12話 探索開始
ってなことが道中いろいろあったわけだが、ついに『龍の山』にたどり着いた。しかし……こうも霧が濃いと流石に探索もしづらいな。
どれ、ここはひとつやってみるとするか。
「魔術を使って霧を払えるか試してみる。皆ちょっと下がっててくれ」
私の言葉を聞いたリィナがみんなに合図して隊を下がらせてくれる。
……結局リィナとはあの後からまともに話せてないな。っと、今は術に集中しなければ。
「よし、『
私が魔力を操り術名を唱えると、辺り一帯に突風が吹き荒れる。これが私が今使える風魔術の中で一番威力が高いものだ。
この魔術はスライムを倒した時のように攻撃のためでは無いので拡散させて放っている。
「すごい、こんな広範囲に魔術を撃てるなんて!」
なーに、戦い用の回路とそうでないようの回路を使い分けるのも前世の時代の魔法使いに取っては当然のことだ……ま、現在はどうか知らんがな。
「おおう! こりゃ言うだけはあるな! これならうっとおしい霧も吹っ飛んで……」
と、カロフも含めた隊の全員が歓喜の表情を浮かべるが、私だけは何か違和感を感じてしまう……。
しばらくして風が収まっていく。しかし私達の目の前に現れたのは、依然として変わらぬ霧に包まれた山だった。
「うそ、あれだけの風でも晴れないなんて……」
私の魔術は完璧に決まったはずだ。
だというのに晴れるどころかまったく変化が無い。それはつまり……。
「くそっ……けどダメだったもんはダメだったんだ、しょうがねぇ。しかし霧が晴れねぇ以上、こうなったらこのまま進むしか無いぜ」
「ああ、そうだな……」
私の中にはある考えがあった……が、考えてる途中でそれはカロフに遮られる。
とにかく今は先へ進もう、多分私の憶測もただの考え過ぎかもしれないからな。
だが、私の中には拭い切れない不安が残っていた。
もしも、もしもこの霧が自分の考えている通りのものだったら。そして今回の事件にそれが関わってるのだとしたら……。
(やめろ、そんなことを考えてなんになる……。言い出しっぺの私が不安になっていたら周りまで不安になってしまうだろう)
しかし、胸によぎるのは一抹の不安。やはり考えずにはいられない。
「みんな、ここを探索するのに大人数で固まってるのはもったいないと思うの。けど霧もあるから少人数で動くのも危険。だから10人1組、4チームでいきましょう。お互いにはぐれないように注意して進んでください」
「うし、それでいこう。……っておいムゲン聞いてんのか」
この霧は多分魔術で創られている、私の魔術が霧の触れた場所からどんどん無効化されていった。
そして、そんなものを扱える者ならばそれは今の私の何百倍も強い……。
もしそんな奴が本当にいたら、そしてそれが私達の敵だったら……?
「ムゲン君?」
私達は、絶対に勝てないだろう……。
探索開始から時は少々過ぎ、一時間以上特に進展も無いまま探索は続いていた。
未だ不安は拭い切れないが、ここまで来た以上探索しないわけにもいくまい。
私のチームはリィナと騎士団の面々だ、あとカロフもいるな。正直のところ今は二人のことを考えてる余裕があまりない。
けどこの空気はよろしくないな、この前の話を意識してか二人共会話が全然ないし。
それに敵も山の外と比べて手強くなってきた。
手こずるほどでもないが、こう息があってないとこの先まで体力がもつかどうか。
しかし本当に霧が深いな……それになんだか腹も減ってきた。ケロリーメイツでも食うか? このまま持っててもいずれ腐るだけだし。
「時間も立ったし結構奥まで進んだ気がするけれど、何かが起きる気配はないね。この状況……もしかしたら危ないかもしれないから皆注意して進んで」
「ん、なぜだ? 魔物はそこそこ出てくるが苦戦するほどのものでもない。足元に注意していれば怖くないだろう」
今のリィナの言葉はどうも何かまずい状況だと感じているような発言だが、私としては今のところ特に問題ないように思えるのだがな。
「いや、問題なのは魔物じゃねーよ」
なんだ? カロフの顔も若干険しくなっている。
「どういうことだ?」
「この前にも少し説明したけどよ、この山は頂上を目指して歩いていると何故か麓に戻っちまうんだ。さっきも別チームからそう連絡があった」
えっ、連絡できるの! いや私も昔はテレパシーみたいなこと使ってた時期あるけどね。
でも私以外に魔導師は一人もいないのにどうやって……。
「ど、どうやって連絡を?」
「山に入る前に説明したでしょ。騎士団に支給されている通話魔石のこと」
えーなにそれー。私はそんな話聞いてないぞー。
「ま、あん時はおめぇも自分の魔術が全然通用しなくてよほどショックだったんだろうよ。リィナ、もう一回説明してやれよ」
ぐぬぬ、カロフめ好き放題言いやがる。
まあ実際ショックだったのは確かだがな。
さて、リィナ曰く通信魔石というのは近年発明された魔力による通信機らしい。
リィナ達は細かい仕組みについてはよくわかっていなかったみたいだが私には理解できた。
基本的には私が昔使っていたテレパシー的なものに似ているか。
私の術は話したい相手と魔力の波長を合わせ光と生命の組み合わせて信号を送るというものだ。
この通信機は魔力を貯めこませやすい鉱石に光……今は付与か、を鉱石に貯めこむ。その功績を割って片方に声を当てればもう片方の同じ魔力の波長をもつほうに届くというわけだ。
さらに沢山に分ければ全部に声が届く、便利ー。
……が、そこまで万能じゃない。
割った瞬間魔力が漏れだして二日もしないうちに効力はなくなってしまう。
今回は四つに分けたから一日もつかどうかってところか。
「使い勝手がいいのか悪いのか……」
確かに通信できることはいいんだが、これでは持ち運ぶのも面倒だししかも使い捨てだ。
携帯電話と言うよりは使い捨て無線機ってとこか、改めて現代日本の良さが身にしみる。
あー早く日本に帰りたいぜ。
……本題に戻るか。
「まぁ連絡できることはわかった。しかしそれが今の状況とどう繋がるんだ?」
「普通は一時間もこの山を登ろうとしたら必ず戻されてるんだよ。ほかチームも全員山に入り直してる。だってーのに俺達は戻されずにいのはおかしいってことだ」
そうか、ということはもしかしたら私達の現在の状況は山から帰ってこない人達と同じ状況に陥ってるかもしれないと言いたいわけか……。
「なるほど危険な状況ということはよく理解できた。だがこうも考えられないか? 山から帰ってこない者達と同じ状況かもしれないからこそ私達は事件の真相に近付いている……とな」
この状況はピンチともチャンスともとれる。
願わくば"事件の真相"と"この"霧の主"が同じものでないことを祈って……。
「でもこれ以上進むのは危険かもしれないわ。一旦麓まで戻ってほかチームと合流して明日また探索したほうがいいかも。みんな疲れてきてるし、これ以上暗くなると本当に何も見えなくなるから」
確かに……焦ってもいいことはない。慎重すぎることもないしここは一旦戻っ……。
「ウギー!」
おわ!? なんだこの豚鼻野郎は! ……と思ったらオークか。この程度の奴なら後れを取ることは……。
「ウゴアー!」
「アギャー!」
奥からどんどん湧いてきやがった! 20、30……霧のせいで分かりづらいがとにかくめっちゃいるぞこれ!
迂闊にも巣穴にでも近づいてしまったか!?
「この数はまずいわ……。みんな、応戦しながら後退! このまま麓を目指します! 足もとに注意して進んで!」
となれば私も魔術で足止めといくか。
えーっと、森で火や雷はさすがにまずいよな……。
「ならば地属性でいくとしますか……そら、『
ボコボコと地面から土がせり上がりオークの足を止める。
だがこの程度では足止めが精いっぱいか……もう壊されはじめてるし。
「私の魔術が足止め程度にしかならんとは……」
自分の力の弱さにビックリするほどだ。
……っと今は嘆いてる場合じゃないな、応戦応戦。
「ふぅ……なんとか乗り切ったな」
数分後、私達はオークの群れからなんとか逃げ出すことができた。
「だが、さらに山の奥に入っちまったみたいだぜ、下ってたはずなのにな。霧もさらに濃いしよ……こりゃ戻るのにも苦労しそうだぜ」
そうだ、私達は確かに下りながら戦っていたはずだ。それなのに、辺りには先ほどまで見なかった植物などが見て取れる。
お、あの木に生っている実は……。
「ルコの実か……懐かしい、これも昔よく食べたな」
ちょうど腹も減っているし、どれ一つ……うん、美味い!
この甘酸っぱさが最高だな、さらにこの実はその果肉に微量のマナを溜める性質をもっている。噛めば溜まっていたマナがまるで炭酸みたいに口の中でシュワシュワ弾けて爽快感も味わえるぞ。
微量だが中のマナを取り込むことで魔力もすこーし回復することができるのだ。
「お、おいムゲン! なに得体のしれないもん食ってんだ!」
え、な、なんだ? 何故カロフはこんなに慌てているんだ?
