107話 誇りを賭けた戦い


「……ってちょっと待てー! なんじゃそりゃあああああ!?」


 颯爽と風を切って現れた我らがチームの主役、星夜。

 しかし、どうやらケントは何か納得していないようだ。


「なんだケント? ギリギリだがこうして星夜はキチンとこの場に間に合った、何か問題が……」


「いやそこじゃねーよ!? それ、それ! その星夜が乗ってるバイクだよ! ちょっと形は俺が知ってるものと違うけど」


 ま、だろうな、ちょっとボケただけだ。


「ケント、あれはなんなのだ? 大きな鉄の塊……だが人を乗せて動いていたぞ」


「えっと……なんて言ったらいいか。俺の世界の乗り物で……」


 ケントもどう言葉にすればいいか迷っているようだな。

 このスタート地点に集まってる観客も「あれはなんだ?」とざわつきはじめてるようだし……ここは。


「ふっふっふ……そこまで知りたいなら教えてやろう……。あれこそ私達の研究・実験の成果! [MagicalWheel-Type01]、その名も"スターダスト"さ!」


「ま、まじかるほいーる……?」




 説明しよう!

 あの[MagicalWheel-Type01]はこの国で魔物騒動が起きる前行った実験の産物、その名も"魔導エンジン"を使用した新たな魔道具だ。

 この国で見つけたPCとデバイス、そして私の持つ"魔導スマートフォン"を繋げることで単車バイクのエンジンの魔道具化に成功したのだ!


 そこで試作機としてその魔導エンジン付の単車バイクをアプリと同じように術式の刻まれたプログラムで動かすためどうにかケーブルをエンジンに繋いで起動してみたんだが……。


ボカーン!


『グワーッ!』


 こうして試作機Type00の実験は失敗し、エンジンだけが無傷で残った。

 その後実験する暇もなく戦場に駆りだされてしまいそのまま放置、再開はいつになるかわからなかった……。


 が、このレースの開催で状況は一変した。

 レースという競技、そして明確な対応手段を持たない星夜の味方をすることとなった私……。

 これだけの状況が揃ったのならやることは一つだろう。




「てなわけで再び"魔導エンジン"を組み込んで完成したのがこの[MagicalWheel-Type01]というわけだ」


「なるほど……っていやいやいや、それだけで納得できるか! そのバイクのパーツやらヘルメットやらライディング・スーツまでちゃっかり用意して……あー、もうどこツッコんだらわかんねーよ!」


 ですよねー。

 しかし詳しく説明したいところだがもう時間もない、どうするか?


「バイクのパーツも、ヘルメットもオレの『鋳造キャスト』で作った。スーツも素材はオレが綺麗に作り直したが、仕立てたのはミーコだ」


 5秒で星夜が説明してくれた。

 そう、MagicalWheelの大体のパーツは爆散した試作機の破片に魔力を含んだ鉱石を混ぜて星夜に鋳造してもらったものだ。

 図面さえあれば星夜の力で部品が作れることは以前に実験済みだからな。


「しっかしここまで本格的に揃える必要あったのか? 一瞬まるで本当に日本に戻ったのかと思っちまったぜ」


「そこは雰囲気重視だ」


 私は本格派なんでな。

 この私の技術力と星夜のライディング・テクニックでこの剣と魔術の世界にエモーショナルでセンセーショナルな風を吹かせてやるぜ!






