第4話:ミィとゴンドラ



翌日、ミィは日の出と共に起きた。母の作る朝食の香りが漂ってくる、ミィは急いで服を着替えて台所に急いだ。


「ごめん、お母さん!寝坊しちゃった」


「いいのよ、昨日は随分疲れていたみたいね。何していたの?」


朗らかに笑う母。しかし、母はロコのことを知らないため、ミィはあわてて、薬草摘みに行っていた、と嘘をついた。現にロコの工房から帰るときに生えていたレダの花と実を摘んでいたから、半分本当のこととも言える。


レダの花は香り付けに、実は料理にはもちろん漢方としても使えるので、高値で取引をされるのだ。


「助かるわ、今お父さんもお母さんも仕事できないから…」


母か困ったように口にする。そう、あまりに転覆事故が続いたために二人は自らゴンドラ作りを休業にしている。修理は受け付けているが、航行は遠慮してくれ、と父が客に頼んでいるのだという。それでも、早く父のゴンドラに乗りたいと言ってくれる客も多く、うれしい限りではある。


「そのことなんだけど、お母さん。男爵様から何か言われたりしてない?」


ミィがさり気なく探りを入れる。すると、母はそうねぇと少し考えてから言った。


「代わりに帝都から新しいゴンドラをまかなうって言われたわ。私たちのゴンドラの安全が確保されるまで、航行はしてくれるそうよ。ありがたいお話ね」


それだ、とミィは思った。ロコの読み通りに事が進み出している。母はそれに気がついているのか。ここは思い切って言ってみるか、と心に決めミィは口火を切る。


「お母さんあのね…」


「ああ、そうだわミィ。お父さん、朝から工房に行っているの。朝ご飯、届けてきて」


だが、突然母がミィにお弁当箱を渡す。ミィは言い出す機会を逃して不服そうな顔をしつつもそれを受け取り工房へ向かうことにした。







工房では父が弟子数人と一緒にゴンドラを見ていた。不備がないか調べているらしい。


「特に問題はなさそうだ」


父は言いつつ首を傾げた。

木板の噛み合わせも、彫刻もこれと言っておかしなところはない。これなら河に出しても問題はなさそうだが…。


「お父さん、お弁当!!」


「おお、ミィ。ありがとう」


「どう?ゴンドラは」


ゴンドラを眺めるミィが首を傾げる。父は難しい表情をして、それがな、とひとりごちた。


「何もないんですよ、ミィさん」


そう言ったのは父の弟子の一人、とても好青年のフレル。父の彫刻をいつも手伝っている青年であった。


「ったく、何ともねーってのになんで壊れちまうんだ?意味が分からん」


船底をコンコンたたきながらブツブツとひとりごちたのは不良青年ソバエ。大きな石のついた指輪をつけたがさつな青年であった。


タイプが正反対の二人だが、二人とも手先が器用で父の自慢の弟子だった。ミィとミィの兄がゴンドラ職人を継がないと決めているため、父はこの二人のどちらかに全ての技を伝授しようとしているらしい。


二人は熱心にその技を磨き、つい最近父の手を借りないでゴンドラ作りに着手したらしい。しかし、その矢先に転覆事故が相次ぎゴンドラ作りが中断、二人はかなりショックだったらしい。


「全く原因がわからない以上、ゴンドラを使うことはできないな…。参ったね。男爵様がなんとか穴を埋めてはくれるらしいが」


父は疲れたように息をついた。


「あ、それなんだけど、お父さん。実は…」


「親方、とりあえず今日は俺たち引き上げます」


「俺も。ちっとやることあるんで」


「そうか、ではこちらも帰るとするかね、ミィ」


せっかく弁当持ってきてもらったのに、悪いな、と苦笑する父の表情は疲労に満ちていた。その顔を見てしまうと、ミィは何も言えなくなってしまうのだ。


―やっぱり、お父さんにもお母さんにも心配かけられない。私がやらなきゃ!!!







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