7話 その日の夜


むかしむかし せかいにすむいろんなしょぞくがけんかしていました


ななつのたいりくにななつのしゅぞく みんながてきです


だけどそんななかひとりのひとぞくがあらわれました


そのひとぞくはまじゅつのかみさまだったのです


かみさまはせかいのけんかをとめながらみんなをせっとくします


そしてついにみんなをなかよくすることができました


しかしほんとうになかよくなっってはいませんでした


ななつのしゅぞくはいつもにらみあっています


そんなとき せかいはききをむかえます


うみがあれ たつまきがおき ほのおがおそいかかってきたのです


ななつのしゅぞくはきょうりょくしてききにたちむかいました


かみさまのちからをもらったななつのしゅぞくはぶじききをのりきりました


それぞれのいいところをしったみんなはほんとうになかよくなれました


しかしかみさまはたくさんのちからをつかいたおれてしまいます


みんながかみさまのまわりにあつまってないてしまいます


かみさまはみんなのかおをみてほほえみました そして


「もうわたしがいなくてもだいじょうぶだね」


といってめをとじました


それからななつのしゅぞくはけんかすることもなくなかよくくらしましたとさ


めでたし めでたし




「……か、はいはいめでたしめでたし」


 その晩、私は貸してもらった部屋で『まじゅつのかみさま』を読んでいた。


「読めば読むほど私っぽいな」


 前世の記憶でこの世界を救った私の伝説はなぜか絵本になっている。

 そして実在しないお伽話の住人として子供達に読まれているのだ。


 こうなってくると前世の記憶が本当なのかどうか不安になってくる。

 この記憶は私の創りだした妄想なのではないか……と。


「だが私の知っているやり方で魔法は使えた。夕食に出されたピグヌスの丸焼きも記憶の味に近かったしな」


 久しぶりに食べたピグヌスはあまり美味しくなかった。不味い訳ではない、前世で食べた味とあまり変わらない。

 どう調理してもピグヌスはピグヌスだった。


 ただ、日本で食べる料理が前世で食べていたものよりも美味しすぎて舌が肥えてしまってしまっていた。

 ああ、ハンバーガーが食べたい! ポテチが食べたい! コーラが飲みたい!


「……それに、母さんの料理が食べたいぜ」


 ……ちょっとホームシック。思えば前世の私は小さい頃人に感心を持たない子供だった。

 裕福な家庭に生まれはしたものの、親の愛というものを理解できず、気づけば一人きりになっていた。


 だからだろうな……数々の経験を得てやっと人間らしい感性を得た私がこうして新しい家族を大切に思えるのは。

 今思えば前世で仲間を集めていたのも寂しさを埋めるためだったのかもしれない。

 あいつらのおかげで私は"人"になれたんだ。


「母さん、父さん、姉さん、みんな心配してるかね……」


 よく小説の主人公なんかは異世界にきた時は皆生き生きしているがこんな気持にはならないのだろうか。


「クゥーン……」


 尻尾を振りながら犬がこっちに来た。心配してくれてんのか?


「ふっ……そうだな、こんなのは私らしくなかったな。なに、私は前世で魔法神と呼ばれた男だ。帰る方法など自力ですぐに見つけてみせるさ」


 そうだ、私は日本で学生時代に恋人をつくってイチャイチャし、いい大学を卒業後安定した職に就く。

 結婚もして子供は二人か三人、笑顔が耐えない明るく楽しい生活を送るのだ。

 こんな所で挫けてどうする、私は絶対に帰るぞ!

 そうと決まればさっそく行動だ!


 まずするべきことを考えよう……。明日からは街に向けて出発だったな。


「ふむ、とりあえず鞄の中身を確認しておくか」


 財布、スマホ、整髪料、空のペットボトル、筆記用具、ケロリーメイツが二つ、後はゴミばかりだな。


 日本の金はもちろんこちらでは使えないだろうし、スマホも使えない、充電ももたないだろうし。

 整髪料もいらないだろう、明日の朝一回使ったら捨てるか。


「ペットボトルはいざという時に使えるか? ケロリーメイツも食ったらお終いだしな……」


 こうしてみると役に立ちそうなものなんて殆ど無いぞ。

 こういった異世界トリップ系の話ではよく日本から持ち寄ったもので何か機転を利かせてその土地の人と仲良くなったり、凄い大金になったり、ピンチを脱したりするものだが。


「これでは私は何もできなさそうだな……」


 小説のように都合よく武器を持っていたり、金になりそうなものを持っている訳など無い。現実は非情なのである。


「ん? 鞄の奥に何かあるな……」


 おっと、実は知らぬ間に役に立ちそうなものが入ってるパターンか!


「……こ、これは!?」


 ……ただの折りたたみ傘でした。

 そういえば朝の天気予報で雨が降るとか言ってたから慌てて入れた記憶がある。


「……何かに使えなくもない、か?」


 持ち物確認はこれくらいでいいか……。


「後やるべきこと……そうだな、やはりやるか……魔法!」


 魔法……魔力という日本ではあり得ないこの力こそが今、この世界が私の知る世界だと確信出来る唯一の手段……。

 これだけが、魔法だけが私とこの世界を繋いでいる。そんな気がする。……あくまで気がするだけだがな。


「ワンワン!」


 お、私が何かするとわかって犬も寄ってきたな。

 ふっ、やはり興味があるようだな……なにせ私は前世では世界最強だったからその風格が隠しきれないってとこかなハハハ!