「では、これより勇者ケントと挑戦者セイヤによる勝負が始まります! お二人共、準備はよろしいですね?」


 スタート地点の司会進行役の合図で位置につく両者。

 ケントの隣にはリネリカがいる……ケントがこのレースという競技で彼女と共闘するのかわからないが、何か考えがあるんだろう。


「こっちはいつでもいけるぜ!」

「アタシも準備できてるよ」


 対してこちらのスタートラインには"スターダスト"に跨がりヘルメットを装着する星夜のみ。

 両手にはパイルバンカーを装着しているがそこは問題ない、むしろそれこそが重要。


カチッ……ヴーン……


「こちらも準備完了だ」


 パイルバンカーを背中部分から伸びているハンドルへ装着して握ると、エンジンが駆動音を挙げて起動する。

 これは私が星夜のために作り上げた一品、装着したパイルバンカーから魔力を流すことでエンジンを動かす仕組みだ。

 試作機ではエンジンに限界まで溜め込んだ魔力を使用したが、それでは溜めすぎた魔力が暴走してしまう。


「さて、[telephone]起動っと。もしもし星夜、聞こえてるか?」


『ああ、システムに問題はないようだ。画面にもエラー表示は出ていない』


 画面というのは私が機体に装着した液晶で、起動と共に内部に組み込んだシステムが表示される。

 それは私の持つinstant magicalになるべく近くなるよう作り上げたもので、私のスマホと若干連動しているのだ。


 ちなみに私達はスタート地点にはおらず、少し離れた高台から星夜達を見下ろしている。


「私達はあくまで星夜のサポートに徹するぞ、いいな」


「ガウガウ(了解っす)」


「……ん!」


 すでに変身状態の犬に私とミーコが乗り、コースの外側からいつでもフォローできる体勢を作り出す。

 どう援護するかは……始まってからのお楽しみだ。


『皆さん大変長らくお待たせ致しました! それではカウントダウン開始です! 5!』


 拡声器スピーカーからスタート地点の司会の声が地域全体に響き渡る。

 いよいよ始まるな……。


『4! 3! 2! 1!』


 その刹那、スタート直前のこの一瞬、まるで世界が無音になったと感じるほどの静寂。

 だが次の瞬間、それはまるでこの世界を飲み込んでしまうかと思うほどの……大喝采に変わるのだった。


『0! スタートォオオオ!』


「『光輝の翼オプティカルウィング』! そして『相乗り板サイドボード』! 行っくぜえええええ!」


「魔導エンジン出力最大! スターダスト……アクセラレーション!」






 スタートの合図と共に星夜とケント達はほぼ同時に飛び出した。

 そんな二人を私達星夜チームは遠方から見下ろしていた。


「なるほど相乗り板サイドボードね……ケントも中々頭は回る方なんだな」


 チーム戦のレース勝負ということでケントが彼女らをどう絡ませてくるのかわからなかったが、これで納得した。

 確かにあれなら援護だけでなく反応しきれない視界のカバーも行うことができる。


 だがその分若干スピードは落ちるようだ。

 それにスタート地点から連れて来ているのはリネリカのみ……あとの二人をどこで投入してくるか……。


「ま、そこも踏まえてフォローするのが私達の役目だけどな」


 星夜の方は不備なく稼働している。

 なので私達はサッサとフォローポイントに回って準備しなければ。

 今回の主役は、星夜なんだからな。






 スタートダッシュは悪く無い、むしろ剣斗は魔術を発動させる必要があったためオレの方が若干速かった。


「先行されたか! けど俺だって何も対処してないわけじゃないぜ。『翼手裏剣ウィングシュート』!」


 剣斗の翼から勢い良く羽が飛び、オレに襲いかかる。


「くっ……!」


 ハンドルを切ることでかろうじて回避には成功するが、減速は免れない。


「お先!」


 そしてその隙をついて剣斗がオレを横から追い抜いていく。


 聞いた話では、剣斗はいつも最速でゴール近辺まで辿り着き、他選手を待ち構えるためこういった道中の戦いは疎いと思っていたが。


「オレも認識を改めなければいけないようだな」


「そういうこと! それじゃあ俺はこのまま翔けることに専念するから、リネリカは星夜が怪しい行動をしないか見ててくれ」


「任せてもらおう。ケントはそのまま前を見てればいい」


 役割分担がしっかり出来ているな、まさに付け入るすきがない。

 だが、オレもこのまま終わるわけにはいかない!


「ハンドル固定解除、パイルバンカー銃撃ブラストモード…… 『発射シュート』!」


ガガガガガ!


