34話 “紅の盗賊団”


 あれはそう……いつのことだったか?

 獣人の国を去ってからそんなに経たなかったな。


 私とドラゴスは深い森の中で道に迷ってしまい、何日もさ迷い歩いた。

 ドラゴスはまだ未熟で空を飛べなかったし、長寿減食の魔法を使えなかったりであの時は本当に困った。

 さらに数日間さ迷っていたらエルフ達の領域に足を突っ込んでしまい、敵国のスパイだの王女の命を狙いにきた暗殺者だの散々な言われ方をしたなぁ。


 それから……どうなったんだっけな? 他種族との戦争が起きようとして、なんやかんやで王女と仲良くなって……。

 はぁ、なんであの時の私はあんなに恋に興味がなかったんだろうな……あの王女の子は絶対私に気があっただろ。

 しかし、なぜ今こんなことを思い出すんだろうか?

 そもそも私は今何をしているんだったか……。




 そう考えたところで私の意識ははっきりしてきた、目の前に眩しい光が差し込んでくる。


(そうか、これは夢だったか。なんでまた前世の頃の夢なんて見たんだろうな……)


 多分起きたら忘れているだろう。

 でも、久々に懐かしいものが見れた。


 さて、起きた先は天国か地獄か……まぁいい期待はしないでおこう。



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「……ここはどこだ?」


 目が覚めると私は知らない場所で藁でできた寝床に横になっていた。

 土の匂い、岩の天井があるということは洞窟や洞穴かなにかというとこか?

 それにしてはやけに明るい、あちこちに置かれているランプのようなものから光が発せられてるみたいだ。


「僅かに魔力を感じるな、これも魔道具の類なのか?」


 まぁ魔道具も気にはなるが、今は私のおかれている状況の確認が優先だな。

 私の荷物は……寝床の近くに置いてあるな。

 ケルケイオンもちゃんとある、よかった。


 意識を失う前、私はとある依頼で荷馬車の護衛をしていたはずだ。

 しかし途中で盗賊団……と言っても最初現れたのは一人だったが、とにかく盗賊団がやってきて戦闘になった。

 相手の圧倒的な強さを前にヤバいと感じた私はエネルギー補給をしようと馬車を開けるとそこには違法奴隷が。

 中にいた少女を救うため雨を降らせたとこまでは覚えてる。


「よくは見ていなかったが、確か戦闘は盗賊団の勝利で終わったはずだ。となると私は攫われたか放置されていたとこを誰かに拾ってもらったか」


 後者なら拾ってくれた人にお礼を言わなければ、前者ならどうにかして脱出しなくては。


ぐぅぅぅぅぅぅぅううう……


 ああ、しかしこんな状態じゃ抵抗したくともまたすぐ倒れてしまうのが目に見えている。


「どこかに食料でも落ちていないか……ん、この匂いは?」


 奥の道の先からなんだかおいしそうない~い匂いが……。

 人の声もする、結構な人数がいるな。


 ケルケイオンを片手にいつでも戦闘できる状態へ。

 道の先へそ~っと歩いて行く。


「抜き足、差し足、忍び足。やはりこちらの方から声がどんどん大きくなっていく。……あそこか」


 道の先に大きな空間がちらっと見える。

 そ~っと覗いてみると……。


「いやー! 今回も上手くいきやしたね、お頭!」

「お前ら見たか!? あの成金野郎の脅えながらションベン垂らして去ってく顔をよ」

「酒足んねぇぞー! もっと持ってこーい!」


 どうやら宴会中のようだ、やんややんやと騒いでる。

 しかし、会話から察するとやはりここは盗賊団のアジトみたいだな。

 お、あの女性は……。


「皆! 今回もよくやってくれた。そして、これでこの領地のノルマは達成された! 今日は祝いだ、好きなだけ飲め!」


「イヤッフゥゥウウウ!」

「お頭最高ー!」


 私達を襲った盗賊団の頭が乾杯の音頭をとっている。

 彼女がいるならここを抜けるのは難しそうだ、どうやったかは知らんがあの強化術には今は対抗できない。


 しかし他に道はなさそうだし、ここは宴会が終わって全員酔いつぶれているとこをこっそり抜け出すのがベスト……ん?


「おっ、すげーぞこいつ!」


「いいねぇ、もっとやれやれー!」


 なんだ? 頭がいる方でなんか盛り上がってるな。

 誰か芸でも始めたか?


 こっそり近づいて、どれどれ……って!


「ワウンワウン(今日はいつもより多く回っておりま~す)」


 犬の奴が回る傘の上で体を丸めてコロコロと転がっていた。

 あいつあんなことできたのか……じゃなくて!


「お前何やっとんじゃーい! ……あ」


 しまった! 一瞬で場が静まり返った……。

 おいおい、やべーよ皆こっち見てるよ。

 てか何やってんだよ犬!


「ワウーン!(目が覚めたんすねご主人!)」


「おい、ちょっと待て犬! 今飛び込んでくんな……!」


ドズン!


「グフッ!」


 犬のタックルが私のボディにクリーンヒット。

 あー……くそ、力が出ないせいで踏ん張れん。


 そのまま力なくその場に押し倒される、どうせならかわいい女の子にされたかったな。

 まぁ今はそんなこと考えてる場合じゃなくて。


「……」


 起き上がると目の前に盗賊団のお頭さん。

 遠くから見ているだけでも綺麗で凛々しい女性なのはわかっていたが……近くで見るとこれは凄い。

 何がって? 胸と尻だ。


 いやいや、だからそんなこと考えてる時じゃないだろ。

 何とかしてこの状況を打破する方法をだな。


「おう、やっと起きたか! 痛いところはねぇか、腹は空いてるか?」


「え? あ、ああ。か、体はなんともない、腹は減っているが」


 なに? どうなってるの?

 お頭さんは私に微笑みながら優しい言葉をかけてくれた、私も自然と質問に返答してしまった。


「そーかそーか、じゃあこっち来い!」


「ちょ、おま!?」


 わけもわからないまま手を引かれ、そのまま盗賊団の宴会の席についてしまった。

 目の前には色とりどり食事が並んでいる。


「ゴクリ……」


 思わず喉が鳴る。

 お、おのれ! こんなものに惑わされる私では……。


ぐぅぅぅぅぅぅぅううう……


「ハハハ! お腹は正直だねぇ。ほら、遠慮しないでじゃんじゃん食べな」


 気づけばさっきまで静まり返っていた盗賊団達はまた騒ぎ始めていた。

 彼女が何を考えてるのかはわからない、だが今はもう考えるのをやめよう。

 据え膳食わぬは男の恥、遠慮なくいただかせてもらう!


「ガツガツムシャムシャパクパクモグモグ!!!」


 うおおおおおおおおおおおうめえええええええええええ!

 ああヤバイ……もう何も考えられない……。


「いい食いっぷりだねぇ。そんなに腹減ってたのかい?」


「あふぁ! もむまんみちもまみもふぁべべいふぁかっふぁふぁら……ウッ!」


 ヤバイ! 喉に詰まった!


「み、水……!」


「ったく、そんなに慌てて食べるからだよ。おーい、リアー! 水持ってきてくれー」


「はーい」


 お頭さんが奥へ向かって声をかけると、これまた綺麗なお姉さんが。

 お頭さんとは対照的でふんわりとした人だ、肩まで伸びたサラサラとした緑色の髪に雪のように白い肌、胸は……私はどんな胸でも愛せるから心配いらないぞ!

 そして特徴的な長い耳……エルフ族か。


 エルフ族は人族や亜人族よりも長生きで平均寿命は約三倍近くある、その分成長も三倍遅いがかわりに60歳あたりから身体の成長が止まりいつまでも若い姿のままなのだ。

 彼らは5、6程度の一族で森の中に集落を作り様々な場所でひっそりと暮らしてる者がほとんどだ。


 って今はそれより水を!


「んー! んー!」


「あらあら、大丈夫? はいお水」


 ……はぁ! 死ぬかと思った。


「ワウ?(大丈夫っすかご主人?)」


「ああ、なんとか無事だ……」


「そんなにがっつかなくても飯は逃げたりしないよ。ほら、追加も来た」


 奥からやって来た女性達が空になった皿に追加の料理がどんどん盛っていく。

 結構女の人もいるんだな。

 あ、男が尻触った。


スパコーン!


「ほぎゃあ!?」

「何すんのよこのエロ男!」


 逞しいな、女性がお頭の盗賊団だからか?

