第3章 魔導師ギルド 編

65話 新たなる地に誘われて


 “紅の盗賊団”の皆と別れてから数日、私は現在第二大陸の北側を進んでいた。

 しかし、私の見立てより第二大陸は結構な広さがありちょっと困ったことになっていた。


「うーん、やはりもう食料がつきてしまうな。このパンで最後だ」


「ワウ(またこのパターンっすか。もう腹ペコで路頭に迷うのはいやっすよ)」


 別れ際にサティたちからもらった食料は二日と持たず無くなってしまった。

 その後も町に着く度に食料を買い足していたのだが、金を節約していたせいで次の街までの食料がもうない。


「ワンワン?(やっぱり“紅の盗賊団”を抜ける時にもっと食料を貰っとけばよかったんじゃないっすか?)」


「いや、あれ以上貰ってもかさばるだけだ。それに、結構生物が多かったからな、結局は腐らせて終わるだけさ」


 あれらの食材をもっと長期に保存する方法でもあれば迷わずもっていけたんだがな。

 この世界の食料に日本の保存法を試してみたいな……。

 ピグヌスとかは結構ハムとかいけるんじゃないのか?

 まぁ加工方法を知らない私がこんなこと言っても何もならないんだけどな。


「ワウワウン(そうだご主人。こういった異世界転移ものによくあるアイテムボックス的なもの持ってたり使えなかったりしないんすか? 腐らない異空間になんでもポイポイ……みたいな)」


 なんで犬が異世界転移もののお約束を知ってるんだよ。

 しかし、アイテムボックスねぇ……。


「はぁ……犬よ、そんなことできたらとっくに使っている」


「ワフ(そっすよねー)」


「そもそもだ、私は異世界トリップ系の小説はよく読むが……そのアイテムボックスとかいうものの存在だけはあまり好きじゃないんだ」


「ワウ?(なんでっすか?)」


「理由は簡単、原理が意味不明だからだ」


 それ系の小説では、魔法や剣術の説明はバンバン書かれるのに、それだけは《アイテムボックスなんだからそういうもの》ということで済ましていたりする。

 しかもご丁寧に生物は入れられないという予防線つきで。

 まぁ生物入れられたらそれだけで自分を隠すことができる最強の安全地帯セーフティーゾーンだからな。


「あと、私だって前世でなら空間魔法を使い別の場所に物を保管することだってできたさ」


 さらにその気になれば、世界の平行世界概念に干渉して世界間に存在する接続空間を少し切り、時空固定すればアイテムボックスに似たようなこともできなかったわけではない。


「ワウ?(え、じゃあやればいいじゃないっすか?)」


「犬よ、さっき私の言ったことを覚えているか……。そんなことできたらとっくにやってるんじゃゴラァ!」


「ワウワウ!?(ご、ご主人、痛いっすうう!?)」


 怒りのあまり犬にヘッドロックをかます。

 異空間なんて作れたらとっくに作ってるっつーの!

 世界の時間、空間に干渉するのがどんなに難しいかわかってんのか!


