7.5話 気になる二人
ムゲンが夕食を終え、二階の部屋で魔法の説明をしてる頃……一階には訪問者が来ていた。
「村長、今大丈夫?」
ムゲンにこの世界の説明をした女性の騎士リィナ・エイプルだった。
「おお、リィナか! 待ってくれ、今茶を入れよう」
「ありがと、ごめんなさいこんな時間に」
「構わんよ、久しぶりにこの村へ帰ってきたんだ。ゆっくりしていきなさい」
リィナは子供の頃この村で育ったが早くに身寄りを無くし、それからというものの村長夫婦は親代わりのようなものでよくリィナの面倒を見ていた。
「しかし、5年前にアレス王国の方へ行った子が騎士隊長様になって帰ってくるとは……」
「あの時は……急だったから私にもよくわからなかったし。いきなり皆とお別れするなんて思ってもみなかったから」
そう言ってリィナは俯いてしまった。
実はリィナは自分からこの村を離れたわけではなく、彼女の親の事情が深く関わっていたらしい。
「そういえばムゲン君はどうしてる?」
「あの子なら今上だよ。今回は本当にに異世界人みたいだねぇ……。また以前のようなことが起きなくて安心だよ」
「うん……そう、だね……」
「あ……済まないリィナ。この話はお前にとって余り気持ちのいい話ではなかったな……」
そう言って村長は申し訳なさ気に口をつぐみ、暗い表情で押し黙ってしまう。
「いいのよ村長。私にとっては実感のないことだし。むしろ……あの件に関しては私よりもカロフの方がよっぽど……だから」
「う、うむ。しかし……」
コン……コン……
なにやら暗い雰囲気の会話で静まり返る場……。だが、その静寂を破るかのように扉を叩く音が響き渡った。
「あっ、大丈夫私が出るわ」
気まずさを隠すかのように村長に気を使い、客人への対応に向かうリィナ。だが、扉を開けて現れたその人物は……。
「夜分遅くにすまねぇ村長。この……ってリィナ!?」
「カロフ!」
訪ねてきたのはムゲンを牢屋に入れた亜人族の青年、カロフ・カエストスだった。
カロフはリィナの顔を見た途端にバツの悪そうな顔で踵を返し……。
「邪魔をした! 話はまた後で……」
「待って!」
リィナを見るなり帰ろうとするカロフのその腕をリィナは掴んで静止した。
「は、離せ! ……じゃなかった、離してくださいよ騎士隊長様」
「カロフ、ここには私の部下もいないし昔の私達しか知らない人しかいないんだから。今だけでも昔のように話そうよ……」
抵抗するカロフだったが強情なリィナの態度に諦めたのか肩を落として向き直る。
「昔を知ってる奴だけって、二階に奴はいるんだろ?」
「む、ムゲン君は例外!」
ちなみにムゲンは今犬に向かってドヤ顔で魔力に関する理論を説明中です。
「カロフ、リィナもこんなに頼んでいるんだ。少し位いいじゃないか」
村長の説得によりカロフは仕方ないといった感じで家の中へ入っていった。
「わぁーったよ……少しぐれーならな」
「やっとしゃべり方も戻ったわね。正直ちょっと気持ち悪かったかな」
「ぐ……悪かったな気持ち悪くて。でも、俺達だってもう大人なんだ。お前は国の騎士隊長様、対して俺は小さな村のしがないピグヌス飼いだ。それに……」
カロフはなにか言いかけて……やめた。
それを言ってしまうとリィナを傷つけるとわかっていたからだ。
「できれば、私はどこでもいつものように話して欲しいけど」
「流石にそれはマズイだろ。お前の部下の目だってあるだろうし」
「大丈夫、私の部下は皆理解のある人ばかりだもの。それに、今回の調査は私の故郷だからって言ったら「じゃあ隊長の素の姿が見れるかもしれないですな」とかニヤニヤながら言ってたし」
「いやいや、それでもなぁ……。あーもう……ったく仕方ねぇ、お前がアレスに帰るまでは普通に接してやるからそんな顔すんな」
いくら説明しても一歩も引かないカロフの態度に対してリィナの顔は凄いふくれっ面になっていた。
「しかし、特異点の調査なら普通は筆頭の第一部隊がくるもんなんじゃないのか? お前この村に来た時第三部隊とか言ってなかったか?」
「あれ、聞いてない? 『龍の山』の件」
「聞いている、ここに来たのも村長とその話をするためだったからな」
『龍の山』とはこの大陸の三分の一ほどの大きさを誇る巨大な山脈地帯のことだ。
普段から人が立ち入ることのない危険地帯ではあるのだが……二人の会話からしてどうやらそれとは別に事件が起こっているらしい。
「あっちの事件のせいで人員が不足してるの。アレスのお偉いさん達は特異点を軽視してるところがあるから……」
「……ふん、奴らには何の期待もしてねぇよ」
「ごめん、カロフ……」
「別に、お前が悪いわけじゃない……」
少し空気が重くなってしまっていた。
「そ、そういえばカロフ。あなたムゲン君のこといきなり牢屋に入れるなんて。もうちょっとやり方はなかったの?」
「あの時点ではあいつが無害かどうかなんてわかんねぇからな。それで? どうなんだあいつは?」
「大丈夫よ、ただの異世界人。色々と聞いては見たけどこの世界のことはわからないみたいだったし。明日ムゲン君にちゃんと謝りなさいよ」
「ふん、俺はまだあいつのことは信用してねぇ」
「まったく昔から本当に頑固なんだから……あ、もうこんな時間」
結構話していたのか、すでに時刻は12時を過ぎようとしていた。
「少し話し過ぎちまったな。じゃ、俺は失礼するぜ」
「うん、また明日ね。今日は話せてよかった……」
リィナはカロフが去っていく姿を引き止めることができなかった。言いたいことはまだ沢山あるはずなのに。
「はぁ、ムゲン君に言われて意識しちゃってるのかな……。そろそろ私も戻らないと。それじゃあ村長、お邪魔しました」
リィナは兄妹同然のように共に過ごしていたカロフのことがずっと好きだった。
それはどれだけ時間が経ち、離れ離れになろうともリィナの思いは変わることもなく。
(やっぱりカロフのことが好きなんだなぁ私……でも)
だが彼女は感じていた……。この自分の思いを伝えることはできないだろうな、と。
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