23話 罠
「それではこちらへどうぞ」
その後、私はカロフ達と離れ王宮の廊下を歩いていた。
なんでも、もし異世界人が来たらそれをもてなすための部屋が用意されているとのこと。
ちなみに先導してくれてるのは先ほどのフェイト副隊長さん。
彼は亜人保護派らしいし、ここらで一つ私達と協力体制になってもらいたくはあるが……。
まぁ面識の少ない私がフェイトさんにいきなり説明しても混乱するだけだろうし、あまりヘタことは口にしない方がいいだろうが。まずは少しでも友好的になるために世間話でもするのがいいか。
「えっと、いやーまさか自分みたいな得体のしれない奴のために部屋が用意されてるなんて思わなかったですなー。あ、ご飯とかも用意されてんすかねー? 実は自分朝から何も食べてなくて腹ペコペコなんすよー。ついでに給仕係としてかわいい女の子もついてれば私としては万々歳なんすけどー……なんて思ってたり」
「……」
……無視ですかい! いや、ちょっと私のキャラがチャラかったかな? 気分を悪くさせたかもしれん。
てか無口になりすぎじゃね? さっきは結構愛想よく喋っていたのに。
いや、もしや先ほどはリィナがいたから機嫌が良かったのかもしれん。この人リィナのこと気にしてるような気がするし。
「ちょいとつかぬ事お聞きしたいんすけど……もしかしてフェイトさんってリィナのこと好きだったり? あ、いや勝手な推測なんですけどね! 初対面の人にいきなりこんな話するのは失礼かもしれないっすけど! ……あ、でもここだけの話リィナにはもう心に決めた人がいまし……」
「ここだ……」
って、いきなり止まんなし! なんなんだコイツは。
というか着いた? それにしては辺りを見回しても部屋のようなものも見当たらないし人気もない場所のようだが……。
「……フェイトさん? ホントにここなんですか?」
この男、先ほどからなんだか妙な感じがする……。少し警戒を強めてみた方がいいんじゃ……。
「ああ……ここだよ。貴様が地獄に落ちる場所はな!」
「なっ!?」
「ワンッ!?」
フェイトさんがそう言って振り向くと私の足元の床が パカッ! と開くと同時に浮遊感を全身に感じた!
これは……落とし穴!? 嫌な予感は感じ始めた矢先にこれかよ!
「クソッ!」
体が底の見えない暗い穴に落ちていくその瞬間、間一髪腕を伸ばすことでギリギリ落ちるのを回避できた。
犬も私の背中になんとかしがみついているようだな。
「おっと、いい反射神経だ。だが、これならすぐ落ちるだろう……よっ!」
「ぐうっ……!」
このやろ! 手を踏みつけやがった!
だがなぜだ、この男はリィナの話では同じ亜人保護派の貴族のはずだったのに。人族主義派の人間ならともかくなぜこの男が私を襲うんだ!?
「……ッ! まさか、新魔族が成り代わって……!?」
「残念だがそれは私ではないなぁ。私は人族主義派のスパイとして内部から亜人保護派の邪魔をしてきただけだよ。彼女らを『龍の山』へ行かせたことも、こうして君を排除することもね!」
そう言いながらフェイトはさらに足に力を込め、私を奈落の底に落とそうとしてくる。
しかし、今の話からするとこの男はずっとスパイ活動を行っていたということか。リィナにも悟られずに……。
「ぐっ……! 龍の山へ行かせただと? じゃあ、あの貴族おっさんが任務を伝えに来たのはあんたの仕業なのか? だがあれは国の直々の任務だというのも全部お前らが作り上げた嘘ということか!」
「それは本当だよ、ちゃんとした王族からの命令。……いや、ちゃんと……ではないかな」
「それはどういう……」
「さて、お喋りにももう飽きた。そろそろ落ちてもうらうよ……邪魔な異世界くん」
「なっ!」
ガッ!
駄目だ、かろうじて掴まっている手を思いっきり蹴られたら……!
クソッ! もっと情報を聞き出したかったが、こうなったら魔術でどうにか復帰を!
ヒュ……ザクッ!
「がっ……ッ!?」
体制を整え魔術を使おうと試みようとしたその時、突然ナイフが飛来し私の肩に突き刺さる。痛みと困惑で魔術に集中できない……!
上を見上げるとフェイトが笑っている。あれは……私が魔術を使えることをわかっててやりやがったな。
「君が魔術を使うという情報は聞いているからね、少しでも隙を作らせてもらったよ。では……さようなら」
その言葉を最後に徐々に落とし穴の扉が閉まっていく。
ここからでは魔術を使用したとしてももう上に戻ることは不可能だ。とにかく、今はどこまで落ちるかわからないこの危機的状況から逃れるのが先決だ!