「ッ! ケント、連続して魔力弾がくる! 回避を!」


「オッケイ! うぉら!」


 オレの銃撃は旋回して上空へ避わされる。

 ふむ、あれだけ派手に回転したのにリネリカが平然としているということは、あのボードに足が吸い付いているようだな。


「だが上空へ逃げようと狙え無いわけではない」


「あのハンドル……! そのために後ろから出てたのか! クソッ」


 この"スターダスト"は通常のバイクと違いハンドルが後ろから伸びている。

 なんでも、ハンドルを操作しながらパイルバンカーを自由に扱うための構造だと限は言っていたが、どうやら充分にその役割を果たしているようだ。


「これでっ……! む……」


「お? なんだ、急に弾丸の雨が止んだぞ?」


 少し体に違和感を覚えたと思うと、急に弾丸の射出がストップした。

 機体の液晶画面を確認すると、そこには『overflow!』の文字が表示されている。


(そうか、魔導エンジンが一度に供給、放出できる魔力は限度がある……)


 常に走り続けるための魔力を放出することはできない。

 残りの魔力もオレが供給し続けているとはいえ放出し続けていればなくなるスピードの方が断然早い。


「しかし、ここまで近づければ……!」


 パイルバンカーによる近距離戦が可能だ。


「させない!」


 突然リネリカの乗っていたボードがこちら側に移動し、剣斗との間へ割り込んでくる。

 だが、オレが攻撃を止めることはない。

 ここでリネリカを戦闘不能にしておければ結果オーライだ。


ギィン!


「星夜殿、悪いがアタシをナメてもらっちゃ困るよ。これでもこの国の騎士長なんでね、その程度の単調な攻撃なら受け流せるよ」


 やはり魔力の込められていない通常のパイルバンカーでは決定打に欠けるか……。

 仕掛けるならば、魔導エンジンに魔力を最充電フルチャージされてからか。


「おっとぉ! そうはさせないぜ。ここまで近づいたんなら一度俺とかち合うのがスジってもんだろ」


 くっ……剣斗とリネリカが並ぶようにオレに対峙してくる。

 下手をするとこの場で決着が付きかねない。


「くら……!」

「ッ!? ケント、危ない! ぐうっ……!」


 これは……オレを攻撃しようとしたケント目掛けて遥か遠方から何かが飛来し、それを庇ったリネリカが動けなくなった……。

 考えられるのは……。


『ふう、危なかったな星夜。本命ケントには当たらなかったが、今の内に距離を取ればいい』


 画面から限の声……つまり。


「今の狙撃はお前か」




 コースから外れた高台、そこから見える景色にはコースの前半部分がよく見渡すことができる。

 そしてその場所に、銃を構えたムゲンの姿があった。


「アルマデス、狙撃銃スナイパーモード。なに、仕込んでいるのはショック弾だからちょっと痺れるだけさ」


 しかし、痺れるだけと言ってもすぐの復帰は無理と思った方がいいだろう。


「ゆしゃ……さん。いど……しました」


「よし、このまま可能な範囲まで狙撃。頃合いを見てポイントを移動する」


「ガウ(了解っす)」


 ムゲンが狙撃手、ミーコを観測手、そして犬を足として確実に狙撃の成功度を上げている。


 戦い方がまったく正反対のチーム。

 そしておそらくどちらもまだ奥の手は隠してあると見ていい。


ウォォォオオオオオ!


 そして、勝敗がまったく読めない手に汗握るギリギリの勝負に、見守る観客側も、未だかつて無いほどの熱狂に包まれていた。

 もうすぐ第一のチェックポイント……レースは序盤から中盤へと以降しようとしていた。




「まさか狙撃とは恐れいったぜお前ら。っとそれより……リネリカさん、大丈夫?」


「体が痺れる……どうやらこれ以上は無理だ」


 先程の限の狙撃は麻痺弾のようだな。

 もうすぐチェックポイントの町だ、遠慮無くこのままリードさせてもらう。


「くっ、このまま逃げ切らせるか!」


 オレを逃すまいと再び羽弾を発射する。


(回避を……いや)


 オレに遅いかかる羽が手前ですべて撃ち落とされる。

 これも限か……あいつもいい腕をしてるな。


「マジかよ……! クソッ、追いつけねぇ……」


 よし、コーナーでは遅れをとるが直線ならばこちらの方が速い。

 これなら……ん?