 世界というのは一つの大きなエネルギーを持つ生き物だ、魔術を使う時に装填する自然属性や特殊属性はそのエネルギーを使わせてもらっているにすぎない。

 だが、禁術属性はまるで異なる、重力はその生き物の体を引っ張ったり押しつぶてるようなものだし、空間なんてその体を切ったり穴開けたりしてるようなものだぞ。


 ヤバいものになればなるほど世界にどんな影響を与えるかわからない……それが禁術属性だ。


「と、いうわけで、そんな複雑な回路を作ってる暇もない。即興でそんなものを作ったとしたら世界に悪影響を及ぼすかもしれない。わかったか犬!」


「ワ、ワウ……(わ、わかったっす……)」


 はぁ、勢い良く喋ったら腹が減った……。

 しかし最後のパンは先ほど食べてしまったし……どうするか。


「腹減ったなぁ……。でもこの場所から次の町までの距離は約20キロ……」


「ワフゥ(先は長いっすねぇ)」


 なぜ距離までわかるのかというと、[map]にそう書かれているからだ。

 あれ以来からも、このスマホにインストールされている[instant magical ver1.00]は有効活用させてもらっている。

 相変わらず送り主は不明だが、原理はそこそこ理解してきたので使用の仕方もバッチリだ。

 急にアップデートするのはやめてほしいがな……。


「しかし本当にどうするか。前の町に戻るとしても時間がかかるしな」


 この辺には食べられそうな野草もないし。

 異世界転移特有の魔物の肉もこの世界では倒した瞬間に霧散してしまうため役に立たない。


 うーん、仕方ない……こうなったらありったけの強化魔術を肉体に付与し、全速力で次の町まで行くしかないか。

 結構キツいが今はこのぐらいしか選択肢がない。


「じゃあやりますか。まずは途中で効力が消えないようにしっかりと魔力を練って……」


 ミスって途中で強化が切れでもしたら、その時点で多分盛大にコケるだろう。

 そのためにもしっかりと魔力を練り上げね……。


「そこのあなた!」


「え!?」


 背後から突然女性の声が聞こえて、思わず魔力の練上を中止して身構えてしまった。

 一体何事だと辺りを見回すと、一人の小柄な女性がこちらを見ながら佇んでいた。


「えっと……今のは、私に声をかけた……のか?」


 この付近には、私の他には犬しかいないのでそうだとは思うのだが。


「は、はい……! そうです」


 彼女はオドオドしながら私の質問に答えた。


 彼女の姿は、まるで魔女が被っているような大きな帽子を被り、その下から眼鏡をかけた顔と茶色い髪のふわっとした三つ編みが見える。

 うむ、なかなか可愛いな。


「それで、私に何か用か?」


「はい、少しお話をお伺いしたくて……。よろしいですか?」


 ふむ、可愛い女性の頼みならば断るわけにもいかんだろう。


「よし、何でも質問してくれ! 私が知っていることならなんでも……」


「じゃあ色々と質問させてもらおうか」


 えっ、誰!?

 さらにいきなり後ろから何者かに肩を掴まれる。


 振り向くと、私よりも一回り大きな男がいつの間にか立っていた。


「くっ!」


 肩に掴まれた手を振りほどき、二人から距離をとる。

 こいつは一体。


「先輩! 気配を殺して人の背後に立つのはやめてくださいって言いましたよね!」


 どうやら二人は知り合いのよう……というか二人で来たけどデカイ奴が気配を殺していたから気付かなかったってとこか。

 しかし、可愛い女性とデカイ男の組み合わせ、こいつらは一体……。

 よく見ると二人共同じような服装をしている(体格が違いすぎて最初はよくわからなかったが)。

 二人は同じ組織的なグループの一員なのかもしれない。


「うーむ、俺としては気配を殺している気はまったくないんだがな。それよりどうする、なんか凄く警戒されてるぞ」


「それ大体先輩のせいですからね……。あの……ごめんなさい、驚かせてしまって。私たちはあなたに危害を加える気はまったくないから」


 彼女はこちらに向かってペコペコと誤ってくる。

 まぁ私もそこまで驚いたわけではないのだが……それよりも彼女が男連れだったのが残念だ。


 っと、そんなこと考えてないでこちらからも応対してやらねば。


「敵意がないことはわかった、こちらとしても話をしてみたい。が、その前にお前たちがどこから来たどこの所属の誰なのか教えてもらいたい」


「あっ! す、すみません、名乗りもせずにお騒がせしてしまって」


 パタパタしながら慌てるこっちへ来る女性と何者にも動じないような姿勢でこちらに来る男。

 なんというか対照的だ……。

 二人は私の前に立つとピシっと姿勢を正した。


「コホン……申し遅れました、私は中央大陸にある都市『ブルーメ』の“魔導師ギルド”本部所属の魔導師、イレーヌ・トラバイトと申します」


「同じく“魔導師ギルド”本部所属、ジオ・オリスだ」


 風貌からしておおよそ予想はついていたが、やはりそうか。

 以前東領の領主の館で戦ったザコ魔導師とは違う本物の魔導師ってとこか。

 確かに彼女らから感じる魔力はそこら辺の一般人から比べたら遥かに多く、それでいて上質だ。

 ま、あくまでも『一般人と比べて』だけどな……。


「なるほど、ありがとう。では本題に戻ろう……私に聞きたいこととは何だ? 魔導師ということは魔術に関係することなのか?」


「いえ、そういうわけでは……あるのかな?」


 いやどっちだよ。


「と、とにかく、この近辺の町の人や旅をしている方々にある人物の心当たりがないか聞いて回っているんです」


 む、どうやら彼女らは私が(はぐれ)魔導師であると気づいたから話しかけたわけではなく、色んな場所で話を聞いていたのか。

 ちょっと残念だな。


 しかし人探しか、私は異世界人だからな、ここらで知り合いとなると“紅の盗賊団”の皆やエルフ族の者たち、パコムのホリィさんやガレイ、あと国王ぐらいだぞ?

 ……あれ、意外と多くね?


「……イレーヌに任せてたら日が暮れちまいそうだから俺が単刀直入に聞く。ここらでギルドに属していない凄腕の魔導師がいるって噂を聞きつけたんだ」


「私たちはそういったギルドに属していない優秀な人材を引き入れるのも仕事のうちなんですよ。どうですか、なんでもまだ若い少年だ、って話なんですけど」


「むむ!?」


「なにか心当たりがあるんですか!?」


 おいおい……マジか。

 ギルドに属していない凄腕の魔導師? しかも最近見かけるようなになった若い少年?

 ふっふっふ……奥さん、そんなのどう考えたって答えは一つでしょう。


「ああ知っているさ。その魔導師とは……私のことだからな!」


「ええ!?」

「なにっ!?」


 いやー、彼女たちはとても運がいいな、なにせ偶然話しかけた旅人が今話題の謎の凄腕少年魔導師だったなんてなー。

 しかしそんなに有名だなんて困ってしまうなー、私としてはあんまり目立たないように行動してたつもりなのn…。


「あれ? でも報告には《その少年はエルフ族だった》ともあった気がしたんですけど……」


ズコッ!


 え、エルフ? どういうことだ、ここらでエルフで凄腕の魔導師なんて……。


「あ」


 レイあいつか!

 そうだよ、確かにあいつは現代のヒョロ魔導師どもから見たら結構な凄腕だ!

 しかも出てきたのは最近、“紅の盗賊団”も国の精鋭部隊になってかなり人の目に触れるようにもなってきただろうし……。


「えっと、もしかして心当たりあります?」


「あるには……ある」




 私は二人にこの国に起きたこととレイのことを話してやった。

 しかし引き抜きだとするとあいつは応じないだろう。

 あいつにとってはサティやリアのいる“紅の盗賊団”こそが自分の居場所。

 国の部隊となっている今では余所に行くことなどないだろう。


「……というわけで、残念だがお探しのエルフ君はここから離れるつもりはないだろう」


「そうですか……残念です」


 せっかくここまで来たのに、と残念そうに肩を落とすイレーヌ。

 こちらとしては探している少年というのが私のことでなくてちょっと残念。

 まぁあまり目立たないように行動してたから妥当と言えば妥当なんだg……。


「それで、お前はどうなんだ?」


「ん?」


 デカイ男……ジオが私の方に向き直って質問してくる。


「先輩、一体何を質問してるんです?」


「いや、さっき言ってたろ「その魔導師とは私のことだ」って。だからお前もはぐれ魔導師、じゃないのか? どうやらギルドにも興味があるみたいだしな」


 おお! ぶっきらぼうなだけの男かと思ったらちゃんと聞いてるところは聞いてるぅ。

 しかもさりげなく私を誘ってくれてるような言い回し。

 こいつはいいやつだ、うん。


「その通り! 私こそ現代に蘇った最強の魔導師、無神限ことムゲンとは私のことだ!」


「ワウワウ!(いよっ、サイコーっすご主人!)」


 ふふ、犬も最近になって私のノリについてこれるようになったようだな。


「え、えっと、魔術を扱えるんですか?」


「それは勿論だ! 『フレイム』」


 ケルケイオンの先から軽く火を点ける。

 二人はこれに関心したように見ている。


「無詠唱で魔術を使うとは……そこそこできるみたいだな」


「む、これでは魔導師ギルドには入れてもらえないか? だが私の本当の力はこんなものでは済まないぞ」


 以前の戦いからの反省を得て、魔術回路をさらに強化しておいた。

 使い方を間違えなければ、以前使用した『反逆の雷突ライトニングディスオヴェイ』を放っても自分がダメージを負うこともないだろう。


「お前が凄いかどうか、判断するのはこっちだ。だから、試させてもらうぜ……」


 なるほど、実力を示せということか。

 そして実力を知るには戦うのが一番手っ取り早い。


 この男……ジオはギルドの本部からこの第二大陸へスカウトしにきた。

 つまり、ある程度実力を見極められるつわものでなければならないだろう。

 この男、どこまでの実力があるか……。


「イレーヌがな」


「ええっ!?」


 っておい! お前が戦うんじゃないのかよ!

