15話 主役は遅れてやってくる!
……時刻は少々遡って。
「ドラゴス! まだ着かないのか、というかまっすぐ進んでいるが本当にこっちで合っているのか? 霧で何も見えんぞ」
ドラゴスとの再会の後、私ははぐれた仲間を助けるため導かれるままにまっすぐに進んでいた。
(問題ない。お前はまっすぐ進んでいるつもりだろうが我の霧でちゃんと誘導している)
「ならよし! ドラゴス、皆の様子はどうなっている、敵との戦力比は!」
駆けながらでも戦況は先に知っておきたい。相手の戦力や状況を把握しておけば到着した時にすぐ対応が出来るからな。
まさか私が到着した時には全滅していた……なんてことになっていなければいいんだが。
(そう叫ぶな、見つかっても知らんぞ。それに、念じるだけで我とは会話可能だ、忘れたか?)
おっと、『
って、今はそれどころじゃない!
(あーあーテステス、こんな感じだったな。それで、どうなんだ)
(ふむ、どうやらこの山で暗躍していたのは巷でよく聞く新魔族と言う奴と近くの国の貴族……らしい)
(らしい?)
(どうやら悠長に会話などしているようでな、ペラペラと語ってくれるおかげで手間が省ける)
ってことはまだ最悪の展開には至らなそうだな、安心したぜ。
しかし新魔族……この世界に帰ってきて早々いきなりご登場とは……。
さらに貴族と一緒か……アレス王国の王が伏せていて一部の貴族が主に国を動かしていると聞いた時から何かあるかもしれないという直感はあったが。
(そういえばドラゴスよ、お前は新魔族についてどれだけ知っているんだ?)
新魔族については私はあまりにも無知だからな。今は少しでも情報が欲しいところだ。
(良くは知らんな。我は何年かに少しだけ外界に耳を傾けるのだが、新魔族については4~500年前までは誰もがその話をしていたが……最近はそんなに聞かなくなったので詳しいことはわからん)
お前も知らんのかい。どうやらドラゴスの知りうる新魔族の情報も現代のこの世界における一般的な通念程度なんだろう。
まぁこの大陸では全然姿を見ないと言われていたから無理もないか。
(我も今回初めて姿を見るが、本当に我らが知る魔族とは違うみたいだな。むむっ! あれは……)
(どうした?)
(戦闘が始まったんだが……どうやら新魔族とやらが見たこともない兵器を使っている! と、思ったがあれはただ他人の魔力を吸い上げ属性もない魔力エネルギー体に変換してるだけだな。昔皆で作った
つまらんって。しかし、相手さんはそんなものも用意していたのか。
それに他人の魔力を吸い上げるというのはもしや……。
(ドラゴス、それに使われているエネルギー源は……)
(ああ、お前の想像通り行方不明の人間達だそうだ。さらに新魔族は現在共にいる貴族以外の貴族とも繋がりがあるらしい)
やっぱりそうか、くそったれ!
つまり今回の事件には王国の黒い部分がどっぷり詰まってことになるわけだ。
(しかし結構マズイ状況だな、魔法も使えない奴らではあの兵器相手は辛いようだな。属性もついてないエネルギー弾だがそこそこ威力はあるというとこか……ま、我には効かんが)
(冷静に分析してるんじゃない! まだ着かないのか!)
魔力弾……そんなものを防御術もないあいつらがモロに受けていたら運が悪ければ致命傷だ。
一刻も早く……。
(ん? もう着いてるぞ)
(なに!?)
霧が晴れ目の前に広がった光景はボロボロの騎士団と今にもトドメを刺されようとしているカロフの姿。
おいおいもうこれ完全にクライマックスじゃねぇか!
(馬鹿野郎! さっさと教えんか!)
(一番のピンチに駆けつけたほうが盛り上がるだろう?)
あー! まったく、ほんとにコイツ性格変わってないな!
とにかくさっさと助けなければ!
(ま、ちゃっちゃと片付けてこい)
軽く言ってくれる……。今の私には倒せるかどうかもわからないのに。
しかし、不謹慎だがケルケイオンの力でどこまでいけるか試すのも楽しみではある。
「さぁいくぞ! まずは防御だ、『
前世において"神"とまでうたわれた私の力を見せてやろう!
