22話 到着と報告


 さて、私は今大きな城壁に囲まれた街の門の前に立っている。ついに大きな街に着いたのだ……うん、長いようで短い旅だったなぁ。

 思えばこの世界に飛ばされてから一週間とちょっとしか経っていないんだよな……もう一ヶ月くらい経ってるんじゃないかと感じてたが。


「それだけ今回の旅がヘビーだったというとこか」


 いきなり捕まって、この世界が転生前に住んでた世界かもしれないとわかり、奇妙な山で前世の親友と再会したり、戦ったり、仲間の恋を応援したり。

 短い間に色々詰め込みすぎだろ。最近流行りのラノベか何かのようじゃないか。

 ……はっ! だったら私にもそろそろかわいいヒロインが登場してもいい頃合いなんじゃないか!


「よっしゃあ! さあ来いヒロイン! 私はいつでもバッチコイだ!」


「なに叫んでんだアホ」


「ぬあっ!」


 私が景気よく意気込みを宣言していたらいきなりカロフにボカっと殴られた。

 カロフめ……こいつ私を叩くことが癖になってきてるんじゃないか。そして、そんなカロフの後ろでは。


「さ、皆到着よ。カロフとムゲン君、後数人は私についてきて。他の皆は馬車の片付け、それと山で救助した人とけが人を医療施設まで運んでおいて」


 てきぱきと指示を出していくリィナ。私とカロフはやることないので暫く待ちぼうけだ。

 早く街に入りたいところだ、2000年前にも国とか都市とかいろいろあったけど、この長い時の間でどんな変化があるかもこの目で見てみたくはあるからな。


 まぁ前世ではファンタジーな世界に住んではいたが(この世界だが)今ではれっきとした現代日本人、前世とはちょっと違う漫画や小説の知識を取り入れた身としてはいろんなものを見たいと思ってる訳ですよ。

 ……でも、いろいろ見たいとは言っても帰る方法を探す方が優先だけどな。


「二人ともお待たせ。さ、街に入ろっか」


 お、やっと入れるのか。それにしても門の警備が多いな。

 まぁ今は隣国と戦いになるかもしれない緊張状態にあるらしいし、警備が厳重になるのもうなずける。


「ま、今は敵国のスパイなんかより厄介な存在が入り込んでるみたいだけどな」


「ムゲン君、そういうことは迂闊に喋らないで。誰が聞いてるかわからないんだから」


 その通りだ、今のは失言だったな。


 しかし流石はこの大陸で1、2を誇る都市といったところか、人々の往来も多く市場などには活気があふれている。

 村は村で素朴で喉かな感じがよかったが、やはり私はこうやって和気あいあいとしてる人々を見るのが好きだな。


(店もいろんなものが立ち並んで……ん、あれは!)


 それは街の一角の、普通に歩いていてはまず目に入らないだろうという場所にそれはあった。

 そんなひっそりとした場所だというのに、看板は彩られ、"男"を惹きつける雰囲気を醸し出している。


「ま、まさかあの細い道の先の隙間からにかすかに見えるあの店は!」


 こんな世界だ、あるとは思っていたが。

 いやしかし。まさかこんなに早く見つけてしまうとは思いもしなかった……。


「ムゲン、何見てんだ? 早く行……!」


 どうやらカロフも気づいてしまったようだな……。

 そう! あそこに見えるのはこういった世界観ではお馴染みのアハンウフンな大人のお店だ!

 正直こういったお店で筆おろしというのは考えてなかったと言えば嘘になる。元の世界でも万が一、学生時代に童貞が捨てられなかったら利用しようかと考えていたしな。


「カロフ、一つ聞くがお前はああいった店を利用したことは……」


「ねぇよ! ……けど、村のおっちゃんから少しだけ話を聞いたことがある」


「なに! その情報kwsk!」


「近ぇし鼻息荒くすんな! ……いやな、おっちゃんが経験した話だと若くてむちむちな子が」



「若くてむちむちした子がどうしたの……」



「「え゛!?」」


 私とカロフが振り向くと、そこにはリィナが笑顔で立っていた。

 そしてその察したくない感情の矛先は言わずもがなカロフにむけられている……。


 これはこわい! その笑顔がこわいよ!


