35話 盗賊団の朝
「ワウワウ(しかし本当によかったんすかご主人)」
「ん、何がだ?」
私が盗賊団に入団した翌朝、目が覚めた犬と顔を洗いながら会話をしていた。
「ワワウワウ(盗賊団っすよ盗賊団、悪者っすよ襲うんすよ、主人公がそれはどうなんすかね)」
メタ発言はやめような。
しかし悪者か、世間一般ではそうなんだろうが。
「別に、私はそんなこと気にせん。悪かろーがなんだろーが目的のために手段は選ばないさ。ま、あまりにもヤバイのはごめんだがな」
まぁR18じゃないからヤバイのはそうそうこないだろ。
おっと私もメタ発言、気をつけなければ。
「ワウ~(でも15歳の少年がやることじゃないっすよ)」
「いやいや、見た目は15歳でも中身は2000歳超えているんだからな」
それに実は前世でこういった経験が無いわけでもない。
単騎で国を襲ったことだってあるし、魔法の研究のためにさまざまな物資を盗んだりもした。
でもそんなことは世間ではざらに起きていたし、あんまり気にしていなかった。
むしろ転生後の日本は多少犯罪はあるものの「こんなもんか」と思うものばかりだった。
それよりも私は地球の自然災害の方が恐ろしかった。
赤子の頃は何故マナも存在しないのにあんな現象が起こるのか怖くてたまらなかった。
幾つになっても知りえない現象が起きることには恐怖を覚えるものだ……。
「ワフ(まぁ別にご主人がそれでいいっていうなら僕はついてくだけっす)」
そもそもお前なんでついてくるんだよ、というツッコミはもうしないぞ。
まぁ今は後ろをついてくる存在が増えた訳だが。
後ろをちらっと見ると、先程まで私が寝ていた場所にミミがすやすやと寝息を立てていた。
「ワウン(癒されるっすねぇ)」
「ああ、ただ寝ているだけならな……」
この娘、隙を見ては私に抱きついてくるのだ。
まぁ抱きつくという名のタックルだがな。
「ワッフワッフ(そういえばミミちゃんはどうなんすか、恋人候補として)」
「アホか、幼すぎるだろう」
ミミの年齢は20歳だ、こうやって聞くと「なんだ、ぜんぜん大丈夫じゃん!」と思われるが彼女はエルフ族だ。
平均寿命が人や亜人の三倍近くあるので成長も三倍遅い。
つまり現在のミミの年齢を人族的に表すと……なんと約7歳、立派に犯罪だろうし私はロリコンではない。
「ワン(まぁそうっすよねー、僕もご主人がミミちゃんに発情してたらちょっと引くっす)」
だったら最初から聞くなよ。
てか発情って……犬かよ! あ、こいつ犬だった。
「ワウ(だったらリアさんは? 優しくていい人っすよ)」
「確かにそうだが、リアはエルフだしな……」
私の理想としては、供に日本で暮らしてくれるような一生涯のパートナーみたいな人がいてくれたらな……ってとこだ。
今生では長寿の術を使うつもりはない、だからエルフの方と付き合えば必ず先立つことになってしまう。
それに日本にエルフがいたらそれはそれで大変だしな。
「ワッフワッフ(ご主人、理想高すぎやしません? こっちの世界で恋愛を少し経験するってだけでも次に生かせると思うっすよ、僕は)」
こいつ犬の癖になに悟ったようなこと言いやがるんだ……。
でも犬の成長は人の何倍も早いからな、きっとこいつも捨てられたた先でいろんなものを見てきたんだろう。
「ワウン(じゃあサティさんはどうっすか! ちょっとガサツっすけど、強くてかっこよくって頼りがいのある姉御! って感じじゃないっすか)」
「あー……その、サティはなんというか、ただ」
この流れから言うとは思っていたが……いや別に悪いとは思っていないぞ、むしろ彼女は私の中でも好印象だ。
「ワウウ?(歯切れが悪いっすね、なにか不都合なことでも?)」
「いや、そんなことはない、彼女は素敵な女性だと思っているよ。ただなぁ……似ているんだよ」
「ワフ?(似てる? 誰にっすか?)」
「私の、姉さんにだ……」
もちろん日本のな。
「ワン?(似てるんすか?そんなに)」
似てるといっても性格上の話だがな、背丈は近いが姉の肌は白いし胸だってあんなに……おっと寒気が。
姉は数年前までレディースの
でも現在は彼氏ができて毎日いちゃこらしてるらしい、その彼氏って奴がまたゲームの主人公みたいな奴で……ってこの話はいいか。
まぁヤンキーだったけどちゃんと家族のことも気にかける優しい姉だった。
サティを見てるとそんな姉と重なってあんまり恋愛気分になれない。
「なに、出会いはこれからも沢山あるはずだ、めげずに目指すは童貞卒業!」
カンカンカン!
「みんなー、朝よー! ご飯できてるから早く起きて顔洗ってきなさーい」
「「「へーい」」」
リアの声に盗賊団の男共がぞろぞろと水場へやってくる。
私もミミを起こして朝食に向かうとするか。
「おっ、いい匂い」
「ふぁ……」
まだ眠たそうなミミを連れて昨日宴会をしていた広間へやってきた。
朝食が女性陣達によって次々と並べられていく。
こういった家事全般類は女性や子供の仕事みたいだな、リアや昨日見た人達、ざっと20人位ってとこか。
ミミと同じ荷馬車に乗せられていた違法奴隷だった者もちらほら見える。
どうやら私達と同じように彼らも盗賊団に入団したようだな。
「あら、ムゲン君早いわね。皆揃ったら朝ご飯にするからミミちゃんと一緒に座って待ってて」
「了解した。ほら、行くぞミミ」
いつの間にか私がミミの世話役になっているな。
まぁミミの方が私から離れないだけなんだが。
だが子供にも優しいナイスガイな私にきっと女性はキュンとくる! ……はず。
「うーい、皆オハヨー。リアー……飯ー」
部屋の奥からサティがボサボサになった頭をボリボリと掻きながら出てきた。
いや、あんた女なんだからそのだらしない格好はどうなん?
