16話 それぞれの戦い 前編
「クキ……馬鹿な! これではエネルギーを抽出できない」
作戦成功だな。あの新魔族……アルヴァンとやらも驚いてる驚いてる。
突然の事態に驚いてリィナとカロフも目を丸くして声も出せないくらい放心してるな。
「やはり……異世界人というものは厄介ですね。ここまでワタシの邪魔になる存在だとは思いもしませんでしたよ……」
おやおや、状況的に見れば追い詰められてるというのに意外と冷静だな。何か作戦でもあるとみるべきか……。
警戒するに越したことはない。だが今は……。
「さぁお前達は完全に包囲されている、おとなしく投降してもらおう。洗い浚いすべて吐いてもらわないとな」
とにかくこいつらには聞くことが山ほどある。アレス王国で他に協力している貴族連中の名前だとか他に新魔族は何人いるのかとかな。
後は……王の病ってのにも関係してそうだ。聞いた話じゃこいつらが暗躍し始めた頃から王が伏せているって話だし十中八九関係してるとみて間違いないはず。
「あ、アルヴァン様、私はどうすれば!?」
おっと、どうやら形勢逆転されてあのおっさんは完全に戦意喪失してしまったようだな。
なんでもカロフのオヤジさんを死刑台に送った男という話らしいが……。
「ふぅ……やれやれ、ここまでやられてはこの作戦は失敗ですね。仕方ない、ではワタシは逃げるとしますか」
「なんだと? 今更逃げられると……む!」
これは……魔力反応! 防壁の魔術を……いや、この魔力の属性波長は!
「闇の衣よ、彼の者の意識を猛き狂気へ導け! 『
「へ? アルヴァン様、一体な……に……ギギ……をぉ!? あア……アグ……」
マズイ! あの新魔族め、狂戦士化の呪文をおっさんに使いやがった!
しかもあれは命尽きるまで狂い続けるタイプ! おっさんの口封じとこちらへの対処を一度にまとめて行ったか!
「みんな下がれ!」
ブゥン!!
「ぐわあああああ!」
私の警告と同時に魔導鎧が再び動き始め、目にもとまらぬ速さで振るわれた腕が数人を吹っ飛ばしていく。
間一髪のところで彼らの体に防御の膜を張ることはできたが……重症は免れないか! くそっ!
「クカカカ! マルシアス卿、せいぜいあなたには時間稼ぎをしてもらいますよ。もっとも、もう聞こえてないでしょうがね……クヒ!」
「おい! あの野郎逃げやがったぞ!」
ここでアルヴァン逃すのはマズイ! 奴にアレス王国へ帰られでもすれば、すぐさま仲間に連絡され私達を抹殺するために戦力を投じてくるはずだ。
早く追わなければ! ……だが問題なのは。
「ガアアアアア!!」
あの暴走したおっさんをどうにかしなければ。魔導鎧に残っている魔力残量とおっさんの魔力量を合わせたとしても数分耐えきれれば魔力を使い果たして動きはだんだんと鈍くなるとは思うが……それではアルヴァンを完全に見失ってしまう。
(どうすれば……っておわ!? やべぇ、魔導鎧がこっちに!)
未だ考えが纏まらないというのに、そんな暇さえ与えられず巨大な拳が私に向かって振り下ろされる。
ギィン!
が、その攻撃は私に届かず……。
「大丈夫かムゲン!」
リィナとカロフが私の前にでて魔導兵器の拳を受け止めてくれていた。
「皆が私を助けてくれるなら、私達だって頑張らなきゃ」
まったく……本当に仲がいいなお前らは。よし、だったら私も皆を信頼するとしようじゃないか。
「皆、頼みがある。今ここであの新魔族を逃すのはマズイ。なので私は奴を追う。その代わり皆にはコイツの相手をしてもらいたいんだ。……頼めるか?」
「えっ! でもそれって、ムゲン君が一人であの新魔族と戦うってことでしょ。そんなの危険すぎる!」
「……ムゲン、勝算はあるのか?」
「カロフ!?」
どうやら、カロフは私のことを信頼してくれたようだ。カロフの問いかけに応えるように、私はただ無言で頷く。
「お前は、凄い奴だよ。ただの馬鹿なガキだと思う時もあれば、まるで何年も修羅場をくぐってきた歴戦の猛者のように思える時もある。そんなお前を……俺は信じてみてぇ」
カロフは信じてくれている。ならば、その期待に答えねばな……それと。
「私もお前達を信頼している。お前達のお互いを思う気持ちは本物だよ。そんなお前達を応援したいし、二人の未来も幸せであって欲しいからな」
「む、ムゲン君! 私は別に!」
ピッ
リィナの耳にスマホを当てある音声を再生する。
「……え!?」
続いてカロフにも……っと。
ピッ
「……なっ!?」
おーおー二人共顔を真っ赤にしちゃって。
まぁ無理もないか。二人に今聞かせたのはこの山に入る前、それぞれの夜に聞いた二人の会話の重要な部分を録音したものだ。
「これだけお互いのことを想っておいて別にもなにも無いだろう……。なに、これからのことはこの件が片付いたら二人でじっくり話し合ってくれ。私はキッカケを作っただけだからな」
(なぁインフィニティよ、今二人に何をしたんだ? 変な箱から声が出ていたが……何かの魔法か?)
そういや魔力も使わずに音の振動を記憶させるとなればそんな反応もするか。
現代日本の技術力は流石のドラゴスも驚くということだ。
「さて、では私はそろそろ行かせてもらう。ま、お前達ならあんな奴ぐらい簡単に倒せるさ」
「お、おいちょ!?」
赤い顔したカロフが止めるが構わず行くぜ。
「ではな! 餞別だ『
リィナとカロフに強化術を与え、私はアルヴァンを追いかけるため走り出す。
きっと上手くいくさ、何もかもな!
