64.5話 とある姉弟の後日談


-レイのその後-


「ふぅ、こんなものか」


 とある町の一角にそびえる大きな館の前で俺は一息ついていた。

 目の前には沢山の人の山が積んである。


「おう、おつかれレイ。そっちも終わったみたいだな」


 サティの後ろにも人の山が積んである。

 最近の俺達の仕事といえばこういったことが多い。

 国が調査した不正を俺達が乗り込んでその悪事を検挙していく。


「しっかし、なんでこんなに多いのかねぇ……」


「だがこう連日で続くとさすがに慣れてくるな」


 あの日、ムゲンが団を抜けてから数日、俺達は休みなく仕事をこなしていた。

 毎日毎日この広い大陸を西へ東へ。

 どうやらこの国には叩けば埃が出てくるような奴らばかりらしく、落ち着けるのはもう少し先の話になりそうだ。


「な、なぁレイ、この後なんだけど……」


「おーい、お頭ー! 捕えられてた亜人達を救出したぜー!」


「おっ、あっちも終わったか。俺達も行くかサティ……サティ?」


 見ると、サティの顔はちょっとぷくっと膨らんで少しばかり怒ってるようだった。

 まぁその顔も可愛いが……。


「あーっと、なにかあったのか……?」


「なんでもない! さっさと行くぞ!」


 いったい何なんだ?

 たまにサティの考えがわからない時がある、最近は仕事詰めでゆっくり話せる時間もないしな。

 ま、俺はサティと共に戦えるだけでも嬉しいがな。




「ありがとうございました! このご恩は一生忘れません!」


 貴族に監禁されていた亜人族の者達が深々とお礼をしてくる。

 俺がこの仕事を始めて一番良かったと思える瞬間だ。


「いやいや、アタシらは国の依頼で助けただけだ。礼なら王様にしなよ」


「でも、実際に助けてくれたのはあなた方です!」


「ん、お礼は素直に受け取っておくよ。後のことは国の偉い人が来るだろうからそっちに聞いてくれ」


 これで今回の任務も無事完了だ。

 助けられた人は俺達が立ち去るまで何度も何度もお礼をしてきた。

 サティはその一人ひとりに明るく接し、いつしかその周りには笑顔がいっぱいになっていた。


 こういう姿を見るとサティは『大人の女性』といった感じに見えてちょっとドキッとする。

 いや、実際大人だよな、あの夜に聞いた話ではサティの年齢は優に500歳を超えてるらしいから。

 エルフの平均寿命よりも長く生きるサティに比べたら俺なんて赤子同然……。

 あいつに相応しい男になるためにもっと精進しなければ。


 そうこうしてるうちにどうやら近場の町に着いたようだ。


「よし、今日はこの町で休む。それと溜まっていた分の仕事は今日で終了だったから明日までフリーにしていいぞ!」


 その言葉に皆が喜ぶ。

 ここまで働き詰めだったからな。


 この仕事が始まって以来、さまざまな地域で活動していたのでいまだアジトに帰れてる日がない。

 現在は南領、アジトからはそこそこの距離があるな。


「表情が暗いぞレイ、疲れたか?」


「うおっ!? あっ、いや、別に大丈夫だ」


 サティが俺の顔をずいっと覗き込んでくる。

 こういう仕草にいつもドキドキさせられる、本人は無自覚なんだろうがな。


「もしかしてアジトに残してきたリアのことが心配か?」


 姉さん……。

 そうだな、最近は姉さんの近くにいれないので心配になる。

 しかし、「いつまでも姉にかかりっきりだと大人になれないぞ」とムゲンに言われたことがある。

 俺も……変わっていかないとな。


「姉さんなら……大丈夫だ、きっと。心配かけて悪かったな、ありがとうサティ」


「いいんだよ、レイが辛そうにしてるのを見るとアタシも辛い。アタシは元気なレイとずっと一緒にいたいから」


「サティ……」


 なんというか純粋に嬉しい、サティを好きになれて本当に良かったと感じられる。

 俺達は見つめあって、その距離は段々と近づいて……ん?


「「「ニヤニヤ」」」


 ふと視線を感じると、団員達がこっちを見てものすごいニヤニヤしている姿が見えた。


 俺とサティはお互いに恥ずかしくなって勢いよく距離をとった。


「いやいいんすよ? 俺らに気にせず続けても」

「いやー、周りが見えなくなるほど熱中するなんてなぁ」

「もうお互いのことしか見えてない……」


 こ、こいつら!


「貴様ら、さっさと散れ! 『烈風拳ウィンドストライク』!」


「おわー! レイがキレたぞー!」

「逃げろー!」

「じゃあ俺らは宿の酒場で一杯やってきやすわ!」


「まったく、あいつらめ……ってええ!?」


 一息ついた途端、腕をグイッと引っ張られた。

 よく見るとサティが俺の腕を掴んで猛スピードで町の裏の方に連れて行かれた。


「お、おいサティこれはいったい!?」


「つ、着いた……」


「えっ?」


 狭い路地を抜けた先にはいくつかの建物、宿屋……にしては雰囲気が少し違うような。


「あ、あのなレイ。最近は忙しくて……その、アタシらって全然恋人っぽいことできてないよな!」


 息を荒げながらグイッと近づくサティ……少し色っぽい。

 って何を考えてるんだ俺は!

