45話 復讐の炎は未だ消えず
レイの様子がおかしい。
驚いているような顔だが、その瞳の奥には初めて私達と対峙した時のような怒りの感情が燃え上がっているようだ。
「レイ、どうした!? 一体なにがあった」
「くっ! あいつら……」
どうやらレイの耳には私の声が届いていないようだ、視線も私のほうを見ないで一点をじっと見つめている。
「あちらの方に何かあるのか」
振り返りレイの視線の先を見つめるがそこには先程から賑わう人の波が見えるだけだ。
「ッ! 邪魔だ、どけ!」
どんっ!
「おわっ!?」
人混みに集中していた所をレイにいきなり突き飛ばされた。
レイは私のことなど気にせず一目散に人混みの中へと駆けて行った。
あんにゃろ、サティにここで待ってるように言われたってのに。
犬もいないし、今サティに連絡を取ることはできないけど。
「あんな状態のレイを放っておける訳にもいかないだろ」
私は立ち上がりレイのあとを追う、幸いこの程度の距離ならばあいつの魔力を感知できる。
伊達に最近一緒に特訓してたわけじゃないぜ。
レイの魔力回路は“魔法神式魔術式”によってそこらの人よりも複雑かつ効率的な形になってきたからな、探せばすぐにでも「こいつだ!」ってな感じで判る。
「しかし……レイのあの様子、ただごとじゃないな」
先程のレイの表情はなんだか鬼気迫るようなものがあった。
ここ最近はリアが傍にいたり、色んな人と触れ合うことでツンツンした性格はそのままだが表情はなんとなく明るくなってきたと思っていたのに……。
「考えるのは後だな。今はレイを追いかけなければ」
レイの魔力を感知し、その魔力の残り香から足早に追いかける。
まったく、帰ったらリアにお仕置きしてもらわないとな。
「クソッ! あいつら、どこ行きやがった!」
ついに、ついに見つけた!
五年前のあの日、俺達の集落を襲い姉さんを攫った二人組。
まさかこんな所で見つけることができるなんてな。
しかし人が多いせいで見失って……いや、いた!
どうやら奴らはここからでも見える一番大きな屋敷に入ってくようだ。
あそこが奴らの拠点なのか? いや、今はそんなことはどうでもいい、この手で奴らへの復讐を果たせるなら。
「よし」
「いや、よしじゃねぇよ」
「おわっ!」
振り向くと俺の肩を掴んでいる魔術馬鹿がいた。
くそっ! もう追いつかれたのか、相変わらず邪魔な奴だ。
「一体どうした、そんなに慌てて」
「放せ、貴様には関係ない」
そうだ、今はこんな奴に構ってる暇はない。
「関係なくはない。お前は今紅の盗賊団の一員、そして私はお前の教育係でもある」
「うるさい! 奴らが、五年前集落を襲った奴らがあそこにいるんだ! 誰が止めようと俺は行く!」
肩に掴まれた手を強引に振りほどき屋敷へと走り出そうとする。
……が
「待て! レイ」
それでも
だが無駄だ、俺はもう止まることは……。
「真正面から突撃するとかアホか。こういった屋敷には裏口があるって定番なんだよ。ほら、こっちだ」
……は?
思っていた言葉とは全く違う、それどころか俺の屋敷への侵入を手伝うかのような言葉に思わず足を止めてしまった。
「お前は、何を言ってるんだ?」
「ん、侵入するんだろ? 正面には当然のように門番がいるし、だったらあっちの茂みのほうか攻めたほうが見つかりにくさが増すだろ。しかしでかい屋敷だな……ほら行くぞ」
こいつは……一体何を考えているんだ?