まさか私が今食べているのはルコの実ではない危険な植物なのでは!? ……とも思えなんだがなぁ。
「り、リィナ……これはそんなにやばいものなのか」
「えっと……わからないわ、そんな果実は見たこともないから。ムゲン君、体はなんともない?」
馬鹿な、ルコの実と言えば私が魔法神をやっていた時代では魔法使い達のおやつの定番だったぞ。
昔は誰の木が一番大きな実を附けるか競い合ったくらいだ。
そうか、今はルコの実はそこらじゅうに生えてるものではなくなってしまったのか……。
しかし、この山に昔の私に繋がるルコの実があったことで少しホッとすることができた。
聞けば、このあたりの植物はリィナ達も見たことないものばかりだそうだ。
そのかわり、私は見たことあるものばかり。なんだか急にこの山が怖くなくなった気がしてきたぞ。
「ガァーー!」
うおう、急になんだ!?
「こいつは……ヘルハウンドか!」
全長3メートルほどの獣の姿をした魔物だ。
もしあの牙に噛まれでもしたら鉄でも砕けてしまうだろう。
「くっそ! 下のやつとはレベルが段違いじゃねえか!」
「大丈夫、相手は一体だけだから落ち着いて対処すれば怖くないわ!」
そうだ、下のやつより強いといっても所詮一匹。
私も魔術で援護して……。むぅ、霧が深くて狙いが定まらな……なんだ?
(どういうことだ。私の周りだけどんどん霧が……霧が濃くなっていく!?)
まるで霧が意思でも持っているかのように私だけをどんどん包み込んでいく。
駄目だ、何をやっても抜け出せない。走っても払ってもこの霧は私の周囲からまったく消える様子がない。
「お、おい! これでは何も見えない。リィナ、カロフ! 大丈夫か! 敵はどこだ!」
「ム――君――――るの! ――――!」
「お――ゲン! ――し――だ!」
おかしい、カロフ達の声がどんどん遠ざかっていく。
くそっ、ここはどこだ、いったい何が起きて……。
(――――――――――――――――――)
「ぐあぁ!」
な、なんだ! この頭に直接響いてくる声のようなものは!
(――――――――――――――――――)
まただ、これは……まさか私を呼んでいるというのか?
「こっち……か」
(――――――――――――――――――)
行ってやるからそれをやめろっての! 頭に響いて痛いんだよ!
「ぶはぁ!」
ここは……なんだ? 急に霧が晴れたぞ。
いや違う、ここだけまるで台風の目のように霧が全くない。
「それに……なんだこの強力な魔力……は」
私は言葉を失ってしまった。無理もない、そこにいる存在はとても巨大なものだったのだから。
大きさだけの話ではない、その存在感は他と比べられないほど圧倒的なもの。
果たして前世でもこれほど強大なものに会ったことがあるだろうか。そう思えるほどに……。
「龍……族か?」
龍族……それは今やこの世界では伝説の種族とまで言われている特別な存在。
この世界で最強最大の肉体を持ち空を駆け巡る、高度な知性と魔術を操り、その存在が動けば世界のバランスが崩れるとまで言われている。
そんな存在が今私の目の前にいる。
これはやばい、しかも私の知る龍族の中でもこれは遥かに強大なものだ。
今にも逃げ出したいが、この存在の前では無意味だということを私の頭は本能で察していた……。
「覚悟を決めるしかないか……」
今度こそ終わりか……。二度目の人生は短かったな……やり残したことが沢山ある。
それと、皆は無事山を降りれただろうか。今の気がかりはあいつらが無事かどうかだ。
「だが、せめて最後の抵抗ぐらいはさせてもらうか……」
魔力を高め一糸報いるため術式を展開する。
これほどの存在に効くとは思えないがな……。
「その魔力の波調、やはり……。いや、しかし……ブツブツ」
むむむ、喋ったぞ! まぁ龍族は高い知能もあるし生活基準も普通に人族と変わらないから当然か。
てかなんかすげーボソボソ言ってるけどなんなんだ?
というかこれはチャンスなんじゃないか? よし、今のうちに私の最大奥義……。
「インフィニティ……なのか?」
「ファ!?」
い、今何と言った!?
私の聞き間違いでなければ確かにインフィニティと……。
「そうだ、間違いない。回路はボロボロだがこの魔力の質は間違いなくインフィニティのものだ」
「あ……」
龍族の顔がこちらを向く。その顔は年老いた老龍の顔だ。
だが私はその顔立ちに見覚えがあった、いや知っているものよりもかなり老けてるんだが……。
「お前……まさか、ドラゴス……か?」
見上げた先には、前世での一番の親友の顔がそこにあった。
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