 サティだってきっともっと清潔な付き合いを望んでいるに……。


「それで、国の奴に次の休息日に二人きりになれるとこはないかってきいてみたら……こういう店を紹介された」


 違った。

 こ、こういった店のことは一応知っている。

 姉さんが「サティと恋人になったのなら読んどいた方がいい!」と言われて読んでみた本の中に書かれていた『恋中にある男女が甘く激しい一夜を共にするための特別な宿屋』だろう。


「え、えっと……サティ、ここはもしかして」


「あ、アタシは……お前ともっと深い関係になりたいと思っているし…、こがどういう店かってのも知ってる……から」


 そこから先はあまり覚えていない。

 理性というものは案外簡単に飛ぶものだと思い知らされた。


 そしてもう一つわかったのは、サティの体力が半端ないということだった。


「れ、レイ、大丈夫か?」


「だ、駄目かもしれない……」


 次の朝、俺の足腰はガクガクになっていた。

 この日から俺は、もっとサティにふさわしい男になれるようさらに精進しようと誓った……心も、体もな。






-----






-リアのその後-


「よし、これで買い物終了かな」


 あの戦いから数日後、私達を取り巻く環境は大きく変化した。

 本国の特別部隊として活動する私達はもう大忙し、ここ数日は休む暇もなかったくらい。


 私は国の用意してくれた新しいアジトで毎日事務作業……。

 実動隊から送られてくる情報を元に、貴族の不正の内容、繋がりのある人物達のリストアップ、保護した人達の詳細調査などなど。

 あっちもこっちもやることは尽きない。


「でも、今回やっと長いお休み貰えたし、明日はうんとおいしいもの作ってあげよ」


 そう、働き続けて十数日、この仕事もやっとひと段落して明日は皆が帰ってくる。

 久しぶりに全員で食事がとれるのでパコムの町まで買い出しに来たのだ。


「リアさん、お茶をどうぞ」


「あっ、ありがとうホリィさん」


 今私はホリィさんのお店にいる。

 今夜はこの町に泊まる予定で宿屋を探していたところ、店の前を通りかかったところでホリィさんに呼び止められたため今晩はこうしてお邪魔させてもらっている。


「なんだか最近忙しそうですね、いろんなところで皆さんの噂を聞きますよ」


「うん、もう毎日忙しくて。そっちはどう?」


 この町に来ると毎回ここに通っていたため、ホリィさんとはいろんなことを話せる仲になっていた。


「こちらはいつも通りですね。あまりお客さんは増えません、何がいけないんでしょうか?」


(新しい人が来る度にやってるアレが原因じゃないかなぁ……)


 なんでも最近はガレイさんへの要求も過激になってるようで、部屋の端の方で疲れてるのが見えるけど……。


「なぁ、さっきから気になってたんだけどよ」


 あ、見てるのばれちゃったかな。


「えっと、別に私は悪気があって見てたんじゃなくてですね……」


「あ、何言ってんだ? 俺が言いたいのはお前の後ろに隠れてるガキのことだよ。以前とは別人みたいじゃねえか」


 ガレイさんが私の後ろでずっと隠れていたミミちゃんを指さす。

 そう、今回は心を鬼にして町まで連れてきた……。


 あの日以来ミミちゃんの心は閉じたまま、団員以外の人にはまったく心を開かない。

 たまに本国から使者がやってくるけど、その時はもう部屋にこもって絶対に出てこようとしない。


 でもそれじゃいけない、私はいつか戻ってくるであろうムゲン君のためにもミミちゃんの対人恐怖症を直してあげなくちゃいけない。

 たとえムゲン君のことを覚えていなくても、友達として新しい絆を築けるように……。


「ミミちゃん、怖がらないで。ちゃんと挨拶しよ」


「……こ、こんにち……わ」


 少しづつでいいの。

 そうすれば、いつかきっとあの明るかったミミちゃんに戻るはずだから……。






 その後、ミミちゃんが寝静まった夜中、私はホリィさんと晩酌をしていた。

 ガレイさんはお酒が強くないらしく、数杯飲んだだけでダウンしてしまった。


「まったく、ガッちゃんももう少しお酒に強くなってほしいです。毎回すぐ倒れるせいでいつも一人で飲むハメになるんですよ」


「うちもレイがお酒だめなせいでサティが嘆いてたわ、「あいつと一緒に飲みたいのに~」って」


 レイも頑張ってるんだけどね、どうも臭いとかがだめらしいのよね。


「あの二人、よかったですね、お互いに思いを伝えられたみたいで」


 ホリィさんは以前からサティとレイのもやもやした関係に気づいていた一人だ。

 二人が恋人になったと聞いた時にはものすごい勢いで食いついてきた。


「いいですよね、そういうドラマチックな恋って。私もしてみたいです」


「ホリィさんはいいですよ、まだ相手がいるんですから。私なんて……はぁ」


 親友と弟に同時に先を越され、いい相手もおらず毎日仕事の連続。

 誰かいい人いないかな……。

 そういえばあの日、本国から来ていた使者の人(だと思う)は結構顔もよかったなぁ。

 あれ以来見たことはないけど結構アリなんじゃないかしら。


「よーし、私も二人に負けてられないぞー!」


「その意気ですリアさん!」


 その後、私達は二人で朝まで飲み明かした。

 私だってまだまだこれから! 絶対にあの二人に負けない恋をしてやるんだから!



~to be continued~


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