 しかし騒がしい、まぁそれが楽しくもあるが。


「さて、飯の間に自己紹介でも済ましちゃおうかね。アタシの名はサティ、見ての通りこの“紅の盗賊団”の頭をやってる」


「私はリア、この中では主に給仕なんかを担当させてもらってるの、戦闘もちょっとするけどね」


 サティにリアか、性を名乗らないのは無いからなのかもしくは言いたくないだけなのか……。

 ともかく、こちらも自己紹介しなければ。


「無神 限だ、ムゲンと呼んでくれ。さてサティ、いきなり不躾だが質問をしてもいいか?」


「サティは大雑把でいい加減なとこがあるから質問は私が受け付けるわよ」


「リア、その言い方はちょっと酷いんじゃないかい」


「今回だって私の作戦も聞かずに一人で飛び出していったのは何処の誰かしら? そのせいで女の子が一人死にかけたっていうし」


「ぐ……」


 仲いいなこの二人、もしかしてそういったご関係? ゆりんゆりんなの? はいすいません冗談です。


「いやまぁこの際っどっちでもいい。なぜ私を連れ帰ったんだ、敵である私を? それにこうして歓迎までするなど……」


「ん、だってお前あの豚野郎に無理矢理戦わされてたんだろ? 魔術が使えるからって成人もしてないガキを戦わせるなんてなぁ」


「今まで辛かったでしょう……ご飯も満足に食べさせてもらえなくて。でもここにいればもう大丈夫だよ!」


 あー、この人達が私をどう見てるかわかった。

 あれだ、私も荷馬車に乗せられていた奴隷達みたいな感じであの雇い主にこき使われてるんだと思われてんだな。

 まぁ都合がいいしそういうことにしておくか。


「ま、まぁそんな感じだな。ところで、荷馬車にいた奴隷達は……」


「彼らなら別の部屋で仲間が面倒を見てるわ。容態の悪い人も結構いたから」


 確かにあの中にはエルフの少女をはじめ、傷を負っている者や栄養が足りずにやせ細っている者もいた。


「軽い奴ならそろそろ治療も終わって出てくる頃だ……。お、噂をすれば」


 サティの向いた方向を見ると、そこには荷馬車に乗っていたエルフの少女の姿があった。

 顔色は前見た時より格段に良くなっていて、奴隷の首輪が外されていた。

 よかったよかった。

 おや? 少女がこちらに気づくとにっこりと微笑んで猛スピードで走ってきた。


「お兄ちゃーーーん!!」


 元気そうでなによりだ、しかしこのままだと何か嫌な予感がする。

 そんなことを考えてる間に少女は私の目の前まで迫って来ていて……。


「とうっ!」


ドズン!


「グフッ!」


 少女のタックルが私のボディにクリーンヒット。

 本日二回目のダイレクトアタック、しかも先程と違い胃の中に大量投入されている状態なのでヤバイ。

 ゲロリバースしそう……だ、だがこのムゲン! 女性の前では絶対に吐くことはない! と、思っていただこう!


「大丈夫、お兄ちゃん?」


「ダ、大丈夫ダヨー、ゼンゼンヘイキダヨー」


「ワフワフ?(全部吐いて楽になっちまった方がいいんじゃないですかい?)」


 黙ってろ犬。

 しかしこの子、なんでこんなに私に懐いてるんだ?


「お兄ちゃん、ミミを助けてくれてありがとう! 雨降らしてくれたのお兄ちゃんでしょ。お兄ちゃんからぶわー! ってなんか出て行ったら雨が降ったんだもん」


 ぶわーって……ああ、魔力のことか。

 てことはミミちゃんは魔力が見えたってことか?なら魔導師としての才能がありそうだな。


「オホン……さて二人共、喜ぶのはそこまでにしてこれからのことを話させてもらいたい。単刀直入に言う、これからどうしたい?」


 私が関心してると、サティが話始めた。


「私達はあなた達のような奴隷の人達を仲間にして活動しているの。あそこにいる人達や……私もそうだったの、勿論入るかはその人の自由よ。一人で外の世界に出たら危ないって人は引き止めてるけど」


 これからか……結局護衛任務は失敗して魔導師ギルドへ入会するための資金は手に入らなかったわけだしな。

 だが私の目的は変わらない、ギルドに入り元の世界へ帰る方法を研究する。


「ミミはお兄ちゃんと一緒にいたーい!」


「私は、金が欲しい。金を溜めて魔導師ギルドに入るんだ」


 今の私にはこれしかない。

 特異的の研究を行うためにはやはりそれなりの環境が必要なのだ。

 そのためにはどうしても金がいる。


「……よし! なら二人共うちに入団決定だな!」


「……はい?」


 え? いやいや、どうしてそうなる!?

 今の発言に入団要素どこにもなかっただろ!


「ちょっとサティ! なんでいきなり入団になるのよ」


 私が戸惑っているとリアが的確なツッコミを入れてくれた。

 グッジョブ。


「だから、ムゲンが魔導師ギルドに入るための金を稼ぐまでうちで面倒見るんだよ。それなら嬢ちゃんも一緒にここにいればいいからな」


「いやここで稼ぐって……」


「なーに、デカい奴を二、三襲えばその分前で結構な額になるだろ。危険な配置にはしないから安心しろ、勿論嬢ちゃんはやらなくていいぞ」


 盗賊団アルバイト、仕事は簡単! そこら辺をうろついてる馬車を襲って金品を巻き上げるだけ! 明るく楽しいアットホームな職場です!

 ってことだよな……ふむ。


「そうだな、そうしよう」


「ワウ!?(ええ!?)」


「いいのムゲン君? 私が言うのもなんだけど盗賊なんだよ」


「ああ、別に構わない。今の私には出て行ったとしても金を稼ぐ方法など無いし、むしろこちらからお願いしたいくらいだ」


「じゃあミミも入るー!」


 私の周りにぴょんぴょん跳ねるミミ。

 まったく、えらく懐かれたもんだ。


「よーし、じゃあお前らはこれから紅の盗賊団の一員だ!」


 少々寄り道をすることになるが、こういうのも案外悪くないだろう。

 はぐれ盗賊魔導師ムゲン、ここに誕生! ……ってな。


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