108話 勇者達の旅立ち
まさに一瞬の閃光のようにぶつかり合う二つの光。
一方はは昼を照らす太陽のように、かたやもう一方は夜空を駆け抜ける一筋の流星のように。
自らの意思で輝き周囲を寺地続ける太陽は、人々を引き付ける大きな存在……誰もがその偉大さを認めるように。
しかしちっぽけな星は誰かの光を受けなければ輝くことはない、まるで自らがそれを望まないかのように……暗い
(だがオレは気づいた、たとえ光を放たなくともオレが望んでいなくとも、見えない暗闇を共に歩んでくれる者が入ることを)
星は誰かから光を貰わなければ輝くことはできない。
けれどいつかは沢山の小さな光を集め、やがては大きな輝きを放ちながら駆け抜けていくだろう……。
その一瞬は、この場にいた人間の目に深く焼き付いただろう。
流星が光の矢を打ち砕き、折れた輝きの剣が宙を舞ったその瞬間を。
そう、ぶつかり合いの末、華々しくゴールを通り過ぎた影は……。
『ご、ご、ご……ゴオオオオオル! 激動のチーム戦を制したのは~……第四大陸にまさに流星のように現れた新たな"勇者"! その名もセイヤ選手だあああああ!』
実況の甲高い声がスピーカーを通して国中にこのレースの勝者の名前を轟かせる。
その知らせに大陸が揺れ動くんじゃないかと思えるほどの大歓声が湧き上がり、勝者を称える。
そして、ゴールゲートを抜けた星夜はそのまま機体を走らせ、私達の下へと辿り着く。
「……ふぅ、勝ったぞ」
「それだけかよ、もっとこう……自分の勝利を高らかに宣言するとか、体全体を使って喜びを表現するとかさ」
「これでも、十分に喜んでいるつもりなんだがな」
まったく、相変わらずクールなこって。
でも……ま、それが星夜らしいか。
「星夜さん、皆さん! 本当におめでとうございます!」
「星夜しじょおおおお! ズゴかったれす! 感動でぼぐ涙が……」
ゴール地点の世界樹の麓で、まさに最後の瞬間を目撃したセラとカイルも未だ興奮冷めやまぬといったようで、観客席からこちらへ飛び出してきてしまった。
「いやー、まいったぜ。まさか俺の全力の一撃が破られるなんてな。イテテ……」
お、ケントも復活したか。
リネリカやランも後から到着したようで、勇者パーティ一同も自分達のライバルの勝利を称えに来てくれたようだ。
「悔しいけど、今回ばかりはアタシ達の負けだな」
「楽しかったねー……でも負けっぱなしは悔しいからまたいつかリベンジね!」
「皆さん、おめでとうございます。って、わたくし達が言うのも何かヘンかもしれませんが」
うむ、ケント達も敵ながらあっぱれだった。
戦術やお互いの息のあった連携などは私達の予想を上回るもので、正直ギリギリの戦いを強いられた。
メレスとの戦いを越えて、勇者パーティの絆もより深まったようだな。
ケントも最初はテンプレ好きのお馬鹿な異世界人かと思ったが……ちょっと女癖が悪いけどこの大陸の立派な勇者だ。
……羨ましいなんて思ってないからな?
「星夜、残念ながら今回はお前に一歩先を行かれたが安心するなよ? ライバルである俺達はいつかまた巡り合い、今度はさらにパワーアップした俺が……」
「ケント邪魔! 星夜ー!」
「ごはっ!」
「フローラ……」
世界樹から猛スピードで駆けてきたフローラに吹き飛ばされるケント。
哀れ……負けたらギャグ要員になってしまう法則はこの世界でも有効だったか。
いや、ケントは前から大分ギャグ要員要素が強かったかな?
「おめでとー星夜! やっぱり星夜は凄いねー!」
「いや……オレは何も凄くない。仲間の力があったからこそ、オレは今こうしてここにいられる」
いやぁ照れますな。
でもまぁ、私は星夜の気持ちに手助けしてやったに過ぎない。
「勝てたのは星夜の想いが強かったからだよ。そして私達はそれに答えただけ」
「そ……です」
「ああ、そうだな。オレの事を支えてくれる想いを感じたからこそオレは戦い抜けた。ミーコや限……それに、フローラもな」
「あたしも?」
「最後の声援、キチンと聞こえていた」
「そ……そう? えへへ……なんか恥ずかしいな」
ムムッ! なんだかラブコメの波動を感じるぞ……。
しかしよくよく考えるとまた私だけが心を通わせた女の子が隣にいないじゃないか。
どうしてなんだ……ケントではないがこういった物語には章の序盤から出会って五秒ですでに「あ、この子がヒロインなんだな」って思える存在が出てきてもいいはずなのに……。
「やっほ、おめでとう。やっぱりインくんは凄いね……って、なんで落ち込んでるの?」
「ファラ、もはや私の味方はお前だけのようだ……」
考えこんでる内に上空からひらひらと舞い降りてくる我らが精霊神様だ。
皆がパートナー同士でキャッキャウフフしてるなら私はこうして昔の仲間と暖かく見守ることしか……。
いや……待ってくれ、今は
「前言撤回! この裏切り者おおおおお!」
「ええ!? きゅ、急にどうしたのインくん!?」
うるせー! お前もドラゴスも同罪だ! そして早くよりを戻して末永く爆発しろこのやろー!
「ワウワウ(まぁまぁ、ご主人がこうなるのはよくあることっすから)」
「そうね、昔のインくんも今ほどじゃないけど突発的に変なこと言うこともあったし」
お前ら、私をどんな目で見てるんだ。
というかファラのやつ犬の喋ってることわかるんだな。
まぁもともと犬に使い魔契約の魔術を組み込んだのはドラゴスだし、ファラが干渉出来たとしても不思議じゃないか。
「それよりも……。コホン……フローラ、こっちにいらっしゃい」
「は~い」
ファラが星夜達の頭上まで飛び一息……どうやらここからは真面目モードのようだな。
会場も静まり返り、今この場にいる重要人物達も静かにその耳を傾けている。
「皆さん、この度は本当にありがとうございました。今までにない過去最高の盛り上がりによって、多くの人々の強い想いから漏れだした魔力のお陰で世界樹の成長は最終段階に入ることが出来ました」
周りから「おお……」とざわつく声が聞こえ始める。
ま、世界樹の成長イコール精霊神による国の保護と考えれば当然か。
「ねぇねぇママ、それって……」
「ええ、これであなたに繋がっていた世界樹との相互成長のリンクは離れて、あなた自身の成長のための新しい宿り先を決めるの」
精霊族の成長には人だろうが物だろうが、魔力のあるものに宿って育っていく。
だがまぁ、そうなるとフローラが宿り先に選ぶとしたらモチロン……。
「せいやーーー! いっくよーーー!」
待ってましたとばかりに星夜目掛けて急降下するフローラ。
「あ、待ちなさいフローラ! こういう儀式はもっと慎重に……」
「もう待てないよー。星夜、受け止めてー!」
「え、いやちょっと待て」
スッ……
「にょわー!?」
フローラのタックルを無意識に避ける星夜。
まぁいきなり猛スピードでタックルされたらそら当然の反応ですわ。
勢い余ってフローラはそのまま何かにぶつかってしまうが、人じゃなくてよかったな。
もし人の魔力に同調してしまったら今後はそいつに宿るハメに……ってあれ?
「ふろらさん……きえ……た?」
辺りを見回してもどこにもいない。
あるのはフローラが勢い良くぶつかって倒れている"スターダスト"があるだけで……あ。
「いったた~。もう、なんで避けるの星夜! よ~し今度こそ……」
スターダストの上に再び現れたフローラが今度こそと息巻いてまた宿ろうとするが……。
「あ、あれ? なんで? 宿りの力が使えないよ~」
……残念だが、ここは真実を教えてやるしかないか。
「フローラ、残念ながらお前はすでに宿り先に憑いてしまったんだ」
「え!? で、でもぶつかったのはこの星夜が乗ってた乗り物で……これって」
そう、気づいちゃったよね。
「そうだ、お前が宿ったのはそのスターダストもとい、そいつに積まれている"魔導エンジン"に憑いてしまったんだよー!」
「な、なんだってー!?」
ノリの良いケントだけが反応してくれる、ありがたい。
「えええええ! そんなー、ヤダヤダもう一回やり直し!」
「無理よフローラ。一度宿り先を決めたらそれを解除できるようになるまであなたが成長しない限りはね」
哀れフローラ、だがそいつは私の作った傑作だからそんなに居心地は悪く無いと思うZE!
「それでは、これにおいて今年の祝祭を終了とする!」
拡声器に乗せた王様の声で、今年の祭りも無事……かどうかは少々微妙だが閉幕となった。
しかし人々は未だ興奮冷めやまぬといった雰囲気で、今でも近くの町や村では今回のレースの話題で盛り上がっている。
なかでも注目は、あのレースを見ていた絵師達による名場面の描き出しだ。
出場選手やその仲間達をハガキサイズの小さな紙に描き出したブロマイドのようなものまで売りだされている。
人気なのはやはり今回の主役である星夜とケントだ。
ケントはもともと人気があったが、星夜も一連の騒動でかなりの有名人となりファンも急増中のため、各所で売り切れ続出だ。
……ちなみに私のものはほとんど売れてない、しかも何故か犬の方が人気がある。
っと、こんなどうでも良い話はヤメだヤメ!
別に人気がないから僻んでいるわけじゃない! 早く話を先に進めるためだ、ドゥー ユー アンダー スタン?
「てなわけで、ようやく全部終わったな」
この大陸に着いてからというものトラブルが絶えない日々の連続だったからな。
護衛馬車が魔物に襲われて、着いた国では勇者が異世界で、大陸の未来を左右する大事件が起きて、最後にこのレースと来たもんだ。
そんな荒事を共に乗り超えてきた仲間を一瞥し、それぞれの行路を聞いていく。
セラとカイルは……。
「私とカイルは予定通り旅を続けます」
「でも大丈夫かな……初っ端からすごい体験しちゃったから、これからの旅で驚きが少なくなるんじゃないか心配です」
「そう悲観的になるな、驚きは物事の大きさで決まるものじゃないし、お前達が進んだ道には必ずお前達だけの未来がついてくるんだ」
二人はまだまだこれからだ。
これからの二人がどんな成長をするのかちょっと楽しみではあるな。
ケント達は……。
「俺達はこれからもこの国を守るぜ。なにせ"勇者"だからな! それと、たまには遊びに来いよな」
「はい、皆さんなら大歓迎です」
ケントはもうすっかりこの世界の一員だな。
今回の事件の経験で一皮むけたようだし、何も心配することはないだろう。
心残りなのは……クレアの姉のラフィナの心を癒やしきれなかったことだな。
いつか乗り越えてほしい……私が言うと無責任にしか聞こえないけどな。
そして、星夜達は……。
「むぅ~、ホントは星夜に宿りたかったのに~」
まだ言うかこの娘は。
「限、お前はこれからも元の世界に帰る方法を探すのか」
「モチのロンよ。私は私のいるべき世界に戻ると決めているからな」
過去の異世界人達は皆この世界で生きることを決めたのかもしれないが、私は根本が違うからな。
「そうか、ならここで一旦お別れということだな。それと、ものは相談なんだが……」
「ん? "スターダスト"なら自由に使ってくれていいぞ。星夜へのプレゼントだ」
「いいのか?」
「構わんよ。それにフローラだってそれに宿っちまったんだし。メンテナンスならミーコを頼れば問題ない」
なによりそいつは星夜専用機と言っても過言ではない。
それに魔導エンジンの実験データさえあれば問題ないので本体はそのままどうぞってとこだ。
そして最後に……。
「んで? お前はこれからどうするんだ、ファラ?」
かつての私の大切な仲間であるファラ。
今回の件で彼女の存在はこの大陸中に認知されたはずだし、どういう対応を取るのかも気になるところだ。
「あたしは……変わらないかな。今までどおり世界樹を守る、それがあたしの使命だから。インくんは……行っちゃうんだよね」
「ああ、“魔法神インフィニティ”はもう過去の人間だからな」
「寂しいね……」
「また来るさ、元の世界に帰る方法を見つけたらな」
その時はドラゴスも一緒に、今度こそ笑って別れることができればいいなと、私は心からそう思うのだった。
「さて! それじゃあ心惜しくはあるが、ここらで解散としますか! 湿っぽいのはナシにしたいしな」
勇者らしくケントの号令ですべてが締められる。
皆それぞれの道を歩みだして……っとその前にっと。
「おーい皆ぁ、スマンが最後にちょっと集まってくれないか?」
せっかく締めてもらったとこ悪いが、やはり最後には思い出を残しておきたいからな。
「お、スマホ。ってことは別れる前に記念写真か、いいな」
「ああ、それと今回は趣向を凝らして……『
私の魔術でもりもり地面がメリ上がり、そこに出来上がったのは……。
「これは……表彰台か?」
なんたって今回はレース勝負だったからな。
せっかく異世界だらけなんだからもっと日本風にいかないと損だろ。
「うぐぐ、じゃあ俺は大人しく二位の位置に立たせてもらう」
「えっと……三位の台には誰が乗ればよろしいのでしょう?」
確かに、二組による勝負だったからな、乗るのは基本リーダーだろうし……。
「ま、いいや。適当に犬でも乗せとくか」
「ワウ!?(いやマジでテキトーっすね!?)」
とは言っても犬だって一応異世界人(犬)だからな。
表彰台を異世界人で埋め尽くしてやったぜ。
「よーし、皆集まったな。それじゃあ撮るぞ、ハイチーズ!」
パシャッ!
写真に収められたのはこの大陸で行われた異世界人達による宴の跡と、それを見守るようにそびえ立つ"世界樹ユグドラシル"。
時空を越えて出会えた仲間達との絆を私は胸にしまい込む。
「よし! それじゃあ今度こそ……解散!」
私のここでの役割は終わった。
皆もそれぞれの未来へ旅立っていく。
「それじゃあ、今回の報告も兼ねて一度ギルドへ戻るとしますか」
「ワン……ワウ?(そうっすね……あれ、でも何か忘れてるような気がするっす?)」
「そうか? まぁ気にするほどのことでもないだろう。それじゃあ、再び中央大陸へ向けて出発だ!」
第4章 異世界人の宴 編 -完-
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