「カロフ……ちょっとあっちでお話しようか。ムゲン君……すこ~しそこで待っててね」


「は、はい……」

「クゥ~ン」


 私はそう力なく答えるしかなかった、犬も何かを感じ取って萎縮してしまっている……。

 いやしかし、今のリィナに逆らったら何をされるかわからないからな。


 今はただゆっくりと連れていかれるカロフの冥福を祈るしかできない……。


「ちょ、おま! ま、待ってくれリィナ、俺は別に! おいムゲン! 黙ってないで助けてくれ! ……アッー!」


 スマンなカロフ、私にはどうすることもできない。

 せめて無事に帰ってくることを祈っているよ。


「ワウ?」


「犬よ、カロフは犠牲になったのだ……」






 そんなこんなで数分後……。


「さ、行きましょう。王宮はこの道をまっすぐ進めばすぐだから」


「……」


 スッキリした顔のリィナと今だガクガクと震えているカロフ。

 何があったのか凄く気になる。


「カロフ、一体何をされたんだ」


 こっそりと聞いてみるが。


「……ゴメンナサイゴメンナサイ……もうしませんからユルシテください……」


 駄目だこりゃ。

 でもまあ浮気はダメだよな……昔の知り合いが凄い浮気をしてぶっ刺された話を聞いてからというものの、女性というものは本当に怖いと思ったし……それでも私は恋をしたいがな。


 それよりもカロフはこんな状態で大丈夫なのか? 王宮に着く頃には治っておかないとな。


「着いたわ、ここが王宮よ」


「おお、デカい」


 王宮に着いた時に何か気の利いた言葉でも言おうと思っていたが、出てきたのはそんな単純な言葉しか出てこない。


 そういえばその昔、皆が私のためにこっそり城を建ててくれたこともあったな。私は別にそういうものに居座ってふんぞり返る気はなかったのにあいつらときたら……。


(そういえばあの城はどうなってしまったんだろうか。懐かしいな……皆で楽しく過ごしたあの城は私があそこで死んだ後どうなってしまったんだろうか。なぁドラゴス、何か知らないか?)


(え!? あ、あー、あの城ねぇ……。実はサイモンが刺されたのもあの城なんだが、奥さんが刺した後爆発魔法を使って死体と一緒に自害しちまったんだ……それで)


(城ごと木っ端微塵ってとこか。まぁ今更未練も無いけどな)


 その爆発がなかったとしてもどうせ2000年もあればなにかしらの変化はあっただろう、なにせ魔法がここまで衰退するぐらいだしな。


 とまぁ、そんな昔話は置いておき。


「おいカロフ、もう王宮に着いたぞ。しっかりしろ」


「ゴメンナ……はっ! つ、着いたのか」


 こんな調子で大丈夫なのか? だんだん不安になってきたぞ。


 さて、兎にも角にも到着したわけだが、私はこの場所に詳しいわけもないのでリィナについていくことしかできないが……と考えているのだが。

 と、そう思っていると、誰かがこちらに向かって奥から走ってくるのが見える。誰だ?


「エイプル第三騎士隊長殿! よくご無事で」


「あなたは、確か第四部隊副隊長の……なぜここに?」


「はい! このフェイト・アズール、あなたの部隊が門兵から帰還しているとの報告を受けたのでお迎えにあがりました! なにしろあの龍の山へ向かわれたと聞いていたので心配で心配で」


 身なりのいい鎧を身に着けたなかなかのイケメンさんの登場だな……見た感じこいつも貴族出の騎士ってところかね。

 しかしわざわざ迎えに来るとは……この男、リィナに気があるとみた。

 だが問題はそこじゃない。


「なぁリィナ……この人はこちら側の人間なのか……?」


 貴族となると、龍の山で私達を襲ったあのおっさんのような輩の可能性も考えてしまうわけで。


「大丈夫、彼も私と同じ亜人保護派の貴族だから。おほん、アズール副隊長、出迎えありがとうございます。それより報告しなければならないことが沢山あるので、すぐにでも王へ取り次ぎたいのですが」


