第5話:人形師の企み
「というわけでロコ!!あんたの力を貸して!」
いつも通りロコの工房に来たミィは向かいに座って紅茶を飲むロコを指差しながら宣言した。ロコはというと煩わしそうな表情をこしらえミィの手を乱暴に払いながら、人を指さすな、と文句を言う。
「なんだ、藪から棒に。もう貸しているだろ、これ以上を望むのか?」
「だって、あんたは予想するだけで何にもしてくれないじゃない!!だから改めて言うのよ!私、そのためにいくらでも働くから!」
もう両親のあんな疲れた表情を毎日見るのはごめんだ。さっさと原因を暴いてけりを付けたい、というのがミィの本音だった。
しかし、ロコは冷静だった。
「お前がいくら働いても、私の調査が進展するわけではあるまい?」
紅茶を机に置いて息をつくロコ。じゃあ、どうすればいいのよ、とミィは噛みつくように言った。が、彼はミィの口にいつものパンを押し込んで黙らせると、彼女の顔に自分のそれをずいっと近づけた。ロコの纏う甘い香の匂いが鼻をつく。
「なれば、今から言う薬草を昼までに採ってこい…」
「薬草?何よそれ!そんなのが何の役に立つって言うのよ!!」
「働くと言っただろう?」
ロコはいつも通りの意地悪な笑みを浮かべる。意味がわからないわ、とミィが叫ぶように言うのでロコは耳を塞ぎながら、
「働きと調査の進展は直接関わらないが、お前は『いくらでも働くから』と宣言しただろう?…ふふふ、お望み通りたんまりとこき使ってやる」
歯をむき出しにしてニヤニヤと笑うロコ。相変わらずのムカつく態度、人を小馬鹿にしたような口調である。ミィは思わず、
「いいわよ!!倒れるまでやったげるわ!感謝してよね!!!」
「いい返事だ。期待しているぞ」
ロコはそう言って麻袋を投げてよこすと、こう言った。
「カティゴの実を10、ラッヘの花を5、ファトの根を3、コントルの葉を10…」
「待って!そんな危険な草花を何に使うの!?」
途中から不穏な気配を感じたミィは思わずロコを遮って言う。それらは依存性のある麻薬の材料ともなりかねん植物の名前だったからだ。
カティゴの実には微量の神経毒、ラッヘの花には幻覚作用、ファトの根には皮膚の炎症を起こす成分、コントルの葉には洗脳の作用がある。そんなものをどうするつもりなのか。
「…倒れるまでやってくれるんだろう?よもや二言はあるまい?」
暗黒のオーラがロコの後ろに見える気がする…。ミィは思わずコクコクと頷いて工房の外へ走り出た。扱いやすい奴だ、とロコは思いつつドカリと椅子に座りティータイムを再開する。
すると、人形が一人ロコの近くにやってきて耳打ちをする。彼はそれを聞いて目を細めると、頃合いだな、と口にしながら紅茶を飲み干した。
「まあ、ゆるりとやろうではないかアケ。薬草を奴が摘んでこないと始まらん」
「ですが、新型ゴンドラはもう動いています。早くしないと…」
「今日から、だろう?ならば三日天下ならぬ一日天下とすればよい話だ」
さて、楽しくなってきたな、とロコは楽しそうに笑う。
太陽はそろそろ南中を迎えようとしていた。
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