが動かなければ私が止めていたところだ。
「正規の試合で暴れるのは構わないかもしれないけど、個人的な暴力沙汰は問題になっちゃう。しかも相手はこの国では位の高い人物なんだから、下手をすれば私達の国にまで問題が起こるかもしれないのよ」
「ぐっ……だけどよ」
リィナの言う通り、あくまで私達は部外者であり自由に動くことのできる立場でもない。問題行為はご法度だ。
しかし、未だ騎士として未熟なカロフには我慢ならないとは思うが。これも必要なことだと耐えてもらうしかない。
「ふん、今日の試合は無効よ。後日今度こそ万全な状態で戦うとしましょう」
このまま屁理屈気味に無効試合になってしまいそうだが……まぁ私としては構わんのだよなぁ別に。
だって初めから何か大事なものを賭けてるわけでもないし、このままずっと言い争いを続けるのも不毛だ。
ただこういう事態はカロフのようにプライドが許せない者にとってはたまったもんじゃない。穏便に済ませるには……。
「何が無効だ! どう考えても俺達の勝ち……!」
「ふむ、まあよいぞ別に。だが! 何度かかってこようと我々が勝利することに変わりはないのだがなーっ! ぬははははーっ!」
「お、おい、皇子さん!?」
意外なところからナイスフォローが飛んできたな。本人にとっては無意識なんだろうが、それが結果としてはとてもいい状況だ。
「皇子さんよ、いくら何でも俺達の勝利をなかったことにするってのは……」
「……ん? なぜなかったことになるのだ? 試合が無効になろうがなるまいが余らの勝利は誰もが目にしてたであろう。それに一度勝利した相手など何度かかってこようと敵ではないだろう!」
屁理屈をこねてこちらの言い分を聞かない相手にはどうすればいいか……それはこちらも相手の言い分を気にせず勝ち誇ればいい、事実なんだからな。
こっちがムキになればなるほど相手は勝った気になる。それだけのことだ。
そして、たとえ何度立ち向かわれようと叩き潰せばいい。相手の心が折れるまで。
「こ、今回は調子が悪かったと言っているでしょう! 変な勘違いはよしてくださるかしら!」
「調子が良かろうが悪かろうが余の最高戦力にお主が勝てるはずもないであろう。そんなことも分からぬとはアリステルは頭が悪いのう」
「な、なんですって! あなたのようなアホ皇子にそんなこと言われる筋合いはありませんわ!」
うーむ、ここだけ見るとただの子供の言い争いみたいでなんだか和む……。とはいっても二人ともこの国では一応有力者なのだからそろそろ落としどころを見つけて終わらせてほしいところなのだが。
「わたくしが……わたくしがディーオに負けることなどあってはならないの! わたくしが負けると言うことはつまり、わたくしの愛するルディオ様がディーオに劣るということになってしまうの! だから……」
「私がどうかしたかな……?」
(む……誰だこいつ、いつの間に)
どうやらディーオとアリステルの言い争いがエスカレートしてる内に何者かがこちらに近づいていたようだ。
「ル、ルディオ様……いつからそこに」
「なに、ついさっきだよ。そしたら訓練場の方で何か揉めているようだったからね」
ほほう、この男が最近巷で女子に大人気のルディオ様とやらか。
高身長にスラっとしていながらも引き締まった肉体がそのルックスの良さを引き立たせてやがる。サラリと長い黒髪が甘いマスクに恨めしいほど似合っているなぁおい。
ま、見た目に関しては予想道理の羨ま野郎ってとこだ。……そのほかには。
「ルディオ様、違うのです。これは……」
私達が負かし、倒れている姿を見られて焦るアリステル。よっぽどルディオには見られたくなかったようだな。
「ここに来るまでに事情は大体聞かせてもらったよ。だが安心したまえ、キミが敗北したからといって私のキミへの愛が無くなるわけではないさ」
「ル、ルディオ様ぁ……」
ペッ! はいはーい、そういうのいいですからー……。保護者が来たのならさっさと連れ帰って終わりにしてくれよ。
カロフもつまらなそうな顔をしているし、リィナもこの状況にはコメントしづらそうだ。
だが、なんとなくまだ一波乱起きそうな予感がするような……。
「ルディオ・グランセイド様、おかえりなさいませ。先の戦闘では大層なご活躍だったそうで……」
「やぁサロマ、キミは相変わらず美しいね。けれど私をねぎらうのはまだ早いかな。キミには誰よりも先に挨拶すべきお方がいるだろう」
「相変わらず面倒くさい奴だの……」
「おやディーオ殿下。この度はあなたの私兵部隊の勝利、おめでとうございます」
本当にめでたく祝ってくれてるのか微妙な物言いだ。しかしこういうしたたかな奴ほど実力社会で渡り歩くのが上手いんだ。
「しかしルディオ、お主が今ここにいるということは……」
「ええ、もちろん。あのお方も……そろそろいらっしゃる頃です……」
ルディオのその言葉を聞いた瞬間、訓練場の者達の空気が一瞬のうちに変わるのを感じた。私とカロフのようなよそ者以外、全員ピリピリしてるというか……何か恐怖のようなものを感じている、そんな雰囲気……。
そしてそれは次第に、よそ者である私達にもゆっくりと感じられるようだった。
「なんだよこの……威圧感のような」
じわりじわりと近づいてくるそのプレッシャー……。
そしてとうとう、訓練場の門の先からその威圧感と言うべき存在が……私達の目の前に姿を現す。
「皆こうべを垂れよ! 我らが偉大なる皇帝、ダンタリオン・ディルクライド・ノーブル陛下のお戻りであらせられる!」
ルディオのその一声と共に姿を現した一人の人間……その男こそこの帝国唯一無二の皇帝。
……すべてを支配するあまりにも強大な、"王"の威圧感を放つ存在の帰還だった。
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