第11話:人形師の小細工
S級犯罪者、通称≪マッドネス≫
禁術傀儡魔法の使い手で、見た目は細身の男である。
数体の人形を所有し、定めた標的は執拗に攻撃しけして逃さない。
アスリア帝国に対するテロリズムを企てている。
犯罪歴
・アスリア貴族連続殺人
・研究施設への不法侵入
・禁書の窃盗
・教会爆破テロ
・死体損壊
・魔導師長殺人未遂
など。
尚、捕らえた人間には懸賞金として一億ニケルを与える。
「…だそうですよ。すごいですねぇ、主殿。立派な犯罪者じゃないですか」
ヨイは男爵の部屋にあった手配書を見ながら感心したように言う。
「これで、主殿の罪にボーラ男爵家強盗殺人未遂が加わるわけですか…」
「だろうな」
別に罪状が増えることに関して気にしてない。アスリアの軍警たちに自分を捕まえられるほどの実力者はいないから。それに、こんな人生を送ることになったきっかけを作った奴をおびき寄せられるかもしれない。
「ね、主殿。あいつ利用してこの一億ニケルふんだくれないですかね?」
あいつ、とは部屋の入口でぐったりしている男爵のことだ。彼はロコに傀儡魔法の効きがよくなる薬を飲まされて気を失ったままだ。大して使い道がないのでそのまま捨てようと思っていた矢先にこの提案である。
「欲を出すな、ヨイ」
「なぜです?カネは大事でしょう、主殿」
「国から出る金なぞ、どんな細工がなされているかわからん」
それより、必要なものがあるだろう?ゴンドラ転覆にこいつが関わったという証拠だ。疾く探せ。
はーい、と良い子の返事をしたヨイは部屋の引き出し全て開けて中身を見る。一方のタソガレは金庫を開けて中を改めている。どうやら、タソガレが何かを見つけたようだ。
「主殿、こちらを…」
「…ふむ、全てのゴンドラを帝都製に改める布令、それと、反対するカワト系ゴンドラ職人の署名、か。日付は一週間前だな」
署名をめくっていると、ミィの父と母の名前もあった。彼女はこの署名の存在を知らなかった。恐らく両親が娘に心配をかけたくなくて口を閉ざしていたのだろう。
「こちらをご覧ください。『昨今のゴンドラ転覆事故を受け、観光業目的でゴンドラを使用する者は、より安全性の高い帝都製のゴンドラに変えることを義務づける。なお、あくまで私的なゴンドラとして従来のものを使うことは構わないが、その際は男爵家からの助成金を打ち切ることとする』…ほとんど、脅しですね」
「それに対する反対の署名が、これか」
全く、くだらんな。
やれやれといった風にため息をつくロコ。そのまま書斎の机にあるタイプライターを叩いてあっという間に文書を打ち出す。
曰わく、
『昨今のゴンドラ転覆事故を受け、観光目的でゴンドラを使用する者は、自ら安全対策をとった上でこれを使うこと。その際、新型のゴンドラも従来のゴンドラも適切な検査を受けた上で安全ならば使用を認めることとする』
と。
「こんなものか。これを複写して…。こいつのサインを…」
「おおー、これで文書偽装の罪も加わりますねぇ」
ヨイが楽しそうに口にする。タソガレも、そうですね、ととぼけた返事しかしない。そんな不名誉な罪はいらない、と言ってはみたが、本当のことだ、とクスクス笑われる。
「笑ってないでずらがるぞ」
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