46話 予期せぬ戦い


「なに!?」


 あの子供、完全に私達の方を指刺しているぞ!

 マズい、他の奴らも気づいたみたいだ。

 私達が隠れる間もなく扉は開かれ、全員に見つかってしまった。


「なんだ貴様らは!? 衛兵、こいつらを捕まえろ!」


 領主が号令を出すと屋敷中の兵が集まってきた。

 この狭い廊下でやり合うのはマズいな。


「とりあえず走るぞ! こっちだ」


 私達は衛兵がやってこないほうへ走りだす。

 まさかあのタイミングで……しかもあんな子供にばれるなんてな。

 まったく勘がいい……のか? なにか違和感がある。

 まさかあの子供、最初から私達のことに気が付いて……。


「そこまでだ、追い詰めたぞ賊共め!」


「クソッ! おい、囲まれたぞ!」


 考え事をしている内にいつの間にか集まってきた数十人の兵士に囲まれてしまったようだ。

 他にも白い服を着た奴らがいるな、杖を持っているから魔導師かもな。

 辺りは先ほどの廊下と打って変わって大きな広間のような場所。

 よし、ここなら存分に暴れられるな。


 それにしても賊か……ここに侵入しようとした経緯は偶然としても、まぁ確かに私達は賊だな。


 さて、今の状況ではもう最初の作戦である"目的の二人のみを連れ出して決着を付ける"という方法はもう無理だと考えたほうがいいだろう。

 となると……。


「賊め、何が狙いだ。金か? 私の命か? それとも……。まぁいい、どのみちあの話を聞かれたからにはここから帰す訳にはいかないからな」


 あの話……『エルフ族狩り』のことだろう。

 しかしなぜそんなことを、大量に奴隷として売り出すためか? それとも第三大陸にいたような亜人排他主義の奴らみたいなもんなのか?

