5話 状況確認 中編 現在の歴史


 さぁ! リィナ先生のわかりやすい『アステリム』の歴史の授業の時間だよ~みんな集まれー。

 わーパチパチパチ。


 とまぁ冗談は置いといて……。

 ここからは重要だな、私がこの世界で死んだ後に何が起きたのか詳しく聞かなければなるまい。


「まずこの世界……アステリムの歴史は今から2000年前から始まったとされてるわ」


 つまり、私が死んでから最低でも2000年以上は経っていることになるか。


「2000年前にこの世界で一番大きな大陸……中央大陸『インフィニティ』にある世界最大の王国、シント王国が建国された日からね。それより前の記録は今のところ存在しないわ」


 地図を広げながら説明ごとに場所を指しながら説明をしてくれる。


(ふむ……少し形が変わっているが、やはりこの世界は私の知るアステリムで間違いないようだ)


 中央の縦に広がった一際大きな大陸から左右に放射状に広がった六つの大陸には見覚えがあった。

 地図上では詳細な形までは分からないが、私も昔は大陸の全容を把握しようと奮闘したことがあるので地形に関しては詳しい方だ。

 しかし大陸の名前が昔の自分の名前と同じだと思うと少し恥ずい。


「シント王国建国後に人族は瞬く間に他の大陸をも開拓して、500年後にはほぼ全大陸に人族の王国が出来上がったと言われているの。他の種族……亜人族と旧魔族などは結構友好的だったけど他の種族は無関心だったらしいわ」


「一つ聞きたい、なぜ人族の文明はそこまで発展したんだ? 他の種族にもそんな話があってもいいと思うのだが?」


「他の所属もひっそりと集まってるけど、公にはしてないの。エルフは森の中で結界を張りながら暮らしてるとか、ドワーフはいろんな山で見かけたり、街の鍛冶屋にいるという話も聞くわ。でも人族が発展したのはやっぱり魔術の存在が大きいわね」


(魔術? 魔法じゃないのか?)


 しかも私の記憶では魔法は得意不得意あるものの人族以外も使えたはずなのだが……。

 しかし、この村の住人や騎士団の人間を見てもまるで魔力を扱う回路がなかったからな。


「魔術っていうのは基本的にはこの世界の自然の力を扱う術……って感じかな。世界に存在するマナっていう目には見えないエネルギーを体に取り込むことで魔力に変換して火を起こしたり、水を生み出したり出来るの。そしてその力を一番うまく使えたのが人族なの」


(聞けば聞くほど私の知る魔法と同じだな。しかし魔法は理論と魔力回路の調整さえ理解出来れば誰でもうまく使えるものだが……)


 そこが解せなかった。

 実際、私の前世ではさまざまな種族が頂点を極めようと競い合っていたほど一般的なものだったはずだ。

 まぁどれをとっても一番は私だったがな!


「あ、この話はちょっと難しかったか? こういうのって異世界にはなかったりするのかな」


 おっと、また考え込んでいてしまったようだ。うーむ、今の話を聞く限り"魔"を扱う技術はあるようだが……。

 まぁ今はそれどころではないな。魔術についてはまた今度聞くとしよう。


「大丈夫だ、続けてくれ」


「ふふ、だいぶ緊張もほぐれてきたみたいだね」


 そういえばさっきから丁寧に話すことを忘れてたな。まぁいいか、これが本来の私だしな。


「魔術は歴史が始まる前にも存在されていたと言われていて古代文明を探る重要な……って話がそれてるね。魔術は人の生活にも深く関わっていって、そのおかげで世界は安定した時代に入ったの。魔術の研究、古代文明の調査、人々の生活の改善とか。とっても平和な時代ね」


 しかし、いままでの話から推測するに私が死んだ後に他種族より多く繁殖した人族は自分達だけの文化を築いた訳か。

 平等な世界というのも長く続かないものだな……まぁ大きく争っているわけではないようだから良しとしよう。


「けど、その100年後にあの大事件が起こったの……」


 む、なんだか雲行きが怪しくなってきたな。


「大事件とは?」


「第1回目の“特異点”発生。そしてそこから現れた“新魔族”の侵略よ……」


 ついにきたか……新魔族とやら!

 やっと本題と言ったところだな。


「それは誰にも予測できなかったこと……。第六大陸『シャトー』で突如空にヒビが入ったような亀裂が発生したの。亀裂はどんどん大きくなってその奥には巨大な黒い渦のようなものが存在したと言われているの」


 黒い渦……。一瞬しか見えなかったが日本で突然私を吸い込んだあれとみて間違いないだろう。


「それはもしや……」


「そう……多分君が現れた時と同じもの、規模は全然違うけれどね。1回目の特異点は街一つよりも大きかったらしいわ。そして、そこから現れたのが“新魔族”……」


 新魔族か、私の知る魔族は人族に角と羽を生やして少し顔色を悪くしたような肌をしていたが。


「この世界に元々いた旧魔族は人族に角と羽を生やして少し顔色を悪くしたような肌をしているの。それに比べて新魔族は姿形はバラバラで大きいのもいれば小さいのもいる。それこそ本当に異型みたいなのもいるの」


 なるほど、やはり旧魔族と言うのは私の知る魔族で間違いないようだ。

 しかし新魔族は本当にわからんな。


「突如現れた新魔族に『シャトー』の住民は混乱した、当時そこには旧魔族が多く暮らしていたわ。旧魔族は新魔族と徹底抗戦したけれどほとんどが狩り尽くされてしまったの。そして新魔族はそのまま第五大陸『バンチャ』への侵略を開始した……っていうのが一連の流れ」


「新魔族というのはそれほどまでに強い相手だったのか?」


「ええ、私達が使う魔術に似たものやまったくわからない力を使ってきて最初はまったく歯が立たなかったらしいわ」


 それほどの相手か……。

 実際に目にしなければどうとも言えないが、前世の私ならば対抗できたのかなどは気になるところだ。


「そして、新魔族との交戦中また特異点が発生したの。そこからまた新たな新魔族が現れてバンチャもついに落ちてしまったの。これにより特異点は新魔族の通り道という認識になったの」


「しかし私は違うぞ?」


「うん、3回目の特異点でそれが判明したわ。その後も特異点は何回も現れて新魔族やそうでないものを引き連れてきた。新魔族が現れるのは大体仲間の近くというのも判明したの」


「ちなみに私は何回目なのだ?」


「46回目ね」


(多いな!)


 こういう現象ってもっと稀に起こるものなんじゃないのか……。私のレア度感がさっぱり薄れた気がするぜ。


「でもそれだけ起これば対策も少しは出来るようになるのではないか?」


「ええ、13回目の特異点の発生前にはある一人の天才魔導師が特異点の発生場所を予測する装置を開発したの。その発明で戦況は五分にまで持ち込むことができたの。今では世界中に置かれているわ」


 そんなものがあったのか。

 つまりその装置で特異点の発生を予測し人を集めておけば出てきた瞬間フルボッコというわけだ。

 先程の私のようにな……。


 しかし天才魔導師か……一度あってみたいものだな。


「その人今はもう亡くなっちゃったけど世界各地の学校の教科書に載る程の偉人として伝えられているの。今まで多くの魔道具技術によって発展してきた人族の歴史の中でも彼以上の人はいないと言われてるわ」


 ほーう、人族が発展したのは魔道具の技術の発達によるものだったのか。

 しかしその天才魔導師もう死んでしまったのか。ちょっぴり残念だな……。


「しかし、世界各地ということは戦争中の地域にもに学校があったりするのか……。そうだとしたらかなり危険では?」


「あ、大丈夫よ。今はもう殆ど戦争と呼べるほど激しい戦いにはなっていないから」


「どういうことだ? 装置があっても戦況は五分だったんだろう」


「ええ、でも今から500年前に勇者と呼ばれる人物が現れてその戦況はひっくり返ったわ」


 勇者!? そんな奴がいたのか。

 ん、500年前?


「気づいたかな。そう、その勇者はあなたと同じ世界から特異点を通ってやってきた初めての日本人よ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る