「ぐうっ……『
ドスンッ!
「ぐああああ……か、肩が……」
なんとか空気の盾を出すことでクッションの代わりにできた……が、この程度のなんの工夫もない魔術では落下の衝撃を消すことはできず、先ほどの刺された部分に痛みが走る。
とにかくナイフを抜き手当をしなければ。
「まずは……ケイオン
私がそう言葉を口にすると、何もない場所から突然ケルケイオンと私の荷物が現れる。
この
「
城に着いた安心感から警戒心を緩めてしまっていたが、これだけは用心深くキチっと発動しておいたのが良い結果に繋がったな。
「さて、なにはともあれまずは……いつつ、結構深くまで刺さってたな、『再生治癒(ヒーリング)』」
ナイフを抜き取り、出血が酷くなる前に術を唱えると傷はすぐに塞がった。
塞いだだけだからまだ少しズキズキと痛むが時間が経てば時機に痛みもひいていくだろう。
「しかしこうなると……落ちてきた穴から出るのは面倒だな。他の出口を探す方がいいか」
(まったく……お前ともあろうも者があの程度の罠に掛かるとはな)
この状況をどうするか思案していると、突然今まで語り掛けてこなかったドラゴスが念話で話しかけてくる。
(その口ぶりからすると……お前あの男の正体に気付いていたなドラゴス。教えてくれてもいいだろうに……)
(我はあまり外界に関わることはしないと言ったはずだ。この位自分で何とかせい。それに以前のお前ならあの程度なんでもなかっただろう?)
言ってくれるぜ親友。確かに前世の私ならばあの程度の罠など床に穴が開いた瞬間に対応可能だった。
……いや、そもそも罠に掛かる前からすべて気づいて対応していたはずだ。
いやね、これでも私は昔凄かったんだぞ。それはもうどんな事態にも対応できるパーフェクトな……。
「ワン!」
「おうっ!?」
ビックリしたぁ……犬の鳴き声か、暗いからビビらせパワーが3割増しだ。
しっかしこいつも一緒に落ちてきちまったのか。お前も何かと不運に巻き込まれる動物だな。
「しかし、これからどうするかね……。やはり助けを待つか? あの二人なら報告後にでも私に会おうとするだろうからそこで違和感を感じてもらえれば。あのフェイトもお姫さまの前で二人を襲うなんてこともないとは思いたい……っておい犬! どこへ行く!」
「ワンワン!」
勝手に走るんじゃない! ただでさえ暗くてよくわからない場所なんだぞ、こういう時にはなるべく最初の場所を動かないようにだな……。
「……うう、ぐすっ……え!? きゃあ! えっと……君、ここに迷いこんじゃったの?」
おや、なにやら犬の走って行った方向から女の子の声がしたような?
犬が駆け寄っているみたいだが暗くてよくわからん、明かりを点けよう。
「『
「きゃ! まぶしっ……えっ! ひ、人!?」
「お、結構可愛い女の……ん? あれ、君は」
明かりを点けた先にいたのは……どこか見覚えのある人物。
というよりも……。
「あー、さっきぶりです? お姫様」
そう、そこにいたのは先ほどカロフとリィナと一緒に見たこの国のお姫様の姿だ。
ついさっきまでリィナの報告を受けていたはずなのにどうしてここに?
「うっ、ぐす……」
おおう、いきなり泣き出してしまったぞ。誰かこの状況を詳しく説明してくれ。
というよりも……このお姫様、先ほどとは大分感じが違うが、まさか……。
「良かった……やっと助けが来てくれたのですね。さあ! 早くここから出してください! 彼らの悪行をお父様に報告しなければ!」
……この様子、なんか勘違いしてるっぽいな。
つまりこの子は何者かによってここに幽閉されていた。でもって、そこにやってきた私が助けにやってきたと思っているんだろうが……。
「あー……非常に言いにくいことなんだが、私は君を助けに来た訳じゃないんだ……」
「……え? じゃ、じゃあ何故あなたはここにいるのですか!?」
「いやー実は私も罠にハメられてここに落とされてしまったんだよはっはっはっ」
非常に悲しいことだが事実なので仕方がない。まぁでもこうして生きているんだからまだまだ希望はあると思うZE!