 ま、今はそれよりもこの状況をどうにかすることを考えないとな。


「レイ、今はあいつらへの復讐なんて考えてる余裕はないぜ」


「ああ、それよりも問題な話を聞いたからな。大丈夫、今の俺は冷静だ」


「ならよし、どうにかしてここを切り抜けるぞ。生きて帰ってこのことを報告しないといけないからな」


「報告だと! まさか貴様ら本国からの密偵か何かか!?」


 おや? 何か勘違いしてるみたいだな。


 私とレイの二人ならこの人数を相手にしても何とかなるはずだ。

 問題はあちら側の魔導師だが、フードのヒョロ男からはそこまで強い魔力は感じられないし他も大したことはなさそうだ。

 とにかく、一刻も早くサティ達に知らせなければ。


 報告したところで紅の盗賊団がこの問題をどうこうできるかどうかは別だが、方法ならいくらでもあるだろう。

 それにこの領主は今"本国からの密偵"と言ってかなり動揺していた。

 つまりばれたらヤバいことに手を出しているってことだろう。

 後で私達の素性を隠してこっそり王様に密告でもすればいい。


「さて……レイ、暴れるぞ!」


「こんな状況だ、手加減なんて出来ないが構わんな!」


「どう考えても手加減無用だろ! いくぞ、『肉体強化ブースト』!」


 まずは私達自身の強化だ。

 久々の戦闘だ、私も溜まっているものをここいらで発散させてもらおう。


「蹴散らしてやる『烈風拳ウィンドストライク』術式固定!」


 レイの魔術により数人の兵がすっ飛ぶ。

 まだ術式は安定してないが威力は前よりも上がっているな。


「何をしている! 奴らを早く捕えろ! どこの手のものかをはっきりさせるのだ! ガリ、デッカ、お前らも戦え!」


「ういーっす。めんどいけどあいつら魔術使うみたいだし、しゃーないな……やるぞデッカ」


「ハッハー! どいつをぶっ殺しゃいいんだぁ!」


「いつも言ってるだろ……。殺すな、捉えるんだよ」


 あいつらガリとデッカって名前だったのか、似合いすぎだろ。

 あの二人が出口の方へ移動する、これで奴らを倒さなければここから出ることはできなくなったってことか。

 ふっ、上等! こちとら最初からお前らを殺る気で来たんだ、逆に都合がいい。


「おとなしくしろ!」


 おっと! 周りの兵のことも忘れちゃいけないな。

 一人一人相手にするのも面倒だ、まとめてかたずけるか。


「術式展開、『雷連鎖ボルトライン』!」


「うわっ! あれ? なんともない」


 何人かの兵に向かって魔術を放つが兵の体が光るだけで何も起きない。

 不発? いやいやそんなことはない、これは次に繋げるための立派な布石さ。


「ただのこけおどしか! くらえ」


「くらうか、第二術式展開『電気縛りサンダーバインド』!」


「あびゃびゃばばば!!」


 雷を帯びた鎖が兵に巻きつき痺れさせる。

 だがそれで終わりじゃないぞ。

 ほら、他の兵にも浴びせた『雷連鎖ボルトライン』の光が強く輝きだした。


「えっ? なんだこ……あびゃびゃびゃ!」

「あがががg!!」

「おばばば!!」


 最初の兵に使用した『電気縛りサンダーバインド』から近くにいた兵に鎖が伸びていき捉える、さらにそいつから出る鎖が他の兵に向かって伸びていく。


 『雷連鎖ボルトライン』は一人が電撃を浴びればそれを浴びている者に連鎖させていくという単純なものだ。

 だが、術式として組み込むことで"電撃を浴びせる術を連鎖させていく"魔術へと変わるのだ。


「き、貴様……」


「あ、動かない方がいいぞ」


「え? あびゃばがらば!」


 言わんこっちゃない、『電気縛りサンダーバインド』は相手が動くと電気を浴びせる性質を持っている。

 そしてそれには当然『雷連鎖ボルトライン』も反応する訳で……後はわかるな?

 まぁご愁傷様ってことだ。


「これで半分は減ったか」


「こっちも大体片付いたぞ」


 レイの方を見るとあちらも大量の兵が転がっていた。

 うわー……壁に刺さってるのもいるよ、流石に容赦ないな。


「さて、残るは」


 突破するべき道、そこにはガリ達と魔導師達、あとは残った数人の兵か。

 領主とあの子供はちょっと遠くに避難してるな。

 どちらにしろこれ以上増援が来たら流石にしんどい、さっさと突破しないと。


「魔導師部隊! やれ!」


「「「はっ! 炎よ、その身を弾丸となりて打ち抜かん!」」」


 ガリの号令で魔導師達が一斉に詠唱を始める。


「させるか! ふん!」


 あちらが詠唱を終える前にレイの『烈風拳ウィンドストライク』が魔導師達に襲いかかる。

 無駄な詠唱をしているあちらの魔術とは違い、術式を固定してあるレイの魔術は腕を振るだけで飛んでいく。

 放たれた魔術はまっすぐに飛んで行き、確実に魔導師達を捕えていた。


 が……。


「させるかよぉ! オラァ!!」


「なっ!?」


 魔導師達をかばうように前に飛び出してきたデッカがレイの魔術に突っ込んでいった。

 まじか!? 完全に直撃コースだぞ!


 レイの魔術の勢いは止まらず進んでいき……。


ズガアアアアァァァ……!!


「ぐううぅぅ! はぁ!」


 耐え切りやがった。

 なぜだ? あの威力なら常人はおろか屈強な肉体を持つ者でも耐えることはそうそう出来ないはずだ。

 あいつ一体どんな体して……いや、何か違う気がする。


「オラオラどうした? その程度かよ。そんなんだったら何十発でも受け止めてやるぜ?」


「くそっ! 奴の体どころか鎧にまで傷をつけられないだと」


 鎧? そういえばあの鎧はレイの魔術をまともに受けたのにあんなに綺麗だ。

 先程受け止めていた時にも何か違和感があった気がするし。

 まさか……。


「ケルケイオン検知モードオン! 対象《デッカの装備している鎧》」


 何かあると悟った私はケルケイオンの能力の一つである性質調べモードを使用しあの鎧を調べる……すると。


《検知結果:対魔鎧・一定の魔力を雲散させることのできる鎧》


 なるほど、実にシンプルな説明だ。

 つまり先程の違和感は対魔鎧によってレイの魔術が弱まっていったんだな。


「対魔鎧か」


「ほう、この鎧のことを知っているのか? これは最近魔導師ギルドで製作された代物なんだがな」


 ガリが関心したような声で言う

 いやまぁ、前世でもああいった性質の武器や防具は存在していたんだがな。

 でもとある理由で皆使わなかったんだよな。


「デッカ、そこをどけ。あいつらにこれをお見舞いしてやるからな」


「おっとすまねぇな、ほらよ!」


 デッカが道をあけるとそこには既に詠唱を終えた魔導師達がスタンバっていた。


「「「『炎弾フレイムショット』!」」」


 うおっ! あいつら一人一人の魔術を固めて一つの弾にしやがった。


「それならこっちもちょっと大きめのやつを用意しないとな。『水壁アクアウォール』!」


 水の壁をだして応戦するが巨大な炎の弾は止まらない、なら!


「第二術式展開『螺旋流水スパイラルストリーム』!」


 勢い良く渦を巻く水の壁が炎の弾丸を飲み込んでいく。

 以外にも結構な魔力を使わされたな……まぁいざとなればケルケイオンのブーストがあるから大丈夫か。


「今だ! 押し通るぞ、くらえ!」


ヒュヒュン!


「あ、ちょっと待てレイ」


 炎の弾を打ち消したらレイが素早く前に出て連続で『烈風拳ウィンドストライク』を打ち込んでいく。


「無駄だぁ! オラオラオラァ!」


「クッ! 駄目か……」


 何発撃とうとデッカの対魔鎧に止められてしまう。

 そうしている間にも後ろの魔導師達が次の詠唱を始めている。


「あの鎧さえどうにかできれば」


「できるぞ」


「なにっ!? それならそうと早く言え!」


 だってお前、私が待てって言ったのに突っ込んでったからな。


「で、あれをどうやって突破する」


「簡単だ、あの鎧は一定の魔力を雲散させる。だったらあの鎧が雲散出来ないほど大きな魔術をぶつければいいだけだ」


「そ、そんな単純な方法でいいのか?」


 レイの言うことはようはもっともだ、ようはごり押しだからな。

 前世でも余り使われていなかったのは"術が強すぎて鎧がほぼ無意味、重いだけなら脱いだ方がマシ"という結果になったからである。


「まぁいい、なら俺の『竜巻突槍トルネードランス』で……」


「いや、それでも威力は足りないだろう」


 先ほどのレイの連続攻撃を受けきったことを見ると『竜巻突槍トルネードランス』ではまだパワー不足だろう。


「そこでだレイ、私達二人で強力な魔術を作り上げようじゃないか」


「二人で?」


「なに、さっきやられたことをやり返してやるのさ」


 どっかの銀行員も「やられたらやり返す……倍返しだ!」とか言ってるだろ?


「とにかくお前は全力で『竜巻突槍トルネードランス』を打ち出すんだ」


 今のレイならその位できるはずだ。


「わかった、だが失敗したら許さんぞ! 第二術式展開『竜巻突槍トルネードランス』!」


 『烈風拳ウィンドストライク』の術式を使用することで『竜巻突槍トルネードランス』を撃ち出すことが可能だ、練習の成果がでたな。


「さっきよりは強そうなのがきたなぁ! だけどそれも受け止めてやらぁ!」


 先程と同じく自信満々に構えるデッカ。

 だがその余裕、いつまで続くかな?


「それはこれを見てから言ってもらおう。術式01『電気縛りサンダーバインド』、術式02『螺旋流水スパイラルストリーム』……術式合成! さらにレイの魔術に絡みつけ!」


 固定されていた二つの術式は一つになりながらレイの術へと向かっていく。

 そしてすべてが一つとなり……。


「完成! 合成魔術『嵐竜突貫ストームドラゴン』!」


 巨大な嵐の竜が完成する。

 竜は辺りを飲み込みながらデッカ、そしてその後ろのガリと魔導師達に向かって突っ込んでいく。


「「な……」」


 これで……ジ・エンドだ。


「「なんじゃこりゃあああああああああああああ!!!」」





 ……私達の目の前には鎧を破壊されたデッカとガリ、その他大勢が転がっている。

 ふぅ……結構手こずったな、魔力もそこそこしか残っていないし。

 だが向こうに残っているのは離れて見ていた領主と子供だけ。

 もはや抜け出すのは容易だろ。


「ま、でもこれで私達の……」


 勝利、そう言おうとしたその時……。


「そう、君達の負けだね」


 その言葉を発したのは、またしてもあの子供だった。


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