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「お、おいちょ!?」
「ではな! 餞別だ『
俺の制止も聞かず行っちまいやがった。あのヤロウ、後で覚えてろよまったく。
でも……ま、俺もなんか吹っ切れたな。
「リィナ!」
「ひゃ! ひゃい!?」
おおう、リィナの顔がリンゴみたいに真赤だ。かく言う俺も結構な赤面だとは思うが……。
「か、カロフ! あ、あの……今のは……その」
「まったく、戦闘中だってのにだらしないぜ騎士隊長さんよ。まぁ、なんだ……誘導されたみたいでちと癪に障るがよ。俺は……なんつーか……そう、覚悟を決めたぜ!」
「か、覚悟って……?」
「リィナ、この戦いが終わったら俺はお前に伝えたいことがある……。だから、生きて帰ろうぜ!」
「あっ、カロフ!」
あーーー恥っずい! とにかく、まずは狂ったアイツをどうにかしねぇとな。
俺達が話してる間、皆が相手しててくれてたみたいだが……やっぱりあのデカさは厄介だぜ。
「っておいおい、皆吹っ飛ばされてるけど大丈夫か!」
村の連中や騎士達が立ち向かっては吹っ飛ばされてるが不思議なことに致命傷には至らないようだ。
「おめぇら、大丈夫か!?」
「イツツ……おう、この通りピンピンしてるぜ。それより、痴話喧嘩はもうすんだのか?」
こいつ……言ってくれるぜ。
「こんな時に冗談言ってんじゃねーよ。っておわ! こっち来やがった!」
「ウギゴゴガァ!」
ナメんな! この距離ならジャンプしてなんとか避けられ……。
「……え?」
ちょっと待て! 俺はただジャンプしただけなのになんで皆を見下ろしてるんだ!?
おいおい、マジか! ムゲンがかけた強化の魔術ってのはそんなにすげぇってのか……。
そうだ、改めて神経を研ぎ澄ましてみれば確かに全身に力が漲ってやがる……これなら!
「ハッハー! 今の俺の力なら貴様なんてひとひね……ヘブゥゥ!」
どわ! 勢い良く突っ込んだはいいものの軽くいなされちまった。強化されててもそう簡単にはいかねぇか……。
それにしてもそこまで痛くはねぇな。これも強化の影響か?
ってか俺はいつまで吹っ飛ばされ……っとと誰か受け止めてくれたっぽいな。
「もう、調子に乗って一人で突っ込むところは全然変わってないんだから! ……まぁそういうところも好きなんだけど(ボソ)」
「リィナ!?」
「さっきは取り乱してごめん。カロフ、今は皆で力を合わせないとあれには勝てないよ」
くっそ、なんか俺カッコ悪いぞ。
ま、確かに一人でいいカッコしようとはちょっと思ってたけどよ……。
「皆、ここからは私が指揮を取るわ! 村の皆は固まって相手の動きを抑えこむように攻撃して! 騎士団の皆は隙ができたところを重点的に攻めていって!」
「わかったぜリィナちゃん!」
「了解です隊長!」
おお、リィナの指示で今まで防戦一方だったのにどんどん巻き返していく。
しかし指示を出してる時のリィナはなんていうか凛々しくて……憧れちまうな。
俺だって昔はこんな感じの騎士に憧れて……。いや、それは……今も変わらねぇか!
「カロフ!」
「うおっ!? お、おう」
「なにボーっとしてるの。皆も頑張ってくれてるけど、本命はやっぱり私達なんだから」
「本命?」
「そ、あの兵器、腕と足はエネルギー体だから切ってもちょっとグラつくだけだからほとんど意味が無い。胴体は硬くて剣が通らない。なら胴体の上にあるむき出しの本体を叩くしか無ってこと。だけど、やっぱり大きいし暴れまわっているから皆じゃ近づけないから……そこで」
「なるほど、ムゲンから強化術をもらっている俺達なら!」
確かに、隙さえ出来ればさっきのように迎撃されずに本体までひとっ飛びってわけか。
「きっと皆が隙を作ってくれる……だからカロフ、私に呼吸を合わせて」
「ったく、昔はお前が俺に合わせてたっていうのにな……」
「私だって……成長、したんだからね」
まったくその通りだよ。成長してなかったのは俺の方だ……。
だからよ、今ここで……成長してやるよ!
「すべてを諦めていつも後ろを向いていたあの頃の俺はもういねぇ……。これからは、ずっと前を向いて生きてやるぜ!」
騎士団の攻撃で魔導鎧のバランスが崩れる……その刹那、俺とリィナは閃光のようにはじけ飛んだ。
「これで!」
「終わりだ!」
瞬間、二人の剣が交差しマルシアスの首を跳ねる。
決着は、一瞬でついた。魔導鎧は操縦者を失い胴体だけでのたうち回るが、やがて魔力が尽きたのか音を立てて崩れ落ちていく。
「や……やったぁあああああ!」
そしてその瞬間、皆が勝利に打ち震える。
「やった、私達……勝ったんだね!」
誰もが信じられないというような驚きと歓喜で溢れかえった。そりゃそうだ、皆あんなんに勝てるなんて思ってもみなかったしな。
これで新魔族のヤロウもいたらどうなってたか……って!
「そうだ、ムゲン! 早くアイツを助けに行かねえと!」
アイツは大丈夫なのか、早く加勢に!
「うん、心配だね。皆! あまり離れすぎないようにしてムゲン君を探しましょう!」
ムゲン、お前だけは死なせねぇぞ! 俺に大事な想いってやつを思い出させてくれた恩人なんだからな!
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