11話 二人のキモチ 後編
出発二日目、天気は晴れ、特にこれといった問題は起きずに今日も行軍は順調そのもの。
この調子なら明日には到着するだろうというところか。
日も暮れてきたということで今日も野営の準備を開始する。今日の私は薪を集めて火を点ける役目だ。
うむ、一緒に薪を集めている女性騎士のお尻がとてもいいぞ。薪を拾う時にかがむから尻の形がよくわかる。
……おっと、それより火を点けなければ。
着火器具も渡されてはいたが私には魔術があるのでちゃちゃっと火を点ける。
お、周りの女性騎士が関心の眼差しで私を見ているぜ。フッ照れちゃうなぁ……好きになってもええんやで!
しかしこれと言って特別なことが起きるわけでもなく、その後昨日と同じくパンとスープだけの食事を終えて見張りの時間がやってきた。
今日こそは女性騎士とお近づきになりたかったが今日はお預けだ。
ちょっと話を聞きたい奴がいるからな。
「ったく、なんでお前と一緒なんだよ……」
私の隣でカロフが愚痴る。なにもそんなに嫌がらないでもいいだろうが。
「まぁまぁ、私が知らない人と一緒だと緊張するからって頼んだんだよ」
私だって本当は今日一緒に薪を集めていた尻の形がいいあの人がよかったさ……。
でも私の長年積み重ねた経験からくる"勘"がお前らに何かビビッとくるものを感じてしまったのだから仕方がない。
「私は人見知りなものでな、知ってる相手じゃないと緊張するのさ」
「お前のどこが人見知りだよ……。ったく、だったらリィナでもいいじゃねえか」
「リィナとは昨日一緒だったからな。今日はお前と……ということだ」
それに昨日の話を聞いてからというもの、気まずくてリィナとあんまり話せていないのだ。
いつまでも気まずい雰囲気でいるのは性に合わないからな。カロフと話して何か突破口を見つけられればいいんだが……。
よーし、こっちの準備はオッケイだぞ。どこからでもバッチコーイ。
「……」
「……」
「……」
「なんか喋ろうぜ!」
「別に見張るだけなんだから無理して話さなくてもいいだろ」
そう言ってカロフはまた黙ってコーヒーを飲みだした。
むむむ、そちらにその気が無いならこちらから攻めるまで! しかしあまり軽い話題だとカロフは反応してくれそうに無い……。
カロフが突っ込んできそうなものにしなければ。
うーむ……そうだ!
「なぁカロフよ、リィナとはもうヤったのか」
「ブフウウウウウ!?」
おわ、汚ねぇ!
「いきなりコーヒーを吹き出すな!」
「ゴホッゴホッ! ッ、いきなりテメェが変なこと聞くからだろうが!」
まったく、軽いジョークだというのに……。
しかし、この反応からするにカロフもまんざらでもないみたいだな。
ひとまず予想が当たって私の顔は今だいぶニヤニヤしてるはずだぞ。
「で、つまるところどうなんだ?」
「あるわけねぇだろんなこと……。ったく最近の異世界ガキはマセてやがんだな」
ガキって……。私はもう15だぞ、この世界ではあと一年もすれば成人なのだしむしろ性に興味を持ち始めるくらい普通だろう。
っと、話を戻さねば。
「だが好きなんだろう。二人は幼馴染だと聞いたぞ、その昔は二人で仲良く特訓していたとか」
「誰からその話を……。ったく、別にアイツのことは好きでもなんでもねーよ」
「その割にはとても仲良く見えたがな(ニヤニヤ)」
「んなこたねー……。あ、あれだほら、リィナは妹みたいなもんだ。うん、あいつに対してそんな感情はねぇ」
カロフめ……あくまでも自分には恋愛感情が無いと言い張るか。
さて、どうしたもんかね……このままでは話が進まない。
「そうだ……恋愛感情なんて、あの時にもう捨てたはずだ……」
お、こちらから何もアプローチをしかけていないにもかかわらず勝手に語りだしてくれたぞ。
これはこれで結果オーライだな。……っとお、会話を続けなければ。
「どういうことだ?」
「……いいかムゲン、今から喋ることは全部俺の独り言だ。もし聞いたとしても聞いてないことにしろ。そして誰にも喋るんじゃねぇぞ」
言ってることは無茶苦茶な気もするがせっかく話してくれるんだ。
私は黙って頷いて話を聞く体制に入るとしよう。
「あれは……俺がまだガキだった頃の話だ。俺のオヤジは騎士の副隊長でよ。俺もそんなオヤジに憧れて騎士になりたいと思っていた。この俺がだぜ、笑っちまうだろ」
その話は先日リィナからも聞いたな。
だがなぜこんなにカロフは卑屈なんだろうか。子供の頃くらい憧れの一つや二つあってもおかしくないと思うが。
「そんな中リィナの母親が病気で亡くなってな。落ち込んでるアイツをどうにか元気づけてやりたかったんだが……俺は不器用だったからよ、なんでか特訓に付きあわせちまったんだ。だけどリィナは段々笑顔を見せるようになってきた。まあなんつーかその笑顔にちょっとずつ引かれていったよ」
おおう、カロフが照れて顔が赤くなっていく。
似合わないぞ……。