 しかもイレーヌだっていきなり振られたからオロオロし始めちゃったし。


「先輩! 自分でやってくださいよ!」


「いや、だってお前の方が強いじゃん。それに今回の任務ももともとはお前一人だけのはずだったのに俺を引っ張ってきやがって。まぁ内気なお前だけじゃ心配だったから別によかったけどさ……」


「わーわー! わ、わかりました先輩。ムゲンさんの実力を測る役目、喜んでやらせていただきます!」


「あのー、なんでもいいから始めてくれないか……」


 なんだこのリア充ムードは……。


「す、すみません……!」


 距離を開けやっとこさ戦う準備が整った。

 合図と判定はジオが担当する。


 しかし女性と戦うのか……。

 私は別に女性に手を挙げられないなどということはないが、果たして全力で戦っていいものか?

 ジオよりは強いと言うがそちらの実力も私にはわからない。


「おい、お前。イレーヌが女だからってナメてたら……痛い目見るぜ」


「なに? それはどういう……」


「はじめ!」


 っておい!

 少しはまともに話しをする気はないんかい!


「よそ見は禁物ですよ! 彼の者の分体よ、自らの主人を縛り上げよ『主影の反乱シャドルリベンジャー』!」


「なっ!?」


 私がジオに対して文句を言おうとした瞬間、イレーヌが高速で呪文を唱え終わる。

 すると、彼女の持つ杖の先から物凄い光が放たれ私の視界を塞いだ。


(ぐおっ! 目眩ましの光魔術か? ……いや、この魔力反応は光だけではない!?)


 このままではマズいと思った私はすぐさま魔術を使用する体制に入る……が、それは私の後ろに現れた何者かが私の体を拘束し、動きを封じられた。


「も、もが!」


 口まで封じられ喋ることもできない。

 まさかの二体一? と思ったが、そこにいたのは人ではなく普通の人間よりちょっと大きめのサイズの真っ黒な何かが私の体をがんじがらめにしていた。


(えっと……どちら様?)


「あーあ、だから忠告したんだぜ。イレーヌは相手の動きを封じる付与魔術が得意なんだ。おとなしそうな顔してエゲツねぇぜ」


「先輩、それ以上は流石に怒りますよ」


 ふむ、大体理解できた。

 先ほど放たれた魔術は光属性の後に闇属性に変換されるちょっと特殊なものだ。

 まず強い光を放つ……これは相手の視界を塞ぐのと同時にあることをするのが目的だ。

 それは、相手の影を伸ばすこと……。

 そう、今私の体を拘束している奴は私の影なのだ。

 強い光で大きく引き伸ばされた影が闇属性の魔術で実体を与えられる。

 そしてそのまま自分の影に縛られながら後は煮るなり焼くなり好き放題というわけだ……。


「えっと、拘束しただけでは『倒した』ことにはならないので少し攻撃させていただきますね。あとで回復魔術かけてあげますから。……『炎弾フレイムショット』!」


「これで終わりか、あっけなかったな」


 迫る炎弾、私は体を……口を塞がれなにもできない。

 そのまま私は為す術もなくその炎弾を……受けないんだなこれが。


(ボチっとな)


パシュン!


「えっ!?」

「なに!?」


 私に迫っていた炎弾は直前で何かに阻まれたかのようにかき消された。

 二人は何が起こったのかわからないといった様子だ。


(今度はこっちだな)


カッ!


「きゃ!」


 ケルケイオンから眩しい光が放たれる。

 やがて光が収まると、拘束していた影は消え去り、私はいつもの状態へと戻っている。


「おいおい、一体何が起きたんだ? あいつが何かしたようには見えなかったぜ」


「私の影人形も消されてるし……どうなってるのかしら?」


「ふっふっふ……なに、この程度私にかかればわけないということさ」


 ま、実は全部持ち物アイテムのおかげなんだけどなー。


「ワウン……(あんなもの、いつの間に入ってたんすか……)」


 私の手には右手にケルケイオン、そして左手にはスマホが握られていた。

 先ほどの炎弾を防いだのは……そう、このスマホだ。

 実は先日またいつの間にか新たに魔術が追加されていのだ。


[wall]障壁 消費魔力:受ける力に依存 攻撃に対して使用することでその衝撃や魔術の力を打ち消す 打ち消しには限度があるので注意


 というものだ。

 相手の攻撃を防ぐ障壁……魔術に対して使ってみるのは初めてだったが大丈夫なようだな。

 書かれているように強すぎる力にはすぐにスマホ内の魔力が切れてお陀仏だ。

 万能ではない。


 そして、影を打ち消したのはケルケイオンの自動魔術オートマジック(改名した)だ。

 予め仕込まれていた『光源ライトアップ』の出力を最大にして発動させることで影を打ち消した。


「ま、所詮は影だ、強い光に照らされれば消える」


「やりますね……でもそれならもう一度捕えるまでです! 彼の者の分体よ……」


 イレーヌは落ち着きを取り戻し、再び詠唱に入る。

 だが……。


「悪いが私に同じ手は通じん! 術式展開、属性《闇》、《生命》『影の守り手シャドールナイト』!」


「『主影の反乱シャドルリベンジャー』!」


 再び辺りが光に包まれる。

 先ほどと同じなら、私はまた自分の影に拘束されることになるだろう。

 先ほどと同じなら……な。


「さぁ、これでもうあなたの影は……って、え!?」


「こいつがどうかしたか?」


 私の影は操られていない。

 それどころか影は私と同じサイズの人型を保っており、私と仲良く肩を組んでいる。

 イエーイ。


「そ、それは一体……」


「こいつは私の影だ。そちらの魔術が発動する前に先に作らせてもらった」


 向こうの魔術は私の影に魔力で命令する形のものだ。

 なのでその前に私の命令式を組み込むことで別の術式を組み込むことでシャットアウトした。


「で、でも、影だったら私の放った光で消えるんじゃ……」


「その辺のケアもばっちりなんだなこれが」


 こいつにはさらに生命属性も追加してその形を固定してあるのだ。

 光で影は消えかけるが、生命がバラけないように食い止める。


「さて、今度はこちらから攻めさせてもらうぞ! 影よ、お前は右から攻めろ、私は左から行く」


 二人(?)で同時にイレーヌに向かっていく。


「ほう、魔導師だったら普通あの陰に前衛を任せて自分は後衛に回るもんだがな。なかなか根性あるじゃねぇか」


「先輩、関心してないでちゃんと審判してください。それにしても、これはどっちを狙えば……」


 普通の魔導師ではありえない突進行為に戸惑うイレーヌ。

 ほれほれ~、早く決めないと同時に襲っちゃうぞ~。


「ワウン……(ご主人がゲスいこと考えてる気がするっす……)」


 うるさいぞ犬!


「くっ! 二人ともまだ距離があるけど、影の方は魔術は使えない、だから狙うのは本体です! 『炎弩砲フレイムバースト』!」


 先ほどよりも数段強い炎が迫る!

 だが……。


「悪いが許容範囲内だ、[wall]をポチっとな」


パシュン!


 これでスマホ内の魔力が残り8%……これ以上の打ち消しは無理か、あぶね。

 だがこれで[wall]の詳細もわかってきた。

 ごめんね実験台にして。


「そんな、これも駄目だなんて」


「落胆してる暇はないぜ」


「えっ」


 私がイレーヌの気を引いてる間に影の方はすでに飛びかかっていた。


「しまった! 魔術で迎撃を……」


「いや、これで終わりだ。第二術式展開、追加属性《水》、『軟体捕縛ネバースライム』!」


バニュン


「な、なにこ……きゃあ!」


 私の影は術式を追加した途端にその姿を変え、スライム状になってイレーヌに覆いかぶさった。

 影は魔術が使えないと侮っていたようだが、あれ自体も私の魔術の塊……追加術式でどうとでもなる。


「こ、これ、動く度に絡まって……」


 ぬちょぬちょと絡みつくまっ黒なネバネバのスライムを外そうともがくが、動く度にスライムはどんどん拘束していく。


「あんっ……だめっ、そんなとこ入らないで……」


 ……なんかエロいな。


「ワウ……(ご主人、ゲスいっす……)」


 別に意図してやったわけじゃないっつーの……いや、実はちょっと期待してましたすいません。


「ふぅ、拘束されて背後に立たれて……これは完全にイレーヌの負けだな」


「と、いうことは?」


 ジオは頷いたあと私の手を持ち、高らかに宣言した。


「勝者、はぐれ魔導師ムゲン! おめでとう、我々は君を新たなギルドの一員として迎え入れよう!」


 これでようやく私も“はぐれ”がなくなるわけだ。

 待ってろよ“魔導師ギルド”、この私が魔導師界に新たな旋風を巻き起こしてやるぜ!


 ……あれ、私の目的ってそれだっけ?


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