「そ、そんな……。ああ……お父様、非力なミレアをお許し下さい。国の危機を伝えることもできず囚われてしまい、やって来たのは勇敢な
ダメ男って……初対面なのに酷い言われようだ。お姫様もなよなよとその場に力なく倒れちゃったし。
涙目になって今にも泣き出しそうだ。まぁ美少女なのでそんな顔も可愛くはあるのだが……って考えてる場合じゃ無いな。
とりあえずこのお姫様を一旦落ち着かせなければ。
「えー……お姫さ……」
ぐぅぅううう……
……なんだ、この場にそぐわない今の緊張感のない音は。
私ではないし、犬はないだろう……つまり。
「……」
振り向くと、お姫様は顔を真っ赤にして俯いていた。これは……まぁ、そういうことなんだろうな。
「あのー、お姫様……?」
「わ、わたくしではありませんよ! あ、あんなはしたない音をわたくしが出すはずが……!」
ぐぅぅううう……
とても焦った様子で必死に否定するお姫様だが、やはり体は正直なようだ。
「……うう、仕方ないじゃないですか。お腹が空いているんですから!」
そう言うと プイッ! と、そっぽを向かれてしまった。仕方ない、まずはこのお姫様のお腹を満たしてやるのが先か。
しかしそうなると、今私の手元にある食糧といえば……。
「んと……お、あったあった。これでよかったら食べてくれ」
私は鞄からケロリーメイツ(チョコ味)を開けてお姫様に差し出した。
いつか食べようとは思ってはいたんだが……なーんか未練があってなかなか食べる気になれなかったんだよな。
「……えっと、これは何ですか?」
「食べ物だ。少ないが結構腹持ちがいいからちょっとは満足できるはずだ。一思いにガブっといってくれ」
「はぁ……」
不安そうな顔をするが食欲の欲求には敵わなかったみたいでモソモソと食べ始めるお姫様。
「……美味しい……モムモム」
づやら味の方もお気に召したようで、急に食べる速度が上がった。なんだかハムスターみたいだな。これが小動物系女子というやつか……。
「モムモ……むぅ!? んーんー!」
おっと急にむせだした、こりゃ喉に詰まったのか。まぁあれ結構パサパサしてるしな。
っと、それよりも飲み物飲み物。
「えーっと確かここに……お、あったあった、これどうぞ」
「んん! ゴク……ゴク……はぁ、死ぬかと思いました……。あら、このお飲み物美味しい」
今渡した飲み物はルコの実を絞ってジュースにしたものだ、ドラゴスの所で作った物を空のペットボトルに入れておいた。
まぁこれだけでも微量な魔力回復にはなるしな。
「ふぅ、貴重な食料をどうもありがとうございました、このままでは飢えて死んでしまう所でした。このミレア・アレス、心から感謝致します、あなたは命の恩人です」
「いや、そんな大袈裟な……。さて、腹もそこそこ膨れたところで一つ確認したいのだが……私達ってさっき会ったよな?」
この質問は重要だ。私の視点から見ればこのお姫様は上の玉座の間でついさっき初対面を済ませた間柄のはずなんだが……。
「え? あなたとは初対面のはずですが……?」
「……さっき、玉座の間で会ったなんてことは」
「さっきも何も、私は二日前からここに幽閉されていたのですよ。だからお腹もすごく空いて……」
「やはり……そうか」
しかも二日前から捕らわれの身だったとはな。つまり私がさっき会ったお姫様は……。
(……そういえば、私がここに落ちる直前にフェイトが言っていた)
確か、「残念だがそれは私ではないなぁ……」と、奴はそう言ったはすだ。
つまり新魔族は偽りの命令を下せる立場の誰かに化けている、ということであり……ここには先ほど会ったお姫様がいて、さらには私のことを知らないという。
そうなれば答えはひとつしかない。
「このままではリィナとカロフの身が危ない」
私達の情報は筒抜けだったわけだ。こうなれば急いで二人の下へ向かわなければ。
だがどうやってここから出る? 私が落とされた落とし穴はダメだな、もしものときに備えて見張りでも置かれているかもしれない、意気揚々と飛び出せば即お縄になる確率が高い。
どうすれば……そうだ!
「お姫様、あんたがここに連れて来られた時の出入口がどこにあるかはわかるか」
「え、えっと、確かあちらの方から階段で……。あ、でもその場所は私を幽閉した後に崩されてしまって今はもう……」
「……いや、そこでいい。すぐに案内してくれ」
「しかし、あそこは……」
「いいから早くするんだ! このままでは二人は消されて奴らの思う壺になってしまう」
今現在城にいる真実を知る者はリィナとカロフ以外は病室にいる、そこさえ囲んでおけば後は二人だけ……確実に殺されるだろう。
そしてここで奴らをどうにかしなければ事情を知るリュート村の者達にも被害が出るのは間違いない。
「ふぅ、姫であるわたくしに対するあなたのその言葉遣いはどうかと思いますが……あなたの必死さはよく伝わりました。何をするのかは知りませんが、わたくしはあなたを信じてみることにします」
「あんがとさん」
こうして私達は出口へと走りだす。
しかし一難去らずにまた一難、と言った所だな。
まぁ関わってしまったものは仕方ない。かつて魔法神と呼ばれたその実力、もっと見せてやるしかないようだな!
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