『星夜、今すぐハンドルを切れ! チェックポイントでランが待ち伏せしている!』


 その言葉と同時にオレはハンドルを切り、回避の体勢をとっていた。

 その次の瞬間、風を纏った無数の矢が先程までオレが走行していたコースを貫いていく。


「う~ん、おっしい~。でも足止めは成功! さ、ケントくん早く!」


「サンキューラン! リネリカさん、交代だ」


「すまない……ラン、後は頼む」


 マズい、急に方向転換したせいで復帰が遅れた……。

 ケントの方は……リネリカをおろしランをボードに乗せたか。


『なるほど、ケントはポイントごとに仲間を変更していくスタイルか……。星夜、私は次の狙撃ポイントに移る、それまで耐えてくれ』


「了解した」


 再び魔導エンジンの出力を上げケントを追う。

 だがパートナーが変更となったことで戦い方も変わるはず……。


「それじゃあ張り切っていくよー!」


 やはりというべきか、ケントと背中合わせにランがこちらを目掛けて弓を構えている。

 それに加え……。


「ここはコーナーが多いな……」


 内蔵マップを確認する限り、次のチェックポイントまでは距離は遠くないがカーブが多い。

 それに加えての的確な弓の射撃……。

 キツいな、追い抜くのは無理かもしれない。


(だが差を縮めることはできるはずだ)


 こうして考えている間にもオレを襲う矢は留まることがない。

 だが流石に多すぎるな、そろそろ矢が尽きてもいいはずだが……。


「ふふーん、ランの矢は尽きることないよ。矢はこのコースの木の根から作れるし、矢羽はケントくんの羽むしればいいしね」


「つまり、俺達の魔力が尽きるまで無限に作れるのさ!」


 世界樹の根で作った矢を乱射か……贅沢なことだ。

発射シュート』は運転と矢の雨を対応しながら無理だな……なら。


「[wall]システム起動」


「な、なにあれ!? 矢を弾きながら近づいてくるよ!?」


「流石に予想外のことばかりやってくんな。でもリードは譲らないぜ」


 ムゲンが組み込んだシステムの一つだ。

 あいつのスマホにも搭載されている魔術を組み込んだものらしく、画面に表示されるマップ表示も同じものらしい。


『星夜、[wall]は魔力の消費が激しく機体にも負荷が掛かる。あまり無茶はするな』


「わかっている、だが今はこれが最善だ」


 すでに次のポイントまで数百メートル、奴の足を止める!


「む、星夜くんこっち狙って……!?」


「『発射シュート』!」


 相談する暇は与えない!

 次のチェックポイントまで撃ち続け……。


ガコッ……!


「なっ!?」


 突然機体の制御が効かなくなった。

 見ると、画面に[Error]の表示……しまった、魔力の過度な使用によるオーバーヒートか。


 マズい、なんとか機体を安定を……エンジンの魔力を最小限に抑えなければ。


「なんかトラブルみたいだな。今のうちだ!」


「それと、ランの魔力もこれで終わりだから最後に……えい!」


 これを好機とばかりに今までとは比にならないほどの矢を乱射してくる。

 駄目だ……魔導エンジンがオーバーヒート状態の今、[wall]を使用する事はできず、銃撃の乱射も不可能だ。


(かくなる上は……パイルバンカーで出来る限り矢を叩き落とすしか……!)


『「まったく、冷静に見えて意外と熱い性格だからな星夜は。もっと仲間を信じてくれてもいいんだぜ!」』


 オレが覚悟を決めたその瞬間、画面とコースの外側からあいつの声が……そう、オレの仲間が叫んでいた。


「マジか……!? ここでムゲンかよ、回避が間に合わ……」


「アルマデス機関銃マシンガンモード!」


ガガガガガ!


「うおおおい!?」

「うヒャア!?」


 間一髪、限の魔導銃が乱射され、オレに襲いかかる矢を撃ち落とす。

 同時に剣斗の足も止める絶妙なタイミング、どうやら狙っていたようだな。


「よし、チェックポイントだ。剣斗の足が止まっている今……」


「せや……さま!」


 慌てるオレをミーコが抑制する。

 その手に持っているのは……工具か?