-----
「『
てなわけで、場面は戻って皆のピンチに颯爽登場!
私の魔術は前回の魔物相手に使ったものとは段違いの威力で、やっこさん兵器が放った魔力弾をすべて受け止めた。
「なっ! なんだこの壁は!?」
「ふむ……私がいない間に大変なことになっているみたいだな。だが、主役は遅れてやってくるもの! 最強魔導師ムゲン、仲間のピンチにただいま参上!」
決まったな……。今の私には主人公的オーラが溢れまくっていることだろう。
(貴様もノリノリではないか……)
(うるさい、私だってこういう演出好きなんだからいいだろ)
「ムゲン……お前……ゴフッ! 生きてたのか……心配……させやがって……」
他の皆も傷だらけだがカロフはそれ以上だ。あのダメージ……このままではマズイな。
「心配かけさせて済まなかった……それより喋るな、傷が悪化するぞ」
「俺のことは……どうでもいい。それより……リィナを」
自分が死にそうだというのにリィナの心配か。ったく……やっぱりこいつらほっとけないな。
前世でもそうだったが、私はやはり何かとお節介な性格のようだ。
「
「これは……! 傷が塞がっていく」
傷が塞がるというよりもカロフがもともと持っている治癒能力を最大限にまで引き延ばしただけだがな。痛みや失ったものまでは流石に戻せない
てなわけで生命属性も難なく使用可能だ。これならば……。
「クソォ! 邪魔な壁だ! さっきのはこの前の異世界人か。こんなもの殴り壊してくれるわ!」
ズドンッ! ズドンッ!
「くっ! ムゲン、このままだと壁が破壊されちまうぞ! お前は早く皆を助けて逃げるんだ!」
「焦るな。なに、今から魔力弾を撃っただけで魔導師気取りの三流野郎に本当の魔術というものを教えてやろう」
「お、おいムゲン!?」
あと一、二発で崩壊ってとこか……なら!
「ははは! 脆い、脆いぞ! これで終わりだ!」
奴が調子に乗って最後の一発を放つ……このタイミング!
「今だ、第二術式展開! 追加属性《生命》! 生まれろ『
壊されかけていた土の壁がみるみるうちに土人へと変化していき、三体の土人が誕生した。
でもってそのうちの一体が相手の攻撃を抑えこんで、残りの二体でぶん殴る!
おっと、後ろで驚きながらも戦闘態勢に入っている新魔族さんも警戒しておかなくちゃな。
しかしあれが新魔族か……見た感じは現代日本でいう悪魔っぽい姿をしてるな。
まぁ新魔族はいろんな奴がいるらしいから全部が全部あんな姿だとは思わないほうがいいか。
「ぬぅ! ぐ、小癪な!」
む、あれは……チューブから魔力を吸い取っている!
このままでは振りほどかれるか。
「ふん! よくもやってくれたな……くらえ『
「飽きもせずまたそれか……守れアースマン!」
アースマンの盾により私達は無傷だ。
だが攫われた人から魔力を吸われるのは厄介だな、新魔族もそのエネルギー源の側を離れようとしないし……そうだ!
