第14話:人形師の過去①
アスリア建国から60年、大陸全土へ勢力拡大を目指すアスリア、抗うセルディエ、ギシンバエル。世はかつてないほどの戦乱に見回れていた。
醜い争いが続く世に吐き出された魔導師は何を思っただろう。
慕っていた人物をことごとく喪い、罪人として追われ、追っ手を殺し、ひたすら殺し…。
安寧の地を探していつまでも歩き続けた。
いつまでも、いつまでも…。
†
師を亡くした私が一人さまよっていたとき、あの男ーカワトに出会った。
「君!怪我をしているではないか!!待っていなさい、すぐ手当を」
アスリア帝国とセルディエ王国の魔導師たちから命からがら逃げ出してきた私は全身に傷を負っても走って走って…、ようやくたどり着いたこの密林で力尽きようとしていた。
そこで出会った老人カワトは倒れる私の異様な姿を見ても気にせず駆け寄ってきたのだ。
「…誰だ、私に触れるな!」
「おお、声を上げられるということは元気な証拠じゃ!」
カワトは嬉しそうに言って私の生身の体に触れる。そして着ていた外套をためらいなく破り私の腹にできた大きな傷に包帯のようにして巻き付けてきたのだ。
「触れるなと…っ!」
反射的に感覚の残っている右腕でカワトを払う。彼はそれを顔面にもろに食らったが、気にせず手当を続けた。
「お主魔法も維持できぬほどに消耗しておるではないか。その身の回りに転がる人形たち、そなたの腕、足…。痛々しいのじゃ。どうか手当させてはくれぬかのぅ」
そう、私の力で動く人形たちは力を失ってバラバラになって私の周りに落ちていた。私自身も戦いで失った左腕と右足につけていた魔導義手と魔導義肢が魔法で維持できずにバラバラになって落ちていた。
ここはアスリア帝国の領地マーコム。アスリアに人間の魔導師は一人もいない、いるとすれば潜入してきた他国の魔導師であり、処刑の対象だった。
「お前…っ、私は敵国の魔導師だぞ?わかっているのか?」
「わかっているよ。じゃがな、それ以前に、ここに倒れている君はまだまだ志半ばの青年ではないか。そんな君を見殺しには出来ぬ…」
ほれ、ワシの家は川の向こうじゃ。この《ゴンドラ》で運んでやろう。部品はこれで全部かね?
私はさっさと話を進めてしまうこの老人の勢いに圧されて頷いた。すると、彼は嬉しそうに笑いながら私をゴンドラに乗せた。
「この外套をかぶって隠れなさい。魔導師狩りに狙われぬようにのぅ」
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