しかしレイ達の集落を襲った奴らがこんな所にいるとは。
やれやれ、相変わらずこういったことに巻き込まれることが多いな。
これで隣にいるのが超絶美少女なら最高なんだがな……はぁ。
まぁいい、とにかく今はこの屋敷への侵入ルートを……
「おい」
「なんだ? やるならさっさとやろうぜ。おっ、この辺がなんとなく怪しい」
「本当か? いやそうじゃない! どういうつもりだ。俺を止めないのか?」
レイが戸惑いながら私に質問してくる。
まぁそうか、普通あの場面なら「モウヤメルンダッ!」とか「そんなことしちゃいけない!」とか言うだろうしな。
だが私は普通じゃないからな。
「仮に今お前を止めてアジトに戻ったとして、その後お前が一人でここに行かないという保証はない。てか絶対抜け出すだろ、お前」
「当り前だ」
「だったらお前を一人で行かせるより付いていって近くでフォローする方が何の心配もない。それに、近くにいた方が色んなものが見えるからな」
私の今までの経験から、こういう時は時間を掛けて遠くで対策を練るよりも近くで何が起きているかを知ることが重要だと考えている。
百聞は一見にしかずという所だ。
「ついてきて、俺の邪魔をするつもりか……」
「それも状況次第だ。おっ……これは」
屋敷の裏側をコンコン叩きながら散策していると、一見同じ壁が続いているように見えるが一部分だけ叩くと乾いた音がする場所がある。
よく見ると色合いも少し違う、他よりも若干奇麗だ。
その部分の端を少々力を入れて押す、すると……。
「なっ! これは……」
まるで忍者屋敷に出てきそうな感じの回転扉がギギッと音を立てて開く。
「ビンゴだな」
しかしこの隠し扉といいレイの集落を襲った奴らが出入りしていることといいこの屋敷は何かキナ臭いな。
この扉に関しては、昔からあったが今は使われていないものかもしれないが。
「よし、行くぞ」
私とレイは恐る恐る屋敷に乗り込む。
隠し扉を閉めるとこの空間は真っ暗になってしまった。
「暗いな、これだと何も見えないぞ」
「焦るな、『
暗い場所でのお決まり魔術を発動し視界を確保。
光の強さを弱にしているのはちょっとした保険だ、誰がいるかわからんから用心するに越したことはない。
まぁそれでもバレる時はバレるけどな。
「さて、見た感じこの扉から繋がっているのはこの階段だけみたいだな」
おそらく地下に繋がってるであろう少し幅の広い階段。
これ以外には他に目に見える扉も隠し扉もなさそうだ。
「なら、ここを降りるしかないだろう」
その通りだ。
私とレイは慎重に階段を降りる、意外と整備はしっかりしているようなのでスムーズに進むことができた。
だが、整備されているということは誰かが頻繁に出入りしている証拠だ、使われなくなった古い仕掛けの線は薄くなったな。
だったら一体何のために使って……おっと、どうやら最下層に着いたようだ。
「結構広いな、奥の方にはまだ何かありそうだが……」
『
この奥には一体何が……。
若干生き物の気配がする気がするが……。
「おい、こっちに上へ続く階段があるぞ!」
おわっ! 急に大きな声を出すな、気づかれたらどうする。
だが、レイの言う通り階段がある。
その先からは光が差し込んでいるようで人の話し声のようなものも聞こえる。
「おそらく奴らはこの先にいる」
例の二人組が屋敷に入ってから私達が侵入するまでそんなに時間は経っていない。
もし奴らがここへ降りていたとしたら今頃鉢合わせになっている筈だ、つまり上いるのは確定か。
奥も気にはなるが今はこちらが優先だろう。
「よし、乗り込むぞ!」
「レイ! 乗り込む前に、一つだけ約束をしてくれ」
「約束?」
「奴らへの復讐が終わったら、もう無闇やたらに人族を憎み、襲うのはやめるんだ。これが約束できないなら私はお前を全力で連れ帰る」
「……」
そう、これはレイの今後を決める重要な選択。
奴らへの復讐を果たせばレイの気分も晴れ、復讐と言う名の呪縛から自らを解き放てるだろう。
だが、もしそれができないのなら……レイにはもっと長い時間が必要になる。