「そうだな、さっきは意識を失ってしまってしまったからな。よし! 今回は私の知る魔法の原理について教えてやろう。心して聞けよ犬!」


 うむ、今回のお話の半分近くは魔法の説明回だな。

 え、メタ発言やめろって? それだとドヤ顔で犬に話しかけてる寂しい人じゃないか。


「オホン……えー、魔法に必要なのはマナと魔力、そして魔力回路。これは前に話したな。世界に散らばるマナは常に人々の知らない内に体に吸収され魔力に変換される、それに気づくかは人次第だ。まぁそこは才能だな」


 ちなみに私はその才能もピカイチだ(ドヤァ)


「魔力の最大量は人によって違う。一応増やす方法もあるが今説明するのは面倒くさいので省はぶくぞ。この魔力を魔力回路に通すことで命令を与え魔法に変換する。回路も人によってバラバラだがこれは努力しだいでなんとでもなる。例えば私が使った『火柱フレイムピラー』だが、あれは炎を出す命令の回路と上に向かって伸びるという命令の回路を通したことで生まれた技だ。その時その二つの回路がキチっと繋がっていなければ失敗することが多い」


 実際失敗したからな。

 あれは炎を出す回路を通ったあとの道が繋がっていなかったために私の魔力を食いつぶしながら上に向かって伸びる命令式の回路を探したからもの凄い勢いになったわけだ。


 上に向かって伸びる命令式の回路に辿り着かなければ魔力を食われすぎて死んでいたかもしれんな……。


「自分の中の回路を見ることが出来れば調整は簡単だ。簡単と言っても時間はかかるし理論を理解しなければチンプンカンプンだが」


 実際私が魔法神の回路を組み上げたのには約1000年はかかった。

 今回は昔の知識も持ち合わせているから昔のように試行錯誤しなくていいとはいえ、何の補助もなしに魔法神時代に使っていた回路のようにはには戻せないだろう。


「よし、魔法の使い方に関しては理解したな。では次は理論だ、私はこの世界に存在する魔法の属性を10に分けた、一応魔力だけを操作する無属性というのもあるがそれは属性に分類はしない。ではまず自然属性である火、水、地、風、雷。次に特殊属性の光、闇、生命。そして禁術属性の重力、時空間。自然属性は文字通り自然界に存在する力を使う。特殊魔属性は主に人体や生活感に関与するものが多い。最後に禁術属性だが、これは世界そのものに影響を与える危険なシロモノだ」


 私も強大な禁術属性は2000年の中で数えるほどしか使ったことがない。すさまじい代わりに代償も大きいからだ。

 出来れば使いたくないが、この体ではまずそこまで辿りつけないだろう。


「魔法を使用する時まずこの中から使用したいものを選び、そこから接続されている回路に伝えていく。……さてその回路だが、回路は人によって待ってく違うと言ったな、あれは嘘だ。いや嘘ではないんだが全く同じものが無いわけではない。例えばA君とBさんが全く同じ呪文を同じぐらい練習すると、気づかない内に回路を最適解に作り変える。その結果同じような回路が生まれるというわけだ」


 まあ私の回路は複雑すぎるし自分で好きな様に変えることができるので、誰かと同じになるということはまず無いだろう。


「そして先ほどの説明のように回路は変化する。一度固定された回路をまた組み替えるのは難しいが、回路というものは追加が出来る。だが増やせばそれだけ複雑になるし自分の魔力量以上のものを使おうとすれば身を滅ぼすことになる」


 そうして死んでいった魔法使いを私は何人も見てきた。


「まあ、魔法は自分の身に合ったものを適切に扱えということだ。さて、それでは改めて少し試してみるか。さっきよりは回路も組めたからな」


 え、いつそんなことしてのかって?

 リィナと話している時にも幾つか回路を調整していたのさ。


「後は杖でもあればいいんだが……」


 辺りを見渡してもそんな都合の良いものは……。


「ワン!」


 おや、犬が何か咥えてきたぞ……これは。

 さっき鞄から取り出した私の折り畳み傘じゃないか……。


「いやでも、伸ばせばちょっとは杖に見えなくも……ないか?」


 背に腹は代えられん、これでやるか。


「呪文は……あーいいやめんどくせぇ」


「ワン?」


 実は魔法を扱うのに呪文は必要ない。

 回路を通すこととイメージさえしっかりしていれば術名だけで事足りる。

 呪文はイメージを固めるためによく使われるが、私にしてみればそんな奴は二流だ。

 最初のあれはカッコつけてみたかっただけです。


「回路というのは言うなればイメージの塊だ。だから一人ひとり違うし同じことを考えれば同じになる。イメージが増えれば回路も増える。魔法は人のイメージの数だけ存在する……」


 私の中で魔力が息づいているのがわかる。

 光魔法……傘の先を照らし続けるイメージで。


「『光源ライトアップ』……」


ポウッ……


 傘の先端から光が現れる。


「よし、強すぎず弱すぎず、でも部屋全体が明るく。まるでLEDのような優しい光だ」


 昨日まで日本にいたからイメージもそっちに引っ張られたんだろう。まあ悪いことではない。


「ここまでが魔法の基本的だ。この説明だと誰でもどんな魔法を使えると思われがちだがやっぱり得手不得手はある。自分のイメージしやすい魔法を使うのが一番だ」


 え、私は何が得意かって? 全部得意に決まっているだろう(ドドドヤァ)


 やはり今の私には魔法しか無い……。

 この世界の魔術とやらがどんなものかは分からないが、そちらも聞いたほうがいいだろう。


「まぁ、今のところはおとなしく街へ向かうのが一番かね」


 そうと決まれば魔力を遮断し明かりを消して……今日はもう寝る!


(なーに、もといた世界とはいえせっかくの異世界転移だ。十分に楽しんでから帰ってやるさ)


 疲れが溜まっていたのか、その晩はぐっすりと眠ることができた。


(魔法使い……いや、今は魔導師と呼ぶんだったか。なるべく今の時代に順応してかなければな……。となると“魔導師ムゲン”か。うん響は悪くないじゃないか)


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