25話 反撃開始!


 出口を求めてお姫様の案内で暗い地下道を歩いて数分、私達はようやく本来の出入り口に辿り着く。

 が、やはりお姫様の言う通り、その先は崩れて塞がってしまっている。


「ここがわたくしが連れて来られた時に通った階段です。……ですが、閉じ込められた後に魔術で天井を崩されてしまいました」


「魔術で? この城には魔導師がいるのか。それによく魔術を使われたとわかったな」


 この大陸には魔導師はほとんどいないと聞いていたんだがな。魔術の存在すら見たことない人間が大半なのにこのお姫様は魔術がどういうものか理解しているのか。


「その魔術を使った人物はこの城では見たこともない女性でした。アズール卿がどこからか連れてきたのかもしれません。わたくしは以前遠方から訪れたことのある魔導師を城に招いたいことがあるので、それに似たような気がして……」


 ほう、まぁ小さな大陸の小国といっても王族の娘だからな。珍しい人間を招くこともあるんだろう。

 しかし魔術を使う女性か……そいつが新魔族である可能性は高いな。


 まぁとにかく、まずはこの崩れた階段をどうにかしなければ。


「少々時間が掛かるが地属性魔術で掘り進みながら周りの瓦礫を崩さないように固めていくのが一番堅実で確実な方法だが……」


カチッ!


「むっ、これは……!」


 地面を掘り進めようと魔術を使おうとしたその瞬間、私の手の中のケルケイオンが反応して私の魔力が使用された……これはまさか。


(インフィニティ、今の感じはもしや……ケルケイオンの自動魔法発動装置か?)


(ああ、こんなこともあろうかとカロフの中にリンクさせておいたんだが……つまりこれはもう一刻の猶予もなくなってきたというとこだな)


 自動魔法発動装置とはケルケイオンの補助装置の一つだ。

 自分で設定した条件が揃った時、所持者の魔力を使用してインプットされている魔術を強制発動するという優れものだ。


 これドラゴスから返してもらった時にインプットされていたものは、私が前世で使用していたものが入っていたのだが……どれもこれも今の私が強制発動させられたら一瞬で魔力を吸い取られあの世行きになるヤバイものばかりしか入っていなかった。


(だからすべて削除して代わりに前にカロフに使用した『限界注入リミテッドロード』を仕込んでおいたんだが)


 発動条件は《心の底から強い力を望んだ時》……しかしまさか、こんなに早く使われることになるとは。

 つまり、今二人はそれほどまでに危機的状況に陥ってしまっているということだ!


「あの、どうされたんですか? 真剣な顔をして」


「どうやらゆっくり作業してる時間は無くなったみたいだ」


 ケルケイオンを構え魔術を発動する体制を整える。

 地上までどれほどの距離があるかわからないが、今の私ならば崩れ落ちた瓦礫を一撃で吹き飛ばすくらいなら可能かもしれない。

 だが、大きな破壊呪文を使えばこの場所はたちまち壊れてしまう。


(なら、かなりしんどいがアレを使うしかないか……!)


(インフィニティ!? この属性反応……まさか、それは今のお前では体がもつかどうか!)


「今は一秒でも時間が惜しい! 多少の無茶は覚悟の上だ! いくぞ……属性展開《時空》! 『無機物時間逆行マテリアルタイムリターン』!」


 体内の全魔力を総動員し一つの魔術に集約させると、私から放たれた魔力が崩れた瓦礫とその周囲に浸透していくのを肌で感じられる。


「な、なにが起きてるの……瓦礫や土がひとりでに!?」


 いける……! 時空属性は世界に干渉するとても危険な魔術だが、その力はすさまじい。

 この地下に続く道を崩れる前の状態に戻せれば……だが、マズイ!


「うぐ……く……そ!」


「きゃ! 急に膝をついて……ど、どうされたんですか!」


 私の魔力の限界がきている。ケルケイオンの最適化補助があるとはいえ、流石に今の魔力量で時空属性を使うのは少々無理があったか。

 ここが限界だ、これ以上は私の命に関わってしまう。だが道はどうなっているんだ……魔術に集中しているから状況がつかめない。


「……あ、光です! 上の方から光が差し込んでいます!」


 よし、お姫様が状況を確認してくれたようだ。光が差し込んでいるということは地上が近いということ。

 魔術を解除し一旦落ち着かなくては。


「はぁ……はぁ……」


 よかった、しかし魔力がヤバイ。この後にはカロフ達を助けに向かわねばならない。

 ケルケイオンで急速にマナを集めるとしても……まずは少しでも魔力を回復したいところだが。


「あの、大丈夫ですか? どうぞこれを飲んでください」


 そう言って渡してきたのはさっき私が彼女にあげたルコの実のジュースだ。

 ルコの実……? そうだ、ルコの実には微量だが魔力の回復を促す効果がある!


「すまない。ゴク……ゴク……ハァ! よし、これでなんとか動ける! ん、どうした、そんなに顔を赤くして?」


 顔を上げるとお姫様……ミレアが顔を赤くしていた。

 ……そうか、私の手にあるペットボトル、それはさっきまでミレアが口をつけて飲んでいたものだ。

 まぁ、つまり、関節キスだなやっほい。


「と、とっさのこととはいえ私ったらなんとはしたない真似を……きゃ、まさかこれが運命なのかしら」


 なーんかこっちはこっちで妄想が拡大してるなぁ……。可愛いんだけどこういうメンヘラタイプは絶対長続きしないから彼女にするにはちょっと遠慮したいかな……。

 とか考えてる場合ではなく。


「確かに光は差し込んでいるが、まだ少し壁が厚いな。だがこの程度なら崩れる心配もない。一気に地上までぶっ飛ばすぜ!」


「ワウ?」


 わかってないようだな犬……私がこっちに帰ってきて最初に使った魔術だよ。お前と一緒に閉じ込められた時に使ったやつがこの状況におあつらえ向きってことだ!


「いくぞ! 『火柱フレイムピラー』!」


ドオオオオオン!!


 勢い良く上がった火柱は壁を突き抜け天へと昇っていき、周囲の瓦礫もすべて吹き飛ばしながら徐々に収まっていく。

 ちょいと張り切りすぎたかね。


「なんだ今の炎は!」

「あそこだ!」


 っと、どうやら今の爆発音を聞きつけて兵士が集まってきたか。


「な、何だ貴様は。そこで何をしている!」


 ここで捕まるのはマズイ。時間もあまりないことだしどうするか……蹴散らすのは流石に最後の手段にしたいが。


「あなた達こそこんなところで何をしているのですか。今この国は未曾有の危機に晒されているのですよ! わたくし達の国を取り戻すために……そこをどきなさい!」


「ひ、姫様!?」

「ど、どうして? 今は確か王座の間で報告を受けているんじゃ……」


「いいから道を開けなさい! わたくしの命令が聞けないのですか!」


 地下にいた時は泣き虫のお姫様かと思ったが……やる時はやるもんだな。

 どっちが素なんだ? まぁ今はそんなこと考えてる余裕はないか。


 とにかくカロフ達がどこにいるのかを……む。


「大きな魔力反応……上か!」


 場所さえわかれば問題ない。ケルケイオンに溜まったマナは大体魔力に変換できている。

 よし、あそこまで一気に飛んで行く!


「私は仲間を助けに行く! だからミレアはここで兵士達に保護してもらって……」


ガシッ!


 ここから先は危ないので犬とミレアをおいていこうと思ったのだが……何故かしがみついてきた。


「ワンワン!」


「このままでは私の怒りは収まりません! 私を陥れた者達に文句を言ってやります!」


 まったく行動派なお姫様だ。しょうがない……このまま連れて行くしかないか。


「かなり揺れるからしっかり捕まっていろよ……『風翔浮遊エアロレビテイト』!」


 足に魔力を込め、風の魔力を開放してジェット噴射のように飛び上がる。


「ワウン!?」

「きゃあ!?」


 大きな魔力反応、ここだ!

 空中で方向を修正しながら新しい術式を加え、突入の準備を整えていく。


「第二術式展開! 『空気球体エアスフィア』、このまま突っ込む!」


ガシャアアアアアン!!


 ステンドグラスをぶち破り城内に玉座の間へと侵入成功! 『空気球体エアスフィア』で衝撃も抑えることにも成功できた。


 そして、体を起こして目の前を見ると……。



「ったく、遅ぇぞ。何処で油売ってやがったんだ」



 そこには獣深化したカロフの姿があった。まだまだ荒削りの魔力の流れではあるが、どうやら精神は安定しているみたいだ。


「スマンスマン、あそこにいるクソ騎士様にちょっと豪華な部屋に案内されてな……居心地が良くてつい長居してしまった。しっかしカロフ、お前てっきり正気を失って暴れまわってるかと思ったが……よく制御できたな。ちょっと獣成分が強いみたいだが」


「へっ、数分前まで正気を失ってたけどな。ったく人の体に変なもの仕込みやがって……後で覚えてろよ」


 この軽口もいつもと変わらないようで安心した。だが本当に安心するのは、この状況を乗り切ってからだろうな。


「まったく、あんなガキ一人まともに始末できないなんて……使えない奴ら。やっぱりアタシが全員この手で始末するしかないかしら」


「あいつが新魔族か……」


 ミレアと同じ姿をしているな。いや、よく見ると向こうの方が少し大人っぽい色気があるような気がしないでも……。


「ムゲン、あいつはヤベェぜ……無詠唱で魔術を放ったり今の俺の攻撃を軽くいなしやがった。さらに見ての通り……リィナがあいつに操られちまってる」


「そのようだな。おそらく魔力によるものだとは思うが」


 あれは自分の魔力で相手の魔力をコントロールする類の闇属性魔術と言ったところか。

 しかし、予想よりも遥かに強い魔力だなあの女。

 今の私ではちょっと難しい相手かもしれん、これが七皇凶魔かというやつか……。


「まずはリィナを開放したいが……思ったよりヤバイ相手みたいだ。ここは慎重に……」


「そこの私の偽物さん、この国の秩序を乱すのもこれで終わりです! ここにいるお方があなた方の企みなどすぐに阻止して差し上げますから!」


 ……まったく、このお姫様は何を考えているんだか。

 別に引く気はないが、これで逃げたらホントに笑いものだ。


 それに、相手はまだまだ余裕の表情。こちらを舐めきって油断している今攻めないでどうする。


「ふふふ、まさかお姫様まで救い出されちゃってるなんて。なら、もうこの姿でいる意味もないわね」


 奴が パチン! と指を鳴らす……すると奴の姿が見る見る変わっていく。……これは、魔力で自身の体を覆い擬態していたのか。

 ミレアと同じ可愛らしいお姫様の姿はそこには無く、代わりにいたのは……グラマーの美人さんだった!

 格好も露出度が多いセクシーな物に!


(インフィニティ……何鼻の下を伸ばしているんだ)


(いやいや、別に見惚れてなんてないぞ。私が色仕掛けにかかるとでも思っているのかお前は?)


(……)


 なんだその沈黙は……。

 まぁ、ああいったセクシーお姉さん系も嫌いじゃないがな!


「へっ、やっと正体をあらわしやがったぜ! おいムゲン、何か策は無いのか。俺もこの姿でいるの結構疲れんだけどよ」


 む、そうだな……カロフも慣れない獣深化では長くは戦えないだろう。

 ならまずやるべきことは……。


「カロフ! まずはリィナの呪縛を解く。少し時間がかかると思うから、それまで耐えられるか?」


「了解だぜ! ところでフェイトあのクズは倒しちまっても構わねぇか!」


「大いによし!」


「わ、わたくしはどうしたら……」


「ミレアは犬と一緒に私の後ろで隠れていろ」


 私の指示を聞くとそそくさと犬を抱えて後ろへ避難するミレア。

 まったく、さっきまでの威勢の良さが嘘みたいだな。


 さて、ここからが正念場だ、今ある私の全ての力を使って戦ってやろうじゃないか!


「いくぞ! 反撃開始だ!」


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