「わかっ……た。努力しよう」
私はその言葉を聞いて安心した。
口ではなんとでも言えるだろうが、一度口にした言葉は変えることはできない。
レイが言葉にして約束するということが重要なのだ。
「よし、なら行くぞレイ。あ、でも奴らを見つけるまでは慎重にな」
「まったく、緊張感のない奴だ」
抜き足……差し足……忍び足。
現在我々はこの巨大屋敷の中をコソコソと散策中。
万が一見つかってしまった時のために二人共顔に布を巻きつけて正体を隠す完全防備! いや本当はガバガバだけどさ、無いよりはいいじゃん。
でも幸いなことにこの辺りには人は余り通らないみたいだ。
そんなこんなで部屋を一つづつ見て回っているんだが……。
「クソッ! ここもハズレか」
見ての通り屋敷の広さに翻弄されてますよ。
こんな調子で見つかるのかね。
と、思ったら。
「―――――!」
「―――……」
どこからか話し声が聞こえる…。
「これは、この部屋か」
「ああ、そしてどうやら……当たりのようだな」
扉の隙間から先程見たフードのヒョロ男と大柄な巨漢がいた。
うわ……なんだこの部屋、すげぇキラキラしてる。
こんな部屋逆に酔いそうだ……。
どうやら二人は奥にいる人物と話しているようだ。
奥にはキラキラと悪趣味な装飾品を鏤めた服を着たおっさん、その傍らにはまだ幼さが残る子供がいた。
ミミよりも少し年上って感じかな? 綺麗な顔立ちをしている、男か女かよくわからないな。
もしかしたら男の娘ってやつかもしれない……。
「ついにここまで来た。行くz……」
「ちょちょ! いきなり突っ込もうとするな阿呆! ここで騒ぎを起こしでもしたらすぐに人を呼ばれて囲まれて終わりだ。もう少し様子を見よう」
まったく、レイは本当に考えなしに突っ込みたがるな…。
私としては余り他の人物を巻き込みたくないというのもある。
何を話しているのかも気になるしな。
「とにかく、奴らが二人きりになるまで待て」
「それだとかなり時間が掛かりそうだぞ、最悪侵入した意味がなくなるかもしれない」
「大丈夫だ。話が終り次第、出てきた所を私の魔術でちょちょいとこちらに引き寄せる」
そして人の少ない場所へ連れて行き音を抑える結界魔術を使えば気づかれる確率がぐんと下がる。
後は私とレイの二人で速攻でかかれば屋敷の人間に気づかれた時にはもう私達はとんずらこいてるという寸法だ。
「チャンスは……あるんだな」
「ああ、だから今は待て」
レイもわかってくれたようだ。
それよりも何を話しているのか気になるな、仮にもエルフの集落を襲ったような奴らがこんな所に何の用だ?
耳を傾けると、ちょうどヒョロ男が話し始めた。
「いやぁ、それにしてもルーベンス商会のことは残念でしたね領主様」
「なに、気にすることはない。確かにあいつはいいものを仕入れてくるが……代りなら他にもいる」
……驚いた。
ルーベンス商会……この前私が護衛していた違法奴隷商人じゃないか。
そしてあの男は領主だったのか。
「そんなことより…、あの計画はどうなっている」
「ええ、順調ですよ。あと数日で準備は整うかと」
嫌な予感がする。
集落を襲った二人組、ルーベンス商会、このキナ臭い屋敷とその主人である領主……。
計画とは、まさか。
「人数さえ整えばすぐにでも始動できます。手筈通りこの計画は本国はおろか他の領主にも悟られないよう配慮しております」
「慎重にやれよ……この『エルフ族狩り』計画はな」
「なっ!? なんだと……むぐ!」
「抑えろ、レイ!」
領主の衝撃発言により飛び上りそうだったレイを抑え、落ち着かせる。
それにしても『エルフ族狩り』だと!?
これは、レイの復讐どころの話じゃなくなってきたな。
とにかく、もっと情報を……。
「ねぇ、それよりさ」
いきなり領主の隣にいた子供が話しだした。
いやね、今君の話を聞いてる暇はこっちにはないから後にしよ……。
「この部屋の扉の前で聞き耳を立ててる奴らはどうするの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます