145話 本気出します



 なにやらムゲンのヤロウが遠くで喚いていたみたいだが一体なんだってんだ?


「さて、ここら辺でいいだろう」


 と、俺もあんまり他を気にしてる余裕はねぇな。

 どうやら対決の場に着いたらしい。他の訓練してる連中からは離れた殺風景で平坦な場所。

 なるほど、下手な小細工や逃げ回って戦うには向かない場所だ。つまりこれは騎士同士のガチの戦い……へっ、上等だ。


「あら、まだはじめてなかったのね。カトレアのことだからもう終割らせてしまったのではないかと思いましたけど……キチンとわたくしに勝利の場面を見せてくれるようですわね」


 そう言いながら俺達に勝負を持ち掛けてきた嫌みなお嬢様がこちらにやってくる。

 くそっ、舐めやがって……だがそれはそれで俺のやる気に火が付くってもんだ。後悔させてやるぜ。


「ぬぐぐぐぐ……言いたい放題言いおって。カロフよ、絶対に負けるでないぞ!」


「へっ、わあってるよ!」


 俺は別に皇子さんの正式な部下じゃねぇから実際はそこまで本気になる必要もないんだろうが……個人的には感情でも皇子さんに協力したいってのはある。

 ま、もちろん俺が仕えるのは後にも先にも自分の国にだけだがな。


「あれ、でもあのお嬢様がこっちに来たってことは……ムゲン君はどうしたんだろ?」


「む? そうだの……おいアリステルよ、ムゲンの方はどうなったのだ?」


 そういやさっき叫び声が聞こえてから音沙汰がねぇ。あのお嬢さんがこっちに来たってのも気になるところだしよ。


「ああ、あちらは少々順番待ちですわ。なにせ三対一ですから……それなりに広い場所を確保できるまで待つことになったの」


「え!? 三対一って……」


「あら勘違いなさらないで? あちらが申したことですのよ……「全員まとめてかかってこい」なんて、無謀にも……ね」


 つまりさっきの叫び声はそれか。あのお嬢さんの薄ら笑いを見る限り、どうやら屁理屈と挑発でかなんかにハメられて不利な条件を掴まされたってこか……くっ、やることが汚ぇぜ!※違います


「そんな……殿下、どうにか人員の補充はできないんですか。まだ勝負が始まっていないのなら急げば間に合う可能性が……」


「ぬ、ぬう……そうだの。誰でもよいからどこからか魔導師を……」


「そうはいきませんわ!」


 なんとか手を打とうとリィナと皇子さんが行動を起こそうとしたところでお嬢さんに止められる。

 どうやらそう簡単にはいかねぇみてぇだな……。


「あなた方はすでに今いる人員で勝負を受けると宣言したのよ。こちらもそれに了承して選出した人員を用意し、そちらもそれを了承した……。今更それを変更などできませんわ! それとも……次期皇帝を名乗りながら一度決めたことを取り下げようというのかしら?」