続いで男衆も皆起きてきたようだ、こうしてみるとかなり多いな。
「ほらサティ、しゃんとして。あーもう、また髪もこんなにボサボサ……」
リアが寝ぼけているサティの身支度をテキパキこなしていく。
しばらくすると昨日まで見たような、整えられた赤髪を二つ結びにした美しい女性の姿があった。
「サティの身支度はいつもリアがやっているのか、まるで姉妹みたいだな」
背格好はサティの方が色々と大きいが、この様子を見ているとリアの方がお姉さんみたいだな。
まぁ実際の歳もエルフであるリア方が高いだろう。
ちなみに昨日歳を聞こうとしたら何か嫌なオーラを感じたのでやめておいた。
「ふぅ、以前は姿や格好なんて気にしてなかったけど。リアが来てからは「女の子がそんなんじゃダメ!」とか「素材がいいんだから綺麗にした方がいい」とか色々とうるさくてなぁ……」
「地面まで伸びきったボサボサ髪を振り回してすすまみれになりながら凄い臭いで帰ってくるのよ。そりゃほっとかずにはいられないわよ」
つまりこの盗賊団にリアがいなければ私が最初に襲われた時、ボサボサ髪のオバケみたいなサティだったということか。
これはリアさんグッジョブと言わざるをえないな。
「しかし以前はということは二人は最初から一緒にだった訳じゃないのか?」
「あ、うん、その話はまた後でね。皆揃ったからそろそろ朝ご飯にしないと」
いつの間にか広間には盗賊団の面々が全員揃っていた。
男共が「腹が減ってんだからそういう話は後にしろや!」といった視線が突き刺さる……すんません。
「いただきまーす!」
バッチリと目を覚ましたミミが美味しそうに朝食を頬張る。
きっと奴隷だった頃は満足な食事もできなかったんだろう、だが今は満面の笑みだ。
今日の朝食は一般家庭でもよく出る硬いパンとシチューのようなドロっとしたスープ、それに干し肉が一人一つとポテトサラダのようなもの(男とサティのは大盛り)だ。
「この人数にしては結構な量の食事だな。こんなに食べて備蓄は大丈夫なのか?」
「今日はちょっと多いかな。でも先日の収入が良かったし、今日は備蓄の量を整えないといけなかったから」
「なるほど、量を調整してるのか」
まぁ腐りかけた食材なんかもあるだろうしな。
うーん、でもこの人数でそこまで調節する必要があるのか?奪った食料でも二、三日持つかどうかだろうし。
「何で? って顔してんな。よし、ここはアタシが教えてやろう」
考えなから食事をしていると横からサティがドヤッとした顔で話し始めた。
サティもやっとシャキっとしてきたようでハキハキと喋り始めた。
「それは……今日が引っ越しだからだ!」
ん、どういう意味?
続きを聞こうと待っているがドヤ顔のままそれ以上何も喋らない。
ミミも首を傾げてしまい、リアは呆れたような顔をしていた。
「サティ、そんな説明じゃ伝わらないわよ……」
「え、そうか? 簡潔でわかりやすかったと思うけど」
いや、あれでわかると思ったのかよ、簡潔すぎるだろ。
お陰で余計謎が深まったぞ。
「ごめんね二人共、サティの言ってることも間違ってはいないんだけど……」
「あんなドヤ顔で説明してたんだから自信はあったんだろうな、すごく下手だったが」
「そんな、アタシだって頑張ってやったのに、う~」
あ、落ち込んだ。
いじけながらご飯を食べ始めるサティ、ちょっとかわいいな。
「それで? 結局どういうことなんだ?」
改めてリアに説明を頼む。
こうなっては気になって仕方ない。
「これは今日の仕事にも関係することなんだけど、今日はこの領地のアジトであるこの洞穴から隣の領地へ住み替えするの。そのために、運びきれない荷物や食料を極力減らしてる訳」
なるほど、だからお引っ越しなのね。
しかし盗賊団としての最初のお仕事が引っ越し作業か、いきなりヒャッハー! 的なことやらされると覚悟してたんだが、杞憂に終わったみたいだな。
「まぁ要するに荷物の護衛か」
「クチャクチャ……ワウ(モグモグ……結局前回の仕事とやってること変わんないっすね)」
犬君……干し肉をかじりながら喋るんじゃありません。
だが言われてみればそうだな、第三大陸にいた頃も大勢で馬車で進むことが多かったし。
今世ではそういったことに縁があるのかな? 前世ではほとんどドラゴスとの二人旅だったが。
「そういう訳でご飯が終わったら早速荷造りだからね。ほら、サティもいつまでもいじけてないで早く食べる!」
「へ~い」
周りを見るともう皆食べ終わっている。
話をしていたから食べるのが遅れてしまったな、私もさっさと食事を終えて荷造りを手伝うとするか。
「ハグハグ……うし! ご馳走さん! 行くぞ犬、ミミ」
「ワン!(了解っす!)」
「は~い」
「重い荷物は大人の人にまかせていいから、怪我しないようにね」
私がまだ成人してないから心配して言ってくれたんだろうが、今の私はお腹一杯気力MAXだ!
重い荷物も魔術でチョチョイのチョイだ。
「さて、盗賊ムゲンの初仕事といきますか」
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