「星夜、機体を酷使しすぎだ、一度ピットインを行う。……丁度ケント達も、交代みたいだしな」


 隣を見ると、どうやら剣斗のチームもかなり疲労しているようで、クレアが急いで駆けつけている。


「最速で修理は行うが出遅れるのは仕方がない。このままではまたすぐにオーバーヒートするからな」


「がばり……ます!」


 そうだ、今のオレにも頼れる仲間がいる。

 そしてまだ勝てる要素は十分にある……この最終局面、決着はそう時間はかからないはず。




「わり……ました!」


「星夜、ピットイン完了だ!」


 クレアを乗せた剣斗が飛び立ってから数秒後、オレは修理が完了したスターダストに素早く跨がり勢い良くアクセルを踏み込む。


「私達は先回りして最後の足止めに入る。その後は……お前しだいだ、星夜」


「ああ、必ず勝つ!」


 限達と分かれ剣斗の後ろを追う。

 これは……先程までとは比べ物にならないスピードだ。

 慣れない機体の調整だというのに、ミーコは数日でここまでの仕上がりをできるまでに……。


(オレは……今、この世界に来たことで初めて自分というものを見つけられたような気がする)


 元の世界にいた頃、オレはただ与えられた仕事をこなすだけの中身の無い空っぽな……そう、誰でもないような人間だった。

 しかし今は違う、ここにはオレを……“星夜”という人間を信頼し、頼り、頼られ、認め合い……笑い合える仲間がいる。


 全速力で森の中のコースを駆け抜け、木々を抜けたその先に剣斗達を捉えた!


「もう来たのか!? ここからゴールまでは一直線……仕方ねぇ。クレア、少し早いけど頼む」


「はい、ケント様! 盾よ、迫り来る敵を遮えいたまえ……」


「これは……」


 クレアが盾を構えると、みるみるうちに光の壁のようなものが広がっていき、やがてそれはコースの横幅全体を埋め尽くす程にまで広がった。


「星夜さん、わたくしがいる限りケント様の前には出させません」


「ちょっとズルい気もするけど、これも立派な戦術さ。これならさっきみたいなムゲンの狙撃も連射も防げる」


 なるほど、あの壁を突破しないかぎりオレに勝ちはない。

 すぐ先のラストスパートまでなるべく温存しておきたかったが、ここは一度全力をであの壁を……いや。


(そうだったな、オレには……)


 オレは攻撃を仕掛けるのをやめる。

 なぜならオレには……。


「仲間がいるからな」


カッ!


「え? きゃあ!?」


「く、クレア!? 大丈夫か」


「わたくしは大丈夫です。ですからレースに集中してください」


 一瞬だった……目の前の光の壁に突如落ちてきた蒼く巨大な球が着弾した瞬間大爆発を起こしたのだ。

 そのあまりの衝撃にクレアはケントのボードから落ちてしまい戦線離脱、ここまで派手にやるとは……。


『どうよ、対物アンチマテリアルライフルモードに『青き炎の制裁プロミネンスコア』を装填した全開魔術弾は。あ、ちゃんと手加減はしておいたぞ』

『ガウガウ……』


 どう考えてもやり過ぎだろう。


『星夜、今のでこちらの魔力は尽きた。あとは……』


「ああ、オレ達の戦いだ!」


「へっ、最後はやっぱり一騎打ちか! いいぜ、こいよ星夜!」


 ゴール前最後の直線、オレは今まで溜めたすべての魔力をフル回転させ走り抜ける。

 ゴール直前とあってここには多くの観客が集まり、その歓声はすさまじい。

 だが今のオレにはそんなものは耳に入ってこない、あるのは風をきる感覚だけ……そう、オレは今まさにスピードと一体となっている。


(星夜の奴凄いスピードだ。このままじゃ追いつかれ……いや、抜かれる。だったら……)


『おおっとぉ!? 勇者ケント、ゴール数十メートル手前で方向転換したぁ!?』


 わかる……剣斗は今全力でオレを討ち倒そうとしている。


 そう……これが最後の勝負。

 この打ち合いを制した者が……勝者だ!


『こ、これはぁぁぁ……勇者の体が輝いて! セイヤ選手もこれは……まさに、夜空に流れる一筋の星のような……!』


「いくぜ星夜! 俺のすべてを込めて……『輝きのシャイニング……聖剣ブレイドォォォ』!」


 剣斗が矢の如く突き抜けてくるその刹那、オレはその後ろのゴールの先……そこにオレの求める存在を見た。



「星夜ーーー! 負けないでーーー!」



 そうだ、ここでオレは終わらない……終われない。

 フローラやミーコ達とこれからもこの目に焼き付けたい未来へ向かうために……!


 気づけば、オレはハンドルに固定されていたパイルバンカーのロックを解除していた。

 このスピードにオレの魔力、すべてを乗せて……今、突き抜ける!


「『流星シューティングスター……ナックル』!」


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