第10話:決着

彼は突然、その部屋を閉ざす豪奢な扉を乱暴に蹴破った。中に入ると、そこには身なりのよい壮年の男がいる。


「やあ、ボーラ男爵。ご機嫌いかが」


「《マッドネス》…っ!」


男爵の言葉が合図だったかのように彼の後ろから飛び出してきた何体もの人形。しかし、同時に動いたヨイとタソガレがたちまち胸元の動力源を破壊して機能停止に追い込んでいく。


「おや!しつけのなっていない猿真似人形をたくさん持っているようだ」


ロコが笑いながら一歩前に踏み出す。たまらず男爵は一歩下がった。相手はS級犯罪者の魔導師、どうあがいても戦闘経験のない男爵に勝ち目はなかった。


「の、望みはなんだ…?」


「望み?…そんなのはない。ただ―」


とうとう壁にまで追いつめられた男爵、ロコは中腰になっている男爵の顔のすぐ横の壁を勢いよく蹴りつけた。ヒィッと腰を抜かす男爵をロコは冷たい目で見下ろす。


「お前のくだらん欲のために、私の古い友人が研究を重ねてやっと作り上げたゴンドラを傷つけられたのが我慢ならなくてな」


ミシミシと悲鳴を上げる壁。男爵は勢いよく首を左右に振った。


「そんな、そんなことはしては…」


「していないと?…ふん、白々しい。大方フレルとかいう馬鹿とソバエにやらせていたのだろ?なぁ…」


ロコが名前を呼んだ瞬間、ソバエの指輪が光り出す。彼はガクンと首を一度もたげてからやがて感情のない目で男爵を見た。男爵はさらに震え出す。


「こいつは私の魔法で少々傀儡になってもらった。お前がこいつに聞きもしないことをベラベラしゃべってくれて良かった。そう、お前は確か『あんな古臭いゴンドラなど必要ない』とも言っていたな」


「ひ、お、お助け…」


男爵がロコの足に腕を回す。ロコは不機嫌そうに表情をしかめると、勢いよく足を振り上げて男爵を吹き飛ばした。


「ふざけるなよ、お前に何がわかる?あのゴンドラに込められた想いの何がわかるというのだ。答えろ」


「あばば…っ」


「ふん、答えられんか。…まあいいさ、お前も私の魔法で駒にしてやろうか?もっとも、クズにはクズらしい役しか与えんがな」


ロコは言って懐から薬を取り出すと男爵の口に入れて無理矢理飲み込ませた。そして、大きく目を見開く男爵の額に手を当ててこう口にする。


「《インペリウム(支配)》」




瞬間、男爵の悲鳴が夜明け近い町中に響き渡った。


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