6話 状況確認 後編 勇者と呼ばれた男


 私と同じ日本から来た勇者か……一体どんな奴だ?

 500年前……というと日本では戦国時代辺り? おSAMURAIさん、もしくはNINJAとか?

 いや、こちらで500年前だからといって日本でも500年前とは限らないかもしれないな。


「それで? その勇者というのは?」


「第29回目の特異点発生時……これは初めての中央大陸での発生ね。しかも、中央大陸でも指折りの大国での発生だったから大混乱だったらしいの」


 というと、さっき聞いたシント王国というところかね。

 どちらにせよ現代の地名国名に詳しくない私にとっては判断材料が足りないところだ。


「今までの中で規模は一番小さかったらしいけど場所が場所だからね。そこから現れたのは人族によく似てて服装は……君と似たような感じ。あと変な音の鳴る装置を持っていたそうよ。その時のスケッチも残ってるわ」


 今の私の服は学生服、つまりそいつも学生だな。

 そして音の鳴る装置か……携帯とかそのあたりというとこかね。しかしそうなると私に近い時代からきた可能性が高いということになるのか?


「その人は「魔王を倒すために異世界からやってきた」って言って新魔族討伐部隊に志願したの。でも、新魔族以外の異世界人は保護するって方針だったから最初は却下されたらしいけど」


「新魔族には魔王なんてものがいるのか……」


「資料によると魔王と呼ばれた存在は新魔族の中でも驚異的な魔力と腕力、そして統率力を持つ存在だったと書かれているわ」


 だった、ねぇ……。その言い方から察するにいろいろと予想はできるが……ま、憶測の域をでないのでやめておくか。


「勇者の話に戻るわね。勇者はその後も保護のもとにいたんだけれど、その時に起きた新魔族の王都襲撃事件の時に凄い力で新魔族を退けたらしいの」


「凄い力とはまた安直な……。それは具体的にはどんなものなのだ?」


「それについては資料には書かれていないわ……。でもこの世界の魔術とも新魔族のものともまったく違うものだったとあるわ」


 ということは私の知る魔法でもないかもな。

 そして気になるのは勇者の力はもちろん、その勇者とやらがなぜ魔王の存在を転移直後から知っていたのかだ。


「その後勇者は魔王を倒した。そのおかげで『バンチャ』が取り戻されて今現在新魔族のほとんどは『シャトー』に退却。それから今現在も中央南部の大国とバンチャの端で小競り合いは続いてるけれど。……って言うのが勇者にまつわる資料の全てね」


「ふむ……ん? ちょっと待ってくれ。その勇者は魔王を倒した後どうなったんだ? 私としてはそちらの方が気になる」


 今は少しでも帰るための情報が欲しい。もしその勇者が役目を終えて日本に帰ったというのなら、その詳細を是非とも聞きたいのだが……。


「えーっと、アステリムで一生を終えたって書いてあるわ」


「く、詳しくは……」


「ない……ね」


 もっと詳しく書けよ……。

 しかしこちらで一生を終えたか……その勇者は帰りたいとか思わなかったのか? それとも帰る方法を模索したが見つからず、諦めてアステリムにエイジュすることを決めたか……。


「ご、ごめんなさい。でも君のことは国が責任をもって保護するから! そ、それにこの世界だって慣れればいいところよ。だからそんなに落ち込まないで!」


 いいとこなのは知ってるよ、なにせ2000年も過ごしたからな……まぁその間になにやらだいぶ様変わりしたみたいだが。

 私としては色々と新しくなってるアステリムに興味がないわけではない……が、すでに私の精神は日本の生活に慣れきってしまったからなぁ。


 まぁ起きてしまったことをピーチクパーチク騒いだところで事態が好転するわけでもないし、ここは流れに身を任せるとしますかね。


「えーっと、今までの話を聞いて少しこれからのことはわかると思うんだけど」


「国の保護とやらか」


 それが保護と言う名の監禁じゃなければいいがな。


「ええ、今この世界では君みたいな新魔族ではない特異点から現れた人達と敵対しないように優遇してるの」


 敵対……なるほど、もし異世界人がさっきの話に出たような勇者みたいな力を持っていたとしたら敵にはなりたくないだろうからな。

 しっかし私にはそういうトリッパー特有の特典となまるでないよなー。『最弱スキルで異世界最強!』みないなやつをどうせなら経験してみたかった。


「右も左も分からない状況で不安だと思うけど……私達は出来る限り君の要望を受け付けるわ。欲しい物や質問があれば言ってね」


 欲しいもの? そりゃあやっぱ恋人でしょ。いきなりこんな異世界に飛ばされて一人夜な夜な寂しい思いをすると思うとやっぱり可愛い子に慰めて……って冗談ですよ冗談。

 犬よ、そんな目で私を見ないでくれ……。


「ワン?」


 とまあ茶番はさておき……。なんでも質問オーケーということなら、ここは先ほどから一番気になっていたことを聞いてみるとするか。


「あーオホン! この世界の歴史は2000年前から始まったらしが、なんというか……その、それよりも昔にもの凄い魔法……じゃなかった魔術の使い手がいたとかいう話は……聞いたことないすかね?」


 前世の私の事をそれとなーく聞いてみる。

 いや、だって気になるじゃん? それにここが本当に私の知るアステリムの未来だという裏付けもとれるかもしれんし。


「そうねぇ……。うーん……ごめんなさい。やっぱり歴史が始まる前の“古代文明”のことはわからないし、凄いっていっても今も昔も結構凄い魔導師はいるから」


「なんというか……そう、いろんな種族から認められてたーとか、神がかってたーとか」


 ちょっと無理やりにでも食い下がってみるがやはり無いものは無いのか?

 しかし古代文明ね……。私としてはつい15年ほど前の時代の感覚だというのに。


「種族……神……うーん。あっ! そうだ、ちょっと待ってて」


 おや、どうやら何か思い出したご様子。そしてそのまま奥の本棚へ向かったと思うと、おもむろに中を漁りはじめる。


(おお! ダメ元で聞いてみたが、まさか記録があるのか!)


 やはり自分のことが残っているとわかると帰ってきたという感じがするな。


「あったあった。君の話を聞いてこれを思い出したの」


 そう言って手渡されたのは一冊の本。

 お、ということはつまり……本という記憶媒体として語り継がれてるということか! ハハハ照れるぜおい。


「なになに、タイトルは……『まじゅつのかみさま』」


 タイトルはこの世界でいうかな文字で書かれ、しかも妙に薄い。中には可愛らしい絵が描かれていて……って。


「って絵本じゃねーか!」


ビターン!


 思わず床に投げつけてしまった。


「懐かしいなぁ……カロフとよく読んだの、それ」


 なるほど、昔は皆に崇められた魔法神が今や子供達を楽しませる空想の産物か……。

 あーあ、なんかもうどうでもよくなってきた。


「えーっと……大丈夫? なんか落ち込んでるみたいだけど」


「あー、大丈夫だ問題ない。それよりも次の質問だ」


 気持ちを切り替えて次にいこう、次。


「この世界の魔術というものを教えてもらいたい」


「ごめんなさい。それは今ここでは無理ね」


 おっと速攻で断られた。まるで私のこの質問を待ってましたかのように。


「あ、でもちゃんとした設備のあるところに行って審査を受ければ大丈夫よ」


「なぜここではダメなんだ」


「実は……さっき話した勇者も最初に魔術を使おうと躍起になったらしいの。でも使い方を誤って大怪我したから、それから魔術に関しては慎重にという判断が下されたのよ」


 むぅ、まあ確かに使い方を間違えれば危ないからな……私は大丈夫だが。

 おい犬、だから「お前さっきミスって死にかけてだろ」って目はやめろ。


「ワフ?」


 まあ魔術のことはまた今度大きな街にでもいけばわかるだろう。

 後のこともそっちで聞いた方がいいかもな。


「もう質問はないかな? 今日のところはこの家で過ごしてもらって、明日の昼にはここを出発するから」


「おっと済まない。まだ最後に聞きたいことが」


「いいわよ、なに?」


「リィナさんとあのカロフとか言う亜人は付き合っているのか?」


 これまでは私のこととか世界のこと知るために聞いてきたが、この質問はただ単純に興味があったから聞いてみた。

 だって気になるじゃーん。目の前であんな"いかにも"なやり取りされたらさぁ。


「え!? それは……ち、違うよ。大体カロフは私の事どうにも思ってないみたいだし……」


 へー、ふーん、ほーん。はどうも思ってないのねー……。わかりやすい人だぁね。

 しかし、それならリィナを狙うのはやめにしとくとしましょうかい。寝とり系とか三角関係の類は私の趣味じゃないし。

 てかリィナ……先ほどの質問してから顔真っ赤だな。


「し、質問はもうお終い! 話は村長に通しておくから今日はここでゆっくりしていって! じゃあね!」


 リィナはそう言い残して凄いスピードで部屋を後にしていった……。

 と思ったら……。


ドタドタドタ!


 同じように猛スピードで部屋に戻ってきたぞ。なんだか忙しい人だな。


「じゅ、重要な事を聞くの忘れてた。ぜぇ、き、君の名前を教えてくれない?」


 おっと、そういえばこちらからは名乗り忘れてたな。私としたことが失敗したZE。

 では改めて……。


「私の名は無神 限むじん げんだ。友人からはムゲンという愛称で呼ばれている。以後よろしく頼む」


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