(ドラゴス、頼みがある。ゴニョゴニョ……)
(ふんふんなるほどなるほど。わかった、その程度ならお安いご用だ)
よし、ドラゴスならうまくやってくれるだろ。
となれば問題はこっちか、さて……。
「そっちがただの魔力の弾丸ならこっちは岩の弾丸だ! いくぞ、第三術式展開! 撃ち抜け『
アースマン達の肩にキャノン砲みたいなものが装着され、そこから岩の砲弾が発射される。
どんな感じかって言うとガン○ャノンみたいな見た目。
「ぐお! こ、このクソ異世界人めが~!」
岩弾の雨に魔導兵器は足止めされ満足に動くことができないようだ。うし、今の内にリィナ達の手当をしておこう。
「第二術式展開、追加属性《光》『
ケルケイオンから光が放たれ、それを浴びたリィナ及び騎士団の皆の傷を癒していく。
「すげぇ……今の光もそうだがあのアースマンも……。一体どうなってるのか俺にはさっぱりわからねぇ」
カロフは驚いてるようだが私としてはこれこそが魔術の真の使い方だ。
あのアースマンの原理は、まず第一術式によって属性と用途を決め回路をそこまで進ませ発動、土の壁が出来るわけだ。
その後第二術式、アースマンの生成だが自立性を持たせるために生命属性を追加、回路を進め壁だったものをアースマンへ作り替えた。
この時最初に通った回路である壁の役割を引き継ぐことで防御力に特化しなおかつ効率的に壁の性能を果たす生きた壁の出来上がり。
そして第三術式により岩石砲の回路に進めることで前情報のアースマンに追加される。
こうして『ある程度自立性を持ち砲台を装備した壁』のアースマンの完成だ。
ヒーリングも最初にカロフに使ったものをそのまま再利用し、光属性を追加するという技術を駆使している。
こうすれば効率よく魔力を回路に流すことができ、術のクオリティも格段にアップ。
ただやたらめったに魔力をブッパするだけのやつとは違うのだよ。
しかし、今の私ではせいぜい第三術式までが限界というところか。
「う……はっ! え、む、ムゲン君!? よかった、生きてたのね……。そうだ、カロフ! カロフは!?」
リィナも意識を取り戻したな。しかし二人揃ってお互いの心配ばかりして……。
もう付き合っちゃえよオマエラ。
ドゴォン!
「うおっ!」
いきなり一体のアースマンが吹っ飛んできた。
どうやらやっこさんも本気みたいだな。
「マルシアス卿……少々遊びが過ぎたようです、ここからはワタシも参戦させてもらいますよ……ククッ。申し遅れました、ワタシの名前はアルヴァン……以後よろしく、と言ってももう会えないかもしれませんがねぇ」
アースマンをふっ飛ばしたのは奴の蹴りか、壁としての役割を持っているアースマンを吹っ飛ばすとはなかなか……。
こちらは騎士団の面々も復活したが、正直あのアルヴァンとやらと魔導鎧が一緒に来られるとマズイ。
だが……。
「くそっ! マズイぞ、魔導鎧がこっちに来る! 足止めのアースマンはアルヴァンとかいう奴に止められちまってるぞ。どうすんだムゲン!」
「大丈夫だ」
「大丈夫って……」
確かに人の魔力を吸い爆発的なパワーを得る魔導鎧は強力だ……今の私達ではアースマンなしではどうしようもないだろう。
そう……私達"だけ"の話だったらな!
「霧が晴れたぞ! みんなぁ今だ! この線をぶった切っちまえ!」
「いよっしゃああああああ!」
この場にいた私を除く全員が驚いただろう。
なにせ私達とは別で動いていたチーム全員が一斉にして霧の中から現れたのだから。
「み、みんな!?」
現れた皆は力を合わせ、次々に魔導兵器のチューブを切り裂いていく。
そのあまりに予想外の状況は、新魔族アルヴァンでさえ今まで一度も見せない焦り顔で戸惑っているほどに。
「ば、馬鹿な! このワタシが気付かなかっただと!? あれほどの人数が隠れていたというのに。……ま、まさかこの霧を……そんな馬鹿な!」
(これでいいんだろ? インフィニティ)
(ああ、バッチリだ!)
私はドラゴスに他のチームを奴らの背後に誘導するよう頼んでおいたのだ、もちろん気づかれないようにな。
まだ生きている人を助けると同時に魔導鎧の戦力大幅ダウンを狙った作戦である。
だがこれを実行するにはエネルギー源近くにいたアルヴァンが邪魔だった。
そこでアースマンを単体では攻略するのを難しい設定とし、アルヴァンにも前線に出てもらおうという考えだ。
後はタイミングを見計らい、一部始終は見れていたが霧のせいでたどり着くことが出来なかった皆を開放。
痺れを切らした皆がエネルギー源にされていた人達を救出するという戦法だ!
ま、つまりは……。
「形勢逆転という訳だな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます