144話 コケにされたら…


「ふふん、帝国の皇子だというのに泣き虫でどんくさくて、何をやらせても人並み以下……。ヴォリンレクス帝国始まって以来の無能皇子様。おまけに所構わず喚き散らしてみっともないことこの上ありませんわ。噂では歴代皇帝直系以外の者が次期皇帝として相応しい……とも言われておりますわね。あたなもそう思うでしょ、カトレア」


「は! お嬢様のおっしゃる通りです」


 と、長ったらしく嫌みをつらつらと述べながらご登場した"いかにも"な女の子。

 長い赤髪をこれでもかというぐらいにグルグルロールにし、ちょっとケイン過ぎる化粧に豪華な装飾も施され、派手ながらもどこか上品で可愛らしいドレスに身を包み、仕上げにフワフワの毛が付いた扇子を パチン! と鳴らして完成だ。

 んでもって、その後ろでイエスマンしてるこれまた豪華な鎧を身に纏った騎士のような女性だ。


 さてこの状況……さしずめディーオを良く思っていない厭味ったらしい一部の人間達の筆頭的なお嬢様が難癖付けにやってきた……みたいなパターンな気がするが。

 しかしその馬鹿にされている張本人は……。


「ぬわーっ! よいではないか、いいではないかーっ! 主らは余の最高戦力となるのだ! 最後まで余のために尽くすのだーっ!」


「うっせぇ! こちとら十分に仕事をしたら国に帰るんだよ! 俺らが忠誠を誓ったのは自国に対してであって皇子さんじゃねぇんだっつーの!」


 うん、まったく気にも留めずにまだやっていた。


「おや、そこにいらっしゃるのは……伯爵令嬢のアリステル・ティアナ・バーンズ様とその私兵騎士団の団長様のカトレア・ヴァリエール様ではありませんか」


 っと、ここでサロマが気づいてちゃっかりフォロー。人物紹介ありがとうございます。

 しかし伯爵令嬢ねぇ……そんな人間がわざわざなんの用だ? それもディーオを名指しでロックオンまでして。


「あらサロマ、あなたも一緒だったのね。あなたも毎日大変ね、あんなダメ皇子にいっつも振り回されて」


「いえ、ディーオ様にお仕えすることは陛下より命じられたわたくしの責務であり、幼少期から変わらない人生の一部です。大変だと感じたことはございません」


「ふん! そう、麗しい主従愛ですこと……」


 無表情の中にも揺るぎない信念のような威圧感を込めて冷静に言い返すサロマ。

 それに対して不機嫌そうになる相手側もなかなかにテンプレ気質がありますなぁ。


「それで、アリステル様はどうしてこのようなところにいらっしゃるのでしょうか? 街の住人のほとんどは陛下の出迎えに向かっているはずだと思われるのですが」


 確かに、先ほどのサロマの話では住人はほぼ出払っているという話だったし、馬車も使えないこの状況ではたとえ人が残っていようと外を出歩くことはあまりないと……。


「それをあなたに話す必要などありませんわ。そうでしょ、カトレア」


「は! お嬢様のおっしゃる通りです」


「それよりも、後ろでバカ騒ぎしているあなたの御主人様をさっさと連れてきなさいよ」


 うわー嫌みなタイプだなー。まぁこういう人間は初期のエリーゼ以来だな。この子もデレるのだろうかね……

 というか後ろの女騎士さんはbotみたいに同じ言葉繰り返してるだけだがそれでいいのか。


 さて、それはそうと悪役令嬢さんご所望の我らがアホ皇子はというと……。


「しつけぇんだっつーの! いい加減離れろや!」


「ぬあーっ! 殴ったな! 世界最高峰の頭脳が詰まっている余の頭を叩くとはなんたる愚かなことをしてくれたのだ! これで余の頭が悪くなってしまったらどう責任を取るつもりだーっ!」


「これ以上悪くなんねぇよこのアホ!」


 未だやかましく続いていた。よくもまぁそれだけ騒げるものだ。


「もう、殿下もカロフもそこまで! 道の真ん中で近所迷惑です。それに、どうやら殿下にお客様のようですよ。サロマさんが困ってるじゃないですか」


 いや、別にサロマは困ることもなく丁寧に何の苦もなく対応してたと思うけどな。

 ともかく、これでようやくディーオとあの令嬢さんとの話が進む……。


「ディーオ様、アリステル様です」


「なんだ、バーンズ家の娘か……放っておいてもよかろう。そんなことよりも今余は大切な話の真っ最中なのだ! さあカロフよ、おとなしく余の軍門に……」


「ちょっと! 無視しないでくださいますこと!」


スパーン!


「ぬあーっ!?」


 我慢の限界に達した令嬢が持っていた扇で思いっきりディーオの頭をひっぱたいた。……まぁこの状況で無視されたらあの令嬢でなくとも怒っていいと思う。


「あいたたた……まったく何をするのだ。どいつもこいつも余の頭をポコポコ叩きおって。それで、何の要件なのだアリステルよ」


「ふん、やっと話をする気になったわね。本日陛下がお戻りになるというのに、いつまでもお遊びの軍隊ごっこをしているお馬鹿さんに忠告して差し上げようと思いまして」


 おや? ただのいじめかと思いきや忠告とは。もしかして最初からツンなデレのお方ですか?


「そうやって陛下の真似事をしようとあなたは結局無能のままですわ。身の程を知り、素直にルディオ様に王位継承権を譲ってみてはいかかですの?」


「何を言うか! この国の皇子は余一人。余がこの国を継がずしてどうする!」


 うーむ、どうやら想定していた問題とは少々違うようだ。はじめはあの令嬢の個人的な確執で絡んできたのかと思ったが……。


「今の話に出てきたルディオ様とやらは一体何者なんだ?」


「ルディオ・グランセイド様……我が国の最高軍事に関わる人物の一人で家柄も由緒あるところのご子息です。武力、知力共に優れ、新魔族との戦いにおいても多くの活躍を残しております」


 なんと、そんなディーオでは手も足も出ないぐらい完璧な人物がいるというのか。

 つまりあの令嬢は、そのルディオ様とやらがこの国の次代の皇帝として相応しいのだから、ユーでしゃばんなよってところか。


「加えて多くの女性に大変人気がおありで、アリステル様もそのおひとりですね。婚約者候補は後を絶ちません」


 よしそいつは私の敵決定だな、ディーオ頑張れ。


「しかも、これまで何人にも逃げられてるくせに懲りずにまた新しく使えない人材を増やしてるみたいで……最初見た時はどこの大道芸人かと思いましたわ」


「んだと……」


 っと、令嬢さんの矛先がこちらにも向いてきたな。一瞬カロフが起こって前に乗り出すところだったが、リィナに抑えられてなんとか冷静さは保っているようだ。


「どうせ今回も素人に毛の生えたような程度の実力しかないのでしょう? まぁ……あなたにはお似合いでしょうけど」


「この……!」


「あ、駄目カロフ!」


 ここまでコケにされてカロフが黙っていられるはずもなく、リィナの抑止を振り払って前に出ようとするが……。


「お嬢様に危害を加えるようならば……斬る」


「くっ……」


 同時に守るように前に出てきた女騎士カトレアに威圧され、その場に踏みとどまる。

 場は一触即発の緊張状態……誰もがうかつに行動や言動を行えない。

 と、思われたが。


「ぬはははは! 言ってくれるではないかアリステルよ! こやつらは余が誇る最強の騎士、そして魔導師となるであろう最高戦力! 主の部隊の者など赤子の手をひねるほどの実力者なのだーっ!」


 そんな緊張を吹き飛ばすかのように変わらぬ調子でディーオは大見えを張りながら笑い飛ばしていた。


「な、なによ! なら、また以前のようにあなたの集めた精鋭とやらをわたくしの私兵が叩きのめして、田舎にでも逃げ帰ってもらいますわ!」


 ん、今"また"って言ったか?


「えーっと、サロマさんや……もしかして」


「はい、ディーオ様が私兵を募集し始めたころに、同じようにアリステル様が……。それで、敗れた者は自信を無くして辞めてしまわれました」


 つまりこういうことは日常茶飯事ってことね。

 まったく、うちの皇子様はやられてもめげないというか懲りないというか……。巻き込まれる方の身にもなってもらいたいものだ。


「戦いの方法は前と同じ……その者が最も得意とする戦闘方法に見合った部隊同士の対決でよろしいかしら」


「構わん」


「ふむ、つまりどういうことだってばよ」


「近接を得意とするものなら同じものを得意とするものを、遠距離なら遠距離を、魔術なら魔術を扱う者を訓練所に収まる範囲まで自由な人数で戦い合い、最後まで立っていた者のいる陣営の勝利となります」


 つまりは小さなチームバトルなのか。あれ、でもそれだと私以外に魔術使える奴いなくね? ……まぁいいか。


「前のようにはいかぬぞ! なにせこやつらは余の両腕となるべき精鋭なのだからな!」


「いやなんねぇよ」


 私も遠慮させていただきたい。


「ふん、その汚らしい亜人ごときが精鋭だなんでとんだお笑い種ね。せいぜいカトレアにすぐやられないくらいはもってほしいわね」


「あぁん!?」


 こえーよカロフ。

 まぁ経緯はどうあれ私達の実力を知ってもらういいチャンスだと考えればいい。

 私はカロフのようにムキにならず、ほどほどに実力を見てもらえればそれで……。


「そちらの魔導師もいかにもつまらなそうな陳腐な三枚目……きっとモテませんわね」


「おぉん!?」


 前言撤回だ! ぶっ潰す!

 この私を言うに事を欠いて三枚目だと……許さん。いいだろう、私の全力を見してやる……。

 超絶イケメンの最強主人公ムゲン様をナメた罪を思い知らせてやらぁ!


「ワウ……(やれやれっす……)」






-----






 それから私達が向かった先は……ディーオの住む王城にある訓練所だった。

 訓練所といってもその広さはそんじょそこらのものと比べるとえらい広さだ。ブルーメにある闘技場がすっぽり収まりそうだぞ。


「でっけぇなぁ……」


「我が国の兵はそれこそ何千何億といるからの。これでもまだ足りぬくらいなのだ!」


 見ればあちこちで模擬戦や団体演習を行っている姿が見受けられる。それに魔力の反応もちらほらと感じられるぞ。

 魔道具の類も至る所に設置されている……凄いなこりゃ。


「王城の訓練所は基本国兵の訓練優先ですが、どなたでも気軽にお使いになれます。訓練用の魔道具も充実しておりますので自前の訓練所をを持つ方でもこちらを利用されることがほとんどです」


 なるほどね……さて、ここがどういう場所かは理解できた。

 なので早速我々の誇りプライドを賭けた勝負とやらを始めさせてもらおうじゃないか。


「よーしカロフ、気合は十分だな」


「おうよ、あそこまでコケにされちゃ黙ってらんねーよ」


 闘志は十分、る気はMAX! 後は相手の出方を待つだけだ!


「ふん、そうやって粋がっていられるのも今の内だけ……。まずはこちらの近接戦闘戦は……カトレア!」


「は! お任せくださいお嬢様!」


 出てきたのは先ほどの女騎士。だが先ほどとは違いその手には独特の形をした剣と盾を携えていた。

 確か今回の勝負は各得意分野ごとの部隊と部隊の団体戦のようなものじゃなかったか? それなのに相手は一人だけというのは……。


「あなた方などわたくしのカトレア一人で十分ということですわ。もちろんそちらは何人でもよろしくてよ。何ならそこらで訓練している兵に応援を頼んでも良いですわ。ふふっ」


「……ッ! んだと」


 これは完全に舐められている……。だが逆にそれだけ自身があるということでもある。

 見たところカトレアが装備している剣と盾は魔道具。それに加えて魔力が目まぐるしく活性し肉体のパフォーマンスも上がっているところを見ると、今の大口もあながちハッタリでもないのかもしれない。


 ここは冷静に局面を判断し、順当な戦力をぶつけるのが良い……のだろうが。


「ぬおーっ! 馬鹿にしおって! お主が一人ならこちらも一人で十分なのだ! カロフよ!」


「はっ! 任せときな皇子さんよ! むしろ一人でかかってきたことを後悔させてやるぜ!」


 このノリノリの二人である。まぁ流れ的にこうなることは予想できたが……。

 というかお前ら結構相性いいコンビになりそうだな。


「ちょ、ちょっと……もう少し冷静に考えてもいいんじゃ……。私もカロフと一緒に戦った方が効率的に……」


「いーや、ここでサシでやらなきゃ俺の誇りが傷つくってもんだぜ」


「うむ、よくぞ言った! それでこそ部隊の最強騎士なのだ!」


「あー……もうすきにして」


 リィナの気苦労は絶えないな。ディーオと合わせて面倒くささが二倍三倍に膨れ上がってる気もするが、そこはサロマと分担してよろしくやってくれ。


「どうやら決まったようだな。戦いはあちらで行う、ついてくるがいい。……ではお嬢様、行って参ります」


 さて、カロフ達は戦いの場へ連れていかれてしまった。

 しかしチーム戦かと思いきや結局は個人個人の戦いになってしまったな。

 こちらも魔導師は私以外にはいないようだし、相手の出方待ちか。


「ではそこの魔導師、あなたにはわたくしの私部隊の中でも最も優秀な三人の中から一人、戦う相手を選ばせてさしあげますわ。まぁ、誰を選んでも結果は同じでしょうけど」


 相変わらず嫌みなこって……だがあくまで一対一だというならこちらとて負ける気はしない。

 悪いが私は効率重視なのでキチンと一番弱そうなやつを選ばせてもら……。


「あなた達、いらっしゃい!」


「お嬢様、自分のお力が必要ですか」

「すべては我が主のために、この魔力を全力で震わせてもらいましょう」

「まだまだ未熟な僕を評価してくださり幸栄です。精一杯頑張らせていただきますね」


 ぐあああああ!? なんだこの爽やか光線三連打はああああああああ!

 一人目! 体育会系のカッコイイ爽やかイケメン!

 二人目! 眼鏡をクイ……っとキザったらしく上げるのが似合いそうな知的イケメン!

 三人目! 幼いベビーフェイスが世の腐女子をさらに腐らせるであろうショタっ子イケメン!


「ワフゥ……(うわー、見事にご主人がルックスでは絶対敵わないようなイケメングループっすねぇ……)」


 やめろ犬! それ以上私を精神的に苦しめるんじゃない!

 世間はよぉ……冷てぇよなぁ。やっぱり世の中顔なのか? 人は見た目が九割なのか……。

 「自分は平凡な顔立ち」とか言ってるラノベ主人公だって表紙や挿絵ではどう見てもイケメンなんだ……。

 女性に寄ってこられたり女性に寄っても受け入れられるのは結局はイケメンなのかよチクショウ。


「さぁ、この中から一人選……」


「うるせぇええええええ! 全員まとめてかかってこいやああああああ!!」


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