「ぬ……ぐぐぐ」


「殿下、あちらの言い分はもっともですが……」


「いや……アリステルの言う通りなのだ、一度決めた事柄をそう簡単に変えるなど皇帝のすべきことではない!」


 結局は現状のままってことか。

 ま、しかしあそこまで言われりゃ言い返せねぇよな……こんなアホ皇子でも誇りってもんはある。男のプライドってやつだ。

 だったら俺のするべきことは……。


「リィナ、心配するんじゃねぇよ。あいつは……ムゲンは強ぇ。それは俺達が一番よく知ってんだろ。きっと俺達の不安なんてあいつは毛ほども感じてねぇさ」


「カロフ……うん、そうだね!」


 ムゲンを信じる、その一点を胸に刻み込むだけで俺もリィナも顔から不安を消し去ることができた。

 そうだ、あいつはどんな絶望的な状況でも全部涼しい顔で……いや、結構必死な顔してる時もあったが……とにかく、そんな不安なんか必ず吹っ飛ばしてくれる。

 だからあいつは負けねぇ。


「そして! もちろんこの俺も負けねぇ! だから安心して見てろ!」


「うん、頑張って! 応援してるから!」


 へっ、ちとカッコつけすぎたか。ま、最近はリィナに浮気だなんだの女関係でギクシャクしたこともあったからな。ここらでいっちょ惚れ直させるくらいが……。


「ぬおーっ! その心意気に惚れたぞーっ! 余のため、そしてこの帝国のためにお主が最強の戦士であることを示すのだーっ! それで余の支持率はうなぎ登りなのだーっ!」


「うっせぇよ! おめぇじゃねぇんだよ! それに何度も言うが俺にその気はないっての!」


 ったく一瞬で緊張感がなくなりやがったぜ……。けど、今はそれがありがてぇかもな。おかげで肩の力も抜けた。


「ふん、バカ騒ぎは終わったかしら……。そろそろ始めませんこと? こちらはとっくに準備万端なのよ、ねぇカトレア」


「はいお嬢様。自分はお嬢様のためにいつでも準備万端であります」


 なんか言い方おかしくねぇかそれ? まぁいい……こちとら肩の力も抜けた、魔力の制御も順調、負ける気はしねぇ。


「それでは戦闘の審議はわたくしが務めさせていただきます。ディーオ様、アリステル様、よろしいですか」


「うむ、問題ないぞ!」


「わたくしも構いませんわ」


 お? サロマのねーちゃんは俺ら、ってか皇子さん側の人間だからあっちのお嬢さんは渋ると思ったんだが……。

 つまりはそれだけ平等性に関しては信頼されてるってことか。っつーことは、こちら側に有利な審議をする俺の味方ってわけでもないんだな。

 ま、そんな不正なんてして勝つつもりなんて俺にはまったくないから別にどうでもいいこったけどな!


「それではこれより、第三大陸アレス王国騎士団副隊長カロフ・カエストス様対アリステル様私兵騎士長カトレア・ヴァリエール様の試合を開始いたします。では両者位置につきまして……試合、開始」




 戦いが始まってすぐに俺は体に巡らせていた魔力を爆発させる。


「『雷動ライドウ』!」


 狙うのはハナっから短期決戦だぜ! あの手に持つ剣と盾からはただならねぇ魔力の流れを感じるからな……なにかヤバい気がするぜ。

 だが、相手がこちらを舐め切っているというのなら、俺はそれを逆手に取らせてもらうだけのことだ。それを使われる前に一気に終わらせる!

 このまま懐に飛び込んで、全力を込めた一撃をぶち込めば……!


「甘い!」


「んな!?」


 懐に飛び込む瞬間、女騎士カトレアはまるでこちらの動きを読んでいたかのように素早く、最小限の動きでこちらの攻撃範囲から逃れていた。

 いや、しかもそれだけじゃない……いくら読まれていたとはいえ今の俺の速さは常人がそう簡単に対応できるものではない。

 つまりこれは、カトレアの動き自体もかなり素早いということになる。


「くっ、重そうな鎧や剣と盾を身に着けてる割にゃあよくそこまで動けるもんだな」


「この鎧は最新技術で編みこまれた強力繊維に軽く強固な鉱石を何層も重ね合わせて作られた最新型の鎧なので。あなたが思っているよりもずっと軽く、硬いはずですよ」


「ぬ!? それは城の技術班がドワーフ族の技術で最近作り上げた最新型ではないかーっ! それの正式な発表は父上が戻られてからのはずだぞ! なぜもう持っているのだーっ!?」


「ふふん、ちょっとお願いしただけですのよ」


「あーっ! もしやお主技術班の者に手を回しおったな! ズルだぞズル!」


 うるせぇな、そういう内情の言い争いは後でやってくれや……。しかしドワーフの技術の鎧か……どれだけ軽いかは知らねぇが、それでもあの速さは解せねぇ。


「どうやら貴様はまだ自分の速さについて疑問があるようだな。だがそれも……すぐにわかる!」


「……な!?」


 速っ!? そこまで距離は離れていなかったとはいえ、こいつも一瞬で間合いを……!

 回避……いや間に合わねぇ!


ギィン!


 間一髪、振り下ろされた剣の一撃をこちらの剣で受け止めることができた。


(が、問題なのはそこじゃねぇ……これは、カトレアのこのパワーは)


 どう考えても通常女の出せる腕力をはるかに超えてる。だがそれは何か外部からの助力があるわけでもない。

 これは……魔力! カトレアの体内で目まぐるしく魔力が活性化してるのが感じられる。


「くそっ! 魔道具の魔力に気を取られすぎててめぇ自身が魔力を駆使しているなんて気にも留めてなかったぜ!」


 しかも相当使い慣れてやがる。くそっ、同じように戦うタイプはリィナしか相手したことねぇからやりづれぇ!


「凄い……あそこまで魔力を駆使した戦闘ができるだなんて。これがこの国の騎士の実力」


「あら? あなたの国ではこの程度のこともできない兵ばかりなのかしら? 我が国の兵士、騎士であればある程度の実力を身に着けた者ならば誰もが魔力戦闘の技術の会得に乗り出しますのよ」


「そんな……本当なんですかサロマさん」


「はい、詳細まではご説明できませんが……我が国では魔力を扱う訓練があり、その中で兵士としてそのまま鍛え続けるか、魔導師として編織するかの適性を見極めることもあります」


「む? そういう情報はこの国の皇子である余に聞くべきことではないのかの? なぜサロマなのだ?」


 はっ、なるほどな! だからこその強国、だからこその確かな実力ってことか。

 流石こと戦いにおいてはどこよりも優れた先進国ってだけはあるってことかよ。……けどな、だからってそれが俺の怯む理由にはなりゃしないぜ!


「うぎぎ……でやっ!」


「ぬっ……!?」


 なんとか鍔迫り合いから逃れ後ろへ飛び退くことに成功できた。少し距離を取って冷静になれ。


 そしてここからだ……本当の戦いは。どうやら相手を舐め切っていたのは俺の方だったらしいからな。

 正真正銘、ここからが俺の"本気"だ!


「いくぜ……流派『獣王流(じゅうおうりゅう)』“地の章”」


「構えをとったか……しかし、これは」


「とても低い……体勢ですね。まるで四足獣のような」


 そう、この型は通常ではありえないほど体勢を低くする。通常人がこんな体勢で戦おうものならとてもじゃないがバランスを保ってられないだろう。

 だがそれはあくまで通常の人の……人族の体の場合だ。俺のような獣の亜人は人族とはバネが違うことに気づいた。


「ぬぬぬ……余にはどういう意味かわからんのう。体勢が低いとどうなのだ?」


「大丈夫ですよ殿下。つまりカロフが本気になったということですから」


「おお、なるほど!」


(あれをやるのね、カロフ……)


 リィナが心配そうに俺を見る。その気持ちはわかる、この戦い方を習得しようとする血のにじむような特訓に、あいつは付き合ってくれたからな……。


 この『獣王流』は別に俺のオリジナルというわけじゃあない。

 ある日のことだ、親父の遺品を整理していた日……一冊のボロボロの書記を見つけた。それは親父が生前いっつも読み更けていたもので、俺もチラッと見たことはあったのだが詳細は良く知らなかった。

 最初は親父が自分の編み出した戦いの技術か何かを書き記したものだと思っていたがそうじゃない……それは、とても古いどこかの流派を記したもの。


 その中にはあろうことか亜人による魔力を使用した戦闘方法が数多く記載されており、俺は震えた……。

 もしかしたら、これは俺の遠い祖先が残した秘伝の書で、それが今俺の手にある。居ても立っても居られなくなった俺はすぐさまリィナと共に解読と修業に励んだ。

 だがこれが一筋縄ではいかず、時には体を壊すような事態にさえ陥った。


(だが……俺は会得した。読み解けた部分だけだがな)


 中には暗号のような文も存在し、そのすべてを知ったわけではない。だが俺は確実に強くなった、今こそそれを示す絶好の機会だぜ!


「奇怪な構えだ……。だがしかし、所詮は田舎者の浅知恵!」


 先ほどと同じように息もつかせぬ速さで斬りかかってくるカトレア。

 だが……!


「同じとはいかねぇぜ! ……ここだ! "ニノ型"『流転ルテン』!」


 俺とカトレアの影が交差する瞬間……カトレアは鋭い太刀筋を見せた。

 ……が、しかし次の瞬間には俺とカトレアはお互いに背を向けながら距離を空けていた。


 まさに一瞬の出来事。ここにいる誰もが今起こったことを理解できないだろう……俺と、リィナ以外はな。


「な、なに……? 今、何が起こったというの。どうして攻めていたはずのカトレアが……」


「貴様……自分に何をした」


 おーおー、困惑してんな。んじゃここいらで種明かし……といきたいところだが。俺としても上手く決めきれなかった技を自慢げに話したくないんだよなぁ。

 だから……。


「へっ、てめぇらに教える義理はねぇよ」


 ハッタリでごまかしてやるぜ。……向こうでリィナがちょっとあきれ顔になってるが気にしねぇ。

 もともと『流転ルテン』は低い体勢からの死角を利用した受け流しからの攻撃に繋げる技なんだが……タイミングが合わなくて攻撃を行えなかった。

 ま、そこは俺がまだ未熟ってわけだ。


「ってなわけで、今度はこっちから行かせてもらうぜ!」


 相手がまだ困惑してる今がチャンスだ。渾身の一撃で決める!


「“三ノ型”『飛竜ヒリュウ』!」


「なにっ、消えた!?」


「あ! 上よ、カトレア!」


 一瞬の跳躍で相手の頭上に飛び、奇襲する一撃だ。あの低い体勢から頭の上に飛ばれるなんて思わねぇよな。

 しかし今回はあのお嬢さんの一声で気づかれた。だが俺の攻撃の方が早い!


「おおおおお! これは決まったか!?」


「ふん、まだだ!」


ヒュオ……!


「んな!?」


 次の瞬間、俺は訳も分からず吹き飛ばされていた。

 防ぎようのない攻撃に俺は愚かリィナや皇子さんも勝ちを確信していた……が、結果はこの通り。


「なんだ……今のは? まるで突風が吹いた見てーな風が俺を吹き飛ばしやがった」


「ふふ、貴様を吹き飛ばしたのは……この『風巻かざまきの盾』の力だ。この盾は近くに小規模な竜巻を発生させ、それを自在に操ることが出来る」


 あの盾か……。魔道具だとは思っていたがこれほどの威力だとは考えてもいなかったぜ。


「なにも切り札を持っているのは貴様だけではない。これで終わらせてやろう。『怪炎かいえんの剣』よ!」


 なんだ!? あの剣に魔力が込められたと思ったら、その周囲が揺らめいて見えやがる。

 あれは……危険だ!


「ハァ!」


 カトレアが剣を振る。そしてそれに続くように剣の周りに見えていた揺らめきが俺の方に向かってきて……。


「ダメ! カロフ、避けて!」


「……! うおおおおお!?」


ドジュウウウ!


 あぶねぇ……。恐るべきことに、カトレアの切っ先から先ほどまで俺が立っていた場所にかけて一直線に地面に焦げ跡が残されていた。

 あんなんもん食らったらひとたまりもねぇぞ。


「次こそは当ててやろう」


 くそっ、どうにかしねぇと。


「ぬおーっ! 何をやっておるのだカロフよ。そうだ、またさっきのやつでスルンと受け流せばよいのだ!」


「あれは流石に無理だっつーの!」


 確かに『流転ルテン』なら俺の体内魔力を行使して多少の魔力攻撃なら受け流せる……が、あれは今の俺じゃとても受けきれねぇ。

 しかも……。


「そんな、さっきよりも魔力の反応が強い……。これじゃあカロフが逃げきれない」


 そうだ、攻撃範囲を大きくされるのはマズイ。身体能力はやや俺に分があるとはいえ、逃げたところでほぼ追い付かれたところであれをやられたら避けきることは今の俺じゃあまず不可能。

 くそっ、なんとか奴の隙を見つけられねーもんか……。


「ふはははは! 見ていてくださいお嬢様! 今回もあなた様のために自分が勝利を捧げます! そして……そしていつものようにご褒美をお願い致します! ぐへへ……」


 ……ん、なんだ、俺の見間違い……というか聞き間違いか? なんか先ほどまでのキャラと大分違う気がするんだが。

 というか、なんか顔が歪みまくってる……なんだあの不気味にニヤついた顔は、ある意味あの剣よりこえーよ。


「……なぁ、あ、あんた大丈夫か?」


「大丈夫だと!? 大丈夫に決まってりゅう! ただ……ただ貴様を打倒せば今宵もご褒美としてお嬢様のおみ足によって自分の顔は足蹴にされ! その匂いを思う存分堪能した後に脱ぎたての履物をお恵みしていただけるのだぞ! そしてその後も自分はその履物をしゃぶりつくして……。むはあああああ! 考えただけでも興奮が収まるハズなどない!」


 ヤベーやつだった。

 いやさ、さっきまでとっても普通な女騎士だったじゃねぇか。それがなんでいきなりこうなった。


 そんな俺の疑問と同調するように、皇子さんやリィナも困惑の眼差しでお嬢さんの方を見つめている。


「おい、アリステルよ……。なんなのだあれは」


「ぐっ、カトレア……その性癖は大衆で晒さないようキツく言っておいたのに……」


「アリステル様、事情は理解しかねますがこの状況では言い逃れはできないのでは?」


「し、仕方ないじゃない! む、昔一回だけお仕置きとしてやった行為がカトレアの性癖を目覚めさせてしまったみたいで……。それ以降あれをご褒美にしたらカトレアもぐんぐん実績を上げるようになって……どんどん歯止めが効かなくなって」


 で、今現在あんな状態だと……。想像以上にヤベーな。鼻血まで出てやがるし……。

 てか俺はそんなこと考えてる場合じゃねぇんだよ! つまりその変態行為のための礎にされそうになってんだろ俺は!


「ぜってぇ嫌だわ! んな理由で負けんのは!」


「ぐへへへへ……。自分のご褒美のためにおとなしくやられるがいい!」


 チクショウ! 精神はどんどんヤベー方向に向かってるのに身体的パフォーマンスは今まで以上だ! ほんとなんなんだこいつ!?


「終わりだぁ!」


 剣が振り下ろされ、周囲の空気が燃えながら迫って来る。このままでは何もできずに真っ黒こげで敗北することになる……。

 だが……。


「負けてたまるかよぉ! 魔力開放、全集中、野生顕現! いくぜ『獣深化じゅうしんか』ぁ!」


ドォオオオオオオン!


 衝撃が大地に響き、炎熱による煙と砂ぼこりが舞い上がる。


「ふはははは、自分の勝利だ! お嬢様、カトレア今回も勝利を収めました。なので……」


 そう言いかけたところでカトレアの表情がハッと変化する。その背後にただならぬ気配を感じたからだろう。

 だけど、それに気づいた時には……もう遅いぜ!


「な! きさ……!?」


「『獣王流じゅうおうりゅう』“地の章”……“一ノ型”『牙点ガテン』!」


 渾身の一撃! 『牙点ガテン』は一点を集中して貫くシンプルな技だ。

 だがそれだけじゃない、その衝撃はたとえ何層に重ねた防御だろうと奥の奥まで伝わり相手の"芯"を捕らえる。

 そしてそれを俺は『獣深化じゅうしんか』のパワーで放った。つまりどういうことかっつーと……。


「ぐ……ふぅ。お嬢……さまの……ご褒……び……ガクッ」


 こういうことだ。

 ま、ともかくこれで決着ってこったな。


「勝負ありですね。勝者、第三大陸アレス王国騎士団副隊長カロフ・カエストス様」


「凄い! やったねカロフ」


「おおおおお! 凄いぞーっ! やるではないかーっ! ってなんじゃその姿わーっ!?」


「そんな……カトレアが負けるなんて」


 おっと、『獣深化じゅうしんか』のお披露目はここじゃあ初だったな。ま、説明はめんどくせから手早く戻って……。


「カロフよ、今のはなんなのだ。詳しく、余に詳しく説明するのだ!」


「あー、後でな。それよりも……今はムゲンの方がどうなってるのか気になるぜ」


 なにせ三対一だ。あの女騎士カトレア……変な性癖は置いといても実力はかなりのもんだった。

 つまりムゲンが相手をしている奴らだって一筋縄いかないハズ……。


「うん、ムゲン君が心配だね。でもどこに……あれ? なんだろあれ」


 リィナが見ている方向……あれはなんだ? やけに妙な魔力の波長だ。


「とにかく行ってみるか」


 俺達がその場所へ向かうと、案の定それはムゲンの作り上げた魔術であり、すべてが終わろうとしていた。

 そう……俺達の心配などまるで意味がなかったかのように。



「フゥーハハハ! これで終わりだイケメンどもめが! 術式カートリッジ三連結! 《雷》《雷》《雷》! ケルケイオン、サポート&ブースト! 全開術式ブラスターモードセットオン! 落ちろ、『天雷波動砲ルナティックサンダーフォールカノン』!」



ズドオオオオオオオオン!!



 なんか……ものすごかった。

 空に対空してるムゲンから雷が降り注ぎ、もの凄い衝撃が辺りに響き渡る。


 そして、それを放った張本人は高らかに笑い……。


「ハハハハハ! 勝ったッ! 第六章完!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る