 私が疑いの眼差しでアズール副隊長を見ているとリィナが説明してくれた。

 貴族だからと言って誰彼と構わず疑うのは良くないか。


「わかりました、ではさっそく玉座の間へ……それと、そちらの方々は? 一人は亜人のようですが」


「こちらは今回の事件の調査に協力してもらったリュート村の住民です」


「あ、ええと、俺! じゃなくて自分はじゅ……リュート村のカロフ・カエストスという者で」


 いやテンパリすぎだろカロフ。

 まぁ初めてこんなところに来れば緊張もするか。偉い人間も沢山いるんだろうし、騎士に憧れてるカロフがリィナ達以外の人の前であがってしまうのも無理ないな。


「それで、こちらが今回の特異点から現れた異世界人の方です」


「無神限だ、皆からはムゲンと呼ばれている。あとついでにこいつは犬だ、よろしく頼む」


「ワンワン!」


「馬鹿野郎! テメェなんだその挨拶は失礼だろ! す、すいませんこいつ礼儀を知らないもので」


 ……また殴られた。まったく、いつも失礼なのはお前の方だろうに。

 それと私は今後誰かに心から媚びへつらうつもりは毛頭ない。せっかくこの世界に帰ってきたのだから昔の私のスタイルを貫かせてもらうぞ。


「は、はぁ……大丈夫ですよいつも通りで。しかしあなたが異世界人ですか……。おっと! ではお二人のことも理解しましたのでそろそろ行きましょうか」


 こうして、報告のために私達はこの国の王が待つであろう玉座へと向かっていく。

 ……しかし不安が残る、新手の新魔族は貴族と繋がっているらしいということだし、今この瞬間も見られているかもしれない訳だ。

 気を引き締めておかないとな。


 さて、そうしているうちに広い場所に出たぞ、どうやらここが目的地かということか?

 目の前には豪華な椅子が一つ、その少し離れた位置に身なりのいいおっさんが立っているが……。


「アレス王国第三騎士団隊長リィナ・エイプル、ただいま帰還いたしました! これより報告を……」


「どうした? エイプル隊長」


「あ、いえその、大臣……王はどこに?」


 そう、私もさっきから気になっていたがどうやら玉座っぽい椅子に王様が座っていない、てかこの周囲を見渡してもどこにもそれらしき人物が見当たらない。

 こういう報告と言ったものは、やはり一番に王様に知らせるものなんじゃないのか? RPG的に考えても。


「うむ、王は数日前から病気が悪化したみたいなのだ。今はこの場に出てくるのも辛い状態でな」


「そんな、医者はどうされたんですか!」


「医者も全員匙を投げた……。なにしろ原因不明の病だ、治療法がわからない」


「そんな……」


 原因不明の病ねぇ……気になるな。

 医者でもわからないとなると何か魔術的な要因が絡んでいる可能性を考えるべきかもしれない。魔術を扱える者がほとんどいないこの大陸ではその可能性を察することも難しいだろうしな。

 まぁもしそれが本当に未知の病だったらお手上げかもしれないがな。


「しかし大臣、こういった報告は原則王族へ行うのが決まりのはずです」


「う、うむ……そうなのだが」


 このままでは話が進まないな、報告が遅れればそれだけ相手に対策を準備する期間を与えてしまうことになる可能性がある。

 この街に入ったことでもう私達の存在がアルヴァンの仲間に知られてしまっているのは確実だろう。

 できれば迅速に動きたい、なにか打開策はないものか……と、考えてるその時だった。



「それならば私が聞きましょう、それなら問題ありませんよね」



(誰だ?)


 いきなりそんなことを言って大臣の後ろから女の子がやってきた。

 歳は……私と同じくらいか、そしてめっちゃかわいい。


「ひ、姫様! どうしてここに?」


「父の容体が少し落ち着いたので……それよりも、報告ならば王族である私が承ります」


 なるほど、お姫様だったのか。うむ、さらりとした金髪とその頭の上にちょこんと乗ってる小さいティアラがいかにも『ファンタジー世界のお姫様』っぽさを醸し出してるな。


(ん? どうした、今のお前なら「いやっほう! お姫様超かわいい! 私とお付き合いしましょう!」とかいうテンションになると思っていたのだが)


(いつ私がそんなテンションになったこの馬鹿ドラゴンが。確かにかわいいんだが……ああいった立場の人間と付き合うことになると政治的な問題に巻き込まれるからな、帰る方法を探すどころじゃなくなる)


 政治に関わりそうな人はできればNG。

 できれば今回の人生では暖かい家庭を作って普通の生活をしたいのだ。私にだって理想というものはあるのだよ。


 おっと、そんな話よりとりあえず今は報告だな。


「姫、ではさっそく今回の事件の報告を……」


「その前に、そちらの異世界から来たお方を別室へ送らせてもらいたいのです。我が国では異世界の住人の保護が第一の優先事項とされていすので。すみませんが……」


「そうでしたか。……えっと、ムゲン君」


「ああ、私は別に構わないぞ」


 別に私がいなくても報告はできるだろうしな。逆にここで話がこじれる方が時間を食うといったところか。

 まぁ後でカロフあたりからでも話を聞けばいいだろうしな。


 私は別室とやらでゆったりと休ませてもらうとしましょうか。


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