「そんな日が何年か続いたある日。そう、あの日あんなことが起きなければ……」
特異点……か。そこから聞いた内容はリィナから聞いた話と大体一緒だな。
自分の父親が自分の隊の隊長を殺した疑惑。リィナが貴族の娘だと判明し、その家を継いだこと。
「今でも俺はオヤジが人を殺したなんて思えねぇ。あのクズ貴族、この前村に来たビィト・マルシアスとか言う奴の証言がオヤジを処刑台へ送ったんだ!」
そう叫ぶように話すカロフの声にはこれでもかというほどの怒りが感じられた。
よほどあのおっさん、マルシアスとか言う貴族が憎いのだろう。
「それからだ……俺は貴族っていうものが心底嫌いになった。だが、そんな時リィナが殺された貴族騎士の隠し子だってのが発覚した。俺はアイツに貴族になんてなってほしくなかったよ。けど、アイツは俺達を守るために貴族になることを選んだんだ……」
リィナは亜人が多く暮らすリュート村を自分の家の力で国の保護を受けさせるようにした。
この世界では亜人は愚か、人族以外の種族にはあまり待遇が良くないらしいからな。
まったく、一体なぜそんなことになってしまったのか……。
「だから、最後に俺はリィナに思いを伝えようとしたんだ。だってのに、リィナは俺に黙って村を出て行っちまった……。当たり前だよな、なにしろ俺は自分の父親を殺した男の息子なんだからよ。だからもう、俺はアイツの迷惑にならないようにすることにしたのさ」
……おおっとぉ、これはなにやらすれ違いの匂いがするような。
つまりだ、カロフとしてはリィナは自分とはもう関わりたくないだろう……なんて自分勝手な思い込みをしてるわけだ。
だからこそ、夢だった騎士になることも諦めて……。
「それにアイツは貴族になった。今でこそ仲良く接してるように見えるが、それは周りの奴らに気を使ってのことだろ。アイツには王都で幸せになってもらえれば俺は満足だ……」
うぐぐ、こいつらお互いを思いすぎてめっちゃすれ違ってやがる。
どこの恋愛小説だよ! ラブラブじゃねーかおい! くそう、私の魔力回路さえ完璧なら今すぐ爆裂魔法をぶっ放してやったものを!
「今はリィナが昔のように接したいって言ったからそうしてるだけさ。アイツが王都に戻ればそれも終わり、もうほとんど会うこともなくなるだろうさ。ま、それも今回の件を乗りきれたらのはなしだけどな」
そう言ってカロフは立ち上がり、どこかへ向かおうと歩き出す。
「ん、どこへ行く気だ? 小便か?」
「ちげーよ、もう交代の時間だ。ったく、しかし俺としたことがなんでこんな奴にペラペラと語っちまったのかね……」
おっと、もうそんな時間が経っていたか。
そんじゃあ私もテントに戻るとするか……と思ったが。その前に小便しに行こう。
「ふぅ……スッキリした」
……しっかし、どうして私はこんなにもあいつらのことを気にかけてしまってるんだろうな。
そういや昔にもあんな感じで煮え切らない奴らがいたらもどかしくなって相談に乗ってやったこともしばしばあったな。
そうだなー、あれはいつの話だったかな。たしか私が500歳くらいの時に外の世界へ飛び出したころだったか。
カロフのような狼獣人の国と鳥人の国が国家間で争っていたんだ。んで、その国同士の王子とお姫様の部隊が争ってるところに割り込んじゃって魔法をブッパしたら三人だけ谷底に真っ逆さま。
そこでも二人は殺し合いを始めようとするから困ったもんだ。なんとかなだめて一人ずつ事情を聴けば、なんともともと二人はお互いの身分を知らない知り合いだったんだなこれが。
それが戦争が始まったとたん殺しあう仲になったわけで……ん、戦争の始まった理由? 忘れたわそんなん。
そんな険悪なムードをどうにかしようと二人の仲を取り持った結果二人はめでたくゴールイン、よかったよかった。
国に戻ったときには双国とも満身創痍で戦う気力も残ってなかった。そこへ帰ってきた二人でお互いの国を支えあい終いにゃ一つの国家になっちまったわけだ。
めでたしめでたし、ちなみに以後その国は私が困ったときによく助けてもらった。
その後にもいろいろあったな、自分の恋をほったらかして他人の恋の手助けをするなんてこと……。
やれやれ、性分ってやつなのかね……わかるか、犬?
「ワフ?」
わかんねぇだろうな。……さて、犬の小便も終わったしさっさと戻るとするか。
(しかしどうすっかねあいつら)
私がお互いの気持ちをぶちまけるのは簡単だ。
だがそれでは意味が無い、思いはちゃんと伝え合わねばさらなるすれ違いを起こすこともあるからな……。
「ま、今はそれどころじゃないか……」
カロフの言ったようにすべては今回の件が片付いてからだ。
だ が、その中でチャンスを見つけてしまったら全力でくっつけるつもりではあるけどな!
「んー、明日には龍の山に到着ってとこか。ふぁ……お休み、っと」
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