レックレス・マーダー #2
錆びた鉄柵に身を預け、三人目の追跡者は下卑た笑みを浮かべた。遠視用のモノクルを調整しながら、痩身の男はヨウに向けて指を差す。
「降りようとしてもムダだぜ? 俺らの仲間が下で待機してる……」
「降りる? せっかく最短コースが決まったのに、わざわざ遠回りするわけないじゃん!
ヨウは再びナックルダスターを出現させると、悠然と立つ第三の刺客——エンラージに向けて駆け出す! 瞬時に敵の懐に潜り込むと、打ち上げるようなアッパーカットを放った!
『やっ、たか……?』
「いや、まだだ。手応えがない!」
「ヒャハッ、よくご存知で!」
破裂音が響いた。ヨウが殴ったのは、敵の背丈ほどのゴム風船だ! 圧縮された空気が破裂した風穴から吹き込み、ヨウは思わず後ずさる。
「おっ、と……。どこにそんなデカい物隠してたの?」
「聞きたいか? これが答えだよ……」
エンラージはカーゴパンツのポケットからコインを取り出し、モノクルで注視した。スコープレンズ付きのゴーグルめいたモノクルによって拡大していくコインは、フリスビー大の円盤に変わっていく。
「お前は、また金属片に襲われるわけだ……」
回転が推進力を生み出し、側面の溝は刃に、巨大なコインはバズソーに変わる! ヨウの
ヨウはナックルを打ち込み、弾道を逸らそうとした。金切り声めいた摩耗音が響き、熱を帯びたコインは火花を発生させた!
しかし、回転の勢いを殺すまでには至らない。ヨウの頬をバズソーが掠め、血液が噴出!
「まだ小銭は残ってるぞ? 死なない程度に痛めつけてやるよ……」
矢継ぎ早に飛んでくる二発目、三発目の攻撃を寸前で回避しながら、ヨウは思考を加速させた。
向かってくるバズソーのターゲティングは完璧で、計算されたかのように正確無比だ。恐らく、階下の刺客の能力なのだろう。敵を突っ切ることに舵を切ったとして、背中が切断されて終わりだ。つまり、ここで倒すしかない。
ヨウの背後には、推進力を失ったバズソーが転がっている。どれもが刃に血が付着し、濡れていた。彼はそれをバックハンドで掴むと、飛んできたバズソーに衝突させる! 乾ききっていない刃の血が弾かれ、バズソーは連鎖的に自壊! 虚を突かれたエンラージに稲妻めいたショートフックを浴びせる!
「錆びついた……なら、経年劣化させるだけだよ!」
摩擦によってコンクリート床を摩耗させながら、エンラージは背後の鉄柵に強く背中を打ちつける。彼は苦痛に顔を歪めながら、狙う対象を睨みつけた。
「……畜生、調子乗んなよ? 俺たち三人が揃えばお前なんて……」
「安心して。たぶん二度と会うことはないから!」
ヨウは鉄柵の上に立ち、ビルが林立する隙間を背伸びして確認する。赤い月はもうすぐだ。
「おいおい、死ぬ気か? どうせ死ぬなら俺らの昇進の手伝いくらいしてくれよ……」
「死ぬ? 違う、生きるんだ……!」
ヨウは何気なく地上を見下ろした。本来なら人通りが多いであろう国道沿いの5車線道路には規制線が敷かれ、痛々しく剥き出しになった爆破跡のアスファルトには緊急車両が集っている。
ヨウは足下に転がる凄惨な現実を見続けるのをやめ、自らの夢の果てを見据えた。柵を蹴り、数メートル先のビルの屋上を飛び石めいて渡ろうとした、その瞬間である。
背後から飛んできた白いキューブが展開し、巨大な投網に変わる。投網はヨウの体を包み、鉄柵に引きずり上げた!
「!?」
「間に合ったぜ、エンラージィ……!!」
息を切らして昇降口に立つ二人の刺客——バルクキューブとハンドレッドアイを確認し、ヨウは残念